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辛い過去

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(エミリオ視点)


 ……そんな事があったなんて。

 現在私はベルモンド伯爵家へ招かれ応接室にいる。どう言う経緯でルーナと知り合っていたのかを聞かれた。年頃の娘が男と出会う、まして外国籍の私だ。家族が心配になるのも不思議ではない。

 ルーナが経営する店の客であった事、そしてたまたま貴族街のルーナの経営するカフェで会って話をした事を伝えた。すると納得したようであった。

 ルーナは可愛いし年頃の娘。男が近寄ることを危惧しているかもしれない。安心してもらえたようで良かった……と思ったら

「白い結婚……ですか? ルーナ嬢が?」

 一瞬思考が固まってしまった。



「えぇ、娘は一切悪くありません悪いのは私共です。白い結婚の後の離縁ですので結婚自体は無効になりましたし(無理矢理)期間も数ヶ月でして……しかし娘の事を面白おかしく言うものもいます。貴方様が娘と何かあるわけでもないでしょうが、会っていると噂されますと貴方様の経歴に傷が付きますし娘も噂が増えますと……」


 言いにくそうに伝えてくるがそう言う事か……。娘には近づくなと。それにしてもおかしなことを言ってくる。

 ルーナほど美しければ、結婚したのなら手を出したいと思うのが普通……だ。まさか同性愛者だったとか?


「すみません。踏み込んだ話になりますがなぜ、白い結婚を? 契約まで結ぶ必要があったのですか?」



「これは恥ずかしながら私たちが知るところではありませんでした。娘と結婚相手は歳の差がありまして相手はずっと娘の事を子供だと言いバカにしていたようで……その、愛人がいまして、結婚式の次の日に愛人が一緒に住むことになったそうです。その愛人を愛しているから娘を愛する事はない、愛を望むなと……一年して子供が出来なければ第二夫人を作れる制度がありますので、一年は白い結婚をしてその後は、第二夫人を迎えるか、離縁するから娘に委ねる。と言った契約があったようです。しかし娘が美しく成長した姿を見て態度が変わり、契約の見直しをしたいと娘に何度も迫っていたようです。それを知り早々に離縁をさせました。契約書があったのですぐでした」

 なるほど。惜しくなったのか……バカな男だ。


「……貴族間にはいろんな契約の元、結婚をしている家はたくさんありますが……それは不憫でならなりません。まだ若いのにそんなに辛い環境下にあったとは」

 あの笑顔の下にはこんな辛い事があったのか……その笑顔を見て可愛いと思った自分を恥じた。


「私たちが用意した持参金一億リルを一年の間に用意して私たちにそれを返し離縁する予定だったのだそうです。結婚前から離縁前提で計画をしていたと聞き、申し訳ない気持ちでした。ですから娘には今度こそ幸せになってほしい……バカな親はそんなことしか願えません」


 手をギュッと握り締めている様子を見ると本当に後悔しているのだろうと思った。

 夫人は耐えられなくなりハンカチで目元を押さえていた。アルベーヌ殿は何を考えているのかさっぱり分からないがそんな両親を見て、お客さまの前だよ。と夫人を宥めていた。

 ……胸が痛んだ。


******



「すまない。私が何か余計なことを言ったのだろうか!」

 すかさずハンカチを渡した。受け取ってくれ、ホッと胸を撫で下ろした。

 情けないがオロオロしてしまう。気の利いた事も言えないとは!


「いえ……嬉しくて。ごめんなさい。そんなことを面と向かって言われた事がなかったものですから……仕事をするに当たって私はまだまだ半人前です。それなのに嬉しい言葉をかけて頂いて本当に嬉しかったのです」


 悲しませたわけではなかった……女の子と言うものは分からない。嬉しくても涙が出るのか。そうか知らなかった。


「本当のことを言っただけです。それにルーナ嬢がお菓子の説明をする時は必ず良い顔をしている。その説明を聞くと食べなくては損するような気がしてならなくて。説明がちゃんと出来ると言う事は自信があるからなんだろうと私は思うんだ」

 鼻を啜る音が聞こえた……


「お茶を飲んだらどうかな? 少しは落ち着くと思う」


「はい……」


 お茶を口にしてしばらく無言のルーナ。落ち着くまで待とうと、少し外の様子を見せてもらった。伯爵家の庭は手入れがされていて明るいイメージだ。



「あ、あの……」

 ルーナが何かを言いたそうなので振り向くと顔を真っ赤にさせて

「すみませんでした……ご迷惑をおかけしてしまいました。ハンカチまでお借りしてしまって……洗って必ずお返しします」

 ……真っ赤に染まり困ったようなその表情は何とも言えず可愛くて、こちらが照れてしまいそうだ。


「いや、ハンカチは気にしないで下さい。それより落ち着いたのかな?」


「……はい。忘れてくださると嬉しいのですが」

 ルーナは忘れて欲しいと言ったがそのセリフは二回目か? 忘れる事は出来なさそうだ。


「いやぁ……無理ですね。ふふっ……いや笑ってごめん、君はすぐに忘れろと言うけれどせっかくの君との会話を忘れる事は出来ないよ。君といると飽きないね」

「笑うなんてひどいですよ! 迷惑ばかりお掛けしています」


「……それはないですよ。そうだ、今日の美味しいお菓子のお礼と君の経営学を聞かせてもらったお礼に、鉄道をご覧に入れようか? 気になっているんでしょう?」


「え、良いんですか? 見たいです」


「来週、時間を空けてもらおうかな?」


「はい。でも……両親に許可を得てからじゃないと」


「そこは私が説明しておくから安心して下さい」


 約束を取り付けることに成功した。ルーナのことを知りたいし、私のことも知って貰いたい。でも無理はしたくないしさせたくもない。


 ルーナの家族に説明するのは大変そうだ。ルーナに近づいてほしくはないだろうから。
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