拝啓、元婚約者様。婚約破棄をしてくれてありがとうございました。

さこの

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夜会があります2


「モルヴァン嬢はダンスが上手だな」

 身長の高い閣下とダンスをするのは緊張しましたが閣下のリードが上手で粗相する事はありませんでした。

「閣下のリードが良かったのですわ」

 足を踏まなくて良かったですわ。ダンスを終えて閣下とお話をさせてもらいました。


「……しまった。せっかく会えたのにハンカチを持ってくれば良かったな」

 ……すっかり忘れていましたわ。

「ふふっ。毎日持ち歩いていては困りますわよね。本当に返却は不要ですので、捨ててください」

「いや。そういうわけにはいかない。君はきちんと傘を返しに来てくれた」

 ……傘とハンカチじゃ釣り合いが取れませんわよね。それでも閣下は納得なさらなそうですし。



「私は学園が休みの週末になると王立図書館に行くことが多いですし、宜しければ騎士団の練習を観に行ってもよろしいですか? その時にでも……」

「騎士団の練習なんて見ても楽しくないだろう? それなら時間を指定してくれれば図書館に行く」


「いつ行けるか分かりませんもの。ですからわたくしが行きますわ。それに練習は迫力があって楽しかったですわよ」

「そうか……それなら待っているよ。モルヴァン嬢が見学に来てくれるというなら無様な姿を見せるわけにはいかないな」

「ふふっ。閣下の勇姿を見る日を楽しみにしていますわ」

 そうだわ!

「本日の閣下の装いは素敵ですね。いつもは凛々しいお姿ですが正装もびしっとしていてお似合いですね」

 ……正装姿もばっちり決まっていますし、雰囲気が変わって見えますもの。前髪が上がっているのでお顔がよく見えますわ。

「……モルヴァン嬢の装いも、その、華やかでグリーンが良く似合う……とても可愛い」

「か、可愛いですか?」

 ……可愛いなんて! 可愛いってパティのようにピンクのドレスが似合う子に使う言葉ですわよね。私が可愛いだなんて……


「……すまない。失言だったか? 悪気は全くないんだ……素直に可愛いと思ったんだが……もしかしてレディに可愛いは禁句なのか?」

 オロオロする閣下。いいえ……違いますよ。

「……ふふっ。久しぶりに可愛いだなんて言われて、嬉しいですわ。可愛いという褒め言葉は妹に取られてしまっていましたし、私も妹に可愛いとよく褒めますの」

 お姉さんになってからは可愛いというよりキレイと言われることが増えましたもの。ホッとする閣下の姿を見て申し訳なくなりました。

「良かった。可愛いという褒め言葉はダメなのかと思った……モルヴァン嬢はいつも可愛いが今日は特に磨きがかかってとても可愛い……」

「なっ、」

 ……なんていうことでしょう! 閣下は、閣下は天然の人たらしですわ!! 顔がみるみる赤くなって閣下から顔を背けました。


「どうした? 体調でも悪いのか」

「……いいえ。少し暑くなって、」

「夜風に当たるか?」

「その方がいいようですわ」

 すると手を差し出され躊躇しながらも手を取りました。今日はいつもと違って夜会ですから令嬢扱いしてくださるのですね。なんだか新鮮で嬉しいですわ。大きな手に支えられながら歩きました。


 テラスに出て少し落ち着いたと思いましたら、閣下と二人きりになってしまいました。緊張してしまいますわ。テラスと言ってもオープンですし仕切りがあるわけでもありませんし閣下が無体な真似をするわけもありませんものね。外の空気に触れると顔の熱もようやく治まりました。



「その、君は私が怖くないのか? 普通は怖がって近寄らないものなんだが……」

「もしかして閣下は、犯罪者とか詐欺師かそれとも……もっと悪い方なのですか?」



「は?」



「え? 違いますの……? それでは怖いというのはどういった意味なのでしょうか?」

 ……また変なことを言ってしまったようです。閣下には呆れられてばかりですわね。

「……はははっ。やはりモルヴァン嬢は変わった令嬢だ。そのままの意味だ、私は自分でいうのもなんだが威圧感もあり強面で図体もデカい。だから令嬢からは恐れられているんだが、君は違うのか?」

 ……閣下が恐れられているなんてそれは、

「見る目がない令嬢達ですわね! 閣下は優しい方ですわ。見知らぬわたくしに傘を貸してくださって、無視しても良いのにお話をしてくださったり、何よりも閣下の瞳はとても綺麗で恐ろしいなんて事はありませんもの」

 ……閣下はそんなに令嬢と知り合う機会がありましたのね。でも見る目のない令嬢ばかりですわね!

「……やはり君は変わっているね」

「ふふっ。変わっているから婚約破棄されたのかもしれませんわ」

「……見る目のない男だったんだよ。君はとても可愛い」

 婚約破棄をされたことを知っていらしたのね……


「……あ、ありがとうございます」

「礼を言うのは私の方だ」



 それからしばらく無言でしたけれど、閣下と過ごす空気感? は嫌じゃありませんでしたの。それからブリュノ兄様に声をかけられてホッとしましたけれど、閣下には“また”と挨拶をしてお別れしました。次の約束があるって、なんだか……


 
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