55 / 95
ハロウィーン編
55 貝。……愛? 葉っぱ?
しおりを挟む翌日、リジーは思いのほかベッドでスッキリ目覚めた。
今は、まるで何事もなかったかのように気持ち悪さは治まっている。
時計を見ると、午後2時過ぎていた。
(うそ!? もう午後? 仕方がないか……)
ベッドから起きようとすると、首から下まであちこちが筋肉痛のような軋む感じがある。
身体中が気持ち悪かったので、重い身体をのそのそと動かし、バスルームへ向かった。
シャワーを浴びると一息ついた。急激に空腹を感じる。シリアルに牛乳をかけ、ふやかしてから少し食べた。
ようやく落ち着いて、昨日のことを思い返した。
みんなに心配かけて、かなり迷惑をかけた。明日出勤したら謝るしかない。
それから、ジョン……きっと今も心配してくれているに違いない。彼には昨夜は酷い姿を見られた。
これから謝りに行って、お礼も言おう。
そこでリジーは項垂れる。
自分の貧弱な身体を支えてもらったことを思い出し、今度は落ち込む。
(スーザンには、少しはマシなこと言われたけど、サムにはもっと肉付けろって言われたんだった。どんな顔して会えばいいんだろう。きっとジョンの事だから普段と変わらず接してくれる。少しふくよかな子供を支えたくらいにしか思ってないよね。色々恥ずかしいのは、今に始まったことじゃないし……今さらだよね)
複雑な思いを抱えながら、リジーはフラフラと階下に降りた。
<スカラムーシュ>の入り口ドアには、クリスマス休暇の予定が貼りだされていた。
(20日から休暇? サムの家に行くのは多分23日くらいかな。でもその前から休むんだ。ジョンは、休暇はどうするんだろう?)
ドアの前に脱力した感じでぼーっと立っていると、ドアが急に開かれた。
「リジー! 顔色が悪い。部屋に戻った方がいい。用があるなら僕が行ったのに」
ジョンが心配そうに眉を寄せて、見下ろしてくる。
「あ、うん。もう大丈夫だから。昨日は、ありがとう。心配かけてごめんね。全然余裕なくて、色々含めて……ごめんね」
頬が熱くなってくる。リジーはジョンの顔をチラッと見上げただけで、すぐ目を伏せた。
「謝る必要なんてないよ。調子が悪いときは何も気にしないで、頼ってくれて良いんだ」
「うん」
(やっぱり、ジョンはいつも通り)
リジーは何か身体の中が空っぽになってふわふわ浮きそうな感じがした。
ジョンの手が微かに動いたのが見えた。
(その大きな手に触れたいのに、包まれたいのに……。ジョンのあたたかい手のぬくもりが欲しいのに、欲しいと言えない。昨日もその手と腕で抱き上げて、部屋まで連れて行ってくれた。具合悪くて甘い気分に浸る余裕もなかったけど、嬉しかった)
そうだ、聞きたいことがあったと、リジーは思い出した。
「ジョンは、サムのおうちへのクリスマスプレゼントは何にするの? 私、まだ考えてなくて」
「……サムの家族にはワインにしようと思う。サムに聞いたらワインが良いと言われた」
「そうか、ワインね。私は、何にしようかな。……あのね、ジョンとサムにもプレゼントあげたいの。ジョンはどんな物が嬉しい?」
「僕はリジーが前に作ってくれたあのくるみ入りのクッキーが良い」
ジョンが少しはにかんだように見えた。
「え? あのクッキーはいつでも作ってあげるよ。クリスマスプレゼント用だよ」
「特別な物は必要ないよ」
ジョンが遠い目をする。
「いつもお世話になってるから、何かあげたいのに。クッキーはもちろん作ってあげるけど。じゃあ、私が勝手に選んじゃうよ。嫌でも受け取ってもらうから。サムとお揃いにするかもよ~」
「それは遠慮する」
と、ジョンがあからさまに嫌そうな顔をしたので、リジーは笑ってしまった。
ジョンの手がまた動いた。拳が強く握られている。
ジョンの手につい視線が行ってしまう。
「20日から、<スカラムーシュ>はお休みするの?」
「ああ、毎年この時期は31日まで休むんだ。オーナーから休むように言われてる。20日はイムルさんの家に行って、色々回って22日にはここに戻って来る」
「イムルおじさんの所に行くの?」
「僕には帰る家が無いから、イムルさんの家が実家みたいなものかな。この店に雇ってもらった時、イムルさんにもお世話になったんだ。それから年に一度、クリスマス前に顔を出してる」
「そうだったの。イムルおじさんにはしばらく会ってないなあ。シンおじさんは、クリスマスにはちゃんと帰って来るのかな?」
「どうかな。オーナーはいつも自由な人だから」
「……シンおじさん、今頃何してるんだろう?」
「今回はちょっと留守が長いかな。いつもはもう少し早くここに帰って来るんだけどね。リジーは22日までは仕事だよね」
「うん」
「そうか……体調には気を付けて」
「うん」
自分を見ているはずのジョンの濃い茶色の瞳が遠く感じる。
映っているのは近くにいる自分なのに。
♢♢♢
ジョンはリジーの瞳にフリードの面影を見た。
自分を支え、励ましてくれた彼にまた会いたかった。たとえ夢の中でも幻でもいい。
クリスマスシーズンになると、毎年そう願っていた。
今年は、いつの日か会いたいと思っていたリジーに会えた。彼女がそばにいる。夢でも幻でもない。
奇跡はもう起きていたんだ。これ以上何を望む……。
