さらば俺の愛しき義弟(おとうと)

宮部ネコ

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第一章

1.出会い

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 高校2年の途中で母親が突然家を出て行った。母子家庭で母親とアパートに二人暮らしだったから、途方に暮れた。
 お金もないし、今後の家賃も払えない。
 きっと母親は男と出て行ったんだと思った。相手がいるのは知っていた。ホステスをしていて知り合った男だ。

 お腹が空いたと思ってなんとなしに冷蔵庫を開けたら、母からの書き置きを見つけた。父の実家の連絡先が書いてあった。
 父は5歳の時に亡くなっていて、生前認知だけはしてくれたという話は母から聞いたことがある。

 書いてあった連絡先、祖父母らしき人たちを訪ねて事情を説明すると、困惑した顔をされた。
 親戚中でたらい回しにされたあげく、父の遠縁の谷村たにむらという人のところで世話になることになった。

 そこに2つ下の義弟、茄治なちがいた。

 茄治の親は、俺を仕方なく引き取ったという感じで、あまり快く思っていなかった。
 両親とも働いているから家事をやるように言われた。
 元々自分の母親は夜働いていたせいか、あまり家事をやらない人だったし、俺が料理も洗濯もしていたから、ここでもやることはほとんど変わらない。
 俺が通っている高校は、この家から自転車で行ける距離で、前の家よりよほど近かったから、そのまま通うことになった。

 ただ、家の中に味方はいなくて、俺は邪魔なんだと思った。

 義弟の茄治も、俺が来たせいで部屋を半分取られて不満そうだった。6畳の部屋に俺の布団や机が増えたら、誰だって狭くも感じるだろう。
「ただ年上ってだけで兄さんって呼ばなきゃいけないの?」
 とか親の前で平気で言う。
「別にいいわよ。そんな呼び方しなくても」
「ふーん」
 そんなことを言いながら、2人だけの時はからかうように兄さんと呼んできた。

「兄さん」
 と呼ばれると、わざとだってわかっているのに何故かうれしくなる。
「あんた彼女とかいんの?」
「い、いるわけない」
「顔だけはモテそうなのに」
 モテたことなんかない。それに俺は女に興味がなかった。
 でも、男にしか興味ないことは絶対知られるわけにはいかなかった。気味悪がられるし、下手したら部屋を追い出されてしまう。
 それにかっこいいのは茄治の方だ。俺は自分の女顔にコンプレックスがあったから、正直うらやましかった。いや、違う。
 切れ長の瞳も、凛々しい眉も、西洋人のような高い鼻も、形のいい耳も、色気のある唇も、声変わりしたばかりの低い声も、意外と筋肉質の体も、全部俺の好みだった。
 まだ中学生とは思えない。身長も俺より高い。

 茄治は、俺に1ミリも気を遣ってなくて、多分俺のことを家政婦だとしか思ってなかったんだと思う。俺としてはその方が気楽だった。変な風に慕われるよりも、見下されていい。変なことを考えなくてすむ。

 でも、同じ部屋で寝泊まりしていると意識せずにはいられなかった。顔がものすごく好みな上に、性格が悪いのもそそられる。自分がM気質だとは薄々気付いていた。罵られながらも、それが快感で、悟られないように過ごすのが大変だった。
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