74 / 193
74. 海王星の衝撃
しおりを挟む
「ありがとうございます。でも……ふとももを触らせるのはマズいですよ」
俺は口をとがらせる。
「あれはお主の願望を発現させてやっただけじゃ」
「が、願望!?」
俺の声が裏返り、顔が熱くなるのを感じる。
「さわさわしたかったんじゃろ?」
無邪気に笑うレヴィア。その笑顔に、俺は言葉を失う。
「いや、まぁ……、そのぉ……」
「ふふっ、我にはお見通しなのじゃ」
ドヤ顔のレヴィア。その表情に、俺は完全に降参だった。
「参りました……。で、おっしゃった正解とは、この世界も地球も全部コンピューターの作り出した世界ということなんですね?」
俺は嫌な話題を変え、核心に切り込む。心臓が早鐘を打つのを感じながら。
「そうじゃ。海王星にあるコンピューターが、今この瞬間もこの世界と地球を動かしているのじゃ」
レヴィアの言葉に、俺は息を呑む。その『正解』が、俺の心に圧かかってくる。
「か、海王星……?」
いきなり開示された驚くべき事実に俺は頭の中が真っ白になる。具体的なコンピューター設備のこともこのドラゴンは知っているのだ。さらに、その設置場所がまた想像を絶する所だった。海王星というのは太陽系最果ての惑星。きわめて遠く、地球からは光の速度でも四時間はかかる。その遠さに、現実感がさらに薄れていく。
「か、海王星!? なんでそんなところに?」
俺は唖然とした。声が震えるのを抑えられない。
「太陽系で一番冷たい所だったから……かのう? 知らんけど」
レヴィアは興味なさげに適当に答える。その態度に、この壮大な真実がいかに彼女にとって些細なものかを感じる。
「では、今この瞬間も、私の身体もレヴィア様の身体も海王星で計算されて合成されているってこと……なんですね?」
レヴィアの言う通りなら自分はゲームのキャラ同然ということになる。自分の存在の根幹を問い直すような話に、胸が締め付けられる。
「そうじゃろうな。じゃが、それで困ることなんてあるんかの?」
レヴィアはニヤッと笑い、俺の瞳をのぞきこむ。
「え!? こ、困ること……?」
自分がゲームのキャラだったとして困ること……?
俺は必死に考えた。世界がリアルでないと困ることなんてあるのだろうか? そもそも俺は生まれてからずっと仮想現実空間に住んでいたわけで、リアルな世界など知らないのだ。熱帯魚が群れ泳ぐ海を泳ぎ、雄大なマンタの舞を堪能し、ドロシーの綺麗な銀髪が風でキラキラと煌めくのを見て、手にしっとりとなじむ柔らかな肌を感じる……。この世界に不服なんて全くないのだ。さらに、俺は滅茶苦茶強くなったり空飛んだり、大変に楽しませてもらっている。むしろメリットだらけだろう。
しかし、心の奥底で小さな不安が蠢く――――。
世界の管理者に好き勝手されてしまうこと……は困るのではないだろうか?
ヌチ・ギのような奴がのさばること、管理者側の無双はタチが悪い。その存在が、この完璧な世界に影を落としている。
「ヌチ・ギ……みたいな奴を止められないことくらいでしょうか……」
俺は躊躇いがちに言葉を紡ぐ。
「あー、奴ね。あれは確かに困った存在じゃ……」
レヴィアも腕を組んで首をひねる。
「レヴィア様のお力で何とかなりませんか?」
俺は手を合わせ、頼み込む。ヌチ・ギの存在はいつか必ず面倒な事になる。それを解決できるのは同格のレヴィア以外には考えられなかった。
「それがなぁ……。奴とは相互不可侵条約を結んでいるんじゃ。何もできんのじゃよ」
そう言って肩をすくめる。その言葉に、俺の心は沈む。
「女の子がどんどんと食い物にされているのは、この世界の運用上も問題だと思います」
俺は必死に訴えた。
「まぁ……そうなんじゃが……。あ奴も昔はまじめにこの世界を変えていったんじゃ。魔法も魔物もダンジョンもあ奴の開発した物じゃ。それなりに良くできとるじゃろ?」
なんと、魔法は彼の創造物だという。この精巧なシステムは確かに素晴らしいものではある。
「それは確かに……凄いですね」
俺はその功績の大きさに、複雑な思いがする。
「最初は良かったんじゃ。街にも活気が出てな。じゃが、そのうち頭打ちになってしまってな。幾らいろんな機能を追加しても活気も増えなきゃ進歩もない社会になってしまったんじゃ」
「それで自暴自棄になって女の子漁りに走ってるって……ことですか?」
天才開発者の挫折の成れの果てでの怪物化という経緯に、複雑な想いが混ざる。
「そうなんじゃ」
「でも、そんなの許されないですよね?」
経緯はともあれ、俺としては何とか活路を見出したかった。
「我もそうは思うんじゃが……」
レヴィアの声には、無力感が滲む。
「私からヴィーナ様にお伝えしてもいいですか?」
俺は最後の望みを女神に託そうと考えた。
しかし、レヴィアは目をつぶり、静かに首を振る。
「お主……、ご学友だからと言ってあのお方を軽く見るでないぞ。こないだもある星がヴィーナ様によって消されたのじゃ」
レヴィアの声には、これまでにない凄みがあった。
俺は口をとがらせる。
「あれはお主の願望を発現させてやっただけじゃ」
「が、願望!?」
俺の声が裏返り、顔が熱くなるのを感じる。
「さわさわしたかったんじゃろ?」
無邪気に笑うレヴィア。その笑顔に、俺は言葉を失う。
「いや、まぁ……、そのぉ……」
「ふふっ、我にはお見通しなのじゃ」
ドヤ顔のレヴィア。その表情に、俺は完全に降参だった。
「参りました……。で、おっしゃった正解とは、この世界も地球も全部コンピューターの作り出した世界ということなんですね?」
俺は嫌な話題を変え、核心に切り込む。心臓が早鐘を打つのを感じながら。
「そうじゃ。海王星にあるコンピューターが、今この瞬間もこの世界と地球を動かしているのじゃ」
レヴィアの言葉に、俺は息を呑む。その『正解』が、俺の心に圧かかってくる。
「か、海王星……?」
いきなり開示された驚くべき事実に俺は頭の中が真っ白になる。具体的なコンピューター設備のこともこのドラゴンは知っているのだ。さらに、その設置場所がまた想像を絶する所だった。海王星というのは太陽系最果ての惑星。きわめて遠く、地球からは光の速度でも四時間はかかる。その遠さに、現実感がさらに薄れていく。
「か、海王星!? なんでそんなところに?」
俺は唖然とした。声が震えるのを抑えられない。
「太陽系で一番冷たい所だったから……かのう? 知らんけど」
レヴィアは興味なさげに適当に答える。その態度に、この壮大な真実がいかに彼女にとって些細なものかを感じる。
「では、今この瞬間も、私の身体もレヴィア様の身体も海王星で計算されて合成されているってこと……なんですね?」
レヴィアの言う通りなら自分はゲームのキャラ同然ということになる。自分の存在の根幹を問い直すような話に、胸が締め付けられる。
「そうじゃろうな。じゃが、それで困ることなんてあるんかの?」
レヴィアはニヤッと笑い、俺の瞳をのぞきこむ。
「え!? こ、困ること……?」
自分がゲームのキャラだったとして困ること……?
俺は必死に考えた。世界がリアルでないと困ることなんてあるのだろうか? そもそも俺は生まれてからずっと仮想現実空間に住んでいたわけで、リアルな世界など知らないのだ。熱帯魚が群れ泳ぐ海を泳ぎ、雄大なマンタの舞を堪能し、ドロシーの綺麗な銀髪が風でキラキラと煌めくのを見て、手にしっとりとなじむ柔らかな肌を感じる……。この世界に不服なんて全くないのだ。さらに、俺は滅茶苦茶強くなったり空飛んだり、大変に楽しませてもらっている。むしろメリットだらけだろう。
しかし、心の奥底で小さな不安が蠢く――――。
世界の管理者に好き勝手されてしまうこと……は困るのではないだろうか?
ヌチ・ギのような奴がのさばること、管理者側の無双はタチが悪い。その存在が、この完璧な世界に影を落としている。
「ヌチ・ギ……みたいな奴を止められないことくらいでしょうか……」
俺は躊躇いがちに言葉を紡ぐ。
「あー、奴ね。あれは確かに困った存在じゃ……」
レヴィアも腕を組んで首をひねる。
「レヴィア様のお力で何とかなりませんか?」
俺は手を合わせ、頼み込む。ヌチ・ギの存在はいつか必ず面倒な事になる。それを解決できるのは同格のレヴィア以外には考えられなかった。
「それがなぁ……。奴とは相互不可侵条約を結んでいるんじゃ。何もできんのじゃよ」
そう言って肩をすくめる。その言葉に、俺の心は沈む。
「女の子がどんどんと食い物にされているのは、この世界の運用上も問題だと思います」
俺は必死に訴えた。
「まぁ……そうなんじゃが……。あ奴も昔はまじめにこの世界を変えていったんじゃ。魔法も魔物もダンジョンもあ奴の開発した物じゃ。それなりに良くできとるじゃろ?」
なんと、魔法は彼の創造物だという。この精巧なシステムは確かに素晴らしいものではある。
「それは確かに……凄いですね」
俺はその功績の大きさに、複雑な思いがする。
「最初は良かったんじゃ。街にも活気が出てな。じゃが、そのうち頭打ちになってしまってな。幾らいろんな機能を追加しても活気も増えなきゃ進歩もない社会になってしまったんじゃ」
「それで自暴自棄になって女の子漁りに走ってるって……ことですか?」
天才開発者の挫折の成れの果てでの怪物化という経緯に、複雑な想いが混ざる。
「そうなんじゃ」
「でも、そんなの許されないですよね?」
経緯はともあれ、俺としては何とか活路を見出したかった。
「我もそうは思うんじゃが……」
レヴィアの声には、無力感が滲む。
「私からヴィーナ様にお伝えしてもいいですか?」
俺は最後の望みを女神に託そうと考えた。
しかし、レヴィアは目をつぶり、静かに首を振る。
「お主……、ご学友だからと言ってあのお方を軽く見るでないぞ。こないだもある星がヴィーナ様によって消されたのじゃ」
レヴィアの声には、これまでにない凄みがあった。
32
あなたにおすすめの小説
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~
北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。
実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。
そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。
グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・
しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。
これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる