拝啓、元婚約者様。婚約破棄をしてくれてありがとうございました。

さこの

文字の大きさ
46 / 100

夜会があります2

しおりを挟む

「モルヴァン嬢はダンスが上手だな」

 身長の高い閣下とダンスをするのは緊張しましたが閣下のリードが上手で粗相する事はありませんでした。

「閣下のリードが良かったのですわ」

 足を踏まなくて良かったですわ。ダンスを終えて閣下とお話をさせてもらいました。


「……しまった。せっかく会えたのにハンカチを持ってくれば良かったな」

 ……すっかり忘れていましたわ。

「ふふっ。毎日持ち歩いていては困りますわよね。本当に返却は不要ですので、捨ててください」

「いや。そういうわけにはいかない。君はきちんと傘を返しに来てくれた」

 ……傘とハンカチじゃ釣り合いが取れませんわよね。それでも閣下は納得なさらなそうですし。



「私は学園が休みの週末になると王立図書館に行くことが多いですし、宜しければ騎士団の練習を観に行ってもよろしいですか? その時にでも……」

「騎士団の練習なんて見ても楽しくないだろう? それなら時間を指定してくれれば図書館に行く」


「いつ行けるか分かりませんもの。ですからわたくしが行きますわ。それに練習は迫力があって楽しかったですわよ」

「そうか……それなら待っているよ。モルヴァン嬢が見学に来てくれるというなら無様な姿を見せるわけにはいかないな」

「ふふっ。閣下の勇姿を見る日を楽しみにしていますわ」

 そうだわ!

「本日の閣下の装いは素敵ですね。いつもは凛々しいお姿ですが正装もびしっとしていてお似合いですね」

 ……正装姿もばっちり決まっていますし、雰囲気が変わって見えますもの。前髪が上がっているのでお顔がよく見えますわ。

「……モルヴァン嬢の装いも、その、華やかでグリーンが良く似合う……とても可愛い」

「か、可愛いですか?」

 ……可愛いなんて! 可愛いってパティのようにピンクのドレスが似合う子に使う言葉ですわよね。私が可愛いだなんて……


「……すまない。失言だったか? 悪気は全くないんだ……素直に可愛いと思ったんだが……もしかしてレディに可愛いは禁句なのか?」

 オロオロする閣下。いいえ……違いますよ。

「……ふふっ。久しぶりに可愛いだなんて言われて、嬉しいですわ。可愛いという褒め言葉は妹に取られてしまっていましたし、私も妹に可愛いとよく褒めますの」

 お姉さんになってからは可愛いというよりキレイと言われることが増えましたもの。ホッとする閣下の姿を見て申し訳なくなりました。

「良かった。可愛いという褒め言葉はダメなのかと思った……モルヴァン嬢はいつも可愛いが今日は特に磨きがかかってとても可愛い……」

「なっ、」

 ……なんていうことでしょう! 閣下は、閣下は天然の人たらしですわ!! 顔がみるみる赤くなって閣下から顔を背けました。


「どうした? 体調でも悪いのか」

「……いいえ。少し暑くなって、」

「夜風に当たるか?」

「その方がいいようですわ」

 すると手を差し出され躊躇しながらも手を取りました。今日はいつもと違って夜会ですから令嬢扱いしてくださるのですね。なんだか新鮮で嬉しいですわ。大きな手に支えられながら歩きました。


 テラスに出て少し落ち着いたと思いましたら、閣下と二人きりになってしまいました。緊張してしまいますわ。テラスと言ってもオープンですし仕切りがあるわけでもありませんし閣下が無体な真似をするわけもありませんものね。外の空気に触れると顔の熱もようやく治まりました。



「その、君は私が怖くないのか? 普通は怖がって近寄らないものなんだが……」

「もしかして閣下は、犯罪者とか詐欺師かそれとも……もっと悪い方なのですか?」



「は?」



「え? 違いますの……? それでは怖いというのはどういった意味なのでしょうか?」

 ……また変なことを言ってしまったようです。閣下には呆れられてばかりですわね。

「……はははっ。やはりモルヴァン嬢は変わった令嬢だ。そのままの意味だ、私は自分でいうのもなんだが威圧感もあり強面で図体もデカい。だから令嬢からは恐れられているんだが、君は違うのか?」

 ……閣下が恐れられているなんてそれは、

「見る目がない令嬢達ですわね! 閣下は優しい方ですわ。見知らぬわたくしに傘を貸してくださって、無視しても良いのにお話をしてくださったり、何よりも閣下の瞳はとても綺麗で恐ろしいなんて事はありませんもの」

 ……閣下はそんなに令嬢と知り合う機会がありましたのね。でも見る目のない令嬢ばかりですわね!

「……やはり君は変わっているね」

「ふふっ。変わっているから婚約破棄されたのかもしれませんわ」

「……見る目のない男だったんだよ。君はとても可愛い」

 婚約破棄をされたことを知っていらしたのね……


「……あ、ありがとうございます」

「礼を言うのは私の方だ」



 それからしばらく無言でしたけれど、閣下と過ごす空気感? は嫌じゃありませんでしたの。それからブリュノ兄様に声をかけられてホッとしましたけれど、閣下には“また”と挨拶をしてお別れしました。次の約束があるって、なんだか……


 
しおりを挟む
感想 197

あなたにおすすめの小説

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに

おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」 結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。 「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」 「え?」 驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。 ◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話 ◇元サヤではありません ◇全56話完結予定

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

婚約破棄に、承知いたしました。と返したら爆笑されました。

パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢カルルは、ある夜会で王太子ジェラールから婚約破棄を言い渡される。しかし、カルルは泣くどころか、これまで立て替えていた経費や労働対価の「莫大な請求書」をその場で叩きつけた。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

処理中です...