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186. 純白の城壁
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キャァァァ! うひぃぃ! 悲鳴がホールを埋め尽くす――――。
魔法陣がバチバチとスパークを上げる中、巨大構造物はようやく止まった。
頭上を覆いつくす巨大構造物がヴゥンと不気味な重低音を上げ、さすがのヴィーナの額にも冷汗が滲んでいる。
「いやぁ、失敗失敗! きゃははは!」
シアンは楽しげに笑いながら指先で空中に不思議な模様を描き、構造物を上空へと浮かび上がらせていく。その表情には一片の反省の色もない。
「あんたねぇ! 危ないじゃない! ……。あれっ!?」
その浮き上がって行く巨大構造物が新雪のような純白の輝きを放っているのを見て、ヴィーナの声が裏返る。そこには無数の宝石が散りばめられ、傾く日差しを受けて七色の光を零している。
「あんた! これ、私ん家じゃない! 私が言ったのは『船』! こないだ作った宇宙船呼べって意味よ!」
ヴィーナの叱責の声が響く。
なんと、この構造物は女神の宮殿だったらしい。一つの街が宙に浮かんでいるかのようなとてつもない規模の豪奢な宮殿。それがゴウン、ゴウンという地響きのような音を立てながら、まるで雲の間を泳ぐように静かに浮遊している。
「あれ? 間違えちゃった。きゃははは!」
「嘘つきなさい! ワザとでしょ、もうっ!」
ヴィーナはジト目でシアンをにらむが、シアンは全く気にせず楽しそうに宮殿を操作している。
「ハード・スターボード!」
ノリノリのシアンの掛け声に合わせ、宮殿はゆったりと南アルプスの上空を旋回していく。色づき始めた夕陽の輝きを背景に、その姿は一層神々しさを増していた。
前方上部は、まるで天空の楼閣のような巨大なガラスのパビリオンとなっており、透明な壁面に差し込む夕日が、内部の豪奢な装飾を覗かせる。
下半分と後部は、純白の輝きを放ち、ちりばめられた無数の宝石がキラキラと瞬く。それはまるで銀河の星々を集めてきたかのような壮麗さである。さらに、純白の外壁を優美に走る黄金のラインは、天空を駆ける竜のような曲線を描き、豪奢な宮殿を華やかに彩っていた。
これこそが女神の住まうところ――――。
その荘厳さと想像を絶するサイズに、俺は神々の世界の片鱗を実感する。視界いっぱいに広がる純白の城壁は、人知を超えた存在の威厳を示していた。
「キャーーーー!」「素敵ーーーー!」「うわぁ! すごぉぉい!」「夢の中みたい!」
一時はどうなるかと思ったものの、女性たちから黄色い歓声が次々と上がる。解放された喜びと、目の前の光景への驚嘆が混ざり合い、それぞれの瞳は輝きに満ちていた。中には感動のあまり涙を零す者もいる。
「んもーーーーっ! しょうがないわねぇ……」
ヴィーナは歓声に気を良くして、まんざらでもない様子である。扇子で口元を隠すしぐさに、密かな愉しさが滲む。
「マゼンタ! 彼女たちをもてなしてくれるかしら?」
ヴィーナは宮殿に向かって声を上げた。その声に応えるように、宮殿全体がぼうっと仄かな光を放つ。
すると、宮殿の底についていた四角い建物がスーッと降りてきて、ホールの上空で止まった。まるで生きているかのような、しなやかな動きだ。そして、真珠の輝きを放つ階段がスーッと伸びてくる。
瑠璃色の大きなドアがギギギギときしみながら開くと、中から端正な顔立ちの執事が出てきた。銀の燕尾服に身を包んだその姿は、まさに典雅そのものだ。
「おもてなしの用意はできております、皆さまどうぞ。本日は女神様の宮殿にて、心ゆくまでお寛ぎください」
うやうやしく女性たちに頭を下げる仕草には長年の経験が滲んでいる。
しかし、いきなりこの豪奢な宮殿へどうぞと言われても、すぐには動けない。女性たちは顔を見合わせて困惑していた。
ヴィーナはそんな彼女たちを優しく見回すと、
「美味しい食事とお酒、それに温泉もあるわよ! 今日はゆっくり休んで!」
と、優しく微笑みかけた。
「お、温泉!?」「キャ----!」「やったぁ! お姉さまたち、行きましょう!」
歓喜の声には、これまでの苦難が嘘のように消え去った明るさがあった。
次々と真珠の階段を昇る女性たち。その姿は、まるで天国への階段を登っていくようだった。
何百人もの女性のもてなしをあっという間に用意する執事、いったいどれ程の修羅場を超えてきたのだろうか? その完璧な態度の裏には、数え切れないほどの経験が隠されているに違いない。ヴィーナに仕えるというのはこういう事なのだろう。
宮殿の中から漂う甘い香りと、女性たちの笑い声が、夕方の空気に溶けていく――――。
魔法陣がバチバチとスパークを上げる中、巨大構造物はようやく止まった。
頭上を覆いつくす巨大構造物がヴゥンと不気味な重低音を上げ、さすがのヴィーナの額にも冷汗が滲んでいる。
「いやぁ、失敗失敗! きゃははは!」
シアンは楽しげに笑いながら指先で空中に不思議な模様を描き、構造物を上空へと浮かび上がらせていく。その表情には一片の反省の色もない。
「あんたねぇ! 危ないじゃない! ……。あれっ!?」
その浮き上がって行く巨大構造物が新雪のような純白の輝きを放っているのを見て、ヴィーナの声が裏返る。そこには無数の宝石が散りばめられ、傾く日差しを受けて七色の光を零している。
「あんた! これ、私ん家じゃない! 私が言ったのは『船』! こないだ作った宇宙船呼べって意味よ!」
ヴィーナの叱責の声が響く。
なんと、この構造物は女神の宮殿だったらしい。一つの街が宙に浮かんでいるかのようなとてつもない規模の豪奢な宮殿。それがゴウン、ゴウンという地響きのような音を立てながら、まるで雲の間を泳ぐように静かに浮遊している。
「あれ? 間違えちゃった。きゃははは!」
「嘘つきなさい! ワザとでしょ、もうっ!」
ヴィーナはジト目でシアンをにらむが、シアンは全く気にせず楽しそうに宮殿を操作している。
「ハード・スターボード!」
ノリノリのシアンの掛け声に合わせ、宮殿はゆったりと南アルプスの上空を旋回していく。色づき始めた夕陽の輝きを背景に、その姿は一層神々しさを増していた。
前方上部は、まるで天空の楼閣のような巨大なガラスのパビリオンとなっており、透明な壁面に差し込む夕日が、内部の豪奢な装飾を覗かせる。
下半分と後部は、純白の輝きを放ち、ちりばめられた無数の宝石がキラキラと瞬く。それはまるで銀河の星々を集めてきたかのような壮麗さである。さらに、純白の外壁を優美に走る黄金のラインは、天空を駆ける竜のような曲線を描き、豪奢な宮殿を華やかに彩っていた。
これこそが女神の住まうところ――――。
その荘厳さと想像を絶するサイズに、俺は神々の世界の片鱗を実感する。視界いっぱいに広がる純白の城壁は、人知を超えた存在の威厳を示していた。
「キャーーーー!」「素敵ーーーー!」「うわぁ! すごぉぉい!」「夢の中みたい!」
一時はどうなるかと思ったものの、女性たちから黄色い歓声が次々と上がる。解放された喜びと、目の前の光景への驚嘆が混ざり合い、それぞれの瞳は輝きに満ちていた。中には感動のあまり涙を零す者もいる。
「んもーーーーっ! しょうがないわねぇ……」
ヴィーナは歓声に気を良くして、まんざらでもない様子である。扇子で口元を隠すしぐさに、密かな愉しさが滲む。
「マゼンタ! 彼女たちをもてなしてくれるかしら?」
ヴィーナは宮殿に向かって声を上げた。その声に応えるように、宮殿全体がぼうっと仄かな光を放つ。
すると、宮殿の底についていた四角い建物がスーッと降りてきて、ホールの上空で止まった。まるで生きているかのような、しなやかな動きだ。そして、真珠の輝きを放つ階段がスーッと伸びてくる。
瑠璃色の大きなドアがギギギギときしみながら開くと、中から端正な顔立ちの執事が出てきた。銀の燕尾服に身を包んだその姿は、まさに典雅そのものだ。
「おもてなしの用意はできております、皆さまどうぞ。本日は女神様の宮殿にて、心ゆくまでお寛ぎください」
うやうやしく女性たちに頭を下げる仕草には長年の経験が滲んでいる。
しかし、いきなりこの豪奢な宮殿へどうぞと言われても、すぐには動けない。女性たちは顔を見合わせて困惑していた。
ヴィーナはそんな彼女たちを優しく見回すと、
「美味しい食事とお酒、それに温泉もあるわよ! 今日はゆっくり休んで!」
と、優しく微笑みかけた。
「お、温泉!?」「キャ----!」「やったぁ! お姉さまたち、行きましょう!」
歓喜の声には、これまでの苦難が嘘のように消え去った明るさがあった。
次々と真珠の階段を昇る女性たち。その姿は、まるで天国への階段を登っていくようだった。
何百人もの女性のもてなしをあっという間に用意する執事、いったいどれ程の修羅場を超えてきたのだろうか? その完璧な態度の裏には、数え切れないほどの経験が隠されているに違いない。ヴィーナに仕えるというのはこういう事なのだろう。
宮殿の中から漂う甘い香りと、女性たちの笑い声が、夕方の空気に溶けていく――――。
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