159 / 193
159. 巨怪な漆黒の構造物
しおりを挟む
重力に導かれるように、シャトルは海王星の深淵へと滑り落ちていく。船体が軽く震え、風切り音が響く中、窓の外には果てしない青みがかった世界が広がっていた。
船内では、レヴィアが無骨な工具を手に取り、器用に爆発で損傷した主翼の応急処置に没頭していた。彼女の手際の良さは、幾度となく危機を乗り越えてきた経験の証だった。
「もう少しじゃ、ここを繋ぎ合わせれば……」
レヴィアの呟きが聞こえた瞬間、ボウッという鈍い音が船内に響き渡る。自動操縦のシャトルは海王星の界面に突入したのだ。
窓の外には青い海も空もない。代わりに目に飛び込んでくるのは、朦朧とした霞のような雲の層。暴風に揺さぶられながら、シャトルは深みへと沈んでいく。
「地球の海を思い出しますね」
ユータの言葉に、レヴィアは微かに頷いた。確かに、透明な海水が上から見ると青く見えるのと同じ原理だった。
はるか彼方の太陽の光は、徐々にその存在感を失っていく。
深淵から闇が迫ってくる――――。
作業を終えたレヴィアは鋭い目つきで前照灯のスイッチを入れ、さらなる深部への航行を続けた。
やがて船の周りを舞う無数の白い輝きが目に入った。吹雪のように激しく渦巻く光の粒は、フロントガラスにパチパチと当たりながら煌めきながら周りを過ぎていく。
「これ、何だかわかるか?」
レヴィアの口元に浮かぶ悪戯っぽい笑みに、俺は首を傾げる。
「え? 雪じゃないんですか?」
「はっはっは! ダイヤモンドじゃよ」
「ダ、ダイヤ!?」
いきなり告げられた宝石の名前に、俺はポカンと口を開けたままフロントガラスをのぞきこむ。
「取ろうとするなよ、外は氷点下二百度じゃ。手なんか出したら即死じゃ」
「だ、出しませんよ!」
慌てて否定するユータだが、心は揺れていた。目の前で舞い踊る煌びやかなダイヤの吹雪。一つでも持ち帰ることができれば、ドロシーの指に輝く指輪に仕立てられるのに――――。
だが、ここでふと考えこむ。海王星の物質である宝石を、デジタルの世界へと持ち込むすべなどあるのだろうか? VRのゲームプレイヤーが、VR空間に持ってるものを持ち込めないように、この目の前にあるダイヤを自分の星へと持ち込むことは不可能に思えた。
俺は常識の通用しない別世界に来てしまったことを改めて実感させられ、思わず首を振る。
無数のダイヤモンドは、シャトルの周りで煌めきながら、永遠の饗宴を続けていた。
◇
やがて吹雪の向こうにチラチラと灯りが見えてきた。シャトルは緩やかに減速しながら、そちらへと近づいていく。
「ヨシ! やってきたぞぉ!」
レヴィアはグッとこぶしを握った。その瞳には、懐かしさと誇りが混ざり合って見える。
やがて、吹雪の向こうに巨怪な漆黒の箱が姿を現した。箱といっても一キロはあろうかという巨大構造物だ。そしてその上方からもくもくと蒸気を噴き上げている。
無骨な壁面には幾何学模様の継ぎ目に光の帯が走り、まるで生命の鼓動のように明滅を繰り返していた。
さらに、その巨大構造物は無数連なっており、まるで永遠の闇を駆ける巨大な蒸気機関車のように見える。
「これが……、サーバー……ですか?」
俺はその異形の存在に息を呑んだ。
「そうじゃ、これが『ジグラート』。コンピューターの詰まった塊じゃ」
「こ、これが全部コンピューター!?」
眼前に広がる建造物は、まるで超高層ビル群が密集した街を思い起こさせる。しかも、それが奥に幾つも連なって彼方まで続いているのだ。
「これ一つで地球一つ分じゃ」
レヴィアの言葉に思わずため息をついた。闇に連なる巨大構造物群。それは無限の可能性を秘めたリアルな世界の集合体だった。
船内では、レヴィアが無骨な工具を手に取り、器用に爆発で損傷した主翼の応急処置に没頭していた。彼女の手際の良さは、幾度となく危機を乗り越えてきた経験の証だった。
「もう少しじゃ、ここを繋ぎ合わせれば……」
レヴィアの呟きが聞こえた瞬間、ボウッという鈍い音が船内に響き渡る。自動操縦のシャトルは海王星の界面に突入したのだ。
