隣の幼馴染から強引なバレンタイン・キスで好きだと告白されました。

名木雪乃

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隣の幼馴染から強引なバレンタイン・キスで好きだと告白されました。

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♡♡♡

 わたしはチョコレートが大好き。それ以上に、実の兄、恭也きょうやお兄ちゃんが大好きだ。
 お兄ちゃんは、わたしに甘くて優しくて、でも我儘をすべてきいてくれるわけでもなくて、悪いときはきちんと叱ってくれる。信頼できるお兄ちゃんなのだ。
 少し前まで、大きくなったらお兄ちゃんのお嫁さんになる! が口癖だった。
 今は、叶えられない夢だと知ってるけど……ね。

 お兄ちゃんは、ふたつ年上の高校三年でハーフっぽい顔立ちのイケメンで、しかも成績優秀でスポーツもそれなりにできて、性格も優しい。とにかく小さい頃からパーフェクトで理想的な男子なのだ。
 だから、毎年バレンタインデーともなると、チョコレートの山を抱えて帰ってくる。そのチョコレートがどうなるかというと、お母さんとわたしとお隣に住む美岬みさきちゃん(お兄ちゃんと同じ高三)と美岬ちゃんのお母さん、によるバレンタインチョコわくわく品評会に出品される。美味しそうなチョコがたくさんあって、超楽しみなイベントだ。
 今年はお兄ちゃんは、どんなチョコレートをどれだけ持って帰って来るかな。

 実はお兄ちゃんが口にするバレンタインチョコは、わたしが作ってあげる生チョコだけ。甘いのが苦手なお兄ちゃんのために、甘さを抑えたビター仕様のもの。
 お兄ちゃんファンの女の子たち、ごめんね。本命は、わたしなの。わたしもお兄ちゃんにしかチョコはあげない。
 お兄ちゃんは、優しいからみんなの気持ちを一旦は受け止めてあげてるけど、実は全てチョコ好きな私たちのおやつの一部になってしまうの。
 だから、お詫びの気持ちを込めて、ホワイトデーにはチョコをくれたみんなに、わたしたちが心を込めて選んだ洒落たお菓子を、平等にきちんと、お兄ちゃんを通してお返ししている。
 


 いよいよ、バレンタインデー当日、わたしは学校から急いで帰って来ると、お兄ちゃんにあげるための生チョコを作り始めた。
 小さいお鍋に、生クリームを大さじ三杯入れてちょっとだけ沸騰させる。そこに刻んだビターチョコレート百グラムを入れて、少し待ってから余熱で溶かし混ぜ合わせてバットに流し入れたら完成!
 十分冷やして固めたら、石畳みたいに大きさをそろえて綺麗に切り分けて、ココアパウダーをまぶす。簡単だけどお味は、本格的なレシピ。生クリーム大さじ二杯のところ三杯入れるのがわたしオリジナルなんだ。
 そしてお楽しみは、作り終わったあと、固まって鍋の内側に張り付いて残ってしまったチョコに少しだけ牛乳を加えて温めて作る濃厚ホットチョコレートドリンク。
 もう、コクがあって体もあったまって最高に美味しいんだよね。

 お兄ちゃん、わたしの手作り生チョコ、今年も喜んでくれるかな。
 


 国立大の二次試験の受験勉強を図書館でしてくるお兄ちゃんの帰りは、だいたい六時半頃。

 ピンポーン、とインターホンが軽やかに鳴った。                       
 おお、うちのミスターバレンタインこと、お兄ちゃんのご帰宅かな?

