4 / 18
16歳になった
しおりを挟む
私は成人と同時に、子爵位を継ぐことになった。
あと一年で学校を卒業する。卒業後、お兄様は婚約者のシャーリーさんと結婚する予定!
三年前に見つかった宝飾品の中に、ひとつのカメオがあった。これがとんでもない代物で、美術館に展示されていてもおかしくない歴史的価値を持つ品だと判明したのだ。
「これ、どうやって売るの? 会長さんにお願いする?」
「平民が持ち込むと安く買い叩かれるらしい。親父さんは商人だけど、さすがにこういう品は専門外だな。価値を理解できる相手に頼むのが一番なんだけど……伝手がない」
お兄様は腕を組んで唸った。
「このカメオは、ただ売るだけの物じゃないね。国にとっても残すべき品だよ」
おばあさまが静かに言った。
ここで売るのは絶対にだめだ。警備もろくにない我が家では、盗まれるか、命を狙われる可能性すらある。
話し合いの末、結論が出た。
ここから三日ほどかかる、クレメント伯爵領で年に二回開かれるアンティーク市へ行き、一部の宝飾品を売る。そして旅費を作り、王都へ向かう。そこで、このカメオを大切に扱ってくれる人物を探そう――と。
「それなら、私が行く!」
「「だめだ」」
お兄様とおばあさまの声がきれいに重なった。
「なんでよ!」
「危ないに決まってるだろう」
「でも、お兄様は貴族じゃないし、シャーリーさんも忙しいでしょう? おばあさまに長旅はさせられない。だったら私が行くのが一番いいよ。三年間、宝石の勉強もしてきたんだよ? 学校も長期休暇に入るし、何より私が見つけたんだもん。責任がある!」
それに、成人して当主でもある。ここは引けない。
二人はしばらく黙り込んだ。
「……危なくなったら宝飾は諦めて逃げること。無理して高く売らないこと。必ず連絡を入れること。本当は行かせたくないが……守れるか?」
「うん。約束する」
おばあさまもため息をつきながら頷いた。
「クレメントには、あの人の知り合いがいたはずだ。紹介状を書く。その人を頼りなさい。着いたら必ず連絡するんだよ」
「はい。約束します!」
こうして、私は許可をもらった。
シャーリーさんの父、通称“会長さん”の部下で、かつて王都の宝飾店で働いていたロンさんが、宝石について色々教えてくれた。本物を見ることが何よりの勉強になるらしい。
王都へ行く際は、ロンさんの旧知の人物も紹介してくれるという。いざというとき頼れる人がいると分かれば、お兄様もおばあさまも安心するだろう。
売りに出すのは、ピンブローチとブローチ。持ち運びやすく、コレクター人気も高い品だ。
そして、出発は明後日。
会長さんの部下がクレメントの先の街へ商品を納品に行くらしく、そこまで乗せてもらえることになった。
出発当日。心配性のお兄様とおばあさまに見送られ、ようやく馬車に乗り込む。
「お世話になります。私はブランシュ・ベルトランです」
「こちらこそ。僕はロジェ・カントナ。アスラン様の妹君なんだよね?」
気さくな青年だった。私より三歳上で、お兄様と同い年らしい。
「カントナ様は男爵家の方とお聞きしました」
「三男だから、ただの男爵家の者さ。気軽にロジェって呼んで」
「それなら、ロジェさんと。私のこともブランシュと呼んでください」
「でも、ブランシュ様は子爵様だから」
「様はいりません。学生ですし、子爵といっても名ばかりですから」
そうして、私は“ブランシュちゃん”と呼ばれることになった。
話し相手がいる旅は、驚くほど快適だった。三日間の道のりも苦にならない。
クレメント領で馬車を降り、ロジェさんに礼を言って別れた。
ここから王都まではさらに三日。馬車を乗り継ぎ、宿を取りながら進むように言われた。
王都へ向かう者は、良い品を持っていると見なされ、賊に狙われやすいらしい。商人のキャラバンは特に危険だという。
──両親のことが頭をよぎり、私は小さく身をすくめた。
あと一年で学校を卒業する。卒業後、お兄様は婚約者のシャーリーさんと結婚する予定!
三年前に見つかった宝飾品の中に、ひとつのカメオがあった。これがとんでもない代物で、美術館に展示されていてもおかしくない歴史的価値を持つ品だと判明したのだ。
「これ、どうやって売るの? 会長さんにお願いする?」
「平民が持ち込むと安く買い叩かれるらしい。親父さんは商人だけど、さすがにこういう品は専門外だな。価値を理解できる相手に頼むのが一番なんだけど……伝手がない」
お兄様は腕を組んで唸った。
「このカメオは、ただ売るだけの物じゃないね。国にとっても残すべき品だよ」
おばあさまが静かに言った。
ここで売るのは絶対にだめだ。警備もろくにない我が家では、盗まれるか、命を狙われる可能性すらある。
話し合いの末、結論が出た。
ここから三日ほどかかる、クレメント伯爵領で年に二回開かれるアンティーク市へ行き、一部の宝飾品を売る。そして旅費を作り、王都へ向かう。そこで、このカメオを大切に扱ってくれる人物を探そう――と。
「それなら、私が行く!」
「「だめだ」」
お兄様とおばあさまの声がきれいに重なった。
「なんでよ!」
「危ないに決まってるだろう」
「でも、お兄様は貴族じゃないし、シャーリーさんも忙しいでしょう? おばあさまに長旅はさせられない。だったら私が行くのが一番いいよ。三年間、宝石の勉強もしてきたんだよ? 学校も長期休暇に入るし、何より私が見つけたんだもん。責任がある!」
それに、成人して当主でもある。ここは引けない。
二人はしばらく黙り込んだ。
「……危なくなったら宝飾は諦めて逃げること。無理して高く売らないこと。必ず連絡を入れること。本当は行かせたくないが……守れるか?」
「うん。約束する」
おばあさまもため息をつきながら頷いた。
「クレメントには、あの人の知り合いがいたはずだ。紹介状を書く。その人を頼りなさい。着いたら必ず連絡するんだよ」
「はい。約束します!」
こうして、私は許可をもらった。
シャーリーさんの父、通称“会長さん”の部下で、かつて王都の宝飾店で働いていたロンさんが、宝石について色々教えてくれた。本物を見ることが何よりの勉強になるらしい。
王都へ行く際は、ロンさんの旧知の人物も紹介してくれるという。いざというとき頼れる人がいると分かれば、お兄様もおばあさまも安心するだろう。
売りに出すのは、ピンブローチとブローチ。持ち運びやすく、コレクター人気も高い品だ。
そして、出発は明後日。
会長さんの部下がクレメントの先の街へ商品を納品に行くらしく、そこまで乗せてもらえることになった。
出発当日。心配性のお兄様とおばあさまに見送られ、ようやく馬車に乗り込む。
「お世話になります。私はブランシュ・ベルトランです」
「こちらこそ。僕はロジェ・カントナ。アスラン様の妹君なんだよね?」
気さくな青年だった。私より三歳上で、お兄様と同い年らしい。
「カントナ様は男爵家の方とお聞きしました」
「三男だから、ただの男爵家の者さ。気軽にロジェって呼んで」
「それなら、ロジェさんと。私のこともブランシュと呼んでください」
「でも、ブランシュ様は子爵様だから」
「様はいりません。学生ですし、子爵といっても名ばかりですから」
そうして、私は“ブランシュちゃん”と呼ばれることになった。
話し相手がいる旅は、驚くほど快適だった。三日間の道のりも苦にならない。
クレメント領で馬車を降り、ロジェさんに礼を言って別れた。
ここから王都まではさらに三日。馬車を乗り継ぎ、宿を取りながら進むように言われた。
王都へ向かう者は、良い品を持っていると見なされ、賊に狙われやすいらしい。商人のキャラバンは特に危険だという。
──両親のことが頭をよぎり、私は小さく身をすくめた。
130
あなたにおすすめの小説
出て行けと言ったものの、本当に出て行かれるとは思っていなかった旦那様
睡蓮
恋愛
ジーク伯爵は、溺愛する自身の妹レイアと共謀する形で、婚約者であるユフィーナの事を追放することを決めた。ただその理由は、ユフィーナが婚約破棄を素直に受け入れることはないであろうと油断していたためだった。しかしユフィーナは二人の予想を裏切り、婚約破棄を受け入れるそぶりを見せる。予想外の行動をとられたことで焦りの色を隠せない二人は、ユフィーナを呼び戻すべく様々な手段を講じるのであったが…。
【完結】仕事のための結婚だと聞きましたが?~貧乏令嬢は次期宰相候補に求められる
仙冬可律
恋愛
「もったいないわね……」それがフローラ・ホトレイク伯爵令嬢の口癖だった。社交界では皆が華やかさを競うなかで、彼女の考え方は異端だった。嘲笑されることも多い。
清貧、質素、堅実なんていうのはまだ良いほうで、陰では貧乏くさい、地味だと言われていることもある。
でも、違う見方をすれば合理的で革新的。
彼女の経済観念に興味を示したのは次期宰相候補として名高いラルフ・バリーヤ侯爵令息。王太子の側近でもある。
「まるで雷に打たれたような」と彼は後に語る。
「フローラ嬢と話すとグラッ(価値観)ときてビーン!ときて(閃き)ゾクゾク湧くんです(政策が)」
「当代随一の頭脳を誇るラルフ様、どうなさったのですか(語彙力どうされたのかしら)もったいない……」
仕事のことしか頭にない冷徹眼鏡と無駄使いをすると体調が悪くなる病気(メイド談)にかかった令嬢の話。
白い結婚なので無効にします。持参金は全額回収いたします
鷹 綾
恋愛
「白い結婚」であることを理由に、夫から離縁を突きつけられた公爵夫人エリシア。
だが彼女は泣かなかった。
なぜなら――その結婚は、最初から“成立していなかった”から。
教会法に基づき婚姻無効を申請。持参金を全額回収し、彼女が選んだ新たな居場所は修道院だった。
それは逃避ではない。
男の支配から離れ、国家の外側に立つという戦略的選択。
やがて彼女は修道院長として、教育制度の整備、女性領主の育成、商業と医療の再編に関わり、王と王妃を外から支える存在となる。
王冠を欲さず、しかし王冠に影響を与える――白の領域。
一方、かつての夫は地位を失い、制度の中で静かに贖罪の道を歩む。
これは、愛を巡る物語ではない。
「選ばなかった未来」を守り続けた一人の女性の物語。
白は弱さではない。
白は、均衡を保つ力。
白い結婚から始まる、静かなリーガル・リベンジと国家再編の物語。
【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた
22時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。
『悪役令嬢』は始めません!