窓の外には青い海も空もない。代わりに目に飛び込んでくるのは、朦朧とした霞のような雲の層。暴風に揺さぶられながら、シャトルは深みへと沈んでいく。
「地球の海を思い出しますね」
ユータの言葉に、レヴィアは微かに頷いた。確かに、透明な海水が上から見ると青く見えるのと同じ原理だった。
はるか彼方の太陽の光は、徐々にその存在感を失っていく。
深淵から闇が迫ってくる――――。
作業を終えたレヴィアは鋭い目つきで前照灯のスイッチを入れ、さらなる深部への航行を続けた。
やがて船の周りを舞う無数の白い輝きが目に入った。吹雪のように激しく渦巻く光の粒は、フロントガラスにパチパチと当たりながら煌めきながら周りを過ぎていく。
「これ、何だかわかるか?」
レヴィアの口元に浮かぶ悪戯っぽい笑みに、俺は首を傾げる。
「え? 雪じゃないんですか?」
「はっはっは! ダイヤモンドじゃよ」
「ダ、ダイヤ!?」
いきなり告げられた宝石の名前に、俺はポカンと口を開けたままフロントガラスをのぞきこむ。
「取ろうとするなよ、外は氷点下二百度じゃ。手なんか出したら即死じゃ」
「だ、出しませんよ!」
慌てて否定するユータだが、心は揺れていた。目の前で舞い踊る煌びやかなダイヤの吹雪。一つでも持ち帰ることができれば、ドロシーの指に輝く指輪に仕立てられるのに――――。
だが、ここでふと考えこむ。海王星の物質である宝石を、デジタルの世界へと持ち込むすべなどあるのだろうか? VRのゲームプレイヤーが、VR空間に持ってるものを持ち込めないように、この目の前にあるダイヤを自分の星へと持ち込むことは不可能に思えた。
俺は常識の通用しない別世界に来てしまったことを改めて実感させられ、思わず首を振る。
無数のダイヤモンドは、シャトルの周りで煌めきながら、永遠の饗宴を続けていた。
◇
やがて吹雪の向こうにチラチラと灯りが見えてきた。シャトルは緩やかに減速しながら、そちらへと近づいていく。
「ヨシ! やってきたぞぉ!」
レヴィアはグッとこぶしを握った。その瞳には、懐かしさと誇りが混ざり合って見える。
やがて、吹雪の向こうに巨怪な漆黒の箱が姿を現した。箱といっても一キロはあろうかという巨大構造物だ。そしてその上方からもくもくと蒸気を噴き上げている。
無骨な壁面には幾何学模様の継ぎ目に光の帯が走り、まるで生命の鼓動のように明滅を繰り返していた。
さらに、その巨大構造物は無数連なっており、まるで永遠の闇を駆ける巨大な蒸気機関車のように見える。
「これが……、サーバー……ですか?」
俺はその異形の存在に息を呑んだ。
「そうじゃ、これが『ジグラート』。コンピューターの詰まった塊じゃ」
「こ、これが全部コンピューター!?」
眼前に広がる建造物は、まるで超高層ビル群が密集した街を思い起こさせる。しかも、それが奥に幾つも連なって彼方まで続いているのだ。
「これ一つで地球一つ分じゃ」
レヴィアの言葉に思わずため息をついた。闇に連なる巨大構造物群。それは無限の可能性を秘めたリアルな世界の集合体だった。
2
あなたにおすすめの小説
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~
北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。
実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。
そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。
グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・
しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。
これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる