ガーゴイル・テイル ~迷宮の敵《ギミック》に転生した者の神への反逆譚~

春風駘蕩

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004:脱出、発見、困惑

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 あなたは荒々しい歩調でその場を後にした。
 足元に転がる鎧の欠片を踏み潰し、蹴り飛ばし、それでも収まらない苛立ちに悶々としながら先を目指した。

 がしゃがしゃと大きく音を鳴らして石の地面を踏みつけ、肩を怒らせてしばし歩いた。
 しかし数分もすると、すっとあなたの中の苛立ちは収まり始めてしまった。

 あなたは感情の起伏があまり長引かない性質だった。
 他人からの干渉で多少は苛立ったり傷ついたりするものの、干渉してきた相手と顔を合わせなければ、長くても数分でけろっと平静に戻っていた。

 鎧の体だというのに頭に血は昇るのか、苛立っている間はできなかった思考にどっぷりと浸る。
 改めて、この先をどうしたものかと考え込み、あなたはここで一つの結論に達した。


〝ここに居る自分以外のものは、大体全て敵である〟


 ただ歩いていただけのあなたに、遭遇した生物(?)は尽く襲い掛かってきた。
 あなたが彼らの縄張りを荒らしたからかもしれない。だが、明らかに体格差のあるあなたに襲い掛かるあたり、非常に好戦的な性格をしたものが多いようだ。

 あなたは生物自体は然程好きではない。生物の観察が好きだ。
 しかし、観察の為に近づこうとすると襲われるのであれば、この先は接触を控えた方が良いのかもしれない。

 あなたは残念に思った。だが、すぐにまぁいいかと切り替えた。

 あなたは面倒臭い事は嫌いだ。相も変わらず訳の分からない空間で一人、彷徨い続けながらどこにいるかもわからない敵と相争うなど億劫で仕方がなかった。

 この先何かに遭遇しても、向こうから近付かない限り干渉はしない。あなたはそう心に決めた。


 すると――あなたの周囲の景色に変化が現れた。

 長く続いた石の壁が、大量の植物が絡みついた緑の景色に変わり出したのだ。
 何らかの壁画らしき造形物に太い植物の蔓が食い込み、元の原型がわからない程に破壊しながら侵食している。

 力強いそれらを見渡していると、途中に生えた蔓の葉がゆらゆらと揺れているのが見えた。
 風だ。そして何より、こうも大量の植物が生えているという事は、陽の光が近いという事に他ならない。

 あなたはわくわくしながら歩調を速めた。
 いい加減鬱陶しくなってきた長い迷路も、ようやく終わりを迎えた……いや、もしかすると入り口に戻ってきたのかもしれない。どちらにしろやっと解放される、とあなたは歓喜した。

 そしてあなたは、闇の中にぽっかりと灯る眩い光の入り口の前に立った。

 光の下にあったのは、黄土色の残骸の山だった。
 元は壁や天井だったのだろう、切り出された石の塊がごろごろと積み重なって山を作っている。あちこちに動物の貌や模様が彫られた、美術品のような柱が立っている。

 それらは静かに草地の上に鎮座し、青々とした空から差す陽光に照らされている。
 小高い丘の上なのか、遥か先の景色が広々と眺められる。川があり、森があり、草原があり、湖があり、地平線には山々が連なっている。取り敢えず町や村など、他人のいそうな場所は見当たらない。

 清々しい景色だ。こんな景色は見た事がない。
 一体どこの国の何遺跡なのか、相変わらずまるでわからないままだが。人の痕跡がこの場以外に見当たらないなど、遥かかこの世界に迷い込んだかのようだ。

 とにかくあなたは、煩わしさの一つから解放され、歓喜に拳を天に突き上げた。
 目的の一つは達した。一見したところ、アメーバ擬きも砂人間も動く鎧もいない。貴方意外に動く者は見当たらない。

 あなたは自由だ。鬱陶しい他人はいない。
 あなたは心の底から歓喜した。


 しかし、心地よい空気を堪能していたあなたのもとに、何か音が……人の声らしきものが聞こえてきた。

 あなたは落胆した。それはもうがっくりと落胆した。
 あなたはその場を離れようとした。しかし、どこに行けばいいのやらと思い悩んだ。

 あなたはこの先がどうなっているのかを知らない。故にそちらへ向かうと、また別の人間に遭遇する可能性がある。
 かといって、迷路の中に戻るという選択肢も取りたくない。あちらには敵ばかり、一向に平気だといっても、襲われて囲まれて殴られるのは勘弁願いたかった。

 あなたは悩んだ。そして、声がした方の様子を伺って見る事にした。
 身を隠しつつ、人がいたら人数や恰好を確かめ、遭遇しないように距離をとって去ろうと、方針を決めた。

 あなたは抜き足差し足、草地で足音を立てないよう細心の注意を払って、声がした方へと向かった。

 近付いてみると、聞こえていたのは怒号だとわかった。
 遺跡の一部、鰐だか蛇だかの柱に身を隠し、少し遠くに屯しているわーぎゃーと騒がしい人影……十数の集団を覗き込む。

 まず二つの集団があり、片方の数人がもう片方に大声で吠えているのが見えた。
 よくよく見ると、全員が剣や槍、弓で武装した、漫画や小説の登場人物の仮装をした謎の集団だ。何かの……映画の撮影でもしているのだろうか、よく出来ている。

 片方の集団の顔を注視すると、より一層凝り具合が見て取れた。

 緑色の肌に大きな鷲鼻、ぎょろついた目。
 遠目でややわかりづらいが、明らかに人間ではない、しかし確かに言葉を発している生物、の仮装だ。

 全体を見るに、緑肌の生物と人間の集団が互いに殺し合っている場面らしい。どういう経緯かはまるでわからないが、緑肌の方がやや劣勢に追い込まれているようだ。
 あちらが悪役だろうか。だが、追い詰めている人間の方が邪悪に笑っている気がするが気の所為だろうか。

 これはいけない、とまじまじと眺めていたあなたは我に返った。自分がいる事が明らかになれば、間違いなく邪魔者として追われる。
 あなたは息を殺し……そもそもしていないが気分の問題で、撮影の邪魔はできないとその場を離れようとして。


「―――ぎゃああああああ~!!!」


 とても演技とは思えないほど悲痛に満ちた悲鳴が緑肌の生物の一体から迸り、あなたは思わずびくっと身を強張らせた。

 その瞬間、あなたが身を隠す遺跡の柱が、ばきっと音を立てた。
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