月親
恋愛
侯爵令嬢アデリシアは、日本から異世界転生を果たして十八年目になる。そんな折、ここ数年ほど抱いてきた自身への『悪役令嬢疑惑』が遂に確信に変わる出来事と遭遇した。
突き付けられた婚約破棄、別の女性と愛を語る元婚約者……前世で見かけたベタ過ぎる展開。それを前にアデリシアは、「これは悪役令嬢な自分が逆ざまぁする方の物語では」と判断。
と、そこでアデリシアはハッとする。今なら自分はフリー。よって、今まで想いを秘めてきた片想いの相手に告白できると。
アデリシアが想いを寄せているレンは平民だった。それも二十も年上で子持ちの元既婚者という、これから始まると思われる『悪役令嬢物語』の男主人公にはおよそ当て嵌まらないだろう人。だからレンに告白したアデリシアに在ったのは、ただ彼に気持ちを伝えたいという思いだけだった。
ところがレンから来た返事は、「今日から一ヶ月、僕と秘密の恋人になろう」というものだった。
そこでアデリシアは何故『一ヶ月』なのかに思い至る。アデリシアが暮らすローク王国は、婚約破棄をした者は一ヶ月、新たな婚約を結べない。それを逆手に取れば、確かにその間だけであるならレンと恋人になることが可能だと。
アデリシアはレンの提案に飛び付いた。
そして、こうなってしまったからには悪役令嬢の物語は始めないようにすると誓った。だってレンは男主人公ではないのだから。
そんなわけで、自分一人で立派にざまぁしてみせると決意したアデリシアだったのだが――
※この作品は、『小説家になろう』様でも公開しています。
将来の嫁ぎ先は確保済みです……が?!
翠月 瑠々奈
恋愛
ある日階段から落ちて、とある物語を思い出した。
侯爵令息と男爵令嬢の秘密の恋…みたいな。
そしてここが、その話を基にした世界に酷似していることに気づく。
私は主人公の婚約者。話の流れからすれば破棄されることになる。
この歳で婚約破棄なんてされたら、名に傷が付く。
それでは次の結婚は望めない。
その前に、同じ前世の記憶がある男性との婚姻話を水面下で進めましょうか。
【完結】婚約破棄はいいのですが、平凡(?)な私を巻き込まないでください!
白キツネ
恋愛
実力主義であるクリスティア王国で、学園の卒業パーティーに中、突然第一王子である、アレン・クリスティアから婚約破棄を言い渡される。
婚約者ではないのに、です。
それに、いじめた記憶も一切ありません。
私にはちゃんと婚約者がいるんです。巻き込まないでください。
第一王子に何故か振られた女が、本来の婚約者と幸せになるお話。
カクヨムにも掲載しております。
社畜の私は異世界でも社畜精神が残ったままだった
木嶋うめ香
恋愛
貴族学園の小さな部屋で、私は一人書類仕事に追われていた。
今日も寮には帰れそうにない、机の上には大量の未処理の書類。
せめて空腹を紛らわそうと、ビスケットを鞄から取り出し水を汲んでこようとして立ち上がった途端、視界が暗くなり倒れた。
床に倒れた反動で、頭を床にぶつける。
その衝撃で思い出した、私は前世ブラック企業に勤めていた社畜で、二十三連勤サービス残業付きの末、体調を崩し亡くなったアラサー営業職だった。
他サイトでもアップしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる