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04 淋しいあなたに?
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カフェスペースに戻ると、他のお客様は誰もいなくなっていて、コウさんはカウンターの方に移動していた。
さっき膝を床についた時、腰にもダメージを受けていたようで、若干痛みを感じたが、病院へ行くほどでは無いと思う。
瑠伊さんが新たに淹れてくれたコーヒーで一息ついていると、矢坂さんが慌ただしくエプロンを脱いでお店から出て行ってしまった。瑠伊さんが行ってらっしゃいと見送っていた。
腕時計で時間を確認すると八時を過ぎていたので、私も帰るつもりで立ち上がると腰に鈍い痛みが走った。
腰が少しヤバい……年には勝てないな。全く嫌になる。
「小宮山さん、やっぱりさっき、どこか痛めました?」
瑠伊さんに見破られた。
「あ、少しだけ腰を捻ったみたいで。でも、全然大丈夫です。普通に歩けますし、たぶん明日になれば良くなると思います」
「そうですか?」
決して嘘は言っていない。でも、瑠伊さんは眉を寄せて心配そうな表情をすると、
「ねえ、コウちゃん、小宮山さんを車で送ってあげてくれない? 川平町あたりまで。ヒロくんは町内会の会合で出かけてしまったし」
カウンターの目の前にいたコウさんに小声でそう言ったが、私にもそれは聞こえていた。
瑠伊さんの呼びかけも、酷く馴れ馴れしい。
さっきの矢坂さんといい、瑠伊さんといい……。やっぱり親戚?
で、ヒロくん……て、もしかして矢坂さんの名前?
「いいよ」
コウさんは気楽な感じに即答してノートパソコンから顔を上げると、私の方を振り返った、ようだ。
私は気が付かないフリをしてバッグから財布を取り出すため、下を向いた。
車で送ってもらうなんて、必要ない。
歩けないくらい痛いわけじゃないし、かえって気をつかうし、遠慮したい。矢坂さんなら嬉しいけど。
私は財布を手に、伝票を掴んだ。
「小宮山さん、あの、良かったらですけど、コウちゃんに車で送らせていただけませんか?」
「いいえ、あの、本当に大丈夫ですので」
「コウちゃんは私の実の弟ですから、ご遠慮なさらず。安心して下さい」
お、弟!?
そうか、矢坂さんは義兄。だからあんなに気安く呼んでいたんだ。
なるほど。あまり似ていない姉弟というのも確かにいる。
……ていうか、瑠伊さんに食い下がられた。
「ちっ、バラしやがって。シスコンだと思われるだろ?」
「毎日居座ってるんだから、実際そうじゃない? じゃあ、ブラコン? ヒロくん目当て? 昔から仲良しだもんね」
「な、おまえ~!」
「弟って言った方が小宮山さんだって安心なさるかと思って。得体の知れない狼と思われて、怖がられるよりいいでしょ?」
「おい!!」
「お客様の前で噛みつかないでよ」
「どっちが先に爪立てたんだよ!」
なんだか断り辛い状況になってない?
姉と弟ってこんななの?
ひとりっ子の私にはわからない世界だった。
私がふたりの会話にボケっと見入っている間に、コウさんがさも当然のように、
「じゃあ、行きましょうか。小宮山さん」
「え、ええーと?」
私、まだ送ってもらうことについてはお返事してないんですけど。どう断れば良いんだろう。
ひとまず忘れないうちに飲食した代金を支払った。
「ありがとうございました! またいらして下さいね」
「は、はい。また……」
瑠伊さんから笑顔で見送られ、コウさんは矢坂さんみたいなスマートさでお店のドアを開けてくれた。そして背中に軽く手を添えられ、店の外へ出た。瑠伊さんに楯突いていた態度からは想像できないほど、背中を押すコウさんの手つきは優しいものだった。
コウさんとふたりで外に出ると、
「駐車場は道路を挟んだ向こう側なんで、ちょっとここで待ってて貰えます? 今、車取ってきます。あー、オレ、こういう者です」
コウさんは、パンツの後ろのポケットから財布を出すと、そこから一枚名刺を引き抜いて私にくれた。もらったのは、おかしな名刺?だった。
表は普通の会社名が印刷されている。
○○SEサービス株式会社
第1システム課 SE
向井幸祐
だから、コウさんと呼ばれているんだ。
気になって裏を返したら、ギッシリ手書きで、
ーーーーーーーーー
淋しいあなたに
~カフェ〈サン・ルイ〉で、お話お聞きします~
秘密厳守 お悩み相談 予約制
対面相談料 2時間5000円(前金制)
SNSで相談もお受けします
2時間2500円
まずはこちらへお電話下さい
080××××××××
略歴
J大工学部中退
中瀬町某ホストクラブにて8年勤務
システムエンジニア歴5年
心理カウンセラー資格取得
ーーーーーーーーーー
元ホスト!!?
