水と言霊と

みぃうめ

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第140話    私の秘密

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 私は彼とそのままの距離を保ち、床に座った。


「ごめんね。
 私が怖いよね?
 あんなに貴方の前で怒鳴っていたんだもん。
 そんな大人を見て、怖くないはずないよね?

 貴方の気持ちを考えてあげられていなくてごめんね。


 あのね、私があんなに怒っていたのは、理由があるの。

 これは内緒の話なんだ。
 だから、私と貴方の内緒にしてほしいの。

 あのね、私は地球に家族がいるの。
 とってもとっても大切で、可愛くて、大好きな二人の子供がいるの。
 私はね、その二人を守っていくと約束したの。」

 私が子供の話をした瞬間、彼は顔を上げた。
 私をじぃーっと見ている。
 色は赤色。
 私も彼の目を見つめながら話し続ける。

「でもね、ここに連れてこられちゃった。
 勝手に連れてこられたの。

 早く地球に帰りたい。
 帰る方法が知りたい。

 早く地球に帰って、二人の子供達を抱きしめて、安心させてあげたい。
 二人の泣いている姿ばっかり思い出しちゃうの。


 だからね、早く帰りたくて怒っちゃったの。」

 言いながら涙が溢れてくる。

「貴方はどう?
 地球に帰りたくない?

 たった一人で、怖かったよね?
 ずっと一人で頑張ってたんだよね?


 私、貴方を守りたい。
 守らせてほしい。
 頑張り屋さんの貴方を。
 もう一人で不安にならないで。

 貴方は一人じゃないよ。
 私が貴方の味方になる。



 言葉、通じてるよね?



 貴方は、本当は何歳なの?
 教えてくれる?」


 泣きながら問いかける。
 彼の姿が子供達と重なる。
 訳もわからずこんな所に連れてこられて
 目が覚めたら大人の姿。
 でも心は子供のまま。
 どれだけ怖いんだろう。
 雷に怯える姿は愛流と同じだった。

 彼の不安を少しでも失くしてあげたい。


 彼は俯いた。
 ぎゅっと身体を縮こまらせ、顔は見えないけれど、その目からは涙が出ているんだろう。
 目の辺りからポタポタと雫が溢れているのが見える。

 声を我慢して泣くその姿に胸が痛くなる。
 我慢しなくてもいいんだよと言ってあげたい。



 やがて、震える小さな声が聞こえてきた。

「…ぼく……ぼ…く…………」

 その舌足らずな喋り方。
 絶対子供だ。

「うん。」

 焦っちゃ駄目。初めて喋ってくれたんだ。
 心を開いてくれようとしている。
 我慢だ。
 じっと待つ。
 待ち続けて……



「…………ぼく、きゅ……う…さい……」


 その言葉を聞いた瞬間、二歩分開いた距離を詰め彼を抱きしめる。
 我慢なんてできなかった。

「頑張ったね!偉かったね!
 怖くて不安で、でも誰にも言えなかったんだよね?
 もう大丈夫だよ。
 私がいる。
 私が貴方を守る!
 絶対守るからね!

 気づいてあげられなくて、本当にごめんね。
 一人で頑張らせちゃったね。」


 私は泣きながらぎゅーぎゅー彼を抱きしめる。
 きっと、言っていることは無茶苦茶だっただろう。泣きながら喋っていたから、聞き取れたかも微妙だった。

 彼は私に抱きつき、堰を切ったようにわんわん泣き出した。



 二人で思いっきり泣いたあと
「いっぱい泣いちゃったね。」
 と微笑みながら彼に言うと
「うん。へへっ。」
 と笑ってくれた。

「あ、お菓子食べる?」
 と聞くと
「でも…おかしいっぱいたべるとママにおこられちゃうから…」
 と悲しげに言った。
 だからお菓子を見て悲しそうにしてたんだ!
「じゃあ今日は特別ってことにしよう!
 お菓子食べながら夜更かしして、いっぱい色んなこと話そう!
 たまには特別もあっていいんじゃない?」
「……うん!」

 立ち上がりソファに座る彼。
 向かいの椅子に行こうとしたら服をぎゅっと掴まれ
「となりがいい。」
 と言われた。
 可愛くてしょうがない!!!
「いいよー!じゃあ隣に座るね!」
 彼の隣に座り
「どのお菓子が美味しかった?」
「せんぶ、おいしい。」
「そうなの?これはねぇ、全部私が作ったんだよ!
 他に好きなお菓子とかはあるの?」
「あんまりおかしたべたことないから、わかんない。」
「そうなの?じゃあどんな見た目のお菓子があったらいいかなぁ?」
「ぼく、め、ちょっとしかみえなかったから…
 よくわかんない。」
 えっ!!??
「今は?今は見えてるの?」
 私の姿追いかけてたよね!?
「まえは、ぜんぶぼやけてて…
 いまは、たぶん、みえてる。」
「そう、なんだね。」
 確認の方法なんてすぐには思いつかない。
「じゃあ、色はわかる?」
「それは、まえも、いまも、わかる。」
「あのね、私は地球にいた時と歳が違うの。なんでかわからないけど、歳がズレちゃってるの。貴方もそうだよね?」
「……たぶん、そう。」
 そっか。見えてなかったからよくわからないんだ。
「何か、変わったなって思うところある?」
 彼は顎をさすりながら
「ここに、け、あるのと、めのいろ。」
「目の色?地球にいた時は何色だったの?」
「あかいろ。」
 赤!?
 そんな人間いるの??
 ………まさかアルビノだった?
 だから弱視だったってこと?
 しかも赤ならかなり重度のアルビノだ。
 アルビノの弱視の場合、治療法はない。
「ママに、アルビノって言われたことはある?」
「いってた。」
 異世界に連れてこられて年齢の齟齬はあったけど、病気が治ったなんて聞いたことない!
 他の人も気づいてないだけでもしかしたら病気が治ってた!?
「えっとね、肌が青い人達がいるでしょ?
 その人達に、本当の歳だったり、病気が治ったりしたことが知られたら、とっても困るの。
 私達も秘密にしてるの。
 だから、絶対言っちゃ駄目だよ!」
「うん。こどものことはどうしてないしょ?」
 そりゃ、疑問に思うよね。
「バレたら怖いことになりそうなの。
 だからね、私は誰にも言ってない。
 地球から来た人にも誰にも。
 だから、私と貴方の二人だけの内緒。
 いいかな?」
「ぼくたちだけのないしょ?」
「そう。ないしょ。」
「うん!ぼくだれにもいわない!」
「ありがとう。」
 そう言って頭を撫でる。

「あ!そうだ!
 貴方の名前を教えてくれる?」
「ぼくは、あやねっていうの。
 いとへんにしゅんのものってかくの。
 ねはおとってかんじなの。
 はなやかなおとっていみなんだって!」
「それ、ママに教えてもらったの?」
「うん!」
「そっかぁ。ちゃんと覚えてて偉いね!
 あっくんて呼ばれてたの?」
 以前“あっくん”の言葉に反応してたのを思い出した。
「あっくんてよぶひともいたけど
 ママはあやくんてよんでた。」
「私は絢音って呼びたいけど、いいかな?」
「うん!いいよ!
 おねーさんのおなまえは?」
「私は紫愛だよ。」
「………………ちがう。」
 絢音は首を傾げながら言った。
「違う?何が?」
「なまえ。へん。」
「紫愛って名前、変だった?」
「おねーさんじゃない。」
 ????どういうこと?
「もしかして、偽名だってこと?」
「ぎめいってなあに?」
 そっか、偽名わかんないよね。
「お姉さんの本当の名前じゃないって意味だよ。」
「ほんとうのおなまえ、あるの?」
 これ、言ってもいいのかな?
 もう紫愛で通っちゃってるしなぁ。
 でも絢音に嘘つきたくないな。
「お姉さんの本当の名前は光紗っていうの。
 みはひかるって漢字で、さは糸偏に少ないって書くの。
 光を纏う。って意味だよ。」
「みさ…うん。
 おねーさんのおなまえ。」
 絢音はしっかり頷きながら納得の表情。
 どうして偽名だってわかったんだろう?
「絢音、あのね、光紗って名前もみんなには内緒にしてるの。みんなには私の名前は紫愛って言ってあるんだ。だから、光紗とは呼ばないでほしいなぁ。」
「でもしあちゃんじゃない!
 ……じゃあ、みーちゃん。
 それもだめ?ないしょ?」

 みーちゃん。
 その呼び名を聞いたらまた涙が出てきてしまった。
「みーちゃん、どうしたの??」
 絢音が困っている。
 この子を困らせたら駄目だ。
「あのね、私の子供達に、ママって呼ばれたり、みーちゃんて呼ばれたりしてたの。それを思い出しちゃっただけ。」
「………みーちゃんてよばれたらかなしくなっちゃう?ならぼくやめる。」
 ソファに膝立ちをして絢音をぎゅっと抱きしめる。
 なんて優しい子。
「悲しくなんてならないよ。
 絢音が好きに呼んでくれたらいいんだよ。
 絢音がみーちゃんて呼んでくれたら嬉しい。」
「いいの?」
「いいよー!でも、光紗って名前は私と絢音の内緒ね!」
「わかった!」
「さぁ、そろそろ寝ようか?だいぶ遅くなっちゃったね。
 夜更かし大成功だね!」
 抱きしめたまま頭を撫でる。
「……………ぼく……みーちゃんといっしょがいい。」
 絢音は私と離れまいと必死にしがみつく。
「ん?一緒に寝たいってこと?」
「………うん。もうひとりはやだ……」
 折角仲良くなれたのに離れたら不安だよね。
「いいよー!みーちゃんと一緒に寝ようね。」
「うん!」


 雷の音はかなり遠くなっていた
















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