【完】愛していますよ。だから幸せになってくださいね!

さこの

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東の国の王女

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 ※少し遡っています。晩餐会の続きではありません。

【東の国の王女プリシアの話です】
  

******



「美しい庭園ですわね」

 ジュール様と散策をしていた。

 私の婚約者ジュール様は美しい顔立ちをしている。東の国にはいないタイプの男性だった。肌は白くて伏せた目に陰影が出来るほどまつ毛が長い。

 出会った頃よりも会話は弾むし大事にしてくださるのは分かるけれど、たまに何かを考えるように遠くを見る。

 聞いてはいけない事だと思い、ジュール様が私に心を開いてくださった時に教えてくだされば良いと思った。


 この国は見えない身分格差があるのだと言う。敢えて口にはしないけれど、王族と高位貴族は次元が違うのだという。

 血筋を重んじる傾向にある為、ジュール様との婚姻が決まった。私は東の国の第三王女、身分としては悪くありません。

 
 ある日王妃様にお茶会に誘われ、この国の話やジュール様の子供の頃の話を聞いた。

 ジュール様が元気になったのは私のおかげだと感謝をされた。やはり何かあったのだ、と思い王妃様に聞いた。


 小さい頃からジュール様の周りをうろちょろしていた伯爵令嬢にジュール様は誑かされ騙され、心に傷がついたままだと聞いた。

 食事も喉が通らず睡眠不足で痩せ細っていたと聞いた。ひどい令嬢がいるものだと憤りを感じた。

 その話を聞いて納得した。たまに遠くを見るジュール様の切なそうな顔……。

 私が支えて差し上げないと! そう思い、この国のマナーを身につけた。


 納得のいかないところは多々あるけれど、この国に嫁ぐ以上それが正解だと思った。王妃様は嬉々として教えてくださった。




 久しぶりに王太子殿下と婚約者のブリジット様に会った。


 あのお茶会以来の事だった。

 ジュール様からもあまりお話を聞かないし、この国の事を学ぶことに夢中ですっかりと忘れていた。


「お久しぶりですわね、プリシア様お元気でしたか?」

「プリシア王女、今からブリジットとお茶をするところだったんだが、良かったら一緒に如何かな?」


 そう言われると断れないので、お邪魔させてもらうことにした。


 この二人はとても仲が良い。政略結婚と聞かされていたけれど、穏やかでこの国の偉そうな高位貴族とは少し違って見えた。

 ジュール様と例の伯爵令嬢の話を聞いた。王妃様の話とは少しずれがあって聞こえたけれど、私のおかげで元気になったという見解は同じだった。


 素直で良い子だったわ。幸せになってほしい。とブリジット様は言った。

 人を傷つけておいて伯爵令嬢如きが幸せになる権利などないですわ。と答えると二人はとても驚いていた。


 王太子殿下が私の妃教育の教師を一刻も変えるようにと言ったけれどそれはお断りした。早くこの国に慣れなくてはいけないもの。

 何度も何度もしつこく言ってくるものだから、国へ報告しますわよ? と言うと引き下がったけれど、よく考えてほしい。とまた言われた。

 ブリジッド様はなぜか私をブリジッド様の友人に会わせようとし、お茶会に誘われたけれど、その日は王妃様との約束があったので断ったわ。


 その後ジュール様が王太子殿下に呼び出されたらしく、何があったのか? と聞かれだけれど、何でもありませんわ。と言った。

 ジュール様の傷ついたお心を癒せるのは私だけですもの。



 それから私はこの国の高位貴族たちとの交流を深めていった。
 私はジュール様の婚約者で王女という身分からこの国で受け入れられているんだと実感したわ。身分が高いと言う事は正義なのね。



 例外もあった。

 ブリジッド様の家の公爵家


 ……王妃様達はあの家とは交流がないみたい。王太子殿下とブリジッド様は陛下肝入りの婚約だったみたい。



 留学という前提のもと、この国に来ているからもちろん学園生活を送った。

 私の学年には高位貴族の令嬢はいないから令嬢の中では私が一番だった。王女ですから当然ですけれど。


 そんな中で一年を過ごした。その後新入生が入ってきて、ジュール様は息を止め、ある新入生に見入っていた。



「ミシェルだ、やっと会えた」



 そう言った。噂の悪女、伯爵令嬢だった。


 でもその隣には南の国のウェズリー殿下がいて、愛おしそうにミシェルという女をエスコートしていた。

 それを見てジュール様は機嫌が悪くイライラしている様子だった。

 今にもあの二人に駆け寄りミシェルという女を攫いそうな、そんな狂気じみた顔付き。初めて見るその顔に胸が痛んだ。


 ミシェル伯爵令嬢はジュール様を捨てて南の国へ行き、ウェズリー殿下を誑かし婚約までしたのだそうだ。

 たかが伯爵令嬢の分際で生意気な女だと思った。


 学園の行き帰りは同じ馬車で通学し仲が良さそうだった。ウェズリー殿下はいつも何かから守るように伯爵令嬢を庇っている。


 ウェズリー殿下は王族という身分なのに情けない男だと思った。

 威厳など全く感じられない。

 この国の王太子と同じ匂いがした。


 王太子はこの国の目に見えない身分差を嫌っており、陛下に進言し格差を無くそうと奔走しているという。


 王族と上位貴族を守るのが、その他貴族の勤めなのに、格差をなくすなんて馬鹿げた事を言い出す王太子殿下はいずれ国のトップになる。

 その時に国は荒れると思ったわ。

 そしたらジュール殿下に王位が転がる可能性もある。だから王太子殿下の行動を見張るように言った。


 それにより派閥ができた。


 王太子の婚約者ブリジッド様の家は公爵家で、その公爵家が格差をなくす事に賛成しているという。情けない家だわ!



 反対派の人たちが王家所有の離宮へ行きたいというので私達も行くことにした。

 毎年バカンスに行くのだそうだ。

 離宮に着くと、陛下が呼んだゲストがいるから、ここから先はお入れする事はできないと言われたわ。

 それに貴賓室は埋まっていると言われ腹が立った。

 こんな広い離宮なんだからゲストに我慢させれば良いのよ。
 部屋も沢山あるんだし、毎年来ている高位貴族達を蔑ろにするつもり?
 私たちが責任を持つと言い、離宮へと入った。
 ジュール殿下と私がいるのに入れないなんておかしいもの。国のトップよ?




 まさかウェズリー殿下とミシェルがいるなんて!




 
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