〈サン・ルイ〉でお悩み相談!? って。
個人でやってるの?
胡散臭いことこの上ないんですけど。
さっき膝を床についた時、腰にもダメージを受けていたようで、若干痛みを感じたが、病院へ行くほどでは無いと思う。
瑠伊さんが新たに淹れてくれたコーヒーで一息ついていると、矢坂さんが慌ただしくエプロンを脱いでお店から出て行ってしまった。瑠伊さんが行ってらっしゃいと見送っていた。
腕時計で時間を確認すると八時を過ぎていたので、私も帰るつもりで立ち上がると腰に鈍い痛みが走った。
腰が少しヤバい……年には勝てないな。全く嫌になる。
「小宮山さん、やっぱりさっき、どこか痛めました?」
瑠伊さんに見破られた。
「あ、少しだけ腰を捻ったみたいで。でも、全然大丈夫です。普通に歩けますし、たぶん明日になれば良くなると思います」
「そうですか?」
決して嘘は言っていない。でも、瑠伊さんは眉を寄せて心配そうな表情をすると、
「ねえ、コウちゃん、小宮山さんを車で送ってあげてくれない? 川平町あたりまで。ヒロくんは町内会の会合で出かけてしまったし」
カウンターの目の前にいたコウさんに小声でそう言ったが、私にもそれは聞こえていた。
瑠伊さんの呼びかけも、酷く馴れ馴れしい。
さっきの矢坂さんといい、瑠伊さんといい……。やっぱり親戚?
で、ヒロくん……て、もしかして矢坂さんの名前?
「いいよ」
コウさんは気楽な感じに即答してノートパソコンから顔を上げると、私の方を振り返った、ようだ。
私は気が付かないフリをしてバッグから財布を取り出すため、下を向いた。
車で送ってもらうなんて、必要ない。
歩けないくらい痛いわけじゃないし、かえって気をつかうし、遠慮したい。矢坂さんなら嬉しいけど。
私は財布を手に、伝票を掴んだ。
「小宮山さん、あの、良かったらですけど、コウちゃんに車で送らせていただけませんか?」
「いいえ、あの、本当に大丈夫ですので」
「コウちゃんは私の実の弟ですから、ご遠慮なさらず。安心して下さい」
お、弟!?
そうか、矢坂さんは義兄。だからあんなに気安く呼んでいたんだ。
なるほど。あまり似ていない姉弟というのも確かにいる。
……ていうか、瑠伊さんに食い下がられた。
「ちっ、バラしやがって。シスコンだと思われるだろ?」
「毎日居座ってるんだから、実際そうじゃない? じゃあ、ブラコン? ヒロくん目当て? 昔から仲良しだもんね」
「な、おまえ~!」
「弟って言った方が小宮山さんだって安心なさるかと思って。得体の知れない狼と思われて、怖がられるよりいいでしょ?」
「おい!!」
「お客様の前で噛みつかないでよ」
「どっちが先に爪立てたんだよ!」
なんだか断り辛い状況になってない?
姉と弟ってこんななの?
ひとりっ子の私にはわからない世界だった。
私がふたりの会話にボケっと見入っている間に、コウさんがさも当然のように、
「じゃあ、行きましょうか。小宮山さん」
「え、ええーと?」
私、まだ送ってもらうことについてはお返事してないんですけど。どう断れば良いんだろう。
ひとまず忘れないうちに飲食した代金を支払った。
「ありがとうございました! またいらして下さいね」
「は、はい。また……」
瑠伊さんから笑顔で見送られ、コウさんは矢坂さんみたいなスマートさでお店のドアを開けてくれた。そして背中に軽く手を添えられ、店の外へ出た。瑠伊さんに楯突いていた態度からは想像できないほど、背中を押すコウさんの手つきは優しいものだった。
コウさんとふたりで外に出ると、
「駐車場は道路を挟んだ向こう側なんで、ちょっとここで待ってて貰えます? 今、車取ってきます。あー、オレ、こういう者です」
コウさんは、パンツの後ろのポケットから財布を出すと、そこから一枚名刺を引き抜いて私にくれた。もらったのは、おかしな名刺?だった。
表は普通の会社名が印刷されている。
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向井幸祐
だから、コウさんと呼ばれているんだ。
気になって裏を返したら、ギッシリ手書きで、
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略歴
J大工学部中退
中瀬町某ホストクラブにて8年勤務
システムエンジニア歴5年
心理カウンセラー資格取得
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〈サン・ルイ〉でお悩み相談!? って。
個人でやってるの?
胡散臭いことこの上ないんですけど。
応援ありがとうございます!
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