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23 淋しい想いはさせません
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「葉摘さん、嬉しいです。あなたが戻って来てくれて。ヒロさんに勝てる自信無かったから……」
コウさん……。そんなこと思ってたの?
でも、そうだ、コウさんには私が矢坂さん目当てで〈サン・ルイ〉に通っていたこと、バレていたんだから、いい気しなかったよね。矢坂さんは既婚者だから、胸は苦しかったけど、彼とどうにかなりたいと思ったことは無かったし、ましてやコウさんと比べたことなんて無い。
時と場所を考えろと言われそうだけど、こんな外の道でだけど、今を逃したらまた考え込んできっと言えなくなる!
私は、抱きしめてくれているコウさんの広い背中に腕を回して、さらなる想いを言葉にする。
「私の方が自信なくて。ごめんなさい。私は若くないし性格は暗めだし、綺麗でもない。でも、コウさんのことが……好きになってしまいました。だから、コウさんが嫌じゃなければ、今日はまだ一緒にいたい。これからもあなたの傍にいたいです」
……言えた!
コウさんが私の気持ちを受け止めてくれたかのように、後頭部を撫でてくれているのが嬉しい。
「葉摘さん、オレもどうやったら引き留められるか、ずっと考えてた。オレもあなたをまだ帰したくないです。……結局、悪い男に捕まってしまいましたね。でもあなたに淋しい思いはさせませんから、安心して観念して下さい」
髪にかかるコウさんの甘さを含んだ囁き声に心が幸せで満たされるのを感じながら、何度も頷いた。
「のぞき魔がいますから、場所を変えましょう」
「え?」
コウさんの視線の先を目で追って振り返ってみると、〈サン・ルイ〉の明るい出窓に、矢坂さんと瑠伊さんが満面の笑みを浮かべて手を振っている姿があった。
うわ、は、は、恥ずかしすぎる!!!
「まずは、車を駐車場に入れてしまいますから、乗って」
「は、はい」
コウさんと私はバタバタとその場から移動した。
◇◇◇
「晩飯にはまだ早いし、オレの部屋に来ませんか? あの、紹介したいので……」
紹介って? 誰に!?
「ああ、緊張しないで下さい。ペットですから」
「ペット? 猫ちゃんとか、ですか?」
「いいえ、小鳥です。セキセイインコ」
「え、わあ、紹介されたいです! って、小鳥ちゃんを飼っているなんて初耳です」
「隠してた訳ではないんですけどね。切り札にしようかと。オレの情報は小出しにしてました」
「……はあ」
切り札? まあ、いいんだけど。セキセイインコかあ。どんなかな、可愛い小鳥ちゃんを想像して、ウキウキしてしまう。
「何色なんですか?」
「白です。お腹のあたりがほんのりラベンダー色。葉摘さんが小動物好きなのは嬉しい誤算だったな。実はYou○ubeでインコ動画にハマってしまって、うっかりペットショップをのぞいたら、可愛い子がいて、お持ち帰りしてました」
お持ち帰りって……。
あれ? この、状況、私も?
「オオバタンみたいに長命ではないですが、犬猫と同じくらいはがんばれば生きるみたいです」
「そうなんですね!」
インコについてお喋りしながら、コウさんのマンションへと夢心地で入って行く。ごく自然に手を繋がれている。
具合が悪くなって、このエントランスのソファでコウさんに介抱されたのが、ずいぶん前のことみたい。あの時もその前から、コウさんには気にかけて貰っていた。
今日は、エントランスを素通りして奥のエレベーターホールまで行く。未知の領域だったけれど、その時は可愛い小鳥を見せてもらえるということに気を取られていた。
エレベーターを四階で降りる。
「ここです」
コウさんの部屋の前に来た途端、はたと現実に気が付く。独身男性の部屋にこれから入るという、ことの重大さに。
「葉摘さん?」
「はい!」声が出過ぎた。
「良いお返事ですけど、今頃不安になりましたか? インコに釣られてここまで来てしまった~とか。あなたしっかりしてるように見えて、危なっかしいです。オレ以外の男にノコノコついて行ったら、ダメですからね」
「他の人になんか絶対について行きません! コウさんだから……安心して」
私、危なっかしい?
