水と言霊と

みぃうめ

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第317話    ギトー家との会食⑥

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 一笑いがあったところで、漸く次の話に移る。
 次の話は重い。
 笑いがあって良かったのかもしれない。

「マックスさんにどうしても聞きたいことがあります。
 中にあるスラムのことです。
 どのようにお考えか教えてください。」
「紫愛殿が見てきた通り、環境が悪いのは十分に分かっている。
 だがな……なんとかしたくとも、解決方法を誰も思い付けないんだよ。
 思案はしているが、巡り巡って現状の維持に戻ってしまう。」
「私もハンスと話しました。
 男女を分けることはどうあっても不可能ですか?」
「もし分けたとしても世話をする者がいないんだよ。
 それに、どのような親であろうと引き離されたくないと願う者もおってな…」
「大変失礼なことをお聞きしますが、マックスさんは神を信じていますか?」
「紫愛殿、マルクグラーフの名を冠する代表者は、南のウンガー家を除き、誰も神など信じてはおらんよ。」
「それは、現当主と次期当主は信じていないということですか?」
「そうだ。ハンスもそうだろう?」
「はい。神など、一体何をしてくれる存在だと?」
「そうだな、私も同意見だ。
 縋る存在を崇める時間があるのなら身を立てる方法を模索した方が有益だろうて。
 この肩に国の存続がかかっているのだからな。」
「私も同意見ですわ。
 縋る存在が必要な者達は存分に縋れば良いのです。
 その縋る時間を無駄な浪費と考えるのが当主足り得るのですわ。」
「南だけが例外なのはどのような理由があるんでしょうか?」
「ああ、それはな、南の辺境伯領に神殿があるからだ。
 南にある神殿が本殿なんだよ。
 南が砂漠なのはご存知か?」
「はい。」
「簡潔に説明しよう。
 南は塀の中も徐々にではあるが砂漠化が進んでいるんだ。作物は僅かな種類しか育たん。
 だが魔物の数は少なくあれど出現はする。
 では守らなければならない。
 暮らしていくには食べていかねばならん。
 しかし必要な作物は育たない。
 外は砂漠で収穫物を得ることも不可能。
 育たないなら買うしかないが、その税収も殆どない。
 そこで神殿を作る話が出た際に、北、東、西の辺境伯家が南に建設場所を譲り渡したんだ。
 税が取れないなら神殿から取れるようにとな。
 当時はそれはそれは感謝されたらしい。
 が、代替わりするにつれ、神殿との癒着が見られるようになってしまった。
 仕方のないことではある。
 何せほぼそこからしか税が取れないのだから。
 神殿への寄付も譲り受けている。
 そうなれば神を崇めるようになるのは早いだろう?」
「そうだったんですか……
 では、辺境が一枚岩というのは間違いですか?」
「それは間違ってはいない。
 魔物に対する気持ちはどこの辺境でも同じだからだ。
 だが、南は他と違い少し特殊だということは覚えていてもらいたい。」
「非常に参考になりました。
 私と川端は順に周る予定ですから、情報はいくらあっても良いです。」
「そうだな。御二方の活躍は辺境の皆が期待しているよ。」
「できることはしていきたいと思っています。
 神に対する皆さんのお気持ちは分かりました。
 これから話す内容は、神を信じている人には話せない内容なので確認が必要でした。

 ハンスには後で話すって言ったんだけど、私が怪我をしたから有耶無耶になったの覚えてる?」
「覚えております。
 気になっておりました。」
「今からそれを話すから、ハンスは続きだと思って聞いてね。」
「畏まりました。」

 神を信じていなくとも反感を買うかもしれない。
 でも話しておかなければならないことだ。
 後回しにすればするほどキツくなる。
 動きに制限が出る。
 国の代表とも呼べる辺境の当主達には理解してもらわなければならない。

「心してお聞きください。
 神子、変質者、罪科者、劣等者、これら全ての者達は、差異はあれど全ての者が病から起こり得る症状です。」
「なんだとっ!!!
 では皆同じ病だということか!?」
「いえ、同じ病ではありません。
 病名はそれぞれ違います。
 ですが病には違いないということです。」
「なんということだ……」
「既に周知の事実ではあると思いますが、病持ち同士から産まれてくる子供は、同じ病で産まれてくる可能性が高くなります。
 スラムから連れ出された赤ん坊は、問題が発覚した時点でまたスラムに戻されますよね?
 その戻る子供の数がとても多くはありませんか?」
「劣等者から産まれるのだからそれは当然だと思っていた。」
「人間には遺伝というものがあります。
 聞いたことはありますか?」
「いいや、ない。」
「では、マックスさんと奥さんから産まれてる子供は、お二人のどちらかに似ていませんか?」
「似ているな。」
「そうです、似ているからこそ我が子だと思いますよね?」
「ああ。」
「それを遺伝と言います。
 マックスさんと奥さんの性質を受け継ぐという意味です。
 それは良い面も、そして悪い面も受け継ぐのです。」
「紫愛様、少しよろしいですか?」
「どうぞ。」
「では、何故正常な者から神子やら劣等者やらが産まれてくるのですか?」
「正常と呼ばれる人間からも、確率は低いですが産まれてくる可能性はゼロじゃないからです。
 もっと分かりやすく説明しますね。
 100枚の紙があるとします。
 その紙の裏に一枚だけ印を書いて伏せます。
 同じようにもう一組100枚の紙を用意し、1枚だけ印を書いて伏せます。
 伏せてありますから見た目にはただの100枚の紙ですね?」

 みんなの頷くのを確認して更に続ける。

「一組はマックスさん、一組はシモーネさんが持っているとしましょう。
 その一組100枚の中から、お互いに適当に1枚を引きます。
 引いてから裏返し、印がお互いにある確率はどれ程だと思いますか?
 途方もない確率だとは思いませんか?
 それが正常な人間から病持ちの子供が産まれる確率です。
 対して、病持ち同士の子供ではどうか?
 100枚が10枚になります。
 同じ病持ちの場合、100枚が2枚になる可能性すらあります。」
「お待ちください!それでは貴族間で産まれる子の病持ちの数の多さは説明がつきません!」
「ハンス、忘れましたか?
 貴族たちの血が濃くなっていることを。
 明確な理由が判明していなくとも、本能的な危機感から政略結婚が行なわれているのでは?
 血縁が濃い間柄から産まれる子は、血縁の濃さにもよりますが、病持ち同士の子供と同じくらい病持ちで産まれる子供が多いんです。
 もしも、もしもですよ?
 父親と娘で子供を作った場合、血が濃すぎてとても危険です。
 日本では四親等以上ないと結婚はできないと法律で決まっていました。」
「アメリカの一部の州では四親等内での結婚は許されていない。」
「そうなの?」
「いとこ同士でも禁止の州もあったよ。
 反対に、他の国では三親等でも結婚できる国もあった。確か……ドイツだったかな?」
「国によってその危険性の評価はまちまちだったようですね。無知ですみません。」
「紫愛が謝ることじゃないよ。
 結果的に血が濃くて危険なのは変わらない。
 今問題として上げているのは病持ち同士の子供の危険性だよね?
 それは俺も同意見だ。
 潜性遺伝の観点から見ても、危険性は増すだろう。」
「しかも、スラムの人同士での出産を繰り返してるの。」
「それまずいだろ!?
 スラムの人口が激増するぞ!」
「多分…もう手遅れだよ。
 だからこれをどうにかしたいの。
 案を出しても全部実現不可能なの。」
「…………去勢する?」

 あっくんがとんでもないこと言い出した!

「無理だよ!医療器具も薬も万全じゃないんだから下手したら死んじゃうんだよ!?」
「でも他に方法があるの?ないんでしょ?」
「………あっくんはそれで良いと思うの?
 何も悪くないのに、それで人が死んでも構わないってこと?」
「死んで構わないなんて思ってないよ。
 でも、ただ手をこまぬいてるだけじゃ現状は変わらない。だから実現可能であろう意見を出しただけだよ。
 一気に全員やろうとするから無理なんだよ。
 10人単位でやっていけばどう?」
「私は反対。」
「しーちゃん、こんなこと言いたくないけど、睾丸切り落とすだけだからそこまでの大きな怪我にはならないよ。」
「でも痛いことに変わりはないでしょ!
 麻酔もないんだよ!」
「でも何かはしないと。」

 何でこんなに平然としてられるの!?
 スラムの人達に痛い思いさせたいわけじゃない!
 去勢するなんて死んでいいって言ってるのと変わらないよ!

「あっくん、ちょっと立って?」
「どうして?」
「いいから立って?」
「分かった。」

 分からず屋にはその身を以て分からせるしかない。
 あっくんが立ち上がった瞬間に軽く金的をかます。
 再起不能にしたいわけじゃないから、軽く。

 金的が当たった瞬間にくぐもった唸り声を上げながら崩れ落ちるあっくんに
「ねえ、痛いよね?痛いよね??
 それを何も悪くない人にやろうって言うの?
 蹴られただけで痛いのに?
 切り落とすだけ?
 自分がされたらどうなのか考えて?」
















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