ウイルス感染

蒼井龍

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新生

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「そうなんだ、それじゃちゃんと仲直り出来たんだね?よかった~」

 私の話を聞き終えたアルは間の抜けた声で感想を述べた。
 私は今、アルの武具店に来ている。
 昨日のクワとの会話の内容を話すために私はここに来た。
 一応のケジメとして、アルにも私たちの話を聞いてもらおうと思ったのだ。
 しかし、アルの反応は思いの外冷たかった。

「う~ん……冷たいとか言われてもねえ…私は別に部外者だからねえ…そりゃあ確かにニンファーの話を聞いてあげたし、後押しもしてあげたけど、やっぱり私からすれば無関係な話だからねえ」

 アルは本当に困った様な顔をする。

「まあでも、ニンファーとクワが仲直り出来なら本当に良かったよ。おめでとう!」

 ニッコリ笑ってアルはそう締めた。
 なんだろう……何故かすごく嫌な予感がする。
 アルと長い間付き合ってきた私だから分かる。
 今のアルの目は、商人としての目だ!

「それじゃ、私のお陰で解決したって事で、報酬を貰っちゃおうかなあ~」

「ちょっと待ってよ!そんな話聞いてないわよ!そもそも昨日のお代は無料にしてくれるって入ってたじゃない!」

 アルは嫌な笑顔をその顔に浮かべる。

「私が昨日無料にしてあげるって言ったのは、あくまでメンテナンス代だけだよ?カウンセリング代は含まれてませーん」

「くっ……」

 完全に劣勢だ。
 悔しいが、交渉に置いてはアルの方が何枚も上手だ。
 まあ、それもそうか。
 アルは今まで職人として、商人としてずっと働いていたのだ。
 面倒なトラブルやら何やらは慣れっこだろう。
 私が何も言い返せずにいると、アルが再び口を開いた。

「あははっ!こんなの冗談に決まってるじゃん。そんな真に受けないで」
 
 あれが冗談なのは流石に分かっている。
 伊達にアルとの付き合いも長くはない。
 アルは少しだけ真面目な口調で言う。

「本音を言えば、ニンファー達が仲直り出来たのはニンファー達自身の功績だと思う。私は何もしてないから、別に、私に恩を感じたり、ケジメを付けようとしたりする必要は全然ないよ」
 
「でも、アルの言葉がなかったら、多分私は自分の気持ちをきちんと話せなかったと思う。だから、あなたがいらないと思っても、一応言葉にしておくわ」

 私はそう言い、きちんとアルに向き直って言う。

「ありがとう、アル。お陰で私は親友を失わずに済んだわ」

「やだなぁ……そんな風にお礼言われるとなんか少し照れくさいじゃん……」

 アルは少しだけ頬を赤らめる。

「まあ、私に恩を感じてるって言うなら、これからもお客さんとしてこのお店に来てよ。私からすれば、このお店が繁盛することが一番嬉しいんだからさ」

「分かったわ、アル。これからもこのお店を利用させてもらうわね」

 私はそう言って店を出ようとした。
 ドアに手をかけたところで、アルが呼び止めてきた。

「ああそうだ、待ってニンファー」

「何、どうしたの?」

 私は聞き返すが、アルは中々答えてくれない。

「う~ん……やっぱりなんでもない。また今度直接話すよ」

 たっぷり沈黙した末のアルの答えがこれだった。
 もう少し問い詰めようと思ったが、面倒臭いのでやめておく。
 私は今度こそ扉を開けて外に出た。
 そして私はもう一つの用事を済ませに足を運ぶ。
 しばらく歩いたのち、私は目的の家へと辿り着く。
 ドアをノックするも、返事はない。
 私は仕方なくドアを開けて中に入る。
 部屋の奥へと入り、目的の人物を見つけた私は大声で怒鳴る。

