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第三章
37.母さんとの再会(2)
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喫茶店で一通り注文した後、母さんは言った。
「その谷村さんのところに今もお世話になってるのかしら?」
「今は茄治の家出て1人」
「俺に黙って勝手に出て行ったもんね」
何でここでそんなこと言い出すんだ? もしかして根に持ってるんじゃないかと思う。
「あらどういうこと?」
母はちょっと笑いながら聞く。
「いや、そのだから。ちゃんと茄治の両親には説明して。元々高校卒業までって約束だったし」
何でこんなことわざわざ言わなきゃいけないのか。
「うちの親はあんましだから、出て良かったとは思うけど。兄さんはすぐ遠慮するから」
「そうね」
そこで母は同意する。何? 何でそんな話に。
「桔梗は昔から言いたいことあまり言わないのよね」
そんなこと言われたって。
母さんに見透かされている気がするのが気に入らなくて、一番聞きたかったことを聞いた。
「じゃあ何で出てったの?」
聞くのが怖くて今まで聞けなかったから。
「この前聞かれなかったから、興味ないのかと思ったわ」
母さんはちょっと顔を歪めて言う。
「黙って勝手に出て行ったの悪かったと思ってる。どうしても、あそこにいられなくて。居場所割れてしまったから」
「え?」
「店の客でね、ストーカーみたいな奴がいたのよ。断っても、毎日のように店に現れて、あげく私の家まで」
「母さん?」
俺そんなこと全く知らなかった。
「このままじゃあなたにも被害がいくと思ったら怖くて。だから家を出たの。子供がいるなんてわかったら何してくるかわからなかったから。店もすぐやめて、色々な所を転々として」
「最近やっと落ち着いたの。警察はしばらく取り合ってくれなかったんだけど、余罪が見つかって捕まったわ。それに、さっきの笠川さんもいてくれるから」
そんなこと全然知らなくて、ただ捨てられたのかと思ってたから。
「そんなの、もっと早く話してくれたら」
疑ってたのに。男と出て行ったんじゃないかって。
「もっと早く会いに行きたかったんだけど、怖くて。それに、私に会いたくないんじゃないかと思ったのよね」
そんなこと。俺が勝手に誤解して、母さんを蔑んでた。
「俺、勝手に誤解して、ごめんなさい」
「謝ることなんかないわ。私の方が謝らなきゃいけないのに」
母さんは目を伏せる。
「でも、元気そうで良かった。いいとこでお世話になったのね」
「え?」
「茄治君だったかしら? 桔梗のことよくわかってる」
そんなこと言われると恥ずかしい。だって茄治は家族とかそういうんじゃないから。
「それはどうなんだろう」
茄治はまんざらでもないようににやけてる。
俺はちょっと気になったことを聞いた。
「笹川さんって付き合ってるの?」
「やっぱりわかっちゃう?」
母さんは説明してくれた。
「もうあんな怖い思いしたくないし、歳も歳だから夜の仕事やめようと思ったの。派遣であまり稼げないけど、事務の仕事をやるようになって。前の職場の時に出会って、店の事務やらないかって誘われたのよ」
母さんはもうホステスしてないんだ。
「でも、本当に最近よ。あなたのお父さんのことずっと忘れられなかったから」
俺のお父さん?
「あ、あなたの名前の由来、面白いの」
「え?」
「ホステスしてた時にいつも花をプレゼントしてくれたのよ。私の名前にちなんでって」
母さんの名前ということは菖蒲の花だろうか。
「でも、それ桔梗だったの」
「え?」
「あの人、ずっと菖蒲だと勘違いしてて。おかしかった」
お母さんは思い出したように笑う。同じ紫色で似ていたらしい。
「だからあなたの名前を桔梗にしたのよ。思い出の花だから」
そんな経緯があったなんて。
「妊娠した時、すぐに結婚しようって言ってくれた。でも、雅樹さんの両親に反対されて」
だから俺が行ったとき嫌な顔をされたのか。
「私みたいな商売の人、嫌がられたんでしょうね。そのせいであなたには苦労させてしまったけど」
「母さん」
俺は別に苦労なんかしていない。
「お父さんは毎日のようにうちに来てたんだけど、事故があって」
父親のことあまり覚えていなかった。事故で死んだとは聞いていたけど、よくわかっていなかった。
自分はちゃんと両親に愛されて育ったのだとわかったから。
「全然知らなかった」
「いずれ話そうとは思ってたんだけど、仕事が忙しくて、あなたと一緒にいる時間が取れなかった。後悔してるわ」
母さんは神妙な顔でもう一度言った。
「黙っていなくなったりしてごめんなさい」
俺は首を振る。
「お父さんの実家、嫌がられたでしょ?」
確かに嫌な顔はされた。
「でも、良かったわ。ちゃんと桔梗のことわかってくれる人がいて」
ふと茄治の顔を見ると、照れたような顔をしている。
茄治の両親はあまり俺のこと好きじゃなさそうだけど、もう別にどうだっていい。茄治がいたから。
「兄さんは自分のこと卑下し過ぎだから」
「うるさい」
そんなこと言われたって、自分には何の取り柄もないし、褒められるのはいつも顔だけ。
「料理だってうまいじゃん」
俺のそんな感情を見透かしたように茄治が言う。
「本当に良かったわ。元気そうで」
母さんは涙ぐむようにハンカチで目を拭いていた。俺はなんて言ったらいいかわからなかった。
「話してくれてありがとう」
聞かなかったら誤解したままだったから。本当のことがわかって、母さんは俺を捨てたわけじゃないと知れてうれしかった。
「桔梗」
母さんは向かい合って座っていた席から立って、俺を抱きしめてくれた。俺も泣きそうになる。
見えなかったけど、茄治が笑った気がした。
「その谷村さんのところに今もお世話になってるのかしら?」
「今は茄治の家出て1人」
「俺に黙って勝手に出て行ったもんね」
何でここでそんなこと言い出すんだ? もしかして根に持ってるんじゃないかと思う。
「あらどういうこと?」
母はちょっと笑いながら聞く。
「いや、そのだから。ちゃんと茄治の両親には説明して。元々高校卒業までって約束だったし」
何でこんなことわざわざ言わなきゃいけないのか。
「うちの親はあんましだから、出て良かったとは思うけど。兄さんはすぐ遠慮するから」
「そうね」
そこで母は同意する。何? 何でそんな話に。
「桔梗は昔から言いたいことあまり言わないのよね」
そんなこと言われたって。
母さんに見透かされている気がするのが気に入らなくて、一番聞きたかったことを聞いた。
「じゃあ何で出てったの?」
聞くのが怖くて今まで聞けなかったから。
「この前聞かれなかったから、興味ないのかと思ったわ」
母さんはちょっと顔を歪めて言う。
「黙って勝手に出て行ったの悪かったと思ってる。どうしても、あそこにいられなくて。居場所割れてしまったから」
「え?」
「店の客でね、ストーカーみたいな奴がいたのよ。断っても、毎日のように店に現れて、あげく私の家まで」
「母さん?」
俺そんなこと全く知らなかった。
「このままじゃあなたにも被害がいくと思ったら怖くて。だから家を出たの。子供がいるなんてわかったら何してくるかわからなかったから。店もすぐやめて、色々な所を転々として」
「最近やっと落ち着いたの。警察はしばらく取り合ってくれなかったんだけど、余罪が見つかって捕まったわ。それに、さっきの笠川さんもいてくれるから」
そんなこと全然知らなくて、ただ捨てられたのかと思ってたから。
「そんなの、もっと早く話してくれたら」
疑ってたのに。男と出て行ったんじゃないかって。
「もっと早く会いに行きたかったんだけど、怖くて。それに、私に会いたくないんじゃないかと思ったのよね」
そんなこと。俺が勝手に誤解して、母さんを蔑んでた。
「俺、勝手に誤解して、ごめんなさい」
「謝ることなんかないわ。私の方が謝らなきゃいけないのに」
母さんは目を伏せる。
「でも、元気そうで良かった。いいとこでお世話になったのね」
「え?」
「茄治君だったかしら? 桔梗のことよくわかってる」
そんなこと言われると恥ずかしい。だって茄治は家族とかそういうんじゃないから。
「それはどうなんだろう」
茄治はまんざらでもないようににやけてる。
俺はちょっと気になったことを聞いた。
「笹川さんって付き合ってるの?」
「やっぱりわかっちゃう?」
母さんは説明してくれた。
「もうあんな怖い思いしたくないし、歳も歳だから夜の仕事やめようと思ったの。派遣であまり稼げないけど、事務の仕事をやるようになって。前の職場の時に出会って、店の事務やらないかって誘われたのよ」
母さんはもうホステスしてないんだ。
「でも、本当に最近よ。あなたのお父さんのことずっと忘れられなかったから」
俺のお父さん?
「あ、あなたの名前の由来、面白いの」
「え?」
「ホステスしてた時にいつも花をプレゼントしてくれたのよ。私の名前にちなんでって」
母さんの名前ということは菖蒲の花だろうか。
「でも、それ桔梗だったの」
「え?」
「あの人、ずっと菖蒲だと勘違いしてて。おかしかった」
お母さんは思い出したように笑う。同じ紫色で似ていたらしい。
「だからあなたの名前を桔梗にしたのよ。思い出の花だから」
そんな経緯があったなんて。
「妊娠した時、すぐに結婚しようって言ってくれた。でも、雅樹さんの両親に反対されて」
だから俺が行ったとき嫌な顔をされたのか。
「私みたいな商売の人、嫌がられたんでしょうね。そのせいであなたには苦労させてしまったけど」
「母さん」
俺は別に苦労なんかしていない。
「お父さんは毎日のようにうちに来てたんだけど、事故があって」
父親のことあまり覚えていなかった。事故で死んだとは聞いていたけど、よくわかっていなかった。
自分はちゃんと両親に愛されて育ったのだとわかったから。
「全然知らなかった」
「いずれ話そうとは思ってたんだけど、仕事が忙しくて、あなたと一緒にいる時間が取れなかった。後悔してるわ」
母さんは神妙な顔でもう一度言った。
「黙っていなくなったりしてごめんなさい」
俺は首を振る。
「お父さんの実家、嫌がられたでしょ?」
確かに嫌な顔はされた。
「でも、良かったわ。ちゃんと桔梗のことわかってくれる人がいて」
ふと茄治の顔を見ると、照れたような顔をしている。
茄治の両親はあまり俺のこと好きじゃなさそうだけど、もう別にどうだっていい。茄治がいたから。
「兄さんは自分のこと卑下し過ぎだから」
「うるさい」
そんなこと言われたって、自分には何の取り柄もないし、褒められるのはいつも顔だけ。
「料理だってうまいじゃん」
俺のそんな感情を見透かしたように茄治が言う。
「本当に良かったわ。元気そうで」
母さんは涙ぐむようにハンカチで目を拭いていた。俺はなんて言ったらいいかわからなかった。
「話してくれてありがとう」
聞かなかったら誤解したままだったから。本当のことがわかって、母さんは俺を捨てたわけじゃないと知れてうれしかった。
「桔梗」
母さんは向かい合って座っていた席から立って、俺を抱きしめてくれた。俺も泣きそうになる。
見えなかったけど、茄治が笑った気がした。
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