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3.波乱の二人
4.隠した優しさ…?
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天気は快晴。気温も丁度良い感じ。
私は森林公園にやってきていた。
「リーダー。そろそろ集合ですよ」
「うん、今行く!」
今日はレジスタンスのみんなも一緒だ。……っていうか、学校指定のジャージを着た生徒たちでいっぱいだ。
森林公園でオリエンテーリング大会。生徒同士の交流を深める、というのが目的の学校行事らしい。
先週、急に開催が決定された。
「なんでオリエンテーリングなんてやるんすかね」
大隅くんがあくびをしながら言った。めずらしくテンションが低い。
「ねぇ、どうして大隅くん不機嫌なの? こういうの好きそうなのに」
こっそりと神戸くんに聞いてみる。
「……今日は例の彼女とデートする予定だったみたいです」
「あぁ……急に開催決まったから」
大隅くん、可哀そうに……。
「まあ、メンバーに借り出したのは俺ですけど」
「神戸くん……」
鬼だ。
「それにしても、意外と参加人数多いみたいだね」
この行事は自由参加だったはずだけど、かなりの数の生徒が詰め掛けている。
「暇だったんじゃないですかね……」
大隅くんから適当な答えが返ってきた。本当にやる気なさそう。
「生徒会もいるみたいですね」
神戸くんが指さした方を見てみると、蒼司と和泉さんが居る。
「あれ、3人ひと組だったよね? 一人足りないような……」
蒼司、和泉さん。これだけだと人数が足りない。
不思議に思って見ていると……。
「すみません~。遅くなりましたぁ」
この可愛らしい声は。
「あれって噂の転校生の……」
「越前さんだ」
越前さんは蒼司に近づくと何やら話をしている。
「でも越前さんは生徒会のメンバーじゃなかったような……」
すると、急に越前さんがこちらを見た。手を振って私のところにやってくる。
「おはようございます~。大和さん」
「おはよう……オリエンテーリング出るの?」
「最初は見学するつもりだったんですけど……頼まれちゃって」
は?
思わず蒼司の方を見ると、さっと目線を逸らされた。あー……きっと他に頼める知りあい、居なかったんだな。涙が出そう。勝手にそう思っておくことにした。
「今日もライバルとして、全力で頑張りますね~!」
「だから私は……」
相変わらず越前さんは私のことを勘違いしている。最近は面倒くさくていちいち否定もしなくなってしまった。
「越前先輩。そろそろ行きますよ」
しびれを切らした和泉さんが越前さんを回収に来た。去り際に私と神戸くんをキッと睨みつけることを忘れない。
うーん。この子も変わらないなぁ。
「あはは……今日も嫌われてるねぇ。お互いに」
「……あいつに負けるのだけは癪なんですよね」
神戸くんの闘志がめらめらと燃え上がっている……。彼と和泉さんは私と蒼司に負けず劣らずの、仲の悪さだった。
「さっさと終わらせて帰ろうぜー」
大隅くんは相変わらずのやる気のなさ。……奇妙な温度差を抱え、私達のチームは受付へと向かう。
「あーマイクテスト。よし。このくっそ面倒な行事によくもまぁこんな人数が集まった。それじゃルールを説明するぞー」
面倒って……先生がそれ言っちゃいます? 眠そうな目をこすり、先生は説明を続ける。
「あとから地図配るから見とけよ。道中には5つのチェックポイントを設けた。それぞれに係が立ってるから、指示に従えよ。チェックポイントを通過するごとにスタンプカードにスタンプをひとつ貰える。不正はばれるからなー」
私達に渡されたのは地図とコンパスとスタンプカード。地図にはスタート地点とチェックポイント、ゴール地点が書かれている。
「スタンプを全部集めさえすりゃ、通る順番、通る経路は自由だ。ただし危険そうな場所には行くなよ」
