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      文  学

   『素晴らしい新世界』(SF)

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       オルダス・ハクスリー
        光文社古典新訳文庫

 AD2540年、揺りかごから墓場までの全生活において、人生が規定された社会。人は人工培養によって誕生し、複数ある階級の必要に応じて、新生児が生産、供給されていく。

 自己責任は存在せず、失敗もなければ悩みもない、迷いから完全に隔てられた管理社会。

 自己が自己であるための欲望は、セックスと薬物に全て還元されてしまう。極めて画一的で単純な衝動と感情しか存在しない、いや、存在が許されない社会。

 全ては"社会の安定"に収斂し、自然界で普遍的に見られる"無常"は、社会の安定を損なわない程度でしか存在できない。創造的変化は際だって恣意的で、結果、その姿は偏りの極まった、"安定"と言う名の硬直した非柔軟的社会となった······

 オルダス・ハクスリーによって、1932年に上梓された『素晴らしい新世界』は、ジョージ・オーウェルの『1984年』、『動物農場』と並んで、全体主義的管理社会をディストピアとして表現した、風刺文学の傑作である。

 近年、権力による監視社会化が問題になって、英米を中心に『1984年』が再び脚光を浴びるという出来事があった。

 ソビエト全体主義がモデルとなっているだけに、資本主義側の『1984年』は、この管理社会を強権抑圧的な社会として描いている。そのため、暗く救いのない失敗した世界として『1984年』は全体主義社会の代名詞的存在となった。
 
 『1984年』は、敵を陥れるイデオロギーが過剰に含まれている感は否めない。しかし、『素晴らしい新世界』は全体主義社会を、One  of  themとしか見ていない。

 世界は資本主義のためだけに存在している訳ではない。"安定"を求めたら、結果的に全体主義的な管理社会になったに過ぎないのが、『素晴らしい新世界』の視点である。

 単なる妥協の産物に過ぎないことを弁えている。資本主義のための資本主義とでも言った、目的と手段を履き違える非寛容な原理主義的イデオロギーがないので、作品世界は、ディストピアと言うよりユートピア的ですらある。

 資本主義だけが目指すべきユートピアではない、こういう形のユートピアがあったっていい。世界は多様なのだから。

 しかし、不思議ですね。全体主義的な管理社会でありながら、この社会の住人達は、自分のことしか考えない刹那的快楽主義者ばかりです。その姿は、資本主義よりもよほど資本主義的です。

 資本主義は行き着くと社会主義化するのか、マルクス共産主義ではないが、資本主義は社会主義の前段階なのだろうか?

 "例外は、法則を明らかにする"
      
     エルビィン・シュレーディンガー

 
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