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コンコン──
ノックと同時にドアが開けられる。そこに立っていたのは、凜華と手を繋いだ若そうな男であった。
麗蘭よりも背は高く、肩より少し長い髪は黒々としている。白い二つボタンのシャツと細身の黒いズボンは端まで真っ直ぐに整えられ、端正な顔立ちをより引き立たせていた。
男は麗蘭の姿を見ると、凜華と繋いでいた手を離して彼の前へと歩いていく。そして目線を合わせるようにその場でしゃがみ込む。顔は笑ってはいないものの、黒い瞳は誰よりも優しそうであった。
「凜華が世話になった。私からも礼を言う。私は豪黒龍だ。この屋敷の主で、凜華の保護者だ」
「俺は麗蘭。俺はただ、思った通りに動いてただけで、そこまで感謝されることは……」
「そんなに謙遜しないでくれ。ここにいる者全員が、嬉しいと思っている」
黒龍の言葉に、麗蘭は改めて三人を見渡す。
いくらか微笑んでいるように思える黒龍。はっきりと口にしているので、心からそう思っているのだろう。
春鈴はあまり顔に出ていないようだが、いくらか柔らかい表情のように感じられた。
そして助けられた張本人の凜華は、満面の笑みを浮かべながらゆっくりと近付いてきていた。
「なんかあんまり実感ないけど、なんとなく分かったかも」
「そうか……」
「麗蘭、また来てくれる? あたし、もっとあなたとお話ししてみたいわ」
「うん、いいよ。俺も凜華とお話ししたいな」
「やったー!」
凜華はその場で飛び跳ねながら喜んでいた。動きに合わせてワンピースがふわりと揺れる。
「そろそろ就寝のお時間です」
「はーい。おやすみなさい、黒龍、麗蘭」
「あぁ」
「おやすみー」
春鈴に連れられて凜華は部屋から去っていった。
二人きりになった空間は、しばらく無言の時間が過ぎていく。
ようやく動き出したのは、黒龍が先だった。その場で立ち上がり、麗蘭を見下ろす。
「今日はもう遅い時間だ。礼を兼ねて送っていこう」
「じゃ、そうさせてもらうね」
黒龍が歩き出すと同時に、麗蘭も立ち上がって後ろについて行く。
部屋を出て玄関へ向かって歩いていき、外へ出る。目の前には来たときに乗っていた車が停まっており、黒龍がドアを開ける。
「私もまた、君が来てくれることを願っているよ、麗蘭」
「そしたら二人のために絶対に来ないとだね。じゃあね、黒龍」
笑顔で手を振りながら車に乗り込む麗蘭。仕事の最中のような艶めかしさを無意識のうちに出していたのか、その素振りは凜華とは異なる、大人になりかけている少女のようなものであった。
黒龍は思わず見惚れて心を奪われていた。あんなにも中性的で美しいものは見たことがないと、頭の中はすっかり麗蘭に染まっていた。
我に返って気付いたときには、車のドアは閉められており、発車していった。
物寂しげに去っていく姿を放り、車は敷地の外へと出ていった。
車がしばらく去っていったあとも、黒龍はまだ敷地の外を眺めていた。
「麗蘭……か」
一人、去っていった青年の名を呟き、少年のような姿を思い出していた。
ノックと同時にドアが開けられる。そこに立っていたのは、凜華と手を繋いだ若そうな男であった。
麗蘭よりも背は高く、肩より少し長い髪は黒々としている。白い二つボタンのシャツと細身の黒いズボンは端まで真っ直ぐに整えられ、端正な顔立ちをより引き立たせていた。
男は麗蘭の姿を見ると、凜華と繋いでいた手を離して彼の前へと歩いていく。そして目線を合わせるようにその場でしゃがみ込む。顔は笑ってはいないものの、黒い瞳は誰よりも優しそうであった。
「凜華が世話になった。私からも礼を言う。私は豪黒龍だ。この屋敷の主で、凜華の保護者だ」
「俺は麗蘭。俺はただ、思った通りに動いてただけで、そこまで感謝されることは……」
「そんなに謙遜しないでくれ。ここにいる者全員が、嬉しいと思っている」
黒龍の言葉に、麗蘭は改めて三人を見渡す。
いくらか微笑んでいるように思える黒龍。はっきりと口にしているので、心からそう思っているのだろう。
春鈴はあまり顔に出ていないようだが、いくらか柔らかい表情のように感じられた。
そして助けられた張本人の凜華は、満面の笑みを浮かべながらゆっくりと近付いてきていた。
「なんかあんまり実感ないけど、なんとなく分かったかも」
「そうか……」
「麗蘭、また来てくれる? あたし、もっとあなたとお話ししてみたいわ」
「うん、いいよ。俺も凜華とお話ししたいな」
「やったー!」
凜華はその場で飛び跳ねながら喜んでいた。動きに合わせてワンピースがふわりと揺れる。
「そろそろ就寝のお時間です」
「はーい。おやすみなさい、黒龍、麗蘭」
「あぁ」
「おやすみー」
春鈴に連れられて凜華は部屋から去っていった。
二人きりになった空間は、しばらく無言の時間が過ぎていく。
ようやく動き出したのは、黒龍が先だった。その場で立ち上がり、麗蘭を見下ろす。
「今日はもう遅い時間だ。礼を兼ねて送っていこう」
「じゃ、そうさせてもらうね」
黒龍が歩き出すと同時に、麗蘭も立ち上がって後ろについて行く。
部屋を出て玄関へ向かって歩いていき、外へ出る。目の前には来たときに乗っていた車が停まっており、黒龍がドアを開ける。
「私もまた、君が来てくれることを願っているよ、麗蘭」
「そしたら二人のために絶対に来ないとだね。じゃあね、黒龍」
笑顔で手を振りながら車に乗り込む麗蘭。仕事の最中のような艶めかしさを無意識のうちに出していたのか、その素振りは凜華とは異なる、大人になりかけている少女のようなものであった。
黒龍は思わず見惚れて心を奪われていた。あんなにも中性的で美しいものは見たことがないと、頭の中はすっかり麗蘭に染まっていた。
我に返って気付いたときには、車のドアは閉められており、発車していった。
物寂しげに去っていく姿を放り、車は敷地の外へと出ていった。
車がしばらく去っていったあとも、黒龍はまだ敷地の外を眺めていた。
「麗蘭……か」
一人、去っていった青年の名を呟き、少年のような姿を思い出していた。
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