♢♢♢♢♢♢
翌日リジーが出勤すると、待ち構えていたように入口にいたカイルが振り返った。
それも眉間に皺を深く寄せて、角まで見えるようだ。
「おはようございます! カイルさん。一昨日はご迷惑をおかけしてすみませんでした。夜中には吐き気も治まって大丈夫でした。昨日はもう普通に食べて、今日は元気です!」
リジーはカイルに何か言われる前に、謝った。
「牡蠣は二度と食うなよ」
ギロリとカイルの冷たい目線が突き刺さるが、これがいつものカイルだとわかっているリジーはもう怯えることはない。
「はい……。すごく美味しかったんですけどね。本当に残念です」
「あんなに苦しんだのに、まだ未練があるのか? 食い意地が張ってるな」
「だって、あんなに美味しいのに、二度と食べられないなんて、まるで禁断の貝じゃないですか~?」
「ふん、知るか、……何が禁断の貝だ! そんな甘ったるい響きじゃないだろう。ゲーゲーやりやがったくせに。牡蠣厳禁だ、牡蠣厳禁!」
カイルが眉をいからせる。
「朝からワイワイ楽しそうだね! 何々? 禁断の愛? 火気厳禁? て?」
スーザンが出勤してきた。
「貝だ!! って、なに食い付いてんだ、馬鹿か!」
カイルはそう言うと、サッと背を向けて行ってしまった。
スーザンは横目でそれを見て、ふうっと息を吐く。
「おはよう、スーザン!! 一昨日は本当にごめんね。それから、色々ありがとね」
「復活したんだね。良かった」
リジーに微笑みかけ、そして小声になった。
「ジョンには優しく介抱してもらった?」
「え? あ、えっと、帰ってもらった」
リジーは目を逸らしながら聞き取れないような声で答えた。
「なんでっ!?」
「だって、吐いてる姿なんて見せたくなかったんだもん。見てて気持ちの良いものじゃないでしょ?」
「はあ? いいんだよ。どんな姿見せたって。ジョンはリジーに頼って欲しかったはずだよ。そばにいてあげたいと思ってたはずだよ。まったくあなたたちときたら、手がかかり過ぎる。せっかく彼には発破をかけてあげたのに。もう、信じられない……」
スーザンはがっかりしたように肩を竦めている。
「え? 何? 葉っぱ?」
最後の方のスーザンの呟きがよく聞き取れなかったリジーは、首を傾げた。
「いや、こっちの話だけど……」
そしてスーザンには、大きなため息を吐かれた。
―――――――――――――――――――――――――――――――
※イムル:<スカラムーシュ>オーナーのデイビッド(シンドバッド)の父親
アメリカが舞台なので、リジーたちは英語を喋っています。
ですが、日本語で言葉遊びをやってしまいました。
このようなニュアンスだったと思ってください(^-^;
0
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎
王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。
……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。
追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。
無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」
騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
忘れ去られた婚約者
かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』
甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。
レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。
恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。
サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!?
※他のサイトにも掲載しています。
毎日更新です。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
辺境伯夫人は領地を紡ぐ
やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。
しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。
物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。
戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。
これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。
全50話の予定です
※表紙はイメージです
※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる