記憶を持ったままどこかの国の令嬢になった

さこの

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やめた!


「お嬢、なんですぐ呼ばないんだ? 頬は腫れているし、口はキレて血が滲んでいるし、タイツが破れて血が出てスカートを汚して何があった?」

 羅列されると暴力的だ。無言でいるとサムエルが怒った口調で言う。

「お嬢が口を閉ざしても、すぐに何があったか判明するからな。とにかく帰ろう」

「……お兄様は?」
「坊ちゃんには連絡しておいた。お嬢が通信機を使うなんてよっぽどのことだろうからな。坊ちゃんの事はいいからもっと自分を大事にしろ!」

 エルマンから借りたハンカチをギュッと握りしめた。

「……怒っても仕方ないな。お嬢は悪くないんだろ」

 サムエルが頭を撫でてくれると涙が溢れてきた。

「泣くな。と言いたいけれど思いっきり泣いてスッキリすればいい。お嬢頑張ったな……よしよし」

 エルマンに借りたハンカチで涙を拭った。

「それにしても手をあげる令嬢ってどうなんだ? 罰が下るのも時間の問題だけど、お嬢は今後どうしたい?」
「どうせ友達もいないし、っく。何をしても文句を言われるんだからっ、1人でいる方がいい。でも……暴力は反対……痛いもん、だからあの令嬢達を見返す。勉強も負けない……」
 
「良いんじゃないか? 孤高の華とかあだ名をつけられたらかっこいいぞ」

 サムエルは笑いながら言ったけど、絶対怒ってる。長年一緒にいるから分かる。

「俺はお嬢の“孤高の華”作戦には大賛成だな。綺麗な薔薇には棘があるもんだし魅力的だ。でもこれ以上危険な目には遭ってほしくない。だからすぐに俺を呼べ。どこにでもすぐ駆けつける。何のための連絡ツールなんだか……。これすっごい高いんだからな。使わないと勿体ないだろ?」

「うん。ありがとサムエル」

「お嬢と俺の仲だからな。もうすぐ兄貴も帰ってくる。お嬢のそんな姿見たら兄貴がキレるぞ?」

 サムエルのお兄様はルシアンという。ルシアンは優しくてイタズラをしても笑って許してくれて、サムエルもルシアンも私は大好きで甘えられるお兄ちゃん的存在。

「ルシアンはいつ帰ってくるの?」
「いつ帰ってきてもおかしくないな。お嬢屋敷までは俺が抱きかかえていくから暴れるなよ」
「うん」

 サムエルの首に腕を回した。お兄様が連絡をしていたみたいでお医者様が待ちかねていた。通信機ってスゴイ。

「頬が腫れていますね。冷やしておけば腫れは引くと思いますが口の中が切れていますので、熱いものや刺激のあるものは口にしない方がいいです。足と手は擦りむいた程度ですが、バイ菌が入ったら化膿するかもしれません。消毒をしますが染みますよ」

 お医者様の言った通りすっごい染みる! 涙が出てきた。いったぁぁぁい。

「消毒は毎日するようにして下さい。痕が残らないよう傷口は清潔を保つように」

 お医者様が帰っていった。明日は学園休もうかな。同情されても嫌だし。

「診察は終わったか? お嬢の好きなケーキを買ってきた」

 サムエルが私を元気つけようとしてくれている。屋敷のみんなも心配しているようで口数が少ない。珍しい、それほど私の姿が衝撃的だったみたい。

「皆心配かけてごめん。学園に馴染めなくて友達ができないんだ。学園も楽しくないし変な噂とかたてられて、お兄様の足を引っ張っちゃって……学園で浮いてて、令嬢達に囲まれて……反論はしたんだけど、頬を打たれちゃって」

 しんみりした空気なってしまった。こんな雰囲気にしたいわけじゃない。

「何が言いたいかって言うとね、私好かれようとするのやめる。お兄様も堂々としなさいって言ったもの。悪いことしてないのに悪者になってて、それなら悪いことして悪者になった方がよっぽど健全だよ。だからもうやめた! サムエル、ケーキちょうだい」

 私の好きないちごケーキとナッツいっぱいタルトが用意されていた。ケーキを口に含むと血の味と混ざったけれど、甘くて美味しい。

「いっぱい泣いたから疲れちゃった。少し休もうかな」
「夕食の時間に迎えに行きます。ゆっくりお休み下さい」

 エミリーまで深刻な顔をしていた。私が元気じゃないとみんなに迷惑かけるんだ。


 ******

 ~兄、キリアン視点~

 サムエルから連絡が入った。エマを連れて先に帰る。まさか暴力を振るわれるとは思わなかった。エマが安全に学園生活を送るために、不安要素は消さなきゃならない。


「エルマン殿、どうだった?」
「目撃者を全て集めてきた」
「早かったですね。迷惑をかけます」
「いや。よく分からない理由でエマ嬢が傷つけられたのに何もしない理由がない。私のせいでもあるし申し訳ない」


 エルマン殿はモテる。そのエルマン殿がエマにちょっかいをかけるとエマが虐められるという悪循環。エルマン殿は悪くないんだけれど、令嬢の嫉妬って怖いもんだ。

「エルマン殿は令嬢が苦手と聞いているのですがなぜエマを?」
「エマ嬢の……、目が」

「目ですか? 確かに大きくて宝石のように美しいですが、それだけで?」
「初めて私を見た時、何かを見通すような目をしてて普通の令嬢は私の中身ではなく顔や家柄、金……。気に入られようとある事ない事を話してきてそれが苦痛だった。でもエマ嬢は何も話さなくとも心地が良くてこのまま同じ空間にいたいと思った。そして愚かな私を叱ってくれた。フェルマンがエマ嬢に近付いても靡くどころか、逆にフェルマンが興味を持ってしまった。エマ嬢の瞳に私だけを映してほしいと考えるようになった。多分これがエマ嬢がいいという理由」

 めんどくさっ。




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