はーい。とそろわない返事をし、私達をふくむ参加生徒達はスタート地点に向かった。運動部、文化部、クラス……いろんなグループが参加している。
どこも和気藹々としていて楽しそう。……ある二組を除いては。
その二組――レジスタンスチームと生徒会チームの間には火花が散っている……ように見える。
原因は主に神戸くんと和泉さんだけど。
「……でも」
「でも?」
隣に立っていた蒼司が私の声を聞いてこちらを見た。その瞬間、私の中の眠れる獅子が……目を覚ます。
「やっぱあんたに負けるのだけは癪なのよねぇ……」
「奇遇だな……俺も、そう思っていたところだ」
「わぁ、火花散ってますねぇ」
睨みあう2組、のんびり手をたたく越前さん。そしてやる気の無い大隅くん。
カオスな状況の中、オリエンテーリングスタートのホイッスルは鳴った。
神戸くんの計算の結果、近道を辿ってゴールを目指すのがいちばんいい、という結論に至った。
「近道っていうか、これ……道じゃないけど。小川とか渡ってますけど」
「これくらいしないとあの人間離れした生徒会長には勝てませんよ」
いや、あいつも人間だから。一応。
「じゃあまずはCのチェックポイントに行きますよ!」
神戸くんの先導に従い、私たちは歩き始めた。さっそく遊歩道から外れ、森の中へと入っていく。
草木が生い茂る道は、公園だってことを忘れてしまいそうだ。
「うわぁ……サバイバル」
「サバイバルっすか……!」
なぜか大隅くんのテンションが浮上してきた。彼は野生動物か何かなんだろうか……。
もちろん他のチームはこんなサバイバルしてくるはずもなく。
私達はチェックポイントに一番乗りで辿りついた。係の子が早いですねぇと驚いたように感想を漏らす。
そして指を立て、私たちのほうをさわやかな笑顔で見て、言った。
「では早速このチェックポイントの課題に挑戦してもらいます」
「課題!?」
え、聞いてないんだけど。来ればスタンプ貰えるんじゃないの!?
「そう簡単にいったら面白くないでしょう」
係の子はにこにこ笑っている。……そういう問題だろうか。
「リーダー。ここはさっさと済ませ、次にいきましょう!」
「そ、それもそうだね……」
神戸くんの言葉で我に返る。生徒会チームが今どのあたりにいるか分からないし。
係の子は私達の様子を見ると、一枚の紙を取り出し読んだ。
「ここでの試練は、知の試練。制限時間10分以内に、このテストを解ききってください!挑戦するのは誰でもいいですよ」
プリントが5枚ほど目の前に置かれた。……結構分量あるよ? これ。
「歴史、国語、数学、物理……ほぼ全ジャンル網羅してますね」
「げっ。俺、日本史科目取ってねぇ」
パラパラとプリントを確認する神戸くん。その横で嫌そうな顔をする大隅くん。
私も地理やってないや。じゃあ……この中で全科目できそうな人は。
「神戸くん。お願いします」
「そうくると思ってましたよ……」
数分後。神戸くんはあっさりとテストを解ききった。しかも全問正解。
「ときどき神戸くんを年下だって忘れそうになる……」
「俺も同い年だって忘れそうになるっすよ……」
「たまたま知ってただけですよ!」
私と大隅くんの心の傷と引き換えに、スタンプをひとつ手に入れた。次なるチェックポイントを目指し、私たちは歩き続けた。
森の中を再び歩き、続いて到着したのはAのチェックポイント。
「あ、早いですね。2組目ですよ」
やってきた私達を見て、係の子は驚いたように言った。
「2組目? ってまさか……」
「はい。生徒会のみなさんがついさっきまで」
生徒会、もう来てたのか……。
「大丈夫ですよ、リーダー。まだ先を越されたわけではありません」
「そ、そうだよね」
いけない。つい焦ってしまった。
「で、次の課題はなんすか?」
大隅くんが尋ねると、係の子はまたポケットから紙を取り出し読み始めた。
「ここでの試練は力の試練。ラグビー部主将に腕相撲で勝ってください!」
そして現れたのはガタイのいい男子生徒。うっわ、強そう……。私たちとは体格が違いすぎる。
どうしたものか、と悩んでいると大隅くんが手を上げた。
「俺がやるっす」
「……お前、大丈夫なのか?」
心配そうに神戸くんが尋ねる。でも、大隅くんは神戸くんを見て、自分を見て……ふっと鼻で笑った。
「大丈夫だって。少なくとも神戸よりは」
「黙れ!」
バシン、と大隅くんの背中をたたく大きな音が響く。大隅くんはというと、「痛ってぇ!」と叫んでいた。
「痛そう……」
「あいつなら大丈夫です」
男の子のコミュニケーションって良く分からない。大隅くんは腕まくりをし、何回か手首を伸ばし、相手の前に立つ。
「レディー……ゴー!」
係の子の合図で勝負が始まった。
……結果として、大隅くんが勝った。途中はやっぱり苦戦していた。でも、神戸くんが大隅くんに近づき何かを言った瞬間、急に逆転。
「ねえ、神戸くん?」
「どうしました?」
涼しい顔の神戸くん。
「大隅くんに何言ったの……?」
「……さあ?」
怖いから聞かないでおこう……。
そんなこんなでチェックポイントを順調に通過し、残りはあと1つ。ここで問題が浮上した。
「……この川、意外と幅広い」
「誤算でした……」
近道をしようと道なき道を進んできた私達。最後のチェックポイントには小川を越えるのが一番近道なんだけど、予想外に幅広かった。
私には正直厳しい。
「今から迂回しましょうか?」
神戸くんの提案を聞いて、私はもう一度川を見た。……うーん。
大隅くんの方を振り向いた。
「……助走つければ、ギリギリ飛び越えられる?」
「俺はいけるっすけど……神戸は?」
「走り幅跳びより狭いからいけると思う」
うーん……。
……。……よし。
「なんか行ける気がしてきた」
「え!?」
私がそういうと驚いたように神戸くんがこちらを見る。
「飛ぼう!」
「ちょ、リーダー!?」
神戸くんが止めるのも構わず、すぐに大隅くんが後ろに下がり、それから川を飛び越えた。綺麗な着地だ。
「案外いけるっすよ」
「大隅、お前!」
「まぁまぁ。行っちゃったものは仕方ないし」
怒る神戸くんをなんとかなだめ、彼も先に向こう側へと渡らせる。
「リーダー、気をつけてくださいね」
「大丈夫、大丈夫」
クラスメイトに「人間じゃない」と言わしめた私の運動能力、今こそ発揮するとき!
私も一度後ろに下がり、助走をつけて思いっきり飛んだ。……よし、飛距離は充分!
これなら大丈夫。そう思ってふと視線をずらした瞬間だった。
蒼司と目が、あった。
「!?」
なんであんたここにいるの!?
一瞬しか見なかったけど、彼の顔はとても驚いていた。わぁ。久々に見た、その顔。
そんなことを思って、気をそらしていたのがいけなかった。
「リーダー! 危ない!」
「へ!? うわぁぁぁぁ!」
神戸くんの叫び声に慌てて足元を見たけど、遅かった。案の定、足を滑らせた。
派手に転んで私は水の中に。すぐに神戸くんと大隅くんが駆け寄ってきた。
「大丈夫っすか!?」
「怪我は!?」
「大丈夫……浅くてよかったぁ」
水は私の足首までの深さだから流されはしないけど……。
「ずぶぬれだ……」
派手に突っ込んだせいで私は全身ずぶぬれになっていた。神戸くんの手を借り、体を起こす。
「うわ。荷物にも被害が……あぁっ。タオルも使えない!」
リュックの中にも水は入ってしまっていて、タオルもびしょぬれだ。どうしたものか、この状況。
頭を悩ませていたそのとき、草むらが揺れ、人影が現れた。
「……生徒会長」
神戸くんの警戒する声。蒼司はいつもと変わらない無表情でそこに立っていた。
「何しに来たんですか?」
「……別に何もない」
神戸くんの険しい顔もスルーし、彼は私の方を向いた。
なんか嫌味言われる……!
そう覚悟し、私は拳を握り締めうつむく。こんなところ見られて恥ずかしいし……もう穴があったら入りたい。
蒼司が口を開く。
「使え。そのままだと風邪をひく」
ふわりと白い物が頭に乗った。柔らかくて……視界の端に映るこれは……タオル?
思わず顔をあげた。
「なんで……」
二人だけの時じゃないのに、普通に口をきいてしまった。そのことに今更気付いて、あっと口をつぐむ。
「言った通りだ。風邪をひく」
「でも……」
悪いし。そう言ってタオルを返そうとすると、彼は大きく、わざとらしくため息をついた。
「君は風邪をひきたいのか? それともバカだから風邪はひかないのか?」
……あれ? このセリフ、前にもどこかで言ってませんでしたっけ……?
あぁ。そうだ。
雨に降られて蒼司の家に行った時。そして前回の流れだと私は絶対に。
「お借りしますっ!」
良いように乗せられてしまう。分かっていても、こればかりは直せない。
「蒼司くーん?」
遠くで越前さんの呼ぶ声が聞こえた。蒼司は何も言わず踵を返すと、そのまま去って行った。
「……なんだったんだ……?」
神戸くんと大隅くんは二人揃って首をかしげる。私のポケットでスマホが震えた。
っていうか良かったぁ。スマホ生きてる……。感動しながら画面を見てみると、LIMEのメッセージだ。
差出人は蒼司。さっきまでそこに居たのになんだろう。
不思議に思いながらアプリを開く。
『怪我は無いか?あまり心配させるな』
……あ。もしかして。結構心配して見に来てくれたのかな。
今は敵チームで、学校の知り合いもいるのに。ばれるリスクを冒してまで。
……ちょっと嬉しい。
『ありがとう。大丈夫』
返信を打ちながら、顔がにやけるのが自分で分かる。
「リーダー? 何にやけてんすか?」
「あ、なんでもない!」
大隅くんと神戸くんの不思議そうな顔に、私は慌ててスマホをポケットにしまった。
オリエンテーリングの結果は生徒会とレジスタンスの同着。
最後の方は全力疾走した。
ずぶぬれだった私は美作先生に呆れられ、決着のつかなかった神戸くんと和泉さんはゴールの横で喧嘩をしている。越前さんはどこかに行ってしまって、大隅くんは彼女に電話中。
蒼司は木の下で休んでいた。周りには誰もいない。
私はそれを確認すると、そっと彼に近づいた。気配を察したのか蒼司が顔を上げる。
「……タオル、ありがとう」
「…………いや。別に」
長い沈黙のあと、蒼司がぽつりとつぶやいた。
「ちょっと待って。お礼言っただけでなんでそんなに驚くの?」
蒼司の顔はさっきと同じ、目を見開いたとても驚いた表情だ。
「……今言われるとは思っていなかった。人が見ているかもしれないのに」
「あんたが言うな」
先にそうしてきたのはそっちでしょ。……蒼司がそうしたから。
「……こっちもちゃんと答えないと、って思っただけ」
それだけ言って私はその場を去った。だから蒼司がどんな顔をしているのか分からない。
少なくとも。私の顔は真っ赤だった……はず。
私は森林公園にやってきていた。
「リーダー。そろそろ集合ですよ」
「うん、今行く!」
今日はレジスタンスのみんなも一緒だ。……っていうか、学校指定のジャージを着た生徒たちでいっぱいだ。
森林公園でオリエンテーリング大会。生徒同士の交流を深める、というのが目的の学校行事らしい。
先週、急に開催が決定された。
「なんでオリエンテーリングなんてやるんすかね」
大隅くんがあくびをしながら言った。めずらしくテンションが低い。
「ねぇ、どうして大隅くん不機嫌なの? こういうの好きそうなのに」
こっそりと神戸くんに聞いてみる。
「……今日は例の彼女とデートする予定だったみたいです」
「あぁ……急に開催決まったから」
