水と言霊と

みぃうめ

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第11話    私の人生⑪

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  マッキーと仲良くしながらあっという間に3年が過ぎた。
 あれからは特に問題も起こらず、長期連休は親方の所に戻り働かせてもらいながら勉強する生活に戻った。マッキーを連れてきたこともある。土木の同僚どもがマッキーを見てざわついていた。美人だからな。手出したら殺るぞと釘は指しておいた。
 マッキーのおかげで、楽しいことばかりだった。だいぶ普通の生活ってやつにも詳しくなったし、マッキーの影響で漫画や小説好きになった。小説を読み、お互いの感想や考察をあーでもないこーでもないと話すのが楽しい。
 マッキーに指摘されるまで気付いていなかったが、私は高頻度で鼻歌を歌っているらしい。聞かされた時は信じられなかった。知っている歌なんてほとんどないからだ。学校の授業で習ったような歌しか記憶にない。
 マッキーが聞いている感じからすると、流石に鼻歌だけあって歌詞まで聞こえているわけではないから正確ではないが、どうやら最新の歌も鼻歌で歌っているらしい。
 そんなバカな!ほんとに知らないのに!
 二人で考え、街やコンビニで流れている歌を無意識に取り込んでいるのでは、という答えにたどり着いた。
 物は試しと歌番組を見聞きした。1回聞けばほぼ覚えた。なんで?突然の不思議能力開花。
 マッキーが面白がり、人生で初めてのカラオケに連れて行かれた。暗くて狭い部屋にびびる。何でこんな怖い空間に連れて来られたのか怯えている私にお構いなしに覚えた歌を歌えと言われ
「1回しか聞いてないんだから間違えても笑わないでよ!」
 と念押しをして歌い出すと、自分でも信じられないほど楽しく、凄く頭がクリアになる感覚に、流石不思議能力!と感動していた。
 歌い終わってマッキーに感想を聞こうと、マッキーを見やる。
 固まってる。
「おーい?ねぇ、ちゃんと聞いてた?おかしくなかった?」
 と聞くとマッキーが再起動してきた。
「千早なんでそんな歌上手いのよ!カラオケ初めてなんでしょ!歌手!歌手になれるから!早くどっかのオーディションに応募してよ!」
「そんなこと言われてもこんな暗くて狭い部屋来たことなんてないよ。音は大きいし本当に怖かったんだからね!」
「それはいいから!歌手!歌手になれ!」
 それはいいからって何よ、本当に怖かったのに。それに歌手めちゃくちゃ推してくる。これは褒めてくれてるのか?歌手になれるくらいには上手いんじゃないかと。
「私歌上手いの?褒めてくれてありがとう。」
 褒められたなら御礼を言わねば。
「ちっがーーう!いや違わないけど!すんごく歌じょうずよ!いやそこじゃない!歌手!歌手になれるから!本当に!」
 マッキー大混乱。私も混乱した。こんなマッキー見るの初めてだ。ん?てことは本気で歌手になれと言ってるのか?
 いや無理だろ無謀だろ。
「え、やだ。うまいだけで歌手なんてなれないよ。上手いだけでなれるなら世の中歌手だらけよ?逆に声に特徴あればちょい下手でも歌手になれる。トレーニングすれば上手くなるからね。歌ウマじゃなく、声質。
 世の中そんな甘くないよ?現実見て。
 それに歌手にそもそも興味がない。
 だからマッキー。取り敢えず落ち着いて。」
 なんとかマッキーを落ち着かせて話を聞けば、本当に本気で歌手になれると思ったらしい。
 ありがたいけど、それは私がなりたいと思っているのが前提だよね?マトモに真剣に歌を歌ったのが今日初めてなんだから、そもそも興味なんてないよ。と、私は働きたい所があるんだと諦めさせた。


  私は親方の所に戻ってくることを決めた。親方に話したら、本当にそれで良いのかと言われたが決意は変わらなかった。
 色んなところに行ったりするのは、実際に行くよりも本やTVを見て自分で夢想するほうが楽しかったし、結局のところ、何をするのもどこへ行くのも、それを一緒にする人と私の気持ち次第なんだと実感した。仕事にするほど好きな何かは見つけられなかった。
 大学に行って良かったことはマッキーと出会えたことだ。マッキーと色んなことを経験したからこそ楽しかったのだ。
 マッキーも東京の出版社に就職が決まった。お互い就職先が決まり、長い夏の休みに卒業旅行と称してかなり散財しながら色んなところを巡った。お金はこれからまた貯めればいい。


 遂に卒業式を迎え、マッキーとまた近いうちに会おうと約束しながら見送り、借りたアパートの片付けをし終えたところで実家から母死去の連絡が入った。
  中学を卒業してから全く顔を合わせていなかったのに、母から貰ったモノは罵倒と放置だけだったのに、今更なんだと言うのか。
 迷ったが、もう二度と家には帰らないと告げる良い機会だと思い、一度顔を出すことにした。


 これが私の新たな地獄の始まりだとも知らずに





 実家に顔を出したら父親が待ち受けていた。
 顔を合わせるなり、弟子と結婚しろと言われた。怒りを通り越し呆れた。もちろん話しにもならないと出ていこうとしたら
「お前、出ていっていいのか?後悔しないか?お前のせいで、あの土木の親父がどうなってもいいのか?中学の時の女の担任も、今も仲良くしてるんだってな。大学で友達も出来たんだって?随分美人な子だったなぁ。」
 腸が煮えくり返るような思いで殺意を持って振り向き、父親の顔を見て凍り付く。その顔は見覚えがあり過ぎるほどあった。
 私が修得できないことや技があった時に向けられていた顔だった。出来なければ出来るようになるまで殴られていた。
 この男はやると言ったら必ずやる。
 もし、この男が暴力を働き逮捕されたとしても、私の大切な人達が再起不能になるほどの怪我を負わされたら?腕や脚を潰されたら?目を抉られたら?その怪我の理由が私だと知ったら?父親が逮捕されたって奪われたモノは絶対に戻ってこない。
 大切なモノを奪われる恐怖に身震いする。
 私が実家で暮らしていた頃は知らなかったのだ。分かっていなかったのだ。奪われるモノも、大切なモノも、護りたいモノも、何もなかったから。
 今は違う。
 
 失うことなど考えられない

 コイツヲコロシテヤリタイ
 
 目の前が真っ青になる


 だけど、今まで一度だってコイツに勝てたことなどなかった。しかも実家を出てからトレーニングすら何もしていない。凶器を持ち出しても勝てる道が見えない。

 言いなりになる他なかった







 結婚しろと言われた弟子は、私に働きながら勉強してみたらと言ってくれた弟子だった。実家にいた頃ずっと優しく料理や掃除を教えてくれていた。
 好きでもなければ憧れも持ったことはないが、相手がこの人ならば最悪なことにはならないだろう。
 この時全てを諦めていた私にとって唯一の救いは弟子の過去の記憶だった。
 せめて結婚するから働けなくなったと伝えたいとヤツに伝えると手紙ならばと言われた。当然中身も確認される。私は助けを呼ぶことなど考えていない。当然だ。ヤツから大切な人達を護りたいからここに残る道を選んだのだから。

 元々地獄に産まれていたからそれが普通だった。何も思わなかった。
 でも、ぬるま湯のような守られる日々を、笑い合える日々を、キラキラ輝く泣き出したくなるほどの幸せな日々を、知ってしまった。


 何故私には救いがないのか
 何故私だけが奪われるのか
 私は神にすら見捨てられたのか


 
 この世に神なんていない



 地獄に戻ることになるならば、希望なんて見せないでほしかった。幸せなんて知りたくなかった。


 本当の地獄はここからだろう







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