 へへ、今日の収穫はーーーと、

「おっかえり~♪」

 わたしは待ってましたとばかりに玄関にお出迎えに行く。

 そこには、溢れるほどのチョコレートの包みが入ったエコバッグを両手に下げたわたしの麗しのお兄ちゃんと……お隣のミスター幼馴染こと、美岬ちゃんの弟の湊人みなとくんがいた。
 湊人くんは、美岬ちゃんの弟で、私と同じ高一。わたしたちが引っ越して来る前から、お隣に住んでいる。小さいころからいつも目にかかるくらい前髪が長くて、何を考えてるかわからないようなつかみどころのない子だった。で、趣味はトランプマジック(笑)。高校でマジック同好会も作ってしまったくらい。秋の学園祭でのマジックショーは、お兄ちゃんと同じくらいキラキラしていたっけ。
 たまに幼馴染の特権でわたしの部屋でわたしのためだけに披露してくれるそれは本当に魔法のよう。カードの真ん中をコインが通ったり、私の選んだカードを見ないで当てたり。わたしはそれを間近で見てるのにそのトリックは全くわからないし、もちろん種明かしは絶対してくれない。
 マジックをしている時の湊人くんは、なんだか別人のようにカッコイイ。カードさばきも手つきも滑らかで綺麗。見惚れてしまう。とにかく視線が集中する指や手には気をつかっているそうでこの時期ハンドクリームは欠かさず塗っているんだって。触らせてもらったら、わたしよりずっとしっとりスベスベしていて驚いた。この時期に、手がカサカサしてないのは、男女問わず珍しい。


「ただいま、咲彩さあや

 あ、お兄ちゃんの優しくて眩しい笑顔を見られて、今日も幸せ。

「お兄ちゃん、おかえり。今年もすごい量のチョコだね。もう、卒業だから余計多いのかな」
「そうかもね。あまり一度に食べすぎないようにするんだよ。じゃあ、チョコはリビングに運んでおくよ。湊人くん、カバンをどうもありがとう。駅で出会って助かった」

 お兄ちゃんは、普段通りの穏やかな笑顔で湊人くんにお礼を言うと、リビングルームのほうに体の向きを変えた。

「いいよ。どうせ家、となりだし」

 湊人くんは、肩に掛けていたお兄ちゃんのスクールバッグを玄関のたたきにドサッと降ろした。
 お兄ちゃんがリビングに消えても、なぜだか湊人くんがいつまでも玄関先にいたので声をかけた。

「湊人くん、ありがとね。また明日……」
「サヤ、俺のチョコは今年も無し?」
「え? 今までもあげたことなかったよね」
「……そうだけど」

 湊人くんの目が前髪の奥で、強い光を放った気がした。
 その光がなんだろうと疑問に思っていたら、湊人くんの顔が急に近づいてきて、ペロリと……?

 え、え、え~?!!!?
 わ、わ、わたしの唇の端を舐めたっ!?
 
「バレンタインチョコもーらい! 甘い。ごちそうさま」

 湊人くん、な、何した? 今、わたしに何したの? キス? 違う? どっち?

 わたしがアワアワしてると、

「口のまわりにチョコつけて、ガキんちょかよ」

 あ、濃厚ホットチョコレートがついてたの? なんだキスじゃないか。
 いや、そういう問題じゃなく……!

「おまえのこと、女として好きだから」

 その綺麗な指で長い前髪をかきあげると、真剣な目付きで、そうトドメを刺された。

 ええっ!?

 茫然自失のわたしを残して、湊人くんは帰って行った。

 振り返ると、恐らくわたしと同じ表情をしてると思われるお兄ちゃんがそこにいた。

 み、見られた? へ?

