45 / 48
第0章(お試し版) 黒猫少女と仮面の師
38.思い出した名
しおりを挟む
「―――先生! 近藤先生!」
「頼む…、目を開けてくれ…!」
耳に届いた悲痛な声に、静かな眠りの中にあったシオンの意識が浮上する。
重い瞼を無理矢理抉じ開け、誰が騒がしく喚いているのかと、なぜか動く度に痛みが走る体に叱咤し、視線を向ける。
そして、一人の男性の周りに群がる数人の男女を視界に映し、シオンは訝しげに眉間にしわを寄せる。
「……ここ、は」
視線をずらせば、天井から照らされた小さな灯に照らされ、いくつもの人影が蠢いているのが見える。
うっすらと見えた窓に目をやれば、淡い紫色をした西の空が徐々に明るくなっていく様が見える。もうじきに夜が明けるのだろう。
そこでシオンは、ついさっきまで自分がしていた事を思い出し、はっと息を飲んで脳を覚醒させる。
呻き声を漏らしながら、無理矢理起き上がった。
「アルコール、もっと持って来て!」
「新しくできた包帯、ここに置いておきます!」
「簡易寝具は重傷者にお譲りください! 軽傷と判断された方は、どうか一箇所に集まって座ってお待ちください!」
ようやく覚めた眼で辺りを見渡してみると、ばたばたと白装束の男女が走り回るそこは、妙に見覚えのある空間である事に気付く。
酒の匂いが染みついた酒場と、併設された受付台。普段から師と共に仕事の為に通っている、冒険者組合の中だ。
しかし、今は机と椅子が片付けられ、何も無くなった床に幾つも布団が敷かれ、それぞれに負傷した人々が寝かされている。
身体に巻かれた包帯に血を滲ませ、苦悶の声をこぼす彼らの周りを、白衣を着た医師らしき男達が駆け回っている。その隣には、看護師らしき男女が何人も付き従っている。
「大丈夫です! 外にいる暴漢達は皆、騎士団と冒険者達の尽力によって鎮圧されました! 皆さんは安心して治療に専念してください!」
誰も彼もが、手当てを受けながら不安気な顔をする中、組合の職員の一人が大きく声を上げ、宥める。
半数程度はその言葉で安堵のため息をついていたが、残る半数は尚も不安気に目を伏せたまま、隣にいる家族と身を寄せ合う姿を見せる。
身勝手な思想で、多くの命を奪った人災は、生き残った者達の心にも深い傷を残祖ているようだ。
「わたし……あのくそやろうと、たたかってて…それで、どうしたんだっけ……?」
シオンは自分の額に触れ、分厚く包帯が巻かれている事を確認しつつ、自身の記憶を辿ろうとする。
容赦なく魔術を振るうジェダを相手に必死に応戦して、隙を突いて反撃をして、我を見失った奴に返り討ちにされかけ、そして―――。
「…おもい、だせない…?」
不意にずきりと走る頭痛に、シオンは記憶を辿る事を中断させられる。
自分がこうして五体満足で生き残っている以上、あの男に勝ったのだろうが、どのようにして勝利したのかがまるで思い出せない。記憶に靄でもがかかっているかのようだ。
「…まぁ、勝ってるならいいや。……そういえば、あいつらはどうしたのかな」
戦いの結末は全く思い出せないが、徐々にぼんやりとしていた意識がはっきりしてきたシオンは、倒れる前に見つけた虎人と犬人の少年達の姿を探す。
自分と同じく生き延びていれば、と二人の安否を案じて辺りに視線を向けていた時だった。
「輸血だ! 早くO型の血、持って来い! 急げ!」
「先生…! 大丈夫だぞ、絶対助かるからな! 絶対だ! だから……だから諦めんなよ!」
組合の床に寝かされ、治療を受ける人々。
その中の一人の元に、血に濡れた鎧を身に纏った数人の騎士達が、必死に呼びかける姿が目に入る。