「起きろ!」
 
「うぎゃあっ!」

 クワは飛び起き、ベッドから転げ落ちた。
 私は大きなため息をついてからクワに話しかける。

「あのねえ……あなた自分で指定した時間くらい守ったらどう?」

 クワは未だに寝ぼけている頭で返事をする。

「うにゃあ……ニン…ファ…もう…来た……の…」

 私は仕方なくクワの頬を二、三回引っ叩く。
 ようやくクワは正気を取り戻した。

「ニンファー!おはよう!ところで今は何時?ニンファーがここに来たということはもう一時なの?」

 私は再びため息を吐く。
 最早私は呆れる以外の行動が出来ない。

「今はもう二時よ。全く…あなた、その性格は本当に治した方がいいわよ」

 やや赤面してクワは言う。

「だって眠いんだもん…仕方ないじゃん……」

「もう一回言うけど、自分で指定した時間くらい守ったら?」
 
 クワはまだ不満げで何か言いたそうだったが、私はリビングへと向かった。
 ご覧の通り、クワは異常なまでの寝坊助だ。
 クワのこの性格は昔からで、一向に治る気配を見せない。
 仕事がない日は、一日中寝ているという、とんでもない奴だ。
 一時間も遅刻していけば流石に起きていると思った私が甘かった。
 普通の人間は一日中寝ているなんていう芸当は出来ないはずだが、こいつはどうも例外の様だ。
 私は未だにこいつの事が理解出来ない。
 
「お待たせ~」
 
 ようやく支度を終えたクワが、寝室から姿を表した。

「とりあえず私に言うことは?」

「ううっ……ごめんなさい…」

「ちなみに昨日は何時に寝たの?」

 クワは恥ずかしそうに答える。

「午後の一時頃に……」

 ということは、こいつは二十五時間寝続けて、その上でさらに眠そうな面をしているという訳か……
 とても恐ろしい話だった。
 もうこの事に言及するのは疲れたので、私は諦めて本題へと突入する。

「それで、今日は何の用事でここに呼び寄せたの?」

 そう、今日私は昨日、こいつに呼び出されたのだ。
 なんの用事なのか、とは聞いてみたものの、私が呼び出される様な用事は決まっている。
 即ち、感染者絡みの案件だ。
 もっと言えば、殺し屋としての仕事の案件だ。
 たったそれだけで緊張が走る。
 ちなみに、殺し屋の仕事のパターンは三種類ある。
 一つは、情報屋から仕事を自分で選び、行う個人での仕事。
 これは、比較的難易度と緊急性が低いものだ。
 情報屋とは、感染者の情報を一般市民から集め、殺し屋に提供する仕事だ。
 二つ目のパターンは、殺し屋達自らが、難易度、及び、緊急性が高いと判断した時に行う仕事。
 これは、個人ではなく、集団が行う仕事だ。
 感染者集団や、変異体感染者といった、個人ではとても達成できない仕事。
 そして、三つ目は、街などに急に現れた感染者を対処する、緊急性の高い個人で行う仕事だ。
 クワがこうして私に声を掛けてきた以上、パターンは恐らく二番という事だろう。
 一体どんな敵が待ち構えているのか。
 私は焦る気持ちを押さえてクワの話を聞く。
 
「僕が新しく所属した殺し屋集団が、新しい情報を入手した」

「その情報って?」

「変異体感染者の情報だ」

 案の定、話の出だしはろくでもない感じだが、この程度までは想定内だ。
 重要なのは、その変異体感染者の情報だ。
 一口に変異体感染者と言っても、様々な種類がある。
 例えば、この間のデージーという変異体感染者は、脳の機能が変異していた。
 しかし、今まで私が戦って来た変異体感染者の中には、体そのものが変異したものもいる。
 どちらも強敵だが、事前の情報で立てるべき対策は異なる。
 最低限の情報は欲しいところだが、一体どこまで分かっているのやら…

「現状分かっていることはほぼないと言ってもいい」

「はあ⁉」

 流石にそれは論外だ。 
 変異体感染者と戦うに当たって、事前の下準備程大切なものはない。

「何の対策も無しに戦って勝てる相手じゃないでしょ!一体何を考えてるの⁉」

 知らない内に怒鳴り声を出してしまった。
 我ながら恥ずかしい。
 私は無理矢理気持ちを落ち着かせ、話の続きを聞く。

「場所は隣の市のとある廃墟だ。といっても、廃墟となったのはつい数日前なんだけどね」

「それって……」

「そう、数日前までは正常に機能していた場所が、廃墟になった。恐らく、感染者に襲われたんだと思う」

「でも、近くに殺し屋もいたはずでしょ?」

「隣町の殺し屋は全員殺された」

「ぜっ……全員⁉」

 生還した殺し屋がいるなら、その人物が情報を持っているはずだと思っていたが、全滅とは想定外だ。
 隣町は比較的大きな町なので、その分殺し屋の人数もこの町より多いはずだが、一体何があったのだろうか。

「確認させて。現状、廃墟となった場所はつい数日前まで機能していた。その廃墟に向かった殺し屋は全員殺された。だから、情報は何もないけど、変異体感染者がいるって判断したってことでいい?」

