水と言霊と

みぃうめ

文字の大きさ
上 下
314 / 337

第314話    ギトー家との会食③

しおりを挟む



 メイド達が料理を並べ終わるまでは終始無言。
 メイド達は配膳が終わるとすぐに退室した。


「御二方は猪肉がお好みだと聞いたのでな、場に相応しく牛も用意はしたが、無理を押して食べる必要はない。」
「お気遣いありがとうございます。
 因みにこの黒い粒は胡椒ですか?」
「そうだ。」
「胡椒は高級品だと聞き及んでいますが、その理由は森でしか採れないからでしょうか?」
「ああ。採取可能な量が限られているんだよ。
 必然的に値段の高騰に繋がる。」
「そうですか。」
「なんだ?欲しいのか?」
「あ…いえ……。」
 欲しいなんて言えるか!!!
「少量であれば構わんよ。
 持ち帰るがいいさ。」
 は!?
 城では出してももらえなかったのに!?
「ですが高級品でしょう!?」
「ここで採れるのだから融通は容易いよ。
 それに自警団に竹の利用法、醸造所での進言、薬の改善、大量の魔物討伐の謝礼をまだ何一つできていない。
 謝礼の一つと考えてくれ。
 他にも欲しい物があればどんどん申告してくれ。
 その方が此方も用意しやすい。」
 思わず喉が鳴ってしまう。

「では、その前に一つお伺いしたいことがあります。」
「何かな?」
「中央へのお酒の持ち込みは問題となりますか?」
「それはワイン以外で、という話か?」
「はい。ハンスから運ぶのを断念した過去があると聞いたので大丈夫かとは思いますが、何分この国の税金関係のことはからきしですので、中央に運んだ場合の税率などに問題が出ることを考えますと、果たして良いものかどうかと……」
「そこに着目するか……
 持ち込みに関しては問題ない。
 だが、運ぶ手段がないのだよ。」
「では、運べるならば運びたいというお気持ちは今も変わりませんか?」
「ああ。中央で販売が可能ならば価格も吹っかけられるからな。」
 ニヤリと悪い笑みをするマックスさん。
 これならイケそうだ!
「では、私がお酒の運搬方法があるかもと言えば辺境の益になりますね?」
「何!?あるのか!?」
 おー凄い食い付き。
「うまくいくかはやってみなければ分かりませんが、恐らく大丈夫かと思います。
 ですが大量には運べませんよ?」
「構わん!!して、その方法は!?」
「それは此方に。」
 そう言い、図案を描いた紙を渡す。
「絵が下手で申し訳ないですが、そのように荷車に取り付けてほしいのです。
 支柱は竹の使用をお願いします。」
「竹で?
 だが、竹だと耐荷重に不安が残るだろう?」
「大量に運べないと言うのはそこにあります。
 竹ですから、あまりに荷が重いと折れてしまいます。
 ですがお酒の運搬には有効です。
 麦酒と濁酒には、注いだ時に空気の泡が出ますよね?
 あれを炭酸と言います。
 あれがあるせいで運ぶ途中で爆発してしまうのです。
 炭酸は揺れに弱い。
 だったら揺らさなければ良いのです。
 ここに来るのに馬車に乗ってきましたが、物凄く揺れました。
 縦にも横にもです。
 あれだけ刺激されてしまえば爆発しても不思議ではありません。
 吊り下げれば横揺れを緩和出来ます。
 荷馬車の発進時、停止時はとてもゆっくり動いてくだされば、より効果的です。
 ですが、吊り下げるだけでは縦揺れは緩和されません。
 緩衝材が必要になりますが、そんな物はここにはない。では代替品でなんとかするしかない。
 そこで竹です。
 竹は非常にしなります。多少曲がっても元に戻ろうとする反発力もあるのです。
 そのしなりと反発力を縦揺れ対策として使おうと考えました。」
「なんと…炭だけではないのか……」
「支柱をニ本作れば耐荷重は上がります。
 では四隅から四本にすれば…とお考えかもしれませんが、四本も支柱を作ってしまうと揺れに干渉し合い、載せているお酒が揺れかねませんのでお薦めしません。
 まだ机上の空論ではありますので、その辺りの試行錯誤はお任せしてもよろしいですか?」
「勿論だ!ここまで糸口を示してもらっておるのだ!
 何がなんでも物にしてみせよう!」
「では、運搬に成功したら麦酒を分けて頂けませんか?」
「欲しいのは麦酒であったか?」
「はい。城で待つ地球人の一人にお酒が好きな者がおりまして、向こうでも飲めたらいいなと。」
「ワインも持ち帰るか?」
「いえ、ワインは結構です。」
 ワイン飲んだカオリンは相当憤慨してたからな。
「当主、まずはお食事になさいません?
 折角の料理が冷えてはおもてなしどころではございませんわ。」
「そうであった!すまない!
 つい夢中になってしまうな!
 遠慮せずどんどん食べてほしい!」
「はい。では遠慮なく。」

 一旦会話を中断し、さっさと食べてしまおうと頂きますをして食べだす。
 狙うは胡椒を纏った猪肉!
 一口頬張りモグモグタイム。
 さすが胡椒!
 臭みもうまく誤魔化せている!
 何より、塩以外の味付け!!!
 でも高級品の胡椒に頼るわけにはいかないんだよねぇ…
 なんとかならないかなぁー……
 あっ!!!
 薬草があるじゃないか!
 香草だって本来薬草だもん!
 何で今まで思いつかなかったのよ!
 薬草は…高級品なのか?
 あー気になる!!!

 チラリとあっくんを見ると、既に猪肉を食べ終え牛肉にも手を伸ばしていた。
 相変わらず食べるのが早い。
「美味しい?」
「うん。胡椒がこんなにありがたいと感じたのは初めてだよ。」
「私も!カオリンは胡椒があったらお酒が欲しいって言ってたよね?」
「あー…そうだね。」
「ワイン飲んでみた?」
「うん。城と同じだったよ……
 この味ならビールのが飲みたくなる。」
「貰う?」
「え、でも」
「びーるとやらはここにはないぞ?」
「いえ、ビールは麦酒のことです。」
「そちらが好みだったか?
 すぐに持って来させよう。」
 後ろからガチャっと音がしたと思ったら、執事の姿はもうなかった。
 対応力が半端ではない!

 すぐに執事が麦酒を持って戻ってきた。
 大きめのカップのような入れ物に入っている。
 折角持ってきてもらったけど、あっくんは麦酒を見つめるだけで飲もうとはしない。
「マックスさん、魔法を使っても?」
「ああ、構わないが…」
「ありがとうございます。」
 カップに触れ、温いのを確認。
 泡もない。
 これじゃあっくんも飲みたくないよね。
 麦酒の中の水の分子を細かく細かく分けて動きを鈍くするイメージをする。
 なにこれ、氷作るより段違いに難しい。
 氷のジョッキ作る方が簡単だよ!

 集中すること1分ほど……
 みんなが固唾を呑んで見守る中、あっくんにカップを手渡す。
 カップの表面には少しの泡も浮かんでいる。
「もう飲めると思うよ?どうぞ。」
「ありがとう。」
 あっくんは受け取ったカップを口へ…

 ゴクッゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクッ

「っはぁー!うっま!!
 しーちゃんありがとう!」
 下げたカップは空だった。
「一気!?」
「あ、全部飲んじゃったよ。」
「お代わり貰う?」
「いや、いいよ。
 しーちゃん大変だったでしょ?」
「これくらいなんともないよ?
 凍らせるより少し難しかっただけで。
 氷のジョッキ作る方が簡単だと思う。」
「氷のジョッキかぁ。
 それは夢があるけど、味薄くなるよね?
 これ以上薄いと多分不味くなると思う。」
「だよね!
 でも訓練にもなるし…もう一回やってみたいな。」
「ははっ!しーちゃんが良いって言うなら貰おうかな?」
「失礼いたします、どうぞ。」
 すかさず横からズイッと出されたのは麦酒のお代わり。
 執事よ、いつ取りに行ったんだい?
 めちゃくちゃ有能じゃないか。
「ありがとう。」
 お礼を言い、もう一度トライ!

 今度は半分くらいの時間で出来た!はず…
「どうぞ。」
「えっ!?もうできたの!?
 さっきよりだいぶ早いよ?」
「やること一緒だから。」
「コツが掴めたってことかな?
 ありがとう。」
 ゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクッ
「あ゛~~美味かったぁ。」
「ねぇ!また一気したの!?」
「こういうのって飲みだしたら止まらないんだよ。」
「そういうもの?」
「そういうもの。」
 じゃあしょうがないか。

「御二方、さっきから何をしているんだ?」
「川端の飲む麦酒を冷やしていました。」
「冷やす???
 魔法でか???何故?」
「何故って…その方が美味しいからです。」
「そうなのか?」
 いや私に聞かれても知らんて!
 返答に困りあっくんを見る。
 それで察したあっくんは
「地球では麦酒は冷やして飲むものだった。
 温い麦酒ほど不味いものはないというほど広く一般的な飲み方だ。
 俺がそう教えただけで、紫愛は酒は飲まないから美味さについて問われても答えられない。」
 とても的確な説明をしてくれた。

「紫愛殿、魔力の消費はどうなんだ?」
「体感ではほぼ無いですね。」
「そうか……良ければ私にも麦酒を冷やしてはくれんか?」
「私も飲んでみたいです。」
「紫愛様、私もお願いします。」
 冷やすことは別にいいけど…
「川端は普段から麦酒の10倍の酒精のお酒を飲んでいたようなので平気だと思いますが、みなさんお酒は強いんでしょうか?
 酔っ払いませんか?
 冷えたお酒は喉越しが良いので川端のように一気に飲めてしまいますから。」
 話ができなくなったら困るんですけど。
「10倍!?そんな酒があるのか!?」
「ある。俺にとって麦酒は水と変わらない。」
「紫愛様、私は酒に強いですが、心配でしょうから1人1杯のみと決めては如何でしょう。」
「私も酒は強い。1杯程度で酔いはせん。」
「恥ずかしながら私もお酒には強いですわ。」
「まあ、そんなに言うなら1杯だけ。」

 そして始まる冷えた麦酒お披露目会。
 みんなの感想は
 こんなに美味いものを知らなかったとは!
 だった。
 食に興味のないハンスでさえ
「冷やしただけでこうも味わいが違うのですか!?」
 と、興奮していた。

 そしてどうにか冷やせないかという話になり、結論は無理だと出て、マックスさんは
「冷えた麦酒を知らない方が良かった!」
 とすら言い放ち、分かりやすく絶望していた。

 あっくんと顔を見合わせ苦笑いし合う。
 冷えた麦酒ってそんなに美味しいものなんだなと思った。















しおりを挟む
1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

ストレージ――格納スキル持ち騎士が裏社会の帝王になるまで

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:0

ジャクタ様と四十九人の生贄

ホラー / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:2

花嫁ゲーム

ホラー / 完結 24h.ポイント:170pt お気に入り:6

怪物どもが蠢く島

ホラー / 完結 24h.ポイント:170pt お気に入り:1

処理中です...