シオンは首を伸ばし、夢中で叫ぶ男女の間にいる、血濡れの男性の顔を覗き込む。そして、それが自分もよく知る人物だと気付くと、ひゅっと息を呑んでその場に凍りつく。
「コンドウ……!?」
「こんな…! 畜生、小早川の野郎…! 絶対許さねぇぞ、あの野郎!!」
ヒジカタやオキタ、トウカやイトウといった面々が膝をつき、どくどくと流れ出す血を止めようと躍起になっている。
いくつもの輸血用の袋に管が取り付けられ、コンドウの血管に繋げられているものの、その全て無為にこぼれ出ているような状態であった。
「先生! 目を開けてくれよ、先生! 頼むよ!」
全員が涙を流し、懇願の悲鳴をあげる。
医師も懸命に重症患者の治療にあたっているが、その表情は暗く、手の動きも鈍い。もうとっくに手遅れだと、悟ってしまっているようだ。
シオンもまた、知人の窮地にごくりと唾を飲み込み、じっと無言で様子を見守っていると。
「……きこえて、らぁ。うるせぇ……な」
ぽつりと、閉ざされていたコンドウの瞼が開き、掠れた声が漏れ出てくる。
イトウ達ははっと目を見開き、互いに目を見合わせると、小さく咳き込むコンドウの顔を一斉に覗き込む。
「…は、は。どう、やら……まだ、ちっとだけ、じかん……のこって、た、みてぇ…だな」
「先生! だ、大丈夫だぞ! 絶対助かるからな!」
信じられないと、瞠目し言葉を失う医師を横に退け、虚空を見上げるコンドウに呼びかけるヒジカタ。意識さえ戻ればなんとかなると、顔中涙や鼻水で汚しながら安堵の息をつく。
だが、コンドウの目が彼らの顔を映す事はなかった。
どこか此処とは異なる、遠く離れた別の場所を見ているように、焦点の合っていない目で天井を見上げたままでいる。
「ぉう……こばや、かわのやつぁ…どこに、いきやがっ……た。あんの、やろう……めいっぱい、せっきょぅ……して、やらにゃ、ならね、ぇ」
「…先生、あいつは」
「こんな、おおぜい、に……こん、だけ、心配……かけ、させ、やが、って……こん、ど、こそ……ぶん、なぐって……やらぁ」
記憶が混濁しているのか、自分が何をされたのかも覚えていない様子のコンドウ。
自分の体の状態もわかっていないのは、彼にとって唯一の不幸中の幸いだったかもしれない。
弱々しく笑いながら、かつての生徒の事を気にかける元担任教師に、事実を伝えようとしたオキタ。
しかしそれをトウカが止め、涙に濡れた顔を横に降る。悲痛に顔を歪める彼女のその動作で、オキタもヒジカタもぐっと息を詰まらせ、顔を手で覆って天井を仰いだ。
「…見つけたら、絶対ふん縛って連れてくよ。約束……するよ、先生」
「……あぁ、そうかぃ。おれも……ちっと、ばかし、ねむくなって……きた、ところで、よ」
うっすらと開かれていた瞼が、徐々に閉ざされていく。
麻酔が効いている所為か、ほとんど夢見心地の中で、コンドウの呼吸はみるみるか細く、少なくなっていく。
「明智、新井……大伴、桂……小早川、斎藤……北条……毛利……与謝野……渡辺」
時折声を途切れさせながら、一つ一つ大切そうに名を呼び、それぞれの顔を思い浮かべていく。
イトウやヒジカタ達は、自分の名が呼ばれると滝のように涙を流し、悔恨と悲嘆で全身を震わせ、その場に身を伏せていく。
不意に、閉じかけていたコンドウの瞼が大きく見開かれる。まるで、長年見つからなかった宝物が、ひょっこりと目の前に飛び出してきたかのように。
「……ああ、そうだ。やっと…思い、出せた……」
虚空を見上げたまま、驚愕の声をこぼしたコンドウが、くしゃりと顔を歪める。
脳裏に浮かんだその名、顔、声。あらゆる情報が一気に蘇り、ぼろぼろと嬉しさと悔しさで涙が溢れ出してくる。
ずっと探していたのに、ずっと近くにいた事実に気づけなかった自分自身を恨みながら、安堵の息をつく。
「そうか、そうか……お前、だったのかぁ。そうかぁ……何で、今になって…思い、出し、ちまうか、なぁ……!」
此の場にいない誰かを思い、悔しげに歯を食い縛りながら、大量の涙を溢れさせるコンドウ。
自身に困惑の眼差しが集中している事にも気づかず、ぶるぶると身を震わせて、虚空の先を見つめ続ける。
そしてやがて、彼の瞼が再びゆっくりと閉じられていき、呼吸もより緩やかになっていく。
最後に彼の顔に浮かんだのは、不甲斐ない自分自身に向けられた、心の底から呆れた嘲笑で、微かな呟きを最期に―――彼は永遠の眠りについたのだった。
「俺ってやつは……ほん、とに―――」
「先生…!」
もう、呼び掛けに応える事のなくなった元担任教師に縋り付き、元生徒達は声を上げて嘆き悲しむ。
最期の最期まで教子達の事を気にかけ、人生の殆どを掛けて助けようとした、教師の鑑と呼ぶに相応しい稀有な男。
そんな彼に凶刃を向けた元同級生に怒りを燃やしつつも、彼の教子達はその場から動く事ができず、ただ滂沱の涙を流す他ばかりとなっていた。
「……コンドウ。どうして、あんたがそこまで苦しまなければならなかったの……?」
シオンもまた、目の前で息を引き取った知人の姿を凝視し、呼吸も忘れるほどに固まっていた。
つい数日前まで、確かに言葉を交わしていた男が、見るも無残な姿に変わり果て、身を案じて者の裏切りによってこの世を去った。
あまりにも救いがない……理不尽としか言いようがない今生の別れに、最早どう語りかければいいのかわからない。
「っ…! ……師匠は、どこに…?」
目の前の悲劇から目を逸らすように、別れてから姿の見えない師の姿を探すシオン。
だが、事態の収拾……というよりも、自身の機嫌を損ねた、騒動の首謀者の下に向かった師は、未だ戻ってくる様子は見受けられなかった。
「頼む…、目を開けてくれ…!」
耳に届いた悲痛な声に、静かな眠りの中にあったシオンの意識が浮上する。
重い瞼を無理矢理抉じ開け、誰が騒がしく喚いているのかと、なぜか動く度に痛みが走る体に叱咤し、視線を向ける。
そして、一人の男性の周りに群がる数人の男女を視界に映し、シオンは訝しげに眉間にしわを寄せる。
「……ここ、は」
視線をずらせば、天井から照らされた小さな灯に照らされ、いくつもの人影が蠢いているのが見える。
うっすらと見えた窓に目をやれば、淡い紫色をした西の空が徐々に明るくなっていく様が見える。もうじきに夜が明けるのだろう。
そこでシオンは、ついさっきまで自分がしていた事を思い出し、はっと息を飲んで脳を覚醒させる。
呻き声を漏らしながら、無理矢理起き上がった。
「アルコール、もっと持って来て!」
「新しくできた包帯、ここに置いておきます!」
「簡易寝具は重傷者にお譲りください! 軽傷と判断された方は、どうか一箇所に集まって座ってお待ちください!」
ようやく覚めた眼で辺りを見渡してみると、ばたばたと白装束の男女が走り回るそこは、妙に見覚えのある空間である事に気付く。
酒の匂いが染みついた酒場と、併設された受付台。普段から師と共に仕事の為に通っている、冒険者組合の中だ。
しかし、今は机と椅子が片付けられ、何も無くなった床に幾つも布団が敷かれ、それぞれに負傷した人々が寝かされている。
身体に巻かれた包帯に血を滲ませ、苦悶の声をこぼす彼らの周りを、白衣を着た医師らしき男達が駆け回っている。その隣には、看護師らしき男女が何人も付き従っている。
「大丈夫です! 外にいる暴漢達は皆、騎士団と冒険者達の尽力によって鎮圧されました! 皆さんは安心して治療に専念してください!」
誰も彼もが、手当てを受けながら不安気な顔をする中、組合の職員の一人が大きく声を上げ、宥める。
