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 広い通りに出ると、一気に車の量が増えていった。それに反し、怪しげな店はほとんど姿を見せなくなったが、ネオンの灯りは減ることはなかった。

「ふぁ~あ……」

 疲れきっているのか、大きく欠伸をしながら歩いていく麗蘭。次々と通り過ぎていく人や車に逆らっていくように、多くの人が向かっていくのと反対方向に歩いている。

 再び角を曲がり、少し狭めの通りへと差し掛かる。

 所狭しと並ぶ派手な店や看板が圧迫感を与えるこの場所に、何もかもが似つかわしくない可憐な少女が車道の真ん中を歩いていた。地毛であろう金髪に、白いレースに囲われた黒いワンピース。麗蘭とは全く異なる、いかにも育ちがよさそう、といった風貌である。

 誰かを探しているのか、辺りをキョロキョロと見渡している。

 麗蘭はやけに目立つその姿が視界の左側に入る。車道を歩いているために危なっかしい印象はあるが、それ以外にもやけに釘付けにされる印象を与えられた。

 幼い少女がこんな時間にこんな場所でどうしたのだろう、と訝しげに思い、彼女に向かって近付いていった。

 すると、麗蘭が来た反対方向から猛スピードで車が走ってくる。

 それに少女は気付いていないようで、ずっとその場を歩いていた。

「危ないっ!」

 咄嗟に叫ぶと同時に麗蘭は走り出していた。人の波を掻き分けながら、車道へと飛び出していく。

 あと少しというところまで車が迫り来る中、少女へ腕を伸ばす。

 麗蘭の行動でようやく自分の状況に気付いたようで、スピードを落とさない車に対して恐怖を露わにしていた。

 彼女の身体に触れられそうな距離まで麗蘭は進み、そのまま彼女の身体を抱き止めて走り続ける。

 前のめりになりながらも車道の端に到達すると同時に、二人の真後ろをスピードを落とさない車が走り抜けて去る。

 麗蘭は勢いを止められず、前に進みながら倒れていく。このままでは少女に傷を付けてしまう、と頭の中に過ぎり、身体を傾けていく。

 左腕が真下を向いたところで地面に触れ、二人分の重みがそこに集まりながら、麗蘭たちは滑っていく。そして、麗蘭の身体に地面からの衝撃が走り、全身を響かせる。

「ってて……」

 周囲にいた人々は驚き、麗蘭の姿を見ては離れながら眺めていた。誰も関わりたくないが様子が気になる、そんな雰囲気である。

 そういった人が増えていき、麗蘭たちを中心とした人だかりはあっという間に大きくなっていった。
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