「もう……、鍵開けるまで待ってて下さい」
玄関の中に入った途端、腕を引かれた。
「余裕無くてすみません。周りに野次馬がいないので、……きちんとさせて下さい。葉摘さん、あなたにキスがしたい。いいですか?」
「はい」
「待ちきれなかった……」
そう言うなり、コウさんの手が後頭部にまわり、しっかり支えられたかと思うと、唇を奪われていた。
余裕が無いと謝られるような荒々しいキスでも、コウさんに求められるのは嬉しかった。
ピィ、ピィ、と頭の隅で小鳥の鳴き声に気がついたのは、どのくらいの間キスした後だったんだろう。
「やっと落ち着けた。どうぞ、入って」
「はい。失礼します」
コウさんの顔をまともに見られないまま、返事をしてパンプスを脱いだ。洗面所やトイレの位置を説明してくれるコウさんの後に続いて、夕焼けを映す出窓と出入り窓のあるリビングまで来た。
街に近いせいか、窓から見える景色は家々の屋根が多かった。
続きの和室が開け放たれていて、開放感のあるリビングダイニングだった。
テレビが大きくて驚いた。65インチ!? だそうだ。テレビの部屋といっても良い。
コウさんが話す度に、ピー、ピーっと可愛らしい鳴き声。出窓側のキッキン対面カウンターの下に、その鳥籠はあった。
白い小鳥が、ほんのりラベンダー色のお腹をこちらに向け、籠の格子に足をかけて張り付いていた。
「か、可愛い! あなたお名前は?」
「ふっ。話しかけても基本、返事はしませんけど、つい話しかけちゃいますよね。名前は〈チュウヤ〉です。中原中也の……」
「チュウヤくん!」
《……》
インコのチュウヤくんは無言だった。
でも、コウさんの声が聞こえたからか、籠の中で、羽根をバタつかせて落ち着かない。
可愛い……。そんなチュウヤくんに見入っていると、
「あの、葉摘さん、チュウヤは後で……」
そう言ったコウさんに、背後から抱き締められた。
「オレもあなたが好きです。あなたといると心が安らぎます。必要な癒しっていうか」
「……!?」
耳元から脳に直接響くいつもとは違うまろやかな声。心臓と頭に、雷が落ちるほどの衝撃があった。思わず胸に手を当てていた。
あなたが……わたし、が、すき?
必要な癒し……。
コウさん……。そんなこと思ってたの?
でも、そうだ、コウさんには私が矢坂さん目当てで〈サン・ルイ〉に通っていたこと、バレていたんだから、いい気しなかったよね。矢坂さんは既婚者だから、胸は苦しかったけど、彼とどうにかなりたいと思ったことは無かったし、ましてやコウさんと比べたことなんて無い。
時と場所を考えろと言われそうだけど、こんな外の道でだけど、今を逃したらまた考え込んできっと言えなくなる!
私は、抱きしめてくれているコウさんの広い背中に腕を回して、さらなる想いを言葉にする。
「私の方が自信なくて。ごめんなさい。私は若くないし性格は暗めだし、綺麗でもない。でも、コウさんのことが……好きになってしまいました。だから、コウさんが嫌じゃなければ、今日はまだ一緒にいたい。これからもあなたの傍にいたいです」
……言えた!
コウさんが私の気持ちを受け止めてくれたかのように、後頭部を撫でてくれているのが嬉しい。
「葉摘さん、オレもどうやったら引き留められるか、ずっと考えてた。オレもあなたをまだ帰したくないです。……結局、悪い男に捕まってしまいましたね。でもあなたに淋しい思いはさせませんから、安心して観念して下さい」
髪にかかるコウさんの甘さを含んだ囁き声に心が幸せで満たされるのを感じながら、何度も頷いた。
「のぞき魔がいますから、場所を変えましょう」
「え?」
コウさんの視線の先を目で追って振り返ってみると、〈サン・ルイ〉の明るい出窓に、矢坂さんと瑠伊さんが満面の笑みを浮かべて手を振っている姿があった。
うわ、は、は、恥ずかしすぎる!!!
「まずは、車を駐車場に入れてしまいますから、乗って」
「は、はい」
コウさんと私はバタバタとその場から移動した。
◇◇◇
「晩飯にはまだ早いし、オレの部屋に来ませんか? あの、紹介したいので……」
紹介って? 誰に!?
「ああ、緊張しないで下さい。ペットですから」
「ペット? 猫ちゃんとか、ですか?」
「いいえ、小鳥です。セキセイインコ」
「え、わあ、紹介されたいです! って、小鳥ちゃんを飼っているなんて初耳です」
「隠してた訳ではないんですけどね。切り札にしようかと。オレの情報は小出しにしてました」
「……はあ」
切り札? まあ、いいんだけど。セキセイインコかあ。どんなかな、可愛い小鳥ちゃんを想像して、ウキウキしてしまう。
「何色なんですか?」
「白です。お腹のあたりがほんのりラベンダー色。葉摘さんが小動物好きなのは嬉しい誤算だったな。実はYou○ubeでインコ動画にハマってしまって、うっかりペットショップをのぞいたら、可愛い子がいて、お持ち帰りしてました」
お持ち帰りって……。
あれ? この、状況、私も?
「オオバタンみたいに長命ではないですが、犬猫と同じくらいはがんばれば生きるみたいです」
「そうなんですね!」
インコについてお喋りしながら、コウさんのマンションへと夢心地で入って行く。ごく自然に手を繋がれている。
具合が悪くなって、このエントランスのソファでコウさんに介抱されたのが、ずいぶん前のことみたい。あの時もその前から、コウさんには気にかけて貰っていた。
今日は、エントランスを素通りして奥のエレベーターホールまで行く。未知の領域だったけれど、その時は可愛い小鳥を見せてもらえるということに気を取られていた。
エレベーターを四階で降りる。
「ここです」
コウさんの部屋の前に来た途端、はたと現実に気が付く。独身男性の部屋にこれから入るという、ことの重大さに。
「葉摘さん?」
「はい!」声が出過ぎた。
「良いお返事ですけど、今頃不安になりましたか? インコに釣られてここまで来てしまった~とか。あなたしっかりしてるように見えて、危なっかしいです。オレ以外の男にノコノコついて行ったら、ダメですからね」
「他の人になんか絶対について行きません! コウさんだから……安心して」
私、危なっかしい?
「もう……、鍵開けるまで待ってて下さい」
玄関の中に入った途端、腕を引かれた。
「余裕無くてすみません。周りに野次馬がいないので、……きちんとさせて下さい。葉摘さん、あなたにキスがしたい。いいですか?」
「はい」
「待ちきれなかった……」
そう言うなり、コウさんの手が後頭部にまわり、しっかり支えられたかと思うと、唇を奪われていた。
余裕が無いと謝られるような荒々しいキスでも、コウさんに求められるのは嬉しかった。
ピィ、ピィ、と頭の隅で小鳥の鳴き声に気がついたのは、どのくらいの間キスした後だったんだろう。
「やっと落ち着けた。どうぞ、入って」
「はい。失礼します」
コウさんの顔をまともに見られないまま、返事をしてパンプスを脱いだ。洗面所やトイレの位置を説明してくれるコウさんの後に続いて、夕焼けを映す出窓と出入り窓のあるリビングまで来た。
街に近いせいか、窓から見える景色は家々の屋根が多かった。
続きの和室が開け放たれていて、開放感のあるリビングダイニングだった。
テレビが大きくて驚いた。65インチ!? だそうだ。テレビの部屋といっても良い。
コウさんが話す度に、ピー、ピーっと可愛らしい鳴き声。出窓側のキッキン対面カウンターの下に、その鳥籠はあった。
白い小鳥が、ほんのりラベンダー色のお腹をこちらに向け、籠の格子に足をかけて張り付いていた。
「か、可愛い! あなたお名前は?」
「ふっ。話しかけても基本、返事はしませんけど、つい話しかけちゃいますよね。名前は〈チュウヤ〉です。中原中也の……」
「チュウヤくん!」
《……》
インコのチュウヤくんは無言だった。
でも、コウさんの声が聞こえたからか、籠の中で、羽根をバタつかせて落ち着かない。
可愛い……。そんなチュウヤくんに見入っていると、
「あの、葉摘さん、チュウヤは後で……」
そう言ったコウさんに、背後から抱き締められた。
「オレもあなたが好きです。あなたといると心が安らぎます。必要な癒しっていうか」
「……!?」
耳元から脳に直接響くいつもとは違うまろやかな声。心臓と頭に、雷が落ちるほどの衝撃があった。思わず胸に手を当てていた。
あなたが……わたし、が、すき?
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