181 / 193
181. ヴィーナスからの回帰
しおりを挟む
ドロシーは一瞬憚るように目を伏せたが、すぐに凛とした表情で顔を上げる。
「ヌチ・ギはたくさんの女の子や私を攫ってもてあそび、ついには巨人化して兵士にしたんです」
その声は小さいながらも、毅然としていた。
「助けに来てくれた『アバドン』さんという魔人の行方も分かっていません。彼らを復活させ、でもヌチ・ギが復活しないようにして欲しいんです」
ドロシーは両手を胸の前で固く組み、真摯な眼差しでシアンを見つめる。その瞳には、失われた命への強い想いが宿っていた。
ニコニコしながら聴いていたシアンは人差し指を自分のアゴにつけ、斜め上を見上げる。その碧い瞳は小刻みに動き、まるでこの世界全てを理解しようとしてるかにすら見えた。
固唾を呑んで見守る俺たち――――。
パチパチっと瞬きをしたシアンはニッコリと笑った。
「オッケー!」
まるで遠足のおやつを決めるような軽い調子で答えると、シアンは右手を高々と掲げた。その指先から、虹色の光が渦を巻いて広がっていく。
おわぁ! きゃぁ! うひぃー!
次の瞬間、俺たちの意識は闇の中へと沈んでいった。最後に見たのは、シアンの無邪気な笑顔だった――――。
◇
お? おぉ……?
目の前に広がる光景に、俺は思わず瞬きを繰り返した。
煌々と輝く|シャンデリアの下、数百もの美しい女性たちが空中で舞い踊っている。その姿は幻想的で、まるで夢の中にいるかのよう――――。
ヌチ・ギの屋敷に戻ってきたのだと理解するまでに、しばらく時間を要した。
中央には戦乙女の巨体が威風堂々と佇んでいる。先程まで死闘を繰り広げ、倒した相手が、あの時と寸分違わぬ姿で立っているのだ。まさに時が巻き戻されたとしか思えない光景に、背筋が凍る。
「うほぉ! これはすごいねぇ! きゃははは!」
シアンの朗らかな笑い声が、ホールに響き渡る。まるで新しいおもちゃを見つけた子供のように、煌びやかな女性たちを眺めている。その無邪気さと、時間を巻き戻した途方もない力の差異に、俺は思わず首を振った。
俺たちが命を賭けて戦ってきた全ての努力は、この可愛い少女の前では子供の戯れにも等しいのではないだろうか……?
俺は深いため息をついた。
「あのぅ……シアンさんは時間を……操れるんですか?」
声が微かに震える。困惑と畏怖が入り混じった感情が、胸の奥で渦巻いていた。
「操るというか……、単にバックアップを復元しただけなんだよね」
シアンはキョトンとしながら、まるで当たり前のことのように答える。
「バックアップ!?」
俺の驚きの声に、シアンは楽しそうに笑った。
「きゃははは! そんなに驚かなくても……。この星のデータは定期的にバックアップされてるのだ。僕はそれを復元しただけ」
その言葉に込められた意味の重さに、俺は眩暈を覚える。星一つを、まるでパソコンのデータのように扱うとは……。
しかし、疑問が次々と湧き上がってくる。あの巨大なジグラートのコンピューター群、その果てしない量のデータをどうやってバックアップするというのか? それも定期的ということはそれこそ無数に保存されているに違いない。想像を絶する記憶容量、途方もないデータ転送速度、そんなこと実際にできるものなのだろうか?
だが――――。目の前で現実に起きていることは否定することは出来ない。踊る女性たち、戦乙女、そしてこのホールそのものが、その荒唐無稽なシステムの証なのだから。
『宇宙最強』――――。その言葉の持つ本当の意味を、今になってようやく理解できた気がした。それは単なる力の強さだけではない。この世界の理そのものを操る存在――――それこそが『宇宙最強』の真の姿なのだ。
この無邪気な可愛い少女に宿る底知れぬ深淵に、俺はブルっと身震いをした。
「ちなみに……どこにバックアップは取ってあるんですか?」
俺の問いかけに、シアンは弾けるような笑顔を浮かべた。
「金星だよっ!」
「き、金星……?」
その予想外の答えに俺は首を傾げ、固まった。海王星のサーバーのバックアップが、なぜ金星にあるというのか? その理不尽な事実に、思考が追いつかない。
俺の困惑を見かねたように、レヴィアが静かに口を開いた。
「海王星は金星のサーバーで作られておるんじゃよ」
「金星のサーバー……?」
その言葉の意味を理解するまでに、時間がかかった。なぜ海王星が金星で作られているのか……?
「えっ、もしかして……」
そして、ようやく閃いた。地球が海王星で作られた仮想世界だったように、海王星もまた金星という上位世界で作られた仮想空間だったのだ。この途方もない事実に、眩暈を覚える。
「海王星も仮想現実空間だったのか……」
これまで、海王星こそが真実の世界で、そこで無数の地球が作られているのだと信じていた。しかし、その認識は誤りだった。海王星もまた、誰かによって作られた世界に過ぎなかったのだ。
「ヌチ・ギはたくさんの女の子や私を攫ってもてあそび、ついには巨人化して兵士にしたんです」
その声は小さいながらも、毅然としていた。
「助けに来てくれた『アバドン』さんという魔人の行方も分かっていません。彼らを復活させ、でもヌチ・ギが復活しないようにして欲しいんです」
ドロシーは両手を胸の前で固く組み、真摯な眼差しでシアンを見つめる。その瞳には、失われた命への強い想いが宿っていた。
ニコニコしながら聴いていたシアンは人差し指を自分のアゴにつけ、斜め上を見上げる。その碧い瞳は小刻みに動き、まるでこの世界全てを理解しようとしてるかにすら見えた。
固唾を呑んで見守る俺たち――――。
パチパチっと瞬きをしたシアンはニッコリと笑った。
「オッケー!」
まるで遠足のおやつを決めるような軽い調子で答えると、シアンは右手を高々と掲げた。その指先から、虹色の光が渦を巻いて広がっていく。
おわぁ! きゃぁ! うひぃー!
次の瞬間、俺たちの意識は闇の中へと沈んでいった。最後に見たのは、シアンの無邪気な笑顔だった――――。
◇
お? おぉ……?
目の前に広がる光景に、俺は思わず瞬きを繰り返した。
煌々と輝く|シャンデリアの下、数百もの美しい女性たちが空中で舞い踊っている。その姿は幻想的で、まるで夢の中にいるかのよう――――。
ヌチ・ギの屋敷に戻ってきたのだと理解するまでに、しばらく時間を要した。
中央には戦乙女の巨体が威風堂々と佇んでいる。先程まで死闘を繰り広げ、倒した相手が、あの時と寸分違わぬ姿で立っているのだ。まさに時が巻き戻されたとしか思えない光景に、背筋が凍る。
「うほぉ! これはすごいねぇ! きゃははは!」
シアンの朗らかな笑い声が、ホールに響き渡る。まるで新しいおもちゃを見つけた子供のように、煌びやかな女性たちを眺めている。その無邪気さと、時間を巻き戻した途方もない力の差異に、俺は思わず首を振った。
俺たちが命を賭けて戦ってきた全ての努力は、この可愛い少女の前では子供の戯れにも等しいのではないだろうか……?
俺は深いため息をついた。
「あのぅ……シアンさんは時間を……操れるんですか?」
声が微かに震える。困惑と畏怖が入り混じった感情が、胸の奥で渦巻いていた。
「操るというか……、単にバックアップを復元しただけなんだよね」
シアンはキョトンとしながら、まるで当たり前のことのように答える。
「バックアップ!?」
俺の驚きの声に、シアンは楽しそうに笑った。
「きゃははは! そんなに驚かなくても……。この星のデータは定期的にバックアップされてるのだ。僕はそれを復元しただけ」
その言葉に込められた意味の重さに、俺は眩暈を覚える。星一つを、まるでパソコンのデータのように扱うとは……。
しかし、疑問が次々と湧き上がってくる。あの巨大なジグラートのコンピューター群、その果てしない量のデータをどうやってバックアップするというのか? それも定期的ということはそれこそ無数に保存されているに違いない。想像を絶する記憶容量、途方もないデータ転送速度、そんなこと実際にできるものなのだろうか?
だが――――。目の前で現実に起きていることは否定することは出来ない。踊る女性たち、戦乙女、そしてこのホールそのものが、その荒唐無稽なシステムの証なのだから。
『宇宙最強』――――。その言葉の持つ本当の意味を、今になってようやく理解できた気がした。それは単なる力の強さだけではない。この世界の理そのものを操る存在――――それこそが『宇宙最強』の真の姿なのだ。
この無邪気な可愛い少女に宿る底知れぬ深淵に、俺はブルっと身震いをした。
「ちなみに……どこにバックアップは取ってあるんですか?」
俺の問いかけに、シアンは弾けるような笑顔を浮かべた。
「金星だよっ!」
「き、金星……?」
その予想外の答えに俺は首を傾げ、固まった。海王星のサーバーのバックアップが、なぜ金星にあるというのか? その理不尽な事実に、思考が追いつかない。
俺の困惑を見かねたように、レヴィアが静かに口を開いた。
「海王星は金星のサーバーで作られておるんじゃよ」
「金星のサーバー……?」
その言葉の意味を理解するまでに、時間がかかった。なぜ海王星が金星で作られているのか……?
「えっ、もしかして……」
そして、ようやく閃いた。地球が海王星で作られた仮想世界だったように、海王星もまた金星という上位世界で作られた仮想空間だったのだ。この途方もない事実に、眩暈を覚える。
「海王星も仮想現実空間だったのか……」
これまで、海王星こそが真実の世界で、そこで無数の地球が作られているのだと信じていた。しかし、その認識は誤りだった。海王星もまた、誰かによって作られた世界に過ぎなかったのだ。
2
あなたにおすすめの小説
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
児童書・童話
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~
北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。
実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。
そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。
グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・
しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。
これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる