婚約を破棄され辺境に追いやられたけれど、思っていたより快適です!

さこの

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フランツの謹慎

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「殿下お食事をお持ちしました」

「置いといてくれ」

「……また残されているのですね」

 少し手をつけてそのままになっているトレー。

「部屋に篭りっぱなしで腹が減るわけないだろう……」


 はぁっ。とため息が聞こえる。仕方ないじゃないか! 兄に謹慎を言われた時は父上が帰ってくるまでと期間限定だった。しかし今回の謹慎はいつまでかわからない。

 後悔したり、腹が立ったりの繰り返しで頭の中がぐちゃぐちゃだ!



 私は結局レイラに騙されたのだろう。

 レイラは控えめな令嬢だと思っていたのに、なんだあの買い物は!

 レイラは努力家だと思っていたのに、勉強を疎かにしていたなんて!

 レイラは、レイラは、レイラは!!!

 イライラする。


 別の日。


 アリスに会った頃、アリスは可愛かった。お茶を飲む時にふーふーと冷まして飲んでいる頬がぷっくりしていて可愛かった。
 椅子に足が届かなくてぷらぷらとしている姿も可愛かった。
 庭を散策している時にリスを見かけて追いかけるる姿も可愛かった。
 家であった事を嬉しそうに話してくれる姿も可愛かった。

 あのままのアリスだったら良かったのに。アリスは変わった。地に足をつけて背筋はピシッとしていて、お茶を飲む姿に隙はなくなった。

 庭を散策をしていても、自分のことなど話さずに、仕事の話ばかり。

 それから一緒にいる時間は執務の時間だけになった。執務の合間の休憩時間にも側近や護衛達がいる。あいつらに嬉しそうにお茶を振る舞っていた。そんな姿を見てイライラする自分がいる。そして学園が終わると私がいなくてもすぐに王宮へ行き執務を片付ける。

 たまの休みの日には母や義姉達とのお茶会。友人達との茶会。

 アリスとプライベートで出かけた事などないし、少し喧嘩すると私と会おうともしない。結果私が悪者になり伯爵家に謝罪へ行かされる。その時にレイラに会った。アリスと違い肩の力が抜けるような気がした。一緒にいて楽だった。

 でも心の底ではアリスにもっと私を見て欲しいと思っていた。少しくらい嫉妬してくれればアリスのそういう顔が見たいと思った。

 アリスが王子妃として努力しているのは知っている。でもあの時の可愛いアリスがいなくなったのが寂しい。

 特に姉上達といる時のアリスは別人に思えた。アリスが一人大人になっていくようで私から離れていくようで怖かった。

 アリスの成長のスピードについていけなかった。

 将来はアリスと外交の仕事をする。結婚をする前にいろんな国を見て勉強をする予定だった。アリスは外国に行ける事を楽しみにしていて、言葉やマナーを覚え、外国の客人とも冗談を交えて会談する。

 私はそれを見て情けなくもなく誇らしくもある。

 おいて行かれてないよな? 

 私も出来ているよな? 

 たまにアリスといると息苦しくなる。


 ******

「アリスフィア様は本日お茶会が入ったので来られないとの事です」

 アリスがいないなら執務をサボろう。たまには街にでも行くか……

 護衛にダメだと言われたが無理やり突破した。渋々ついてくる護衛達。あー、息が詰まる。自由が欲しい。

 ぷらぷらとしていると店の前に飾ってあったリスがモチーフのハンカチに目が止まる。なんとなくアリスを思い出してつい買ってしまった。結局あのハンカチは渡せないまま執務室の引き出しに入れてある。

 母上から許可をもらった青色の生地を使ったドレス。アリスは喜んでくれると思っていたのにデザインが可愛すぎて着られないと言い手直しをすると言う。

 アリスはいつのまにか可愛い系のドレスは着なくなった。大きなリボンが似合うアリスはいないのに、それを望む私が居る。

 口答えするアリスや素っ気ないアリスに腹を立ちながらも、そのやりとりを楽しんでいる自分もいる。

 アリスに対して素直になれない。


 一方でレイラにはつい弱音を吐いてしまうこともあるし、レイラよりも優れている自分が上に立ったような気持ちもあったのかもしれない。初めは別にレイラでなくても良かったのだがアリスに近い人間の方がダメージが大きいのだろうと思った。

 レイラは可愛かったし、優しかったし、控えめで元孤児とはいえ、努力家だった。

 全部虚像だったけど……



 今頃アリスは何をしているのだろうか。
 
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