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クリスマス編
58 母娘と青年
しおりを挟むリジーはテーブルの上にあるポインセチアのリースとクリスマスカード、そしてジョンが忘れていった懐中電灯を何度も眺めては、昨夜の出来事が夢ではないと確認していた。
確認すると安心して頬が緩む。
ジリリリリ、ジリリリリ。
リジーは朝早くから電話が鳴って、ビクッとした。
「ハロー!?」
――リジー! おはよう!! 元気だった?
「お、お母さん? どうしたの? こんな時間に、珍しいね」
――昨夜電話しようと思ってたんだけど、寝ちゃったのよね。
「そ、そう。わ、私は、元気だったよ」
(お母さんからこのタイミングで電話が来るなんて)
――お母さんとおばあちゃんね、今からイムルおじさんの所に行って来るから。24日の夜までには戻るね。
「え? イムルおじさんのとこ!?」
(ジョンと鉢合わせするんじゃない!?)
「お、お母さん! 私、私、……ジョンのこと、教えて」
(ジョンが話すって言ってくれたけど……)
――どうしたの急に?
「前に聞いた時は、店に来たお客様って言ってたけど、それでイムルおじさんやシンおじさんに紹介したのはお母さん?」
――そうよ。ご縁もあったし、私がジョンを気に入ったのよ。イムル叔父さんたちが<スカラムーシュ>の従業員を探していたし。
「私のこと、どうしてジョンに頼んだの?」
――それは、かわいい娘が知らない街で初めてひとり暮らしをするのよ。お願いするのは当たり前じゃない。デイビッドはあんまり店にいないって聞いてたから、頼りにならないし。その点ジョンは、信頼できるし、誠実だし、面倒見も良くて強いから。
「……私、ジョンを、男の人として好きになった。いいよね」
(わ~言っちゃった! ジョン、ごめん)
――え? ……そういうこと……。ジョンは? ジョンのほうはどうなの?
「ジョンも私のこと、好きだって。お母さんから頼まれてたからだと思うけど、なかなか好きって言ってくれなかった。でも、ようやく私の気持ちを受け入れてくれた」
――そう……。ひとつ聞くけど、ジョンのこと父親とかお兄さんみたいに思ってないわよね。
「うん、最初はそんな感じだったかもしれない。もちろん一緒にいると安心感はあるけど、今はそれだけじゃなくすごいドキドキする。好きでしかたがないの」
――それなら良いも悪いもない。見守るだけ。何を言ったってあなたは突き進むでしょう?
「うん。ありがとう、お母さん」
(良かった。反対されなかった)
――……あなたがジョンを好きになるのは時間の問題だと思ってたわ。
「え?」
(時間の問題って)
――ノーザンクロスのお友達の家に招待されて、良かったわね。ふたりで楽しんできてね。朝早くから電話して悪かったわ。
「う、うん。あ、お母さん、ジョンがイムルおじさんの所へ行くって、今朝早く発ったの。おじさんの家で会っても、私と電話で話したって言わないで欲しいの。ジョンがお母さんの所にも寄って、私とのことは自分から話すって昨日言ってたから」
――わかった。イムル叔父さんの所に私がいたら、ジョン、驚くわね。ウフフ。そういえば、毎年ジョンが来てるというのはシェーラ叔母さんから聞いていたけど、今までよく会わなかったわよね。じゃあ、あなたとは25日に会えるのを楽しみにしてるから。
「私も、楽しみにしてる。お母さん、大好きよ」
――私もよ、リジー。じゃあね。
電話は切られた。
リジーはジョンとの事を、反対されなくてホッとしていた。
反対されたらどうしようかと思っていた。
それでもジョンとの恋は諦めないつもりだった。
♢♢♢♢♢♢
キャシーはリジーが独立して家にいない寂しさに、まだ慣れずにいた。
ハロウィーンの忙しさの後は、気が抜けたようになることもあった。
そんなキャシーを心配したのか、母ケイトがこの時期には珍しく弟イムルの所に行きたいと言い出した。話を示し合わせたかのように、シェーラから骨休めに来てはどうかと連絡が来た。
客がプレゼントを買いに来るピークも過ぎたので、今年は思い切って早々クリスマス休暇をとることにしたのだ。
キャシーは出発の準備を終え、自宅と棟続きの雑貨屋の中を点検していた。
少し留守にするので、棚の所々に布がかけられていた。
いつも雑貨たちが賑やかに主張する店内が、今日は時が止まったかのように静かだった。
ゆっくり確認して歩き、最後に等身大のサンタクロース人形の前で立ち止まる。当初は売り物だったが、10年以上前からそこにある。赤い服も色褪せて、白いひげも黄ばんでいる。すっかり店の雑貨たちの主になっている。愛着もあって、いつの間にか売ることも忘れて値札も外し、いつの頃からか、キャシーとリジーの心の拠り所となっていた。
「サンタ・フリード、行ってきます。店をお願い」
いつもそう言って出かける。信頼を裏切られたことはなかった。
ずっと家族でいたら、今もフリードは生きていて、自分は今より幸せだっただろうか。
そこでいつも考える。
フリードの選んだ道は、決して許されるものではなく厳しいものだったが、今、自分は少し寂しいけれど幸せだと思う。フリードがいれば、この店を開くこともおそらくなかった。
あの時、フリードは何かに導かれるように気持ちを決めたように思えた。
◆◆◆◆◆◆
『すまない、キャシー』
『すまないなんて簡単に言わないで!! 今の幸せを壊すとわかってて、言ってるの!? 同情と愛情は違うわ。生活に苦しい母子家庭は多いのよ。それをいちいち気に留めていたら、身体がいくつあっても足りないわよ!』
『僕は、ジョディと彼女の息子ジョンに少しでも幸せな夢を見て欲しいんだ』
『そのために自分の血のつながった娘に、これから一生、父親に見捨てられたという辛い思いをさせてもいいの? 別の女の所に行ったなんて、私はリジーにどう説明すればいいのよ。私たちは家族なのよ。あなたがいなくなったら、全て壊れるの!!』
『きみは自分で幸せを掴める人だ。リジーにはきみがいる。きみには、両親も仲の良い親戚もいる。自分の運命を切り開く力と強さがある』
『やめてよ、そういう風に言うのは。わかってない。私はあなたがいるから強くいられるのよ』
『僕がいなくてもきみは大丈夫だ』
『あなたには、私とリジーは必要ないの?』
『……彼女には誰も頼る人がいない』
『だからって、あなたがその頼られる唯一の人になる義務はないはずよ』
『彼女は僕を必要としてくれている。きみとリジーのことを考えると、僕も身が引き裂かれる思いだ。でも、もう決めたんだ』
◆◆◆◆◆◆
毎日話をしても、結局は……。
キャシーはそこで物思いにふけるのはやめた。
人生はやり直せない。あの時、自分も後悔しないと決めたのだ。
リジーには、フリードとジョンの関係をまだ話していない。
ジョンに任せてある。
話したとしてもジョンを恨む娘ではないが、リジーがいまだに何も言ってこない所をみると、ジョンはまだその話は伏せているのだろう。
リジーがジョンを、男として好きになった。
こうなる予感はしていた。初めてジョンに会った日。
孤独の色で塗り固められ、何も映さないような暗い瞳が、店内のサンタクロースの人形を見た瞬間に揺れた。光を宿したのをはっきり見た。この青年を救ってあげたいと思った。
だからといって、自分の娘を差し向けるのは少なからず躊躇いはあったが、すでにあの当時から纏わりついていたのだから。兆候はあった。
ローラースケートで転んで膝を擦りむいている小学生のリジーを抱きかかえて、息をきらしていた心優しい青年ジョン。必死に走って連れてきてくれたのだろう。
そして、サンタクロースの人形の前でのほのぼのとしたやりとり。
『お兄ちゃんは、サンタクロース好き?』
『大好きだよ』
『私も大好き。お兄ちゃんは私を助けてくれたから特別にいいこと教えてあげるね。みんなには内緒なんだけど、私のお父さんはね、サンタクロースなの!』
『……そう。……うちにも来てくれたよ』
『お兄ちゃんのおうちにも? わあ、良かった』
あの時、兄妹のように見えたふたりが今じゃ恋仲かと思うと、なんだか微笑ましい。
フリードは自分の代わりに、ちゃんとジョンを寄越してくれた。
キャシーは元気よく店を出た。
冬の澄んだ空気は、心の中を浄化してくれるようだ。
裏手のガレージの方へ行くと、すでに母ケイトが助手席に座って、にこやかに手を振っていた。
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