 クワは黙って頷く。
 よし、とりあえず現状は把握した。
 問題は緊急性と難易度、そして、人員だ。

「緊急性はかなり高い。何せ、隣町には殺し屋がいなくなってしまったからね。お陰で僕の所属している集団は大忙しだよ」

「でしょうね。それで、この任務にはどれくらいの人が集まりそうなの?」

 私が質問の質問にクワはなかなか答えない。
 すごく嫌な予感がする。

「まさかとは思うけれど、十人くらいしか人員を割けないとは言わないでしょうね?」

 隣町の殺し屋(少なく見積もって百人程)が全滅する様な案件だ。
 この町の殺し屋全てを導入してもいいくらいの案件だが、その辺の話はどうなっているのだろうか。
 しばらく沈黙していたクワは、諦めたように口を開く。

「十人も用意出来ればよかったんだけどね……」

 前置きが不穏過ぎる。
 私はクワを問いただしたい気持ちをぐっと堪える。

「ニンファー、よく聞いてね。今回、この任務に参加できるのは、僕だけだ」

 私はしばらく思考を停止させた。
 たっぷり数十秒考えたところで、私はようやく状況を理解する。

「はああ⁉クワ一人⁉無理に決まってるでしょ!何をどうしたらそんな話になるの⁉」

 クワが慌てた様に口を開く。

「落ち着いてニンファー、ちゃんとこれには事情があるんだ」

 私は無理矢理気持ちを落ち着かせて、クワの話を聞く。

「隣町の殺し屋が全滅したせいで、その殺し屋達が請け負っていた仕事がこの町の殺し屋達に流れ込んできたせいで、みんな手が離せないんだよ」

 そこまでの話は理解できる。
 問題なのは、なぜ選ばれたのがクワなのかという点だ。

「それがさ、すごく言いにくいんだけど、この間の任務の時に、変異体感染者に僕がとどめを刺したじゃん」

 私は言われて思い出す。

「そう言えばそんなこともあったけど……それと何の関係が?」

「つまり、僕が変異体感染者にとどめを刺した=僕は変異体感染者と戦っても勝てるだけの実力があるって思われちゃったんだよね……」

「……」

「本当はニンファーの手柄なのにねえ」

 そんな風に、いきなり後ろから声をかけられた。
 驚いて後ろを見ると、そこにはアルが立っていた。

「アル⁉何でここに……」

 アルは少し怒った様に言う。
 
「『何で?』って聞かれれば、これを届けに来て上げたんだけど」

 そう言ってアルが取り出したのは、小型の拳銃だった。

「あっ……」

 しまった、すっかり忘れていた。
 今日、アルの店に足を運んだのは、この拳銃の修理を依頼するためだったのだ。
 この銃は、昔、予備の拳銃としてどこかのお店で買ったものだ。
 しかし、昨日の武器点検の時に、使えなくなっているのを見つけ、アルに修理を依頼した。
 本当なら、武器の修理は買ったお店に依頼するのがベターなのだが、アルの腕なら問題ないと判断した。
 そのついでとして昨日のクワとの話をしたのだが………

「ごめんなさい……そういえばお金もまだ払ってなかったでしょ?」

「そうだね、でも、今払ってくれれば良いよ」
 
「お代はいくら?」

「一万円程で」

「分かった」

 私はアルから銃を受け取り、変わりにお金をアルに渡す。

「はい、毎度あり~」

 アルは機嫌良下げにそう言った。
 すぐに帰ると思ったのだが、アルは中々帰らない。

「帰らないの?」

 先に口を開いたのはクワはだった。

「いや、さっきまでの話が面白そうだったから聞いていこうと思ってさ」

「殺し屋でもないあなたが聞いてもどうしようもないでしょ?お店もあるんだし早く帰った方がいいと思うけれど」

「お店はちゃんと鍵をかけてきたから大丈夫だよ。それに、私のお店はお店として中々認識されないから、お客さんも少ないし問題はなし」

「そう思うならあの店の外装を何とかしなさいよ。何でリフォームしないの?」

「うーん…私の専門は武器だからねえ…リフォームまでは流石にできないし、今の時代にそんなことをしてくれる職人さんもいないしねえ」 

 確かにそこはアルの言う通りだ。
 この時代に他人の家(店)のために働いてくれる人は少ないだろう。

「まあ、とにかく、話はそれたけどお店は大丈夫だからしばらくここにいさせてよ。お願い!」

 アルの懇願に私とクワは折れ、仕方なくアルを話し合いに参加させる。
 クワは奥から新しい椅子を持ってくると、すぐに話を再開させた。

「えっと……どこまで話たっけ?あっ…そうそう、それで、僕が変異体感染者と対等に戦えるって勘違いされちゃってね、それで僕一人で任務に当たることになっちゃったんだけど…」

「でも、クワ一人じゃ荷が重過ぎるから、どこの集団にも所属していない最強の殺し屋であるニンファーに協力を依頼するってことね」

 クワの言葉の続きをあるが引き継いだ。
 その言葉にクワは黙って頷く。
 話は飲み込めた。
 つまり、たった二人で変異体感染者を相手にしなければならないということか……
 はっきり言って難易度が高すぎる。
 相手が一人や二人ならまだ何とかなるが、三人以上となれば流石にきつい。
 しかし、恐らくこの任務についてはほぼ拒否権はない。
 私がここで断れば、恐らく、クワが一人で任務に出向くことになる。 
 こう言っては何だが、クワ一人でこなせる仕事ではない。
 私がここで断れば、100%クワが死ぬ。
 それは絶対に避けたい。

「分かったわ。協力してあげる」

「本当に⁉ありがとう!本当に助かるよ。僕一人じゃ、とてもこなせる様な任務じゃなかったからね」

 喜び勇んでいるクワに申し訳ないが、もちろん仕事である以上、こちらから言わせてもらわなければならない事がある。

「協力するのはいいとして、当然、報酬は出るんでしょうね?」
 
 クワはポカンとした様な顔をする。

「えっ……?お金取るの?」

「当たり前でしょ、仕事だもの」

「あははっ!ニンファーらしいね」

「アル、割と大事な話だから少し黙ってて」

「さっきまではそこまで真面目じゃなかったのにねえ。もしかしてニンファーって強欲だったりする?」

「うっさい!仕事で報酬が出るのは当然でしょ?ましてや殺し屋はそのお金で生活してるんだから。アルだってタダ働きは嫌でしょ?」

 アルはニヤニヤ笑いながら答える。

「つい先日タダ働きしたばっかりだけどねえ」

「うっ……」

 それを言われると少々弱い。
 クワが諦めた様に口を開く。

「分かった。僕の方は協力を依頼する立場だからね。一応、この仕事が上手くいけば、十万円の報酬がもらえることになってるから、その半分を君への報酬にさせてもらうよ。それでいい?」

 危険度が高い割に、報酬は割と安めだった。
 しかし、これ以上を望めば、クワの分の報酬がなくなってしまうので、この辺が妥当だろう。

「ええ、それで十分よ。交渉成立ね」

「君に改めてお礼を言うよ。ありがとう」

「お礼はいらないわ。報酬が出るなら私たちの立場は対等だから」

 私は少しだけ真面目な口調でクワに聞く。

「それで、実行はいつ?詳しい場所は?」

「ああ、そのことなんだけど、緊急性がかなり高いから、出来るだけ早くしろって言われてるから、出来れば明日にでも任務に取り掛かりたいと思ってるんだけど、都合はどう?」

「問題ないわ。武器のメンテナンスもこの間済ませたところだし、今のところは何の予定もないから」

「分かった、じゃあ、集合は明日の朝で。場所は、隣町の、一番大きな武器工場っていえば分かる?」

「ごめん、ちょっと分かんない」

「確か、町の中心部にある工場だよね?私の記憶が正しければ、そこで作る武器を隣町の殺し屋全員が使ってるって話を聞いたことがあるよ」

 『武器』という言葉に、アルがすぐに反応した。
 流石は武器職人、そういった事には相当詳しいようだ。

「とにかく、町の中心に行けばいいのね?」

「そうそう、現地集合ってことで」

「町に感染者は出てないの?」

 私は素直な疑問をクワにぶつけたが、クワは少し困った様な顔をする。

「それが本当に不思議なんだけど、あくまで占領されたのはその工場だけなんだって。その工場以外は正常に機能しているらしい」

「そんなことってあるものなの?」

「それが変異体感染者の能力って事なのかもね」
 
 アルが口を挟む。
 その指摘はかなり的確なものだった。
 町に感染者がいないからといって、安心は出来ない。
 むしろ、あまりに普通じゃないこの現象に、警戒心が掻き立てられる。

「とにかく、何があっても対応して出来るように、心の準備だけはしといた方がいいかもしれないわね」

 クワは黙って頷く。

「じゃあ、とりあえずまでこれで話は終わりだね!あ~面白かった。んじゃ、私はこれで帰るね!ばいば~い」

 話が終わって三秒でアルは家に帰った。
 明日の仕事に向けて、私もそうそう家に帰り、武器の確認だけをして、すぐに寝た。
 そういえば、なぜアルが私たちの話に関与してきたのか、それだけが謎だった。

 次の日。

 私は朝早くに目を覚まし、クワに指定された場所へと足を運ぶ。
 その場所にたどり着いてみると、クワが元気に手を振ってきた。
 普段なら絶対にまだ起きてないだろうが、仕事となれば話は別だ。
 
「おはよう、ニンファー!今日は来てくれて本当にありがとう!一緒に頑張ろう!」

「あなたに集中するっていう概念はないの?」

「挨拶は大事でしょ、別にそんなに怒らなくてもいいじゃん…」

 クワは拗ねた様に言う。
 別に怒ってはないが、私は仕事の前には静かに集中したいタイプだ。

「一人で仕事するときは別にそれでもいいと思うけど、今回は三人で仕事するんだから、挨拶くらいはしといたら?」

 いきなり後ろから声をかけられた。
 びっくりして後ろを振り向くと、そこにはアルが立っていた。

「アル⁉」

 私とクワの声が綺麗に揃った。

「あははっ!びっくりした?」

「当たり前でしょ……一体何しに来たのよ?」

「もちろん、殺し屋としてニンファー達に協力するために来たんだよ~」

 殺し屋は別に、資格やら免許やらは必要にない。
 武器を持って、感染者と戦えば、それだけで殺し屋を名乗れる。
 逆に言えば、誰でも殺し屋になれるのだが……

「アル、あなた戦えるの?」

 アルはいつもの笑顔で答える。

「もちろん!私は武器職人だよ。身体能力は、ニンファーやクワに負けるけど、武器の扱いなら負けないよ!」
 
 そう言ってアルが取り出したのは、見たことのない形をした銃。
 普通の銃の形をしているが、持ち手の上の部分が広くなっており、そこにダイヤルの様な物が付いている。

「その銃は何?」

 聞いたのはクワた。
 アルは自信に満ちた様に答える。

「この銃の名前は『操作銃コントロールガン』って言うの。私が開発した新しい武器なんだけど、今日はこの武器のテストも兼ねて来たんだよね」

 そう言ってアルはダイヤルを回転させていた。
 どうやら、そのダイヤルは三段構造になっているようだ。
 しばらくすると、アルはこっちを向いた。

「説明するより見せた方が早いと思うから、どんな武器か見せてあげるね!」

 そう言ってアルは銃をクワに向けた。

 「危ないから動かないでね」

「ちょっ……ちょっと!何してるの⁉」

 私の静止する声を無視し、アルは引き金を引く。

「ヒッ……」

 クワは短い悲鳴を上げた。

「????」

 私は混乱していた。
 アルは確かにクワに向けて弾丸を放った。
 しかし、弾丸はクワの体に当たっていなかった。
 よくみると、クワの足元の地面が若干窪んでいる。

「アル、これってどういうこと?」

 アルは自慢げに説明する。

「これがこの武器の特徴。このダイヤル部分を調整することで、弾丸の軌道をある程度設定出来るの。この銃には金属製の弾丸が使用されていて、磁力を使って軌道を調整してるの。ちなみに、有効射程範囲は最大で八十メートルくらいなんだけど、弾丸の軌道を極端に曲げたりすると、当然射程は短くなる。扱いは難しいけど、上手く使えれば、壁越しとかでも攻撃出来るようになる、とっても強力な、私の自慢の新武器だよ!」

「………」

「………」

 私とクワは沈黙する。 
 確かに凄い武器ではあるが、そんな死角から相手を狙う場面はほとんどない。
 つまり、この武器の特性が生きる場面はほとんどない。
 そんな謎の機能を付けるくらいなら、シンプルに射程を伸ばした方がよかった気もするが……

「凄い武器だね……」

 クワはギリギリでリアクションを取る。

「本当に⁉やったあ!」

 アルは滅茶苦茶はしゃいでいた。
 忘れていた……
 アルは自分の作った武器を褒められると、すごく喜ぶのだ。
 普段からテンションは高いが、武器を褒めたは、普段の三倍くらいテンションが高くなる。
 逆のパターンについては言うまでもない。
 まあ、このテンションが反転すると思ってもらえれば差し支えない。
 普段はケジメがついてる感じで,大人っぽい雰囲気を漂わせていることもあるが、こういう時は本当に子供っぽく見えてしまう。
 私は大きなため息をつく。

「まあ、とにかく。人数は揃ったんだし、さっそく仕事に取り掛かりましょう」
 
「そうだね」

「了解!」

 クワとアルが返事をし、私たち三人は、何が起こるか分からない戦場へと足を踏み込んだ。

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