「ちょ、俺が救世主!?」~転生商人のおかしな快進撃~

月城 友麻

文字の大きさ
143 / 193

143. 無邪気な嬌声

しおりを挟む
 いきなり布の壁がビュンと音を立てて消失した。

「ユータ! 行くぞ!」

 見ると、胸まで届くブロンドの長い髪を無造作に手でふわっと流しながら、全裸の美女が立っていた。

 へ……?

 真紅の瞳には悪戯いたずらな光が宿り、くちびるには意味深な笑みが浮かんでいる。豊満な胸と、優美な曲線を描く肢体に俺は思わず息をのむ。青白い光が、彼女の肌理きめの細かい肌を神々しく照らしていた。

「なんじゃ? 欲情させちゃったかのう? 揉むか?」

 女性はそう言いながら腕を上げ、悩ましいポーズを取る。その仕草には、何千年もの時を生きた者とは思えない茶目ちゃめっ気があふれていた。

「レ、レヴィア様! 服! 服!」

 俺は真っ赤になってそっぽを向きながら言った。耳朶じだまで熱くなるのを感じる。

「くふふふ。ここでは幼児体形とは言わせないのじゃ! キャハッ!」

 うれしそうなレヴィア。その嬌声きょうせいは、まるで少女のような無邪気むじゃきさを帯びている。

「ワザと見せてますよね? 海王星でも服は要ると思うんですが?」

 俺はギュッと目をつぶりながら抗議こうぎの声を上げる。

「我の魅力をちょっと理解してもらおうと思ったのじゃ」

 上機嫌で悪びれずに言うレヴィア。

「いいから着てください!」

「我の人間形態もあと二千年もしたらこうなるのじゃ。楽しみにしておけよ」

 そう言いながらレヴィアは赤い服を選び、身にまとった。鮮烈せんれつな赤が、彼女の金髪きんぱつと美しい対比たいひを描く。服を着ても、そのたたずまいからは神性と魅惑みわくにじみ出ていた。

「まったく……」

 非常時に一体何をやっているのか。俺は溜息ためいきをつきながら首を振った。


       ◇


 六角形の鋼板こうはんが規則正しく並ぶ床を、カンカンと鳴らしながら通路を行く。金属質の音が細い通路に響き渡る。六角形の接合部には青白い照明が埋め込まれ、一歩進むごとに光がまたたき、歩行者の存在を検知しているようだった。足跡を追うように連なる光の軌跡が、二人の歩跡ほせきを刻んでいく。

 通路の壁面は乳白色にゅうはくしょくの合金で覆われ、所々に半透明の青い光を放つディスプレイが組み込まれている。その淡い光が、金属の廊下に幻想的ないろどりを与えていた。

 何らかのメーターのように針が振れ、数字が動いている。気圧か温度のデータだろうか? のぞきこむと、急に画面が変わって俺の顔写真と各種パラメーターがずらっと並び、何らかの赤文字の警告メッセージがまたたいた。未知の文字列が画面をい、俺の存在を解析しているかのようだ。

「え? これは……?」

 俺はいぶかしく思って首をひねる。この見慣れない文字列の意味するところは? 不安が胸中きょうちゅうよぎる。

「何やっとる! 置いていくぞ!」

 レヴィアは足音を響かせながらスタスタと先に行ってしまう。その金属音は規則正しく、この場所に慣れ親しんだ者の余裕を感じさせた。

「あぁ! 待ってください!」

 俺は急いで追いかける。金属の床を踏む音が慌ただしく響き、青白い光が素早く明滅めいめつを繰り返す。

 レヴィアの姿を追いながら、俺は改めてこの空間の異質さを実感していた。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

処理中です...