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55.エピローグ ナターシャからの手紙
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アメリアへ
手紙、読みました。まさか玉の輿になるなんて思ってもみなかったわ。傷の治療といっしょに王子の心も虜にするなんてなかなかやるじゃない。何があったか、今度医局に寄るときにいろいろ話してくれると嬉しいわ。
それにしたって、王子と婚約したならそのまま医局も辞めると思っていたのに、まさか王族付きの専属ヒーラーになるなんて大出世ね。国王陛下は気難しいことで有名なのに、一体どんな魔法を使ったのかしら。
それと、リムネアの報告書を同封します。急な魔物の発生はどうやら大地のマナが乱されていたところが原因らしいわ。薬草の群生地一帯がめちゃくちゃに荒らされていたから、そこからマナの流れがおかしくなったんでしょうね。
大方よその国の人間がよく知りもしないまま土地を荒らしたせいだと思うわ。他国はこの国よりマナが少ないから、多少無茶をしても魔物は出ないもの。おおよそのことは報告書に書いてあるから、暇なときに目を通してちょうだい。
それと、改めて婚約おめでとう。コーネリアス王子はしっかりものだけど、なんとなくあなたの方が尻に敷きそうな気がしてならないわ。大丈夫かしら。でも、きっとあなたならいい伴侶としてやっていけると思います。
お幸せに。
たまには医局にも顔を出してちょうだいな。おいしいお茶を淹れて待ってるから。
ナターシャ
「……あはは、さすが局長。やっぱり見抜かれてる」
「何をだ? アメリア」
王城、コーネリアスの居室。そこでアメリアはコーネリアスと一緒にナターシャの手紙を読んでいた。正確には、コーネリアスはアメリアの膝枕でくつろいでいる。
相変わらず外面はしっかりしているのだが、二人きりになるとコーネリアスはアメリアに甘えてばかりだ。たった二つ違いだというのにコーネリアスはやたらとアメリアの側では子供っぽくなる。
今アメリアの腰に抱きついて膝枕から見上げてくる男が王国の第二王子で、守護騎士団の騎士団長なのだから人のギャップとは恐ろしいものである。
「尻というか、膝の上に乗せているというか……」
「だからなんのことなのだ、アメリア」
むくれるように聞き返すコーネリアスを片手で器用に撫でながら、アメリアは手紙と共に届けられた報告書の束を手にとる。今回の魔物発生の報告書だ。
読み進めてみればナターシャの手紙通り、隣国の商人がリムネアの薬草を自国のやり方で売ろうとしていたことが原因らしい。群生地を片っ端から根こそぎ掘り出して、自家栽培なりしつつ採れた薬草を大量に街に降ろしていたようだ。
その商人はもう捕まっていて、フローリア王国での商売を禁じられて隣国に送還済みだという。さすが、気難しくても王の判断は早い。
「あのときの無茶苦茶な採り方も、商人が試し掘りしたのを見つけただけだったのかも」
リムネアでコーネリアスと高原を散策したときに見つけた無惨に掘り返された薬草の苗を思い出す。報告書と照らし合わせれば、なるほど納得もいくというものだ。
アメリアはコーネリアスの頭をぽんぽんと撫でながら、報告書を読んでいく。
そこへ慌ててルルが部屋に飛び込んできて、姿を現した。
「アメリアー! 匿って!」
「ルル?! また急に何よ」
「アレクシスが僕のことお風呂に入れようとするんだよ! せっかく毛繕いしたばっかなのに!」
毛を逆立てる勢いで嫌がるルルにアメリアはふう、とため息をつく。
「だったらここじゃゃないところでやりなさいよ。ルルはともかくアレクシス殿下にこれ見られたらコーネリアス様の沽券に関わるでしょう」
「だってぇ、アレクシスったらアメリアのポーションとかハーブで元気になった分公務の間を縫っては僕を触りにくるんだもん!」
「コーネリアス? ルルを見なかったかい?」
噂をすれば影。言った側からアレクシスがルルを探しにコーネリアスの部屋をノックした。
その音を聞くや否やコーネリアスはアメリアから離れ、襟元を正してアレクシスを出迎える。
「兄上。ルルでしたら今アメリアの元に」
「そう? じゃあ連れてきてもらえるかな。たまにお風呂に入れないとノミがついて不健康だってアメリアさんが貸してくれた本に書いてあったから」
「だそうだ。観念したらどうだ、ルル」
「や~だ~!」
アメリアの足にしがみつくルルだったが、アメリアはひょいとルルを抱えてアレクシスに渡してしまった。
「はい、アレクシス殿下。洗うときはしっかり、お願いしますね」
「ありがとう、アメリアさん。じゃあ、ルル、行こうね」
「アメリアの裏切り者~!」
腕の中でじたばた暴れるルルの悲鳴とにこにこしながら連れていくアレクシスを見送り、改めてアメリアとコーネリアスは顔を見合わせる。
「まったく……」
「賑やかですね」
顔を見合わせて笑った後、コーネリアスは、ちょっと焦ったそうにアメリアの服の裾を引いた。
「……それで、もう少し、甘えさせてほしいんだが……」
全くかわいらしい王子様である。アメリアはにこりと笑ってコーネリアスの手を握った。
「でしたら、続きは中で。本当にかわいらしいお方なんですから」
自分にだけ甘えてくる王子が、アメリアはかわいくて好きでたまらない。
手紙、読みました。まさか玉の輿になるなんて思ってもみなかったわ。傷の治療といっしょに王子の心も虜