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4-20. 神の使徒
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「でも、住民に干渉したら……ダメなんですよね?」
ヴィクトルは恐る恐る聞く。
「そりゃあ私たちが口出しちゃったら、既存の文明・文化の劣化コピーになるだけよ。そんなの全く要らないわ」
ヴィーナはつまらなそうに首を振る。
「では、何をすれば……」
「天才の発掘と保護ね」
ヴィーナはケーキをフォークで切りながら言った。
「あー、新たな変革は天才が起こすけど、天才は潰されやすいから……ってことですね?」
「そうね、あなたもずいぶんレヴィアに守られてたのよ?」
ニヤッと笑うヴィーナ。
「えっ!?」
驚いてレヴィアを見るヴィクトル。
「賢者の塔に入れるよう便宜を働いたのはワシじゃからな」
そう言ってレヴィアはケーキをパクリと食べた。
「そ、そうだったんですね……。そうとは知らず、失礼しました」
「ええんじゃ、それが仕事じゃからな。でも、これからはお主の仕事じゃぞ」
レヴィアはフォークでヴィクトルを指す。
「は、はい! 分かりました! 頑張ります!」
ヴィクトルは深々と頭を下げる。
「あっ! じゃあこうしましょう。この娘を生き返らせた見返りに、大賢者はこの星を宇宙一にしなさい」
「えっ! う、宇宙一……ですか?」
焦るヴィクトル。
「何でもするって言ったでしょ?」
ジト目でにらむヴィーナ。
「わ、わかりました! やらせていただきます!」
「よろしい!」
ヴィーナは満足げにほほ笑んだ。
「よし、じゃあまずはシアン様のところで研修からじゃな」
レヴィアはうれしそうに言う。
「結婚式終わったらおいで」
シアンはケーキを頬張りながらうれしそうにフォークを揺らした。
◇
それから数カ月後、王都で魔物撃退の祝賀会が大々的に開催された。気持ちのいい青空のもと、広場には群衆が所狭しと集まっている。十万匹の魔物を瞬時に消し去り、伝説の妖魔妲己を瞬殺したという英雄を見ようと、多くの人が詰めかけていたのだ。
「それでは王国の守護神『ヴィクトル』さん、お願いします!」
司会の女性の案内で、ヴィクトルは青いローブをはためかせながらステージに上がった。
広場を埋め尽くす観衆が一斉に静まり返り、可愛い金髪の子供、ヴィクトルを見つめる。
ヴィクトルはそんな人々をうれしそうに見回すと、拡声の魔法を展開し、広場に響きわたる声をあげた。
「みなさん、来てくれてありがとう!」
ヴィクトルが手を上げると、
ウォォォォ!
観衆は一斉に歓声をあげた。
ヴィクトルはその様子を見て満足そうにニコッと笑う。
「ありがとう。今日は皆さんに報告があります。先日、神様の所へ行ってきて、『神の使徒』になることになりました」
いきなり何を言い出したのか、観衆は訳が分からずざわつく。
ヴィクトルは、そんな様子をニコニコと見回しながら言った。
「神様はお怒りです。このままだとこの星を消すとおっしゃっています」
いきなりの爆弾発言に会場はどよめく。英雄を見に来たらいきなり滅亡を予言されたのだ。みんなどう受け取ったらよいのか困惑してしまう。
「では、どうしたらいいか……。みなさん、もっと夢を見ましょう!」
ヴィクトルはニッコリとした笑顔を崩さずに言った。
「こうなったらいいな、ああなったらいいな、どんどん夢を見て、一歩だけ夢に向けて行動しましょう」
聴衆は首をひねりつつも、じっとヴィクトルに聞き入る。
「列席の貴族の方々、市民の方々、全員、一人残らず夢を見て動き出しましょう。そうでないとこの星は生き残れないのです」
貴族たちは怪訝そうな顔でお互いを見合った。
「どう動いたらいいか、神様は決して示されません。一人一人が『こうなったらいいな』を行動に移すこと、それを神様はお望みです。これが神の使途として、僕の最初にして最後のメッセージです。皆さん、夢を見ましょう!」
すると、憲兵たちがドヤドヤと壇上に上がり、槍をヴィクトルに突きつけて叫んだ。
「国家転覆罪の現行犯だ! おとなしくお縄につけ!」
ヴィクトルはゆっくりと彼らを見回すと、
「それがあなた達の夢ですか?」
そう言ってニコッと笑った。
「ゆ、夢!? こ、これは仕事だから……」
憲兵たちは何も言えなくなってお互い顔を見合わせる。
直後、広場を大きな影が覆う。ドラゴンだった。
どよめく聴衆。
暗黒龍がバサッバサッと大きな翼をはばたかせながら旋回し、ステージの前まで下りてくると、ヴィクトルはピョンとその背中に飛び乗った。
「それでは皆さん、いい夢を!」
ヴィクトルはそう言うと、暗黒龍を操って空高く舞いあがっていく。
すると、天からまぶしい光の筋が下りて来た。まるでそれは天へ上るための梯子のように厳かな美しさを放つ。そして、暗黒龍はその光の中に溶けるように消えていった。
残された観衆たちはその神秘的な光景に魅了され、まるで夢を見ているかのようにしばらく呆然とただ空を見上げていた。ドラゴンに乗って消えた可愛い金髪の子供、神の使徒の言葉は彼らの中に大切な何かを残したのだった。
ヴィクトルの発言は新聞などでは一切報道されなかったが、市民の間ではあっという間に広がり、あちこちでいろいろな動きが出始めることとなった。
ヴィクトルは恐る恐る聞く。
「そりゃあ私たちが口出しちゃったら、既存の文明・文化の劣化コピーになるだけよ。そんなの全く要らないわ」
ヴィーナはつまらなそうに首を振る。
「では、何をすれば……」
「天才の発掘と保護ね」
ヴィーナはケーキをフォークで切りながら言った。
「あー、新たな変革は天才が起こすけど、天才は潰されやすいから……ってことですね?」
「そうね、あなたもずいぶんレヴィアに守られてたのよ?」
ニヤッと笑うヴィーナ。
「えっ!?」
驚いてレヴィアを見るヴィクトル。
「賢者の塔に入れるよう便宜を働いたのはワシじゃからな」
そう言ってレヴィアはケーキをパクリと食べた。
「そ、そうだったんですね……。そうとは知らず、失礼しました」
「ええんじゃ、それが仕事じゃからな。でも、これからはお主の仕事じゃぞ」
レヴィアはフォークでヴィクトルを指す。
「は、はい! 分かりました! 頑張ります!」
ヴィクトルは深々と頭を下げる。
「あっ! じゃあこうしましょう。この娘を生き返らせた見返りに、大賢者はこの星を宇宙一にしなさい」
「えっ! う、宇宙一……ですか?」
焦るヴィクトル。
「何でもするって言ったでしょ?」
ジト目でにらむヴィーナ。
「わ、わかりました! やらせていただきます!」
「よろしい!」
ヴィーナは満足げにほほ笑んだ。
「よし、じゃあまずはシアン様のところで研修からじゃな」
レヴィアはうれしそうに言う。
「結婚式終わったらおいで」
シアンはケーキを頬張りながらうれしそうにフォークを揺らした。
◇
それから数カ月後、王都で魔物撃退の祝賀会が大々的に開催された。気持ちのいい青空のもと、広場には群衆が所狭しと集まっている。十万匹の魔物を瞬時に消し去り、伝説の妖魔妲己を瞬殺したという英雄を見ようと、多くの人が詰めかけていたのだ。
「それでは王国の守護神『ヴィクトル』さん、お願いします!」
司会の女性の案内で、ヴィクトルは青いローブをはためかせながらステージに上がった。
広場を埋め尽くす観衆が一斉に静まり返り、可愛い金髪の子供、ヴィクトルを見つめる。
ヴィクトルはそんな人々をうれしそうに見回すと、拡声の魔法を展開し、広場に響きわたる声をあげた。
「みなさん、来てくれてありがとう!」
ヴィクトルが手を上げると、
ウォォォォ!
観衆は一斉に歓声をあげた。
ヴィクトルはその様子を見て満足そうにニコッと笑う。
「ありがとう。今日は皆さんに報告があります。先日、神様の所へ行ってきて、『神の使徒』になることになりました」
いきなり何を言い出したのか、観衆は訳が分からずざわつく。
ヴィクトルは、そんな様子をニコニコと見回しながら言った。
「神様はお怒りです。このままだとこの星を消すとおっしゃっています」
いきなりの爆弾発言に会場はどよめく。英雄を見に来たらいきなり滅亡を予言されたのだ。みんなどう受け取ったらよいのか困惑してしまう。
「では、どうしたらいいか……。みなさん、もっと夢を見ましょう!」
ヴィクトルはニッコリとした笑顔を崩さずに言った。
「こうなったらいいな、ああなったらいいな、どんどん夢を見て、一歩だけ夢に向けて行動しましょう」
聴衆は首をひねりつつも、じっとヴィクトルに聞き入る。
「列席の貴族の方々、市民の方々、全員、一人残らず夢を見て動き出しましょう。そうでないとこの星は生き残れないのです」
貴族たちは怪訝そうな顔でお互いを見合った。
「どう動いたらいいか、神様は決して示されません。一人一人が『こうなったらいいな』を行動に移すこと、それを神様はお望みです。これが神の使途として、僕の最初にして最後のメッセージです。皆さん、夢を見ましょう!」
すると、憲兵たちがドヤドヤと壇上に上がり、槍をヴィクトルに突きつけて叫んだ。
「国家転覆罪の現行犯だ! おとなしくお縄につけ!」
ヴィクトルはゆっくりと彼らを見回すと、
「それがあなた達の夢ですか?」
そう言ってニコッと笑った。
「ゆ、夢!? こ、これは仕事だから……」
憲兵たちは何も言えなくなってお互い顔を見合わせる。
直後、広場を大きな影が覆う。ドラゴンだった。
どよめく聴衆。
暗黒龍がバサッバサッと大きな翼をはばたかせながら旋回し、ステージの前まで下りてくると、ヴィクトルはピョンとその背中に飛び乗った。
「それでは皆さん、いい夢を!」
ヴィクトルはそう言うと、暗黒龍を操って空高く舞いあがっていく。
すると、天からまぶしい光の筋が下りて来た。まるでそれは天へ上るための梯子のように厳かな美しさを放つ。そして、暗黒龍はその光の中に溶けるように消えていった。
残された観衆たちはその神秘的な光景に魅了され、まるで夢を見ているかのようにしばらく呆然とただ空を見上げていた。ドラゴンに乗って消えた可愛い金髪の子供、神の使徒の言葉は彼らの中に大切な何かを残したのだった。
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