半数程度はその言葉で安堵のため息をついていたが、残る半数は尚も不安気に目を伏せたまま、隣にいる家族と身を寄せ合う姿を見せる。
身勝手な思想で、多くの命を奪った人災は、生き残った者達の心にも深い傷を残祖ているようだ。
「わたし……あのくそやろうと、たたかってて…それで、どうしたんだっけ……?」
シオンは自分の額に触れ、分厚く包帯が巻かれている事を確認しつつ、自身の記憶を辿ろうとする。
容赦なく魔術を振るうジェダを相手に必死に応戦して、隙を突いて反撃をして、我を見失った奴に返り討ちにされかけ、そして―――。
「…おもい、だせない…?」
不意にずきりと走る頭痛に、シオンは記憶を辿る事を中断させられる。
自分がこうして五体満足で生き残っている以上、あの男に勝ったのだろうが、どのようにして勝利したのかがまるで思い出せない。記憶に靄でもがかかっているかのようだ。
「…まぁ、勝ってるならいいや。……そういえば、あいつらはどうしたのかな」
戦いの結末は全く思い出せないが、徐々にぼんやりとしていた意識がはっきりしてきたシオンは、倒れる前に見つけた虎人と犬人の少年達の姿を探す。
自分と同じく生き延びていれば、と二人の安否を案じて辺りに視線を向けていた時だった。
「輸血だ! 早くO型の血、持って来い! 急げ!」
「先生…! 大丈夫だぞ、絶対助かるからな! 絶対だ! だから……だから諦めんなよ!」
組合の床に寝かされ、治療を受ける人々。
その中の一人の元に、血に濡れた鎧を身に纏った数人の騎士達が、必死に呼びかける姿が目に入る。
シオンは首を伸ばし、夢中で叫ぶ男女の間にいる、血濡れの男性の顔を覗き込む。そして、それが自分もよく知る人物だと気付くと、ひゅっと息を呑んでその場に凍りつく。
「コンドウ……!?」
「こんな…! 畜生、小早川の野郎…! 絶対許さねぇぞ、あの野郎!!」
ヒジカタやオキタ、トウカやイトウといった面々が膝をつき、どくどくと流れ出す血を止めようと躍起になっている。
いくつもの輸血用の袋に管が取り付けられ、コンドウの血管に繋げられているものの、その全て無為にこぼれ出ているような状態であった。
「先生! 目を開けてくれよ、先生! 頼むよ!」
全員が涙を流し、懇願の悲鳴をあげる。
医師も懸命に重症患者の治療にあたっているが、その表情は暗く、手の動きも鈍い。もうとっくに手遅れだと、悟ってしまっているようだ。
シオンもまた、知人の窮地にごくりと唾を飲み込み、じっと無言で様子を見守っていると。
「……きこえて、らぁ。うるせぇ……な」
ぽつりと、閉ざされていたコンドウの瞼が開き、掠れた声が漏れ出てくる。
イトウ達ははっと目を見開き、互いに目を見合わせると、小さく咳き込むコンドウの顔を一斉に覗き込む。
「…は、は。どう、やら……まだ、ちっとだけ、じかん……のこって、た、みてぇ…だな」
「先生! だ、大丈夫だぞ! 絶対助かるからな!」
信じられないと、瞠目し言葉を失う医師を横に退け、虚空を見上げるコンドウに呼びかけるヒジカタ。意識さえ戻ればなんとかなると、顔中涙や鼻水で汚しながら安堵の息をつく。
だが、コンドウの目が彼らの顔を映す事はなかった。
どこか此処とは異なる、遠く離れた別の場所を見ているように、焦点の合っていない目で天井を見上げたままでいる。
「ぉう……こばや、かわのやつぁ…どこに、いきやがっ……た。あんの、やろう……めいっぱい、せっきょぅ……して、やらにゃ、ならね、ぇ」
「…先生、あいつは」
「こんな、おおぜい、に……こん、だけ、心配……かけ、させ、やが、って……こん、ど、こそ……ぶん、なぐって……やらぁ」
記憶が混濁しているのか、自分が何をされたのかも覚えていない様子のコンドウ。
自分の体の状態もわかっていないのは、彼にとって唯一の不幸中の幸いだったかもしれない。
弱々しく笑いながら、かつての生徒の事を気にかける元担任教師に、事実を伝えようとしたオキタ。
しかしそれをトウカが止め、涙に濡れた顔を横に降る。悲痛に顔を歪める彼女のその動作で、オキタもヒジカタもぐっと息を詰まらせ、顔を手で覆って天井を仰いだ。
「…見つけたら、絶対ふん縛って連れてくよ。約束……するよ、先生」
「……あぁ、そうかぃ。おれも……ちっと、ばかし、ねむくなって……きた、ところで、よ」
うっすらと開かれていた瞼が、徐々に閉ざされていく。
麻酔が効いている所為か、ほとんど夢見心地の中で、コンドウの呼吸はみるみるか細く、少なくなっていく。
「明智、新井……大伴、桂……小早川、斎藤……北条……毛利……与謝野……渡辺」
時折声を途切れさせながら、一つ一つ大切そうに名を呼び、それぞれの顔を思い浮かべていく。
イトウやヒジカタ達は、自分の名が呼ばれると滝のように涙を流し、悔恨と悲嘆で全身を震わせ、その場に身を伏せていく。
不意に、閉じかけていたコンドウの瞼が大きく見開かれる。まるで、長年見つからなかった宝物が、ひょっこりと目の前に飛び出してきたかのように。
「……ああ、そうだ。やっと…思い、出せた……」
虚空を見上げたまま、驚愕の声をこぼしたコンドウが、くしゃりと顔を歪める。
脳裏に浮かんだその名、顔、声。あらゆる情報が一気に蘇り、ぼろぼろと嬉しさと悔しさで涙が溢れ出してくる。
ずっと探していたのに、ずっと近くにいた事実に気づけなかった自分自身を恨みながら、安堵の息をつく。
「そうか、そうか……お前、だったのかぁ。そうかぁ……何で、今になって…思い、出し、ちまうか、なぁ……!」
此の場にいない誰かを思い、悔しげに歯を食い縛りながら、大量の涙を溢れさせるコンドウ。
自身に困惑の眼差しが集中している事にも気づかず、ぶるぶると身を震わせて、虚空の先を見つめ続ける。
そしてやがて、彼の瞼が再びゆっくりと閉じられていき、呼吸もより緩やかになっていく。
最後に彼の顔に浮かんだのは、不甲斐ない自分自身に向けられた、心の底から呆れた嘲笑で、微かな呟きを最期に―――彼は永遠の眠りについたのだった。
「俺ってやつは……ほん、とに―――」
「先生…!」
もう、呼び掛けに応える事のなくなった元担任教師に縋り付き、元生徒達は声を上げて嘆き悲しむ。
最期の最期まで教子達の事を気にかけ、人生の殆どを掛けて助けようとした、教師の鑑と呼ぶに相応しい稀有な男。
そんな彼に凶刃を向けた元同級生に怒りを燃やしつつも、彼の教子達はその場から動く事ができず、ただ滂沱の涙を流す他ばかりとなっていた。
「……コンドウ。どうして、あんたがそこまで苦しまなければならなかったの……?」
シオンもまた、目の前で息を引き取った知人の姿を凝視し、呼吸も忘れるほどに固まっていた。
つい数日前まで、確かに言葉を交わしていた男が、見るも無残な姿に変わり果て、身を案じて者の裏切りによってこの世を去った。
あまりにも救いがない……理不尽としか言いようがない今生の別れに、最早どう語りかければいいのかわからない。
「っ…! ……師匠は、どこに…?」
目の前の悲劇から目を逸らすように、別れてから姿の見えない師の姿を探すシオン。
だが、事態の収拾……というよりも、自身の機嫌を損ねた、騒動の首謀者の下に向かった師は、未だ戻ってくる様子は見受けられなかった。
0
あなたにおすすめの小説
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる