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ユーゴさまの顔
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「ユーゴ様のお顔、初めてちゃんと見ましたけど……お若いんですね」
「失礼なやつだな。二十五だと言ったろう」
「でも、あの髪と髭で怪しさ満載でしたから」
「王都であの姿は不審者だ。身なりにも気をつけなくてはならないから面倒だ」
はぁっ。とため息を吐き、肩を落とすユーゴ様。本当に面倒なんだ……でも今の清潔感あふれるユーゴ様なら、私をパートナーにしなくてもお相手を募ればすぐに見つかりそうだ。
「王都って大変なんですね」
「魔物が巣食う場所だからな。お前も気をつけろ」
お前も、身なりも。その言い方、ちょっと引っかかる。
⸻
王都に着いたのは昼過ぎだった。
「先に食事にするか? 荷物を置くか?」
荷物を置くにしても宿を決めなくてはいけない。二週間ほど滞在するだろうし、長くても20日が限度かな。ホテル代は100万リーズが限界だから、1日4万リーズとして……王都って物価が高いっていうし……もう少しランクを下げてもいいかな。王都は買取が高いって聞くから残しておいた指輪やブローチを売ってみようかな。などと考える。
「食事にしたいです。喉が渇きました」
レストランでは、馬車を降りるときも当たり前のように手を差し出される。名前を告げると、すぐに席へ通された。
魚料理を選ぶと、あまりの美味しさに夢中になる。
「お前さ、食事マナーや挨拶はしっかりしてるよな。誰に習ったんだ? 家庭教師?」
優雅に見えるようにお腹が減ってもガッつかない! これ大事。貴族は下品に食事をする相手とは二度と同じ席には着かないって言っていた。うちの食事は品数こそ少ないけれど一応貴族として、食器などはちゃんとしたものを使っている。フォークやナイフ、スプーンなどの銀製品は私も磨いている程だ。宝飾品を磨くスキルがあるのだからお手のもの。
「おばあさまとメイド長に習いました。食事の時間を楽しみたいので必死に覚えました。どこで役立つのかと思っていましたが、習っておいて良かったです。食事マナーで相手に不快にさせるわけにはいけませんから」
それ以上は語らない。
けれど、ユーゴはじっと私を見る。
「お前の話、ばあさんと兄だけだな。両親は?」
「亡くなりました」
短く答える。
「……すまない」
「気にしないでください。暗い話をするとせっかくの食事が台無しになりますよ。両親の事は残念で寂しいですけれど、その分おばあさまもお兄様も大事にしてくれました」
にこりと笑うと、ユーゴはそれ以上踏み込まなかった。
ユーゴ様は空気を読むのが上手いのかもしれない。口は悪いし態度も良くないけれど、嫌な事はしないし気遣いも出来たりする。実は優しい人なんじゃ? 王都まで連れてきてくれたし、ホテルやこのワンピースも……
⸻
「この後どうする」
「行きたいところがあるので、少し出かけます」
「知り合いがいるのか?」
「アンティーク市で知り合った方のお店です」
ユーゴの眉がわずかに動く。
「護衛をつける」
「不要です」
「外出禁止にするぞ」
すぐにサーラさんが護衛を呼んだ。
「マックス・シュルツと申します」
「ブランシュ・ベルトランと申します。どうぞブランシュと」
家名がある。貴族だ。
「ブランシュはそそっかしくて世間知らずだ。目を離すな」
「畏まりました」
ムッとする。
変わったのは見た目だけ。やっぱり口は悪い。私はテーブルに大金貨を一枚置いて立ち上がった。
後ろで、シュルツ卿が小さく吹き出す。
「足りますよ、ブランシュ様」
なによ。
ーーー
シュルツ卿に案内され、看板を見上げた。
「こちらのお店で間違いありません」
中を覗くと、マリオさんは接客中だった。
「後で来ましょう」
「他にご用件は?」
「アンティークの買取ができるお店をご存知ですか?」
シュルツ卿は少し考え、頷いた。そして移動する。
⸻
店に入ると、妙に愛想の良い店主が出迎えた。
「買取ですか?」
「ええ。このブローチを」
席に通され、お茶が出る。
店主は眼鏡をかけ、じっくりと眺めた。
「ほぉ……これは見事だ」
私は気をよくして微笑む。
「サファイアのカットが綺麗でしょう?」
店主は一瞬だけ視線を上げた。
「十万リーズでいかがです?」
「……十万?」
「最近サファイアは人気が落ちておりましてな。デザインも少々古い。若い方はご存知ないかもしれませんが」
なるほど……。そういうこと?
「そうなのですね。このハチドリのモチーフが気に入っていたのですが……価値はあまりないのですね」
「……十三万なら?」
「家族が気に入っていた品ですので、やはり手元に置いておきます」
「十五万?」
「結構ですわ」
「二十万! これが限界です」
静かに立ち上がった。
「ずいぶんお値段が変わるのですね。結構あがりましたのね……でも……」
迷うフリをして席を立つ。
「ここにいると判断が鈍りそうですわ。それでは失礼しますわ」
巾着に戻し、にこりと微笑む。
「お時間、ありがとうございました」
そして静かに店を出る。
⸻
「交渉決裂ですね」
「ええ。若いからと侮られたようです」
シュルツ卿は小さく笑った。
「お見事でした」
「え?」
「最初の金額で売る人も多い」
なぜ? と、首を傾げる。
⸻
シュルツ卿は王都で騎士をしていたこともあるそうで、迷わずにこられたのはシュルツ卿のおかげね。
そしてマリオさんの店に入ると、ベルの音に振り向いた彼が固まった。
「……もしかして。ブランシュちゃん?」
「はい。ご無沙汰しています」
「見違えたよ! どこかの令嬢かと思った!」
お茶と焼き菓子が出される。緊張がほぐれ、頬張った。
「王都で困ったことはないかい?」
「それがですね――」
シュルツは扉のそばで外を見た。
さきほどの店から、こちらを窺う影がひとつ。
つけられているな? 気づかれないよう、位置を変えた。
「失礼なやつだな。二十五だと言ったろう」
「でも、あの髪と髭で怪しさ満載でしたから」
「王都であの姿は不審者だ。身なりにも気をつけなくてはならないから面倒だ」
はぁっ。とため息を吐き、肩を落とすユーゴ様。本当に面倒なんだ……でも今の清潔感あふれるユーゴ様なら、私をパートナーにしなくてもお相手を募ればすぐに見つかりそうだ。
「王都って大変なんですね」
「魔物が巣食う場所だからな。お前も気をつけろ」
お前も、身なりも。その言い方、ちょっと引っかかる。
⸻
王都に着いたのは昼過ぎだった。
「先に食事にするか? 荷物を置くか?」
荷物を置くにしても宿を決めなくてはいけない。二週間ほど滞在するだろうし、長くても20日が限度かな。ホテル代は100万リーズが限界だから、1日4万リーズとして……王都って物価が高いっていうし……もう少しランクを下げてもいいかな。王都は買取が高いって聞くから残しておいた指輪やブローチを売ってみようかな。などと考える。
「食事にしたいです。喉が渇きました」
レストランでは、馬車を降りるときも当たり前のように手を差し出される。名前を告げると、すぐに席へ通された。
魚料理を選ぶと、あまりの美味しさに夢中になる。
「お前さ、食事マナーや挨拶はしっかりしてるよな。誰に習ったんだ? 家庭教師?」
優雅に見えるようにお腹が減ってもガッつかない! これ大事。貴族は下品に食事をする相手とは二度と同じ席には着かないって言っていた。うちの食事は品数こそ少ないけれど一応貴族として、食器などはちゃんとしたものを使っている。フォークやナイフ、スプーンなどの銀製品は私も磨いている程だ。宝飾品を磨くスキルがあるのだからお手のもの。
「おばあさまとメイド長に習いました。食事の時間を楽しみたいので必死に覚えました。どこで役立つのかと思っていましたが、習っておいて良かったです。食事マナーで相手に不快にさせるわけにはいけませんから」
それ以上は語らない。
けれど、ユーゴはじっと私を見る。
「お前の話、ばあさんと兄だけだな。両親は?」
「亡くなりました」
短く答える。
「……すまない」
「気にしないでください。暗い話をするとせっかくの食事が台無しになりますよ。両親の事は残念で寂しいですけれど、その分おばあさまもお兄様も大事にしてくれました」
にこりと笑うと、ユーゴはそれ以上踏み込まなかった。
ユーゴ様は空気を読むのが上手いのかもしれない。口は悪いし態度も良くないけれど、嫌な事はしないし気遣いも出来たりする。実は優しい人なんじゃ? 王都まで連れてきてくれたし、ホテルやこのワンピースも……
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「この後どうする」
「行きたいところがあるので、少し出かけます」
「知り合いがいるのか?」
「アンティーク市で知り合った方のお店です」
ユーゴの眉がわずかに動く。
「護衛をつける」
「不要です」
「外出禁止にするぞ」
すぐにサーラさんが護衛を呼んだ。
「マックス・シュルツと申します」
「ブランシュ・ベルトランと申します。どうぞブランシュと」
家名がある。貴族だ。
「ブランシュはそそっかしくて世間知らずだ。目を離すな」
「畏まりました」
ムッとする。
変わったのは見た目だけ。やっぱり口は悪い。私はテーブルに大金貨を一枚置いて立ち上がった。
後ろで、シュルツ卿が小さく吹き出す。
「足りますよ、ブランシュ様」
なによ。
ーーー
シュルツ卿に案内され、看板を見上げた。
「こちらのお店で間違いありません」
中を覗くと、マリオさんは接客中だった。
「後で来ましょう」
「他にご用件は?」
「アンティークの買取ができるお店をご存知ですか?」
シュルツ卿は少し考え、頷いた。そして移動する。
⸻
店に入ると、妙に愛想の良い店主が出迎えた。
「買取ですか?」
「ええ。このブローチを」
席に通され、お茶が出る。
店主は眼鏡をかけ、じっくりと眺めた。
「ほぉ……これは見事だ」
私は気をよくして微笑む。
「サファイアのカットが綺麗でしょう?」
店主は一瞬だけ視線を上げた。
「十万リーズでいかがです?」
「……十万?」
「最近サファイアは人気が落ちておりましてな。デザインも少々古い。若い方はご存知ないかもしれませんが」
なるほど……。そういうこと?
「そうなのですね。このハチドリのモチーフが気に入っていたのですが……価値はあまりないのですね」
「……十三万なら?」
「家族が気に入っていた品ですので、やはり手元に置いておきます」
「十五万?」
「結構ですわ」
「二十万! これが限界です」
静かに立ち上がった。
「ずいぶんお値段が変わるのですね。結構あがりましたのね……でも……」
迷うフリをして席を立つ。
「ここにいると判断が鈍りそうですわ。それでは失礼しますわ」
巾着に戻し、にこりと微笑む。
「お時間、ありがとうございました」
そして静かに店を出る。
⸻
「交渉決裂ですね」
「ええ。若いからと侮られたようです」
シュルツ卿は小さく笑った。
「お見事でした」
「え?」
「最初の金額で売る人も多い」
なぜ? と、首を傾げる。
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シュルツ卿は王都で騎士をしていたこともあるそうで、迷わずにこられたのはシュルツ卿のおかげね。
そしてマリオさんの店に入ると、ベルの音に振り向いた彼が固まった。
「……もしかして。ブランシュちゃん?」
「はい。ご無沙汰しています」
「見違えたよ! どこかの令嬢かと思った!」
お茶と焼き菓子が出される。緊張がほぐれ、頬張った。
「王都で困ったことはないかい?」
「それがですね――」
シュルツは扉のそばで外を見た。
さきほどの店から、こちらを窺う影がひとつ。
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