水と言霊と

みぃうめ

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第218話    絢音の因子考察

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 翌朝、朝食の時間になりロビーへ出る。
 あっくんはすでに席に着いていた。
「おはよう。」
「おはよう。昨日は髪の毛ありがとう。」
 あっくんに返事をすると、ガチャっと何処かの部屋の扉が開く音が聞こえる。
 音のした方へそちらに視線を投げると、出てきたのは絢音だった。直ぐに駆け寄る。
「絢音!」
「みーちゃんおはよ。」
「身体の調子は?気分悪くない?大丈夫なの?」
「のどかわいた。」
 よく聞けば声が少しガラガラしている。
「おいで。お水あるから飲もうね。」
 頷く絢音の手を握り机に向かう。
「絢音、おはよう。ゆっくり飲めよ。」
 あっくんはそう言って、コップに用意してくれていた水を差し出してくれた。
 絢音はそれを頷きながら受け取りゆっくり飲み干す。空になったコップをあっくんに差し出し
「もっと。」
 とおかわりを強請る。

 二杯水を飲み、漸く落ち着いたんだろう。
「あーくんありがとう。」
 と微笑んでくれた。
「ああ。身体の調子はどうだ?」
「だいじょぶ。」
「良かったぁ。
 目が覚めなくて心配してたの。」
「ぼく、いっぱいねてた?」
 さっきから不思議そうな顔をしている絢音に疑問が湧く。
「もしかして倒れたの覚えてない?」
「??」
 私の言葉に首を傾げる絢音。
「絢音、外に出たのは覚えてるか?」
「うん。みんなとおそといった。」
「絢音は外で倒れたんだ。」
「……おぼえてない。」
 あっくんと私は顔を見合わせる。
「そっか、覚えてないなら良いよ。
 元気になってくれたならそれで良い。」
 そう言って頭を撫でる。
「外には出られなくなったんだ。
 俺としーちゃんはあと二日でここを離れないといけない。だけど香織さん達が一緒に居てくれるから、絶対一人になったら駄目だぞ。」
「みーちゃんいっちゃうの?」
 途端に不安そうな表情になる絢音。
 そこへ他のみんなも部屋から出てきた。
「おはよう。
 あら、絢音君目が覚めたのね。
 良かったわ。」
「おはよう。起きれて良かったね。」
「おはよ。」
「かおちゃん、みーちゃんいっちゃう……」
「話を聞いたのね?
 大丈夫よ。私達と一緒に居ましょうね。」
「みーちゃんかえってくる?」
 絢音は半泣きになりながら言う。
「勿論だよ!絶対帰ってくる!
 だからカオリン達から離れないでね!
 待っててくれる?」
「……………………ぼく、まってる。」
 絢音は俯きながら小さな声で答えてくれる。
「ありがとう。」
 そう言って私は俯く絢音を抱きしめた。

 みんなで朝食を終えたあと、練習場に行く時間がないので制御をやる。
 みんなはとても上手くなってきたけど、絢音だけは相変わらず目から魔力漏れが見えたり見えなかったり。
 制御ができれば、ずっと魔力漏れは見えなくなるはず。こんなふうになることは考えられない。やっぱり光か闇だからか……
 私一人で考えていたって答えはわからない。それじゃあ絢音のためにはならない。
 文献を解読できるのはカオリンだけ……
 光と闇についての昔の記述があるかどうか、相談してみよう。


 あっという間に昼食の時間を終え、優汰はいそいそと畑へ。あっくんは皇帝が寄越した迎えが来たので送り出し、絢音はピアノが弾きたいと言うので三階へ。
 私は外で護衛についているハンスに一言断りを入れ、ロビーにいるカオリン、麗、金谷さんに話しをする。
「カオリン達に相談したいことがあるの。」
 本を開いていたカオリンは
「なにかしら?」
 と言いながら本をそっと閉じる。
「絢音の因子のことなの。
 私は絢音が………光か闇の因子持ちなんじゃないかと思ってるんだけど、みんなはどう思ってる?」
「私もその可能性が高いと思っていたわ。」
「私はわかんない。」
「俺は光だと思う。」
 金谷さんからは闇を否定する発言が出た。
「何で金谷さんは光だと思うの?」
「前に言った。
 あの幽霊が光学迷彩かって。
 光学迷彩も要は光の屈折。
 アレは絢音君を自分と同じって言った。
 光学迷彩なら光。
 闇はエネルギー源が不明。」
「金谷君の説は有力ね。
 だけど、陽の光が駄目だと言うのは何故なのかしら?
 光ならば陽の光はエネルギーの源のように感じるのだけれど。」
「それは不明。
 ただ仮説なら立てられる。
 絢音君制御完璧じゃない。
 流用ができないのかもしれない。」

 流用?
 魔法が使えないって意味?

「では、あの器が壊れるという発言は?」
「例えば海外のような電圧が違う場所で日本製の機械を使用しようとしたら?」
「そりゃ壊れるよね。」
「そう。
 それで使った場合、モーター部分や配線内が焼き切れて故障する。
 機械なら部品交換も可能。
 重大な損傷でなければ直せるかも。
 でも人間は部品交換なんて無理。」
「だからあんなに幽霊が怒っていたのね?
 私達を近付けまいとしたのもそのせい。」
「あくまで仮説。
 闇なら全く原理がわからない。」
「じゃあ………………
 もし金谷さんの仮説が事実なら、絢音は本当に死んでた……?」
「紫愛ちゃん、それはわからないわ。
 そもそもよ?そんなに危険なことなら何故事前に言っておかなかったの?」
「それは俺も思う。」
「兎に角、魔法陣よりも先に絢音君の因子を調べなければならないわ。
 どんなことが危険かわからない状態が一番良くない。
 アレが陽の光に当てるなしか言わなかったから、とりあえずそれは絶対回避ね。
 またアレに出てこられたら今度こそ露見してしまうわ。」
「光か闇か、どっちだとしてもバレたらヤバいんじゃないの?」
「麗ちゃんの言う通り、バレたらマズイわ。
 でも、幸いなことに誰にも因子検査の方法がわかっていないし、文献も読めていない。
 問題は記述が残っているかどうかよ。」
「保護の魔法陣がかかってる所にはあるかな?」
「ハンスさんが持ってきてくれた本を順に解読してからでないと、そっちに行ってもすぐには読めないわ。
 魔法に関しての記述を優先的に進めるから安心してちょうだい。」
「カオリンにばっかり任せてごめんね。」
「何言ってるのよ。紫愛ちゃんはこれから私達の分も危険な場所へ向かうのよ。
 私は私にできることをやるだけよ。
 それにみんなも手伝ってくれるんだから大丈夫よ。」
「そうよ!
 こっちのことは任せておいて自分のことを心配しなさいよ!」
「うん。ありがとう!
 じゃあ私はこの建物の周辺を探ってくる!
 行ってきます!」
「「「行ってらっしゃい。」」」


 私はハンスと共に建物の外を回る。
 昨日みたいに何かを喋ることはもうしない。ハンスも余計なことは口にしない。
 壁沿いに歩きながら、ここは中のどの部屋と隣り合わせかをひたすら聞いて回る。
 すぐに確認作業は終わり、ハンスが
「紫愛様は馬には乗れますか?」
 と聞かれた。
 乗れるわけがない。乗馬は金持ちじゃないと無理な話だ。
「乗れない。」
「そうですか、乗れるのでしたら外周を見て回るのも早いと思ったのですが。」
「私は走るからハンスは馬に乗ってきたら?」
「それはできません。万が一でもあってはいけませんから。」
 ですよねー。
「じゃあやっぱり走ろう。」
「私が追いつけません!」
「大丈夫。ゆっくり走る。行くよ!」
「お待ちくださいっ!!!」
 私は後ろを伺いながらジョギング程度で走り続ける。
 外周へ辿り着くのも結構距離がある。
 みんなは何かあった時でもこの距離を走りきれないだろう。
 畑を抜け、牛舎を発見!
 一定の距離に近付いた途端に獣臭が襲ってくる。
 なんで急に!?
 もっと前から臭ってきてもおかしくないのに!
 まさかこれも魔法陣か魔法具か何か?
 強い臭いに敏感な私は一気に駆け抜ける。
 チラッと牛を見ると、かなり小さく角のような物が生えた牛達。
 私が知る牛とは違う姿。
 地球の牛も品種改良されてるんだよね?
 確か乳牛は沢山の乳を搾り取る為の品種改良を繰り返された結果、様々な病気を併発していて“品種改悪”とまで呼ばれていたことを思い出した。
 駆け抜けて行くと、ある一定の距離で急に臭いがしなくなった。
 やっぱり何か仕掛けがあるな。
 皇帝やその家族が住んでいるなら臭いの対策くらいされていて当然か。


 そしてまたゆっくりジョギングの速度で塀を目指して走り出した。











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