3 / 18
三年経った
しおりを挟むお兄様が十六歳になり、成人を迎えた。私は十三歳になり、学校へ通っている。
お兄様は、あのとき葬儀に来てくれた商人の娘──シャーリーさんと結婚するという。
平民になってしまうけれど、お兄様が望んだことに反対はしない。
だってシャーリーさんは、とても可愛くて楽しい人で、なによりお兄様のことが大好きで。……本当に、お似合いなのだ。
子爵家といっても、今の我が家は名前だけ。領地もなく、もともと文官の家系。今は出仕もしていないから、細々と生活している。
「子爵を返還すればいいんじゃないの?」
そうおばあさまに聞いたことがあるけれど、返還すると色々と都合が悪いらしい。そうなると、いずれ私が継ぐことになるのだけど……税金が……などと、十三歳なりに真剣に悩んでいた。
「ブランシュが学生の間は結婚しないよ。一緒に住めるのもあと数年だけどね」
お兄様はそう言って笑った。
「結婚しても様子は見に来るし、おばあさまのことも心配だから。シャーリーは一緒に住んでもいいって言ってくれてるんだけど、おばあさまが反対してさ」
それはおばあさまの優しさだった。新婚夫婦の家に遠慮しているのだ。
おばあさまはシャーリーさんのことも、その父親のことも信頼している。
そしてお兄様は今も、お父様とお母様が騙された件や賊のことを調べ続けている。私には詳しく教えてくれないけれど、お兄様なりに戦っているのだと思う。
最近、我が家である発見があった。
私は“お嬢様”と呼ばれながらも普通の学校に通い、礼儀作法はおばあさまとメイド長から、貴族の関係性などは執事長から教わっている。
使用人は少ないから、掃除や庭仕事も手伝う。そんな生活が、私はわりと気に入っていた。
ある日、お茶を運んでいると段差に躓き、盛大にお茶をこぼしてしまった。
「きゃあ、大変! 雑巾、雑巾!」
「ブランシュは相変わらずそそっかしいね」
おばあさまも慣れたものだ。そもそもお嬢様はお茶を運ばないのだろうけれど、人手が足りないのだから仕方ない。
床を拭いていると、ふと違和感に気づいた。
「あれ? ここ、なにかある」
床板の継ぎ目に、不自然な隙間がある。尖ったものでこじ開けると、パキッと乾いた音がした。
「ブランシュ! 壊したらどうするんだい」
おばあさまが止めたけれど、なぜか私は手を止められなかった。
そして現れたのは、小さな空間。
「な、なにこれ……」
中には、古びた宝飾品がぎっしり詰まっていた。
机の上に並べてみると、明らかにただの装身具ではない。
「このデザイン……かなり昔のものもあるね」
指輪を一つ手に取って磨いてみる。
「……これ、本物だよね」
おばあさまに渡すと、じっと目を細めた。
「彫金にエメラルド……間違いなく高価な品だね。前の持ち主か、そのさらに前か。すごいコレクションだ」
「これって、返さなくていいの?」
「家ごと買っているんだ。うちのものだよ」
おばあさまは笑った。
「屋敷の造りが気に入って買ったと聞いていたけど……まさかこんなお宝付きとはね。あの人も知らなかったのかねえ」
本当に仲が良かったおじいさまのことを、おばあさまは楽しそうに話す。
「あっちの世界で会ったら土産話ができるね」
「やだよ! おばあさまもいなくなるなんて!」
思わず抱きつくと、おばあさまは私の背をぽんぽん叩いた。
「まだ死なないよ。やることがあるからね。ブランシュを立派に嫁に出すまでは死にきれない。この宝飾はありがたく使わせてもらおう」
その夜、お兄様が帰ってきてから執事とメイド長を交えて会議になった。
「ブランシュ、すごいな!」
「偶然だよ! お茶こぼしたから見つかったんだもん。もう怒らないでね?」
「それとこれとは話が別だ」
お兄様はきっぱり言った。
宝飾品は磨いて価値を調べることになった。ただし極秘で。外へ持ち出せば盗まれるかもしれないし、騙される可能性もある。
そして──三年が過ぎた。
128
あなたにおすすめの小説
出て行けと言ったものの、本当に出て行かれるとは思っていなかった旦那様
睡蓮
恋愛
ジーク伯爵は、溺愛する自身の妹レイアと共謀する形で、婚約者であるユフィーナの事を追放することを決めた。ただその理由は、ユフィーナが婚約破棄を素直に受け入れることはないであろうと油断していたためだった。しかしユフィーナは二人の予想を裏切り、婚約破棄を受け入れるそぶりを見せる。予想外の行動をとられたことで焦りの色を隠せない二人は、ユフィーナを呼び戻すべく様々な手段を講じるのであったが…。
【完結】仕事のための結婚だと聞きましたが?~貧乏令嬢は次期宰相候補に求められる
仙冬可律
恋愛
「もったいないわね……」それがフローラ・ホトレイク伯爵令嬢の口癖だった。社交界では皆が華やかさを競うなかで、彼女の考え方は異端だった。嘲笑されることも多い。
清貧、質素、堅実なんていうのはまだ良いほうで、陰では貧乏くさい、地味だと言われていることもある。
でも、違う見方をすれば合理的で革新的。
彼女の経済観念に興味を示したのは次期宰相候補として名高いラルフ・バリーヤ侯爵令息。王太子の側近でもある。
「まるで雷に打たれたような」と彼は後に語る。
「フローラ嬢と話すとグラッ(価値観)ときてビーン!ときて(閃き)ゾクゾク湧くんです(政策が)」
「当代随一の頭脳を誇るラルフ様、どうなさったのですか(語彙力どうされたのかしら)もったいない……」
仕事のことしか頭にない冷徹眼鏡と無駄使いをすると体調が悪くなる病気(メイド談)にかかった令嬢の話。
白い結婚なので無効にします。持参金は全額回収いたします
鷹 綾
恋愛
「白い結婚」であることを理由に、夫から離縁を突きつけられた公爵夫人エリシア。
だが彼女は泣かなかった。
なぜなら――その結婚は、最初から“成立していなかった”から。
教会法に基づき婚姻無効を申請。持参金を全額回収し、彼女が選んだ新たな居場所は修道院だった。
それは逃避ではない。
男の支配から離れ、国家の外側に立つという戦略的選択。
やがて彼女は修道院長として、教育制度の整備、女性領主の育成、商業と医療の再編に関わり、王と王妃を外から支える存在となる。
王冠を欲さず、しかし王冠に影響を与える――白の領域。
一方、かつての夫は地位を失い、制度の中で静かに贖罪の道を歩む。
これは、愛を巡る物語ではない。
「選ばなかった未来」を守り続けた一人の女性の物語。
白は弱さではない。
白は、均衡を保つ力。
白い結婚から始まる、静かなリーガル・リベンジと国家再編の物語。
【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた
22時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。
『悪役令嬢』は始めません!
月親
恋愛
侯爵令嬢アデリシアは、日本から異世界転生を果たして十八年目になる。そんな折、ここ数年ほど抱いてきた自身への『悪役令嬢疑惑』が遂に確信に変わる出来事と遭遇した。
突き付けられた婚約破棄、別の女性と愛を語る元婚約者……前世で見かけたベタ過ぎる展開。それを前にアデリシアは、「これは悪役令嬢な自分が逆ざまぁする方の物語では」と判断。
と、そこでアデリシアはハッとする。今なら自分はフリー。よって、今まで想いを秘めてきた片想いの相手に告白できると。
アデリシアが想いを寄せているレンは平民だった。それも二十も年上で子持ちの元既婚者という、これから始まると思われる『悪役令嬢物語』の男主人公にはおよそ当て嵌まらないだろう人。だからレンに告白したアデリシアに在ったのは、ただ彼に気持ちを伝えたいという思いだけだった。
ところがレンから来た返事は、「今日から一ヶ月、僕と秘密の恋人になろう」というものだった。
そこでアデリシアは何故『一ヶ月』なのかに思い至る。アデリシアが暮らすローク王国は、婚約破棄をした者は一ヶ月、新たな婚約を結べない。それを逆手に取れば、確かにその間だけであるならレンと恋人になることが可能だと。
アデリシアはレンの提案に飛び付いた。
そして、こうなってしまったからには悪役令嬢の物語は始めないようにすると誓った。だってレンは男主人公ではないのだから。
そんなわけで、自分一人で立派にざまぁしてみせると決意したアデリシアだったのだが――
※この作品は、『小説家になろう』様でも公開しています。
将来の嫁ぎ先は確保済みです……が?!
翠月 瑠々奈
恋愛
ある日階段から落ちて、とある物語を思い出した。
侯爵令息と男爵令嬢の秘密の恋…みたいな。
そしてここが、その話を基にした世界に酷似していることに気づく。
私は主人公の婚約者。話の流れからすれば破棄されることになる。
この歳で婚約破棄なんてされたら、名に傷が付く。
それでは次の結婚は望めない。
その前に、同じ前世の記憶がある男性との婚姻話を水面下で進めましょうか。
【完結】婚約破棄はいいのですが、平凡(?)な私を巻き込まないでください!
白キツネ
恋愛
実力主義であるクリスティア王国で、学園の卒業パーティーに中、突然第一王子である、アレン・クリスティアから婚約破棄を言い渡される。
婚約者ではないのに、です。
それに、いじめた記憶も一切ありません。
私にはちゃんと婚約者がいるんです。巻き込まないでください。
第一王子に何故か振られた女が、本来の婚約者と幸せになるお話。
カクヨムにも掲載しております。
社畜の私は異世界でも社畜精神が残ったままだった
木嶋うめ香
恋愛
貴族学園の小さな部屋で、私は一人書類仕事に追われていた。
今日も寮には帰れそうにない、机の上には大量の未処理の書類。
せめて空腹を紛らわそうと、ビスケットを鞄から取り出し水を汲んでこようとして立ち上がった途端、視界が暗くなり倒れた。
床に倒れた反動で、頭を床にぶつける。
その衝撃で思い出した、私は前世ブラック企業に勤めていた社畜で、二十三連勤サービス残業付きの末、体調を崩し亡くなったアラサー営業職だった。
他サイトでもアップしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる