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訪問

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 あれからあっという間に数日経った。


 両親は侯爵家に激しく抗議してくれたようで、前侯爵からお詫びの金品が相当届いた。あの侯爵家にはまともな跡取りがいないのかしら……? スケベの集まりじゃないの! っとお兄様の口の悪さが移っちゃったみたい……

 あのスケベは侯爵候補から外れたみたいで、前侯爵の弟は激怒! ボコボコに殴られたみたいで……(暴力は反対)男性版の修道院に入れられたみたい。あのスケベには良い薬だと思った。


 お父様とお母様はフォンターナ卿の事をご存知だったようで、そんな事があったのなら是非礼を! とすぐに連絡を取っていた。

 それからフォンターナ卿を我が家にお招きして、両親と兄が先に話をしていた。
 それからしばらくしてようやく私が呼ばれた。その間私はせっせとお菓子の準備をしていたからなんとか間に合った! と言う感じ。


「ルーナ、フォンターナ卿をちゃんともてなすように。私たちは一旦失礼するよ」

 美味しいお菓子を用意します。と言ったのでお茶会をすることになったのだ。


「フォンターナ卿、隣国の公爵家の方とは存じ上げなくて、」

「あぁ、やめてください。私はルーナ嬢と出会った時は見ず知らずの単なる甘いものが好きな男でしたからね」

 公爵家の人なのに寛大というか優しい方だ。

「ふふっ。そうでしたね。本日はこちらを用意しました。卵をたっぷり使ったプリンです。お召し上がりください」


 このプリンは卵にこだわった極みプリン。卵を産む鶏のエサにもこだわっているから、お菓子を作るにはうってつけ! しかも何回も何回も試作を重ねてようやく完成して王太子妃様にも紹介しようと思っていた、渾身のプリンなの!


「へぇ。美味しそうだね、それでは早速いただこうかな」

 フォンターナ卿がプリンを口にした。大きな男の人がプリンを食べる姿ってなんだか、微笑ましいわね。あっ。もう一口食べた。美味しそうに食べてくれると用意した甲斐があるわね。

「……そんなに見つめられたら食べにくいんだが」

「え、やだ。申し訳ありませんでした。つい癖で、美味しいのかどうなのかと気になってしまいました」

 だめね! 不躾に人をジロジロ見るなんて。

「とても美味しい。これは販売するの? 毎日でも食べたいくらいだよ」


 販売か……これは難しい問題だ。持ち帰る術がないもの。出すとしたら貴族街にあるカフェスペースかな。


「まだ未定です。販売するには容器や温度の問題が出てくるので、お出しするとしたらイートインスペースがある貴族街のカフェになると思います」


「そうか……決まったら教えてほしい。通うことになりそうだね」

 そんなに気に入ってくれたんだ! 嬉しいわね。あっ、大事なことを忘れるところだった……


「フォンターナ卿、先日は危ないところを助けていただきありがとうございました。お礼申し上げます」

 席を立ち頭を下げた。あの時助けに来てくれないと今頃どうなっていたか……前侯爵の弟の息子と? ヤダヤダ! 考えたくないよぉ。気持ち悪い。鳥肌が立ってきた。


「いや、当然のことをしたまでです。礼には及ばない。座ってください」

「はい」

「ルーナ嬢はもう、あの店で売り子としては働かないの? 先程伯爵から聞いたけれどあの店は君が経営しているんだろ?」

 あの店でフォンターナ卿と出会ったのよね。公爵家の方なのに庶民街のお店の方で。


「はい。あの時はオープンしたばかりで様子が知りたかったのと、もっと店が良くなるにはどうしたら良いかとスタッフから意見が聞きたかったのです。現場を見てみないと分かりませんもの」


 若い子達の意見は絶対参考になる。私は貴族だから、平民と生活は違う。だからこそ平民の間の流行りとかを取り入れて、受け入れてもらえる店にしたいと思った。

 安価なものと言ってもそれは貴族からしたら安価だけど、あの店は特別な日に食べてもらえるようなちょっと良いもの。と言う感じのお菓子でもある。


「経営者として素晴らしい考えだね。ルーナ嬢はしっかり意見を持っていて、周りの意見に耳を傾けられることが出来る。身分差を気にせずに意見を取り入れるその考えはルーナ嬢の強みになるよ」



 ちゃんと認められた気がした。私がやっていた事は間違ってなかったと思えて心が熱くなった。

 つぅーっと頬を伝う温かいものを感じた。


 悲しくて、辛くて、情けなくて、今まで経験してきたそれとは違う涙だった。


「え! ルーナ嬢?」


 ガタンと席を立つフォンターナ卿をみて思いっきり微笑んだ……

 

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