大隅くん、可哀そうに……。
「まあ、メンバーに借り出したのは俺ですけど」
「神戸くん……」
鬼だ。
「それにしても、意外と参加人数多いみたいだね」
この行事は自由参加だったはずだけど、かなりの数の生徒が詰め掛けている。
「暇だったんじゃないですかね……」
大隅くんから適当な答えが返ってきた。本当にやる気なさそう。
「生徒会もいるみたいですね」
神戸くんが指さした方を見てみると、蒼司と和泉さんが居る。
「あれ、3人ひと組だったよね? 一人足りないような……」
蒼司、和泉さん。これだけだと人数が足りない。
不思議に思って見ていると……。
「すみません~。遅くなりましたぁ」
この可愛らしい声は。
「あれって噂の転校生の……」
「越前さんだ」
越前さんは蒼司に近づくと何やら話をしている。
「でも越前さんは生徒会のメンバーじゃなかったような……」
すると、急に越前さんがこちらを見た。手を振って私のところにやってくる。
「おはようございます~。大和さん」
「おはよう……オリエンテーリング出るの?」
「最初は見学するつもりだったんですけど……頼まれちゃって」
は?
思わず蒼司の方を見ると、さっと目線を逸らされた。あー……きっと他に頼める知りあい、居なかったんだな。涙が出そう。勝手にそう思っておくことにした。
「今日もライバルとして、全力で頑張りますね~!」
「だから私は……」
相変わらず越前さんは私のことを勘違いしている。最近は面倒くさくていちいち否定もしなくなってしまった。
「越前先輩。そろそろ行きますよ」
しびれを切らした和泉さんが越前さんを回収に来た。去り際に私と神戸くんをキッと睨みつけることを忘れない。
うーん。この子も変わらないなぁ。
「あはは……今日も嫌われてるねぇ。お互いに」
「……あいつに負けるのだけは癪なんですよね」
神戸くんの闘志がめらめらと燃え上がっている……。彼と和泉さんは私と蒼司に負けず劣らずの、仲の悪さだった。
「さっさと終わらせて帰ろうぜー」
大隅くんは相変わらずのやる気のなさ。……奇妙な温度差を抱え、私達のチームは受付へと向かう。
「あーマイクテスト。よし。このくっそ面倒な行事によくもまぁこんな人数が集まった。それじゃルールを説明するぞー」
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「あとから地図配るから見とけよ。道中には5つのチェックポイントを設けた。それぞれに係が立ってるから、指示に従えよ。チェックポイントを通過するごとにスタンプカードにスタンプをひとつ貰える。不正はばれるからなー」
私達に渡されたのは地図とコンパスとスタンプカード。地図にはスタート地点とチェックポイント、ゴール地点が書かれている。
「スタンプを全部集めさえすりゃ、通る順番、通る経路は自由だ。ただし危険そうな場所には行くなよ」
はーい。とそろわない返事をし、私達をふくむ参加生徒達はスタート地点に向かった。運動部、文化部、クラス……いろんなグループが参加している。
どこも和気藹々としていて楽しそう。……ある二組を除いては。
その二組――レジスタンスチームと生徒会チームの間には火花が散っている……ように見える。
原因は主に神戸くんと和泉さんだけど。
「……でも」
「でも?」
隣に立っていた蒼司が私の声を聞いてこちらを見た。その瞬間、私の中の眠れる獅子が……目を覚ます。
「やっぱあんたに負けるのだけは癪なのよねぇ……」
「奇遇だな……俺も、そう思っていたところだ」
「わぁ、火花散ってますねぇ」
睨みあう2組、のんびり手をたたく越前さん。そしてやる気の無い大隅くん。
カオスな状況の中、オリエンテーリングスタートのホイッスルは鳴った。
神戸くんの計算の結果、近道を辿ってゴールを目指すのがいちばんいい、という結論に至った。
「近道っていうか、これ……道じゃないけど。小川とか渡ってますけど」
「これくらいしないとあの人間離れした生徒会長には勝てませんよ」
いや、あいつも人間だから。一応。
「じゃあまずはCのチェックポイントに行きますよ!」
神戸くんの先導に従い、私たちは歩き始めた。さっそく遊歩道から外れ、森の中へと入っていく。
草木が生い茂る道は、公園だってことを忘れてしまいそうだ。
「うわぁ……サバイバル」
「サバイバルっすか……!」
なぜか大隅くんのテンションが浮上してきた。彼は野生動物か何かなんだろうか……。
もちろん他のチームはこんなサバイバルしてくるはずもなく。
私達はチェックポイントに一番乗りで辿りついた。係の子が早いですねぇと驚いたように感想を漏らす。
そして指を立て、私たちのほうをさわやかな笑顔で見て、言った。
「では早速このチェックポイントの課題に挑戦してもらいます」
「課題!?」
え、聞いてないんだけど。来ればスタンプ貰えるんじゃないの!?
「そう簡単にいったら面白くないでしょう」
係の子はにこにこ笑っている。……そういう問題だろうか。
「リーダー。ここはさっさと済ませ、次にいきましょう!」
「そ、それもそうだね……」
神戸くんの言葉で我に返る。生徒会チームが今どのあたりにいるか分からないし。
係の子は私達の様子を見ると、一枚の紙を取り出し読んだ。
「ここでの試練は、知の試練。制限時間10分以内に、このテストを解ききってください!挑戦するのは誰でもいいですよ」
プリントが5枚ほど目の前に置かれた。……結構分量あるよ? これ。
「歴史、国語、数学、物理……ほぼ全ジャンル網羅してますね」
「げっ。俺、日本史科目取ってねぇ」
パラパラとプリントを確認する神戸くん。その横で嫌そうな顔をする大隅くん。
私も地理やってないや。じゃあ……この中で全科目できそうな人は。
「神戸くん。お願いします」
「そうくると思ってましたよ……」
数分後。神戸くんはあっさりとテストを解ききった。しかも全問正解。
「ときどき神戸くんを年下だって忘れそうになる……」
「俺も同い年だって忘れそうになるっすよ……」
「たまたま知ってただけですよ!」
私と大隅くんの心の傷と引き換えに、スタンプをひとつ手に入れた。次なるチェックポイントを目指し、私たちは歩き続けた。
森の中を再び歩き、続いて到着したのはAのチェックポイント。
「あ、早いですね。2組目ですよ」
やってきた私達を見て、係の子は驚いたように言った。
「2組目? ってまさか……」
「はい。生徒会のみなさんがついさっきまで」
生徒会、もう来てたのか……。
「大丈夫ですよ、リーダー。まだ先を越されたわけではありません」
「そ、そうだよね」
いけない。つい焦ってしまった。
「で、次の課題はなんすか?」
大隅くんが尋ねると、係の子はまたポケットから紙を取り出し読み始めた。
「ここでの試練は力の試練。ラグビー部主将に腕相撲で勝ってください!」
そして現れたのはガタイのいい男子生徒。うっわ、強そう……。私たちとは体格が違いすぎる。
どうしたものか、と悩んでいると大隅くんが手を上げた。
「俺がやるっす」
「……お前、大丈夫なのか?」
心配そうに神戸くんが尋ねる。でも、大隅くんは神戸くんを見て、自分を見て……ふっと鼻で笑った。
「大丈夫だって。少なくとも神戸よりは」
「黙れ!」
バシン、と大隅くんの背中をたたく大きな音が響く。大隅くんはというと、「痛ってぇ!」と叫んでいた。
「痛そう……」
「あいつなら大丈夫です」
男の子のコミュニケーションって良く分からない。大隅くんは腕まくりをし、何回か手首を伸ばし、相手の前に立つ。
「レディー……ゴー!」
係の子の合図で勝負が始まった。
……結果として、大隅くんが勝った。途中はやっぱり苦戦していた。でも、神戸くんが大隅くんに近づき何かを言った瞬間、急に逆転。
「ねえ、神戸くん?」
「どうしました?」
涼しい顔の神戸くん。
「大隅くんに何言ったの……?」
「……さあ?」
怖いから聞かないでおこう……。
そんなこんなでチェックポイントを順調に通過し、残りはあと1つ。ここで問題が浮上した。
「……この川、意外と幅広い」
「誤算でした……」
近道をしようと道なき道を進んできた私達。最後のチェックポイントには小川を越えるのが一番近道なんだけど、予想外に幅広かった。
私には正直厳しい。
「今から迂回しましょうか?」
神戸くんの提案を聞いて、私はもう一度川を見た。……うーん。
大隅くんの方を振り向いた。
「……助走つければ、ギリギリ飛び越えられる?」
「俺はいけるっすけど……神戸は?」
「走り幅跳びより狭いからいけると思う」
うーん……。
……。……よし。
「なんか行ける気がしてきた」
「え!?」
私がそういうと驚いたように神戸くんがこちらを見る。
「飛ぼう!」
「ちょ、リーダー!?」
神戸くんが止めるのも構わず、すぐに大隅くんが後ろに下がり、それから川を飛び越えた。綺麗な着地だ。
「案外いけるっすよ」
「大隅、お前!」
「まぁまぁ。行っちゃったものは仕方ないし」
怒る神戸くんをなんとかなだめ、彼も先に向こう側へと渡らせる。
「リーダー、気をつけてくださいね」
「大丈夫、大丈夫」
クラスメイトに「人間じゃない」と言わしめた私の運動能力、今こそ発揮するとき!
私も一度後ろに下がり、助走をつけて思いっきり飛んだ。……よし、飛距離は充分!
これなら大丈夫。そう思ってふと視線をずらした瞬間だった。
蒼司と目が、あった。
「!?」
なんであんたここにいるの!?
一瞬しか見なかったけど、彼の顔はとても驚いていた。わぁ。久々に見た、その顔。
そんなことを思って、気をそらしていたのがいけなかった。
「リーダー! 危ない!」
「へ!? うわぁぁぁぁ!」
神戸くんの叫び声に慌てて足元を見たけど、遅かった。案の定、足を滑らせた。
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「大丈夫っすか!?」
「怪我は!?」
「大丈夫……浅くてよかったぁ」
水は私の足首までの深さだから流されはしないけど……。
「ずぶぬれだ……」
派手に突っ込んだせいで私は全身ずぶぬれになっていた。神戸くんの手を借り、体を起こす。
「うわ。荷物にも被害が……あぁっ。タオルも使えない!」
リュックの中にも水は入ってしまっていて、タオルもびしょぬれだ。どうしたものか、この状況。
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「……生徒会長」
神戸くんの警戒する声。蒼司はいつもと変わらない無表情でそこに立っていた。
「何しに来たんですか?」
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神戸くんの険しい顔もスルーし、彼は私の方を向いた。
なんか嫌味言われる……!
そう覚悟し、私は拳を握り締めうつむく。こんなところ見られて恥ずかしいし……もう穴があったら入りたい。
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「使え。そのままだと風邪をひく」
ふわりと白い物が頭に乗った。柔らかくて……視界の端に映るこれは……タオル?
思わず顔をあげた。
「なんで……」
二人だけの時じゃないのに、普通に口をきいてしまった。そのことに今更気付いて、あっと口をつぐむ。
「言った通りだ。風邪をひく」
「でも……」
悪いし。そう言ってタオルを返そうとすると、彼は大きく、わざとらしくため息をついた。
「君は風邪をひきたいのか? それともバカだから風邪はひかないのか?」
……あれ? このセリフ、前にもどこかで言ってませんでしたっけ……?
あぁ。そうだ。
雨に降られて蒼司の家に行った時。そして前回の流れだと私は絶対に。
「お借りしますっ!」
良いように乗せられてしまう。分かっていても、こればかりは直せない。
「蒼司くーん?」
遠くで越前さんの呼ぶ声が聞こえた。蒼司は何も言わず踵を返すと、そのまま去って行った。
「……なんだったんだ……?」
神戸くんと大隅くんは二人揃って首をかしげる。私のポケットでスマホが震えた。
っていうか良かったぁ。スマホ生きてる……。感動しながら画面を見てみると、LIMEのメッセージだ。
差出人は蒼司。さっきまでそこに居たのになんだろう。
不思議に思いながらアプリを開く。
『怪我は無いか?あまり心配させるな』
……あ。もしかして。結構心配して見に来てくれたのかな。
今は敵チームで、学校の知り合いもいるのに。ばれるリスクを冒してまで。
……ちょっと嬉しい。
『ありがとう。大丈夫』
返信を打ちながら、顔がにやけるのが自分で分かる。
「リーダー? 何にやけてんすか?」
「あ、なんでもない!」
大隅くんと神戸くんの不思議そうな顔に、私は慌ててスマホをポケットにしまった。
オリエンテーリングの結果は生徒会とレジスタンスの同着。
最後の方は全力疾走した。
ずぶぬれだった私は美作先生に呆れられ、決着のつかなかった神戸くんと和泉さんはゴールの横で喧嘩をしている。越前さんはどこかに行ってしまって、大隅くんは彼女に電話中。
蒼司は木の下で休んでいた。周りには誰もいない。
私はそれを確認すると、そっと彼に近づいた。気配を察したのか蒼司が顔を上げる。
「……タオル、ありがとう」
「…………いや。別に」
長い沈黙のあと、蒼司がぽつりとつぶやいた。
「ちょっと待って。お礼言っただけでなんでそんなに驚くの?」
蒼司の顔はさっきと同じ、目を見開いたとても驚いた表情だ。
「……今言われるとは思っていなかった。人が見ているかもしれないのに」
「あんたが言うな」
先にそうしてきたのはそっちでしょ。……蒼司がそうしたから。
「……こっちもちゃんと答えないと、って思っただけ」
それだけ言って私はその場を去った。だから蒼司がどんな顔をしているのか分からない。
少なくとも。私の顔は真っ赤だった……はず。
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今までの子羊のような一輝くん。
そうではなく。
オオカミになってしまっているっ⁉
。・.・*.・*・*.・。*・.・*・*.・*
如月結菜(きさらぎ ゆな)
高校三年生
恋愛に鈍感
椎名一輝(しいな いつき)
高校一年生
本当は恋愛に慣れていない
。・.・*.・*・*.・。*・.・*・*.・*
オオカミになっている。
そのときの一輝くんは。
「一緒にお風呂に入ったら教えてあげる」
一緒にっ⁉
そんなの恥ずかしいよっ。
恥ずかしくなる。
そんな言葉をサラッと言ったり。
それに。
少しイジワル。
だけど。
一輝くんは。
不器用なところもある。
そして一生懸命。
優しいところもたくさんある。
そんな一輝くんが。
「僕は結菜ちゃんのこと誰にも渡したくない」
「そんなに可愛いと理性が破壊寸前になる」
なんて言うから。
余計に恥ずかしくなるし緊張してしまう。
子羊の部分とオオカミの部分。
それらにはギャップがある。
だから戸惑ってしまう。
それだけではない。
そのギャップが。
ドキドキさせる。
虜にさせる。
それは一輝くんの魅力。
そんな一輝くんの魅力。
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