元魔女ヒーラーの治療録~私にだけ甘えてくるんですがこのクソ真面目王子~

ことのはじめ

文字の大きさ
35 / 55

35.ルル、潜入

しおりを挟む
 悔しい、悔しい、悔しい。

 ずっとアメリアは繰り返していた。コーネリアスの手当てをしてから部屋に戻っても、ずっと頭の中を悔しいおもいがぐるぐると回っている。魔法が失敗したのは自分のせいだ。コーネリアスの緊張を解けなかった。それどころか、自分の精神だって落ち着かせることができなかった。アメリアほどの魔法の使い手が精神を乱されたのだ、よっぽど国王の言動は腹に据えかねたのだろう。


「くっそー!! あー! もうイライラする!」

「ご機嫌斜めどころか絶壁だねこりゃ」


 一人ベッドでジタバタするアメリアに、ルルが珍しそうにライティングテーブルの上から声をかける。使い魔を見せることも必要ないかとアメリアはルルを部屋に控えさせていたのだが、食事を終えて戻ってくるなりこの有様なのだ。ルルだって珍しがるのは当然だろう。


「そりゃそうでしょうよ! あの王様魔法の効きをろくに見もしないくせに勝手に指を切り付けるししかも効かなかったのがコーネリアス様のせいって決めつけて! 私側の不発とか考えてないの? 一方的すぎるでしょ!」

「なんていうか、コーネリアス王子って王様に信用されてないのかな。自分の子供を大なり小なり傷つけるのも王様っていうより人としてどうかと思うなぁ、僕は」


 ルルもうんうんと頷きながらアメリアに同調し、アメリアはさらにヒートアップしていく。


「だいたい何よ今まで効いてても自分の目の前で効果が見られないから無意味とか! 勝手に試験みたいにしてんじゃないわよ! あーむかつく!」

「まあまあアメリア落ち着いて。アメリアがそう言うところでカッとなりやりすいのは昔からだけど、今はどうしたいの? 王様ぶっ飛ばしにいく?」


 ひとしきりジタバタと暴れたアメリアはその手足をすとんとベッドに落とし、それからごろりと勢いをつけて起き上がった。あまりに興奮したせいか隠している右目がほのかに紅くなっている。


「ふぅ。そんなことしにいくもんですか。不敬罪で牢屋行きなんてごめんよ」

「じゃ、どうするのさ」


 ルルの問いかけにアメリアは冷静さを取り戻すように深呼吸を繰り返した。


「なんとかして王様の鼻を明かしたいのは事実ね。それには王様のことをもっと知る必要があるんだけど」

「僕に密偵みたいなことさせるの好きだよね」


 ジト目でルルが文句を言うも、アメリアの意思は固いようだ。


「使い魔なんだからそのくらいの下働きくらいしなさい? 王様がどんな風に一日を過ごしてるか、まずは探りを入れるわよ。ほら、行った行った」

「ちぇ、使い魔使いが荒いんだから」


 ルルはぶつくさ言いながらもライティングテーブルからおり、また窓の外に消えていく。
 その姿を見送りながらアメリアは拳を握りしめた。


「待ってなさいよ、王様だからといって容赦はしないんだから。徹底的にあちこち詰めてぎゅうぎゅうにしてやるんだから……!」



 そんなアメリアの元から駆け出すルルは、闇に溶けるように素早く庭園を駆けて王の居室がある方角へ向かっていく。


「ええと、こっちだよね。いかにも警備が厳重そうなところ」


 見回りの兵士が増えていく中、ルルはどうにか居室の窓際まで来ることができた、中では静養しに来るとのことだったのに連れてきた侍従から何やら報告を聞くエドモンドの姿が見えた。


「……でありまして、リムネアでは薬草の卸しがかなり増えている模様です」

「そうか、アレクシスの滋養に効きそうなものはあるか?」

「残念ながら傷を癒す類のものが多く、そもそも……」


 リムネアの薬草事情など聞いてどうするのだろう、ルルが疑問に思っているとちらりとエドモンドが窓を見やった。


(わっ! まずいっ)


 気づかれた。急いでルルは逃げ出そうとするが、逆にそれが仇となってしまった。


「何奴?!」


 ちょうど衛兵が見回りにきて、持っていた槍を突き立てようとしてきた。

 ルルは咄嗟にかわしたが、槍の穂先は前足を掠める。

 苦し紛れに大きく吠えたあと、ルルは一目散に庭に逃げ出していく。


「……なんだ?」


 エドモンドが窓を見やると、ルルを追い払った衛兵がエドモンドに敬礼をするところだった。見回りの兵士だと思ったエドモンドは引き続き侍従からの報告を聞くのに戻る。

 暗い夜に、小さな血痕が点々と続いていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

〖完結〗終着駅のパッセージ

苺迷音
恋愛
分厚い眼鏡と、ひっつめた髪を毛糸帽で覆う女性・カレン。 彼女はとある想いを胸に北へ向かう蒸気機関車に乗っていた。 王都から離れてゆく車窓を眺めながら、カレンは振り返る。 夫と婚姻してから三年という長い時間。 その間に夫が帰宅したのは数えるほどだった。 ※ご覧いただけましたらとても嬉しいです。よろしくお願いいたします。

とある令嬢が男装し第二王子がいる全寮制魔法学院へ転入する

春夏秋冬/光逆榮
恋愛
クリバンス王国内のフォークロス領主の娘アリス・フォークロスは、母親からとある理由で憧れである月の魔女が通っていた王都メルト魔法学院の転入を言い渡される。 しかし、その転入時には名前を偽り、さらには男装することが条件であった。 その理由は同じ学院に通う、第二王子ルーク・クリバンスの鼻を折り、将来王国を担う王としての自覚を持たせるためだった。 だがルーク王子の鼻を折る前に、無駄にイケメン揃いな個性的な寮生やクラスメイト達に囲まれた学院生活を送るはめになり、ハプニングの連続で正体がバレていないかドキドキの日々を過ごす。 そして目的であるルーク王子には、目向きもなれない最大のピンチが待っていた。 さて、アリスの運命はどうなるのか。

ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」 ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

魔王様は転生王女を溺愛したい

みおな
恋愛
 私はローズマリー・サフィロスとして、転生した。サフィロス王家の第2王女として。  私を愛してくださるお兄様たちやお姉様、申し訳ございません。私、魔王陛下の溺愛を受けているようです。 *****  タイトル、キャラの名前、年齢等改めて書き始めます。  よろしくお願いします。

悪役令嬢?いま忙しいので後でやります

みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった! しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢? 私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

処理中です...