 お兄ちゃんは、無言でわたしの横を通り抜けると、靴も履かずに玄関から出て行った。

「お、兄ちゃん? どこ行くの~!?」
「隣り……」

 振り向いたお兄ちゃんからは、いつもの輝けるオーラが消えていた。


◇◇◇


 うちの隣りには、ほのぼのしていて麗しい家族が住んでいる。両親が美男美女とくれば、その子どもたちだって自然とそうなる。兄の恭也は、幼稚園の頃から小さな貴公子とまで呼ばれるほどで、可愛いしなんでもできて、誰にでも優しいから人気者だった。
 隣り同士だし、恭也とあたし、恭也の妹の咲彩ちゃんとあたしの弟の湊人が偶然にも同じ年齢だったから、一緒に遊ぶことが多かった。恭也兄妹からすればあたしたち姉弟は山ザルにも等しいレベル。
 妹の咲彩ちゃんは、恭也に比べると比較的大人しめだったけど、神童の妹だからもてはやされていた。咲彩ちゃんはとにかくお兄ちゃん子で、お兄ちゃん以外、目に入らないくらいお兄ちゃん大好きだった。まあ、気持ちはわかる。
 一方、あたしと弟は、姉弟そろってお隣の麗しい兄妹に恋してしまったんだな、これが。
 まずあたし、女の子たちより恭也や弟や男の子たちとよく遊んでいて、リーダー的な存在になっちゃってた。そんなあたしを恭也だけは女の子扱いしてくれて、気遣ってくれた。気がついたら好きになってたけど、その頃には恭也はみんなの王子さまになってた。
 そして湊人はというと、小学校のよくあるお楽しみ会の時、トランプのマジックを披露したら、咲彩ちゃんがキラキラした瞳でベタ褒めしてくれて、湊人は舞い上がってしまって、恋に落ちたんだ。マジックに目覚めたのはその時から。咲彩ちゃんの喜ぶ顔見たさに、頑張った我が弟。手が綺麗と言われれば、念入りにお手入れするし。お風呂あがりに、爪の生え際までハンドクリームのあと手袋して寝る徹底ぶり。その甲斐あってか、最近はよく咲彩ちゃんが手に触ってくるので嬉しいらしい。
 そんな弟、とうとう今日、咲彩ちゃんに積年の想いを告白して来たと思われる! 帰って来てすぐ二階に上がって行ったが、力強くこぶしを握ってたから、まあ、告白は成功したんだろう。よくやったぞ、湊人! 

 ピンポーン!! インターホンが鳴る。

「はいはーい」

 案の定、シスコンの兄が乗り込んで来たよ。制服のまま、しかも、靴履いてないし。どんだけショック受けてるんじゃ、この兄。

「美岬ちゃん、美岬ちゃん!! 湊人くんが、湊人くんが、僕の咲彩にキ、キ、キスして、す、す、好きだって告白したよ!? お、女として好きだって。ど、ど、どうしよう?」

 はあ? 僕の咲彩? どんだけシスコンなんじゃ、オヌシ。って、キスもしたのか、湊人。まだ高一のくせに、やるな我が弟。

「恭也、そんなに慌てることじゃないじゃん? 湊人はずっとサヤちゃんが、好きだったんだし」
「え………そうなの!?」
「……」

 まったく~、他のことは優秀なくせに、どんだけ恋愛には鈍いんじゃ、コイツ。

 まあ、いいや、あたしが色々わからせてやるまでよ。
 湊人に遅れをとるものか!
 あたしも湊人に、便乗して、恭也の頬を両手で挟むと、伸び上がってブチュとやってやった!
 恭也の唇は、とっても柔らかくて、舌はマンゴーのようにみずみずしかった!

「み、さ、きちゃん……、なにを……す……!?」
「いい加減目をさませっての!! 兄妹揃って高校生にもなって、なに恋人ごっこしてんのよ! 恭也が悪いんだよ。サヤちゃんをさっさと放してあげなよ! まともな恋愛できないじゃない」
「そ、そんな。だって、咲彩は、僕が大好きで……」
「今はそうかもしれないけど、兄妹では結婚出来ないんだから咲彩ちゃんの恭也への想いは幻想なの! そんでもって、湊人がサヤちゃんのこと好きだったように、あたしも、恭也のこと、ずっと大好きだったの!! 極度のシスコンでも、恋愛に関してはどんなにボンクラでも大好きだから!! 恭也は絶対誰にも渡さない!!」

 言ったー! 

「えええ!?」

 おかしな声を出した恭也の細身の体に抱きついた。積年のたぎる想いを腕に込めて、力の限りギューギュー締め付けてやった。
 恭也が微動だにしないので、見上げてみると、魂の抜けたような間抜けな顔をしていた。イケメンが台無し。
 まあ、そこがあたしの恭也の可愛いとこなんだけど。
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