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孤児院の視察
しおりを挟む「汚いところだな……」
クラウディオが言ったが、ちゃんと掃除もされているし、ゴミひとつ落ちていないのに……汚いなんてことはない。
「まぁまぁ!! 王子殿下こんな汚いところにようこそいらっしゃいました」
私は頭を下げた。殿下を見るとむすっとしていたので、肘で横腹を小突いた。
くそっ。と呟きながら出迎えてくれた孤児院の院長先生にクラウディオは言葉をかけた。
「本日はこの孤児院の様子を見にきた。子供たちは国にとってかけがえのない存在だ。不自由なところはないだろうか?」
ほっと胸を撫で下ろした。もう少し柔らかい口調と顔で言ってくれれば尚良しだけど、クラウディオにはこれが限界だろう。
「先日殿下の婚約先であるロレンツィ伯爵家から寄付をいただいて、子供たちの毛布を新たに購入いたしました。とても喜んでいましたわ」
伯爵家は慈善事業の一環で毎年恵まれない人や場所に寄付をしている。冷え込む時期に入る前に毛布を購入したという話を聞いてほっとした。少しは役に立てたようで嬉しい。
「そうか。それは良かった」
そういうと殿下に一瞬睨まれた。殿下が誉められたわけではないものね……
「院長先生。これ良かったら本日のおやつにみなさんで召し上がってくださいな」
侍女に目を配るとバスケットを渡してきた。
「クッキーですのよ」
手ぶらで来るわけにはいけませんものね。このお子ちゃまが何かを用意するわけないのだから、私が用意するしかない。
「まぁ! 子供たちが喜びますわ。いつもありがとうございます」
挨拶が無事に終わり孤児院の中へと通された。掃除は行き渡っている。ここで生活している子供たちが自ら掃除するのだという。大きくなったらこの孤児院から出て独り立ちをするのだから覚えておく必要のあることは今のうちにさせておくのだ。と院長先生が言った。
「ここを出てどういった生活を?」
クラウディオの質問に院長先生は
「働きに出ます。求人を見て応募するのですよ」
「そうか、大変なんだな」
会話が成り立っている! 凄いわ。クラウディオの成長を感じるわ。
「孤児院出身者の中には貴族のお屋敷に勤めている子もいます」
衣食住が整っている貴族の屋敷への奉公は人気だ。うちの鉱山の発掘現場にもここの孤児院出身者が何人もいる。うちは、働いた日数分きちんと給金を支払い、価値のあるダイヤモンドを見つけた者には褒賞を与えられる! 一攫千金も夢ではないのだ。
たまにダイヤモンドをくすねて町で換金しようとしたりする者がいるけれど、それはすぐにバレて罪へと問われる。ダイヤモンドの所有権はあくまでもロレンツィ伯爵家のものだからだ。
孤児院出身の子で、貴重な原石を掘り起こしたラッキーボーイがいた。その子は今ロレンツィ伯爵家で真面目に働いている。この孤児院にも寄付をしているのだとか。
「そうなのか? 孤児院から貴族の屋敷で……」
クラウディオは知らなかったと言わんばかりの驚き顔を披露した。それに逆に驚かされたわ!
食堂に案内されると大きくて立派なテーブルが食堂のセンターに鎮座していた。
「あら、素敵ですわね。先日きた時はありませんでしたわよね?」
「えぇ。このテーブルのおかげでみんな揃ってご飯を取る事ができるようになりました。孤児院出身の子が寄付してくれました」
孤児院出身の子は優しい子が多いのだが、世間からの目は厳しい。だから時たまそう言った目で見られて悪い道へ走る子もいるのも事実だった。その事を目の当たりにした時は差別がなくなればいいのに。と心から思った。
それから子供たちの生活風景を見て帰ることとなった。
この孤児院の慰問に関して次のお茶会での会話につながると良いなぁ。
******
「おい、早く帰るぞ」
と私にしか聞こえない小さな声で言ってとっとと馬車に乗り込むクラウディオ。もう一度、院長先生に頭を下げて馬車に乗り込む。
院長先生に聞こえてなかったわね。自身の評判に関わることだと言うのにこの男は全く!
無言で馬車に乗り込んだ。迎えにきたのは殿下の側近を務めるレナートだった。毎日大変だと思い、声をかけた。
「レナート様、お休みのところお迎えありがとうございます」
「いえ、仕事ですからね。フランチェスカ様こそお疲れ様でした」
「疲れている私には一言もないんだな」
不機嫌そうにクラウディオが言った。
「殿下もお疲れ様でした。孤児院はどうでしたか?」
殿下の側近というのは大変だ。としみじみ思った。お気持ちお察しいたしますよ。レナート様。
「民の暮らしというのは大変なんだな、レナートお前の家もどこかに寄付しているのか? 他の貴族たちは?」
「えぇ。父や母が慈善活動の一環として寄付をしています。貴族の家は大体やっていますね。パフォーマンスの一環としてやっている家も、中にはありますがそれでもしないよりはいいと思いますよ」
「そういう物なんだな」
そう言って黙り込むクラウディオ。何か今後につながる思いでもあったのだろうか。それなら今日の孤児院への訪問しては成功したと思った。
「他の貴族がしているならいっか」
ボソッと窓を見ながら呟いた。
……人がやっているから自分はいいという事? でもこう言ったことは自分で気が付かなきゃいけない事。心を鬼にして黙っていた。レナートからはため息が漏れていた。
私はこのお子ちゃま王子の心の成長が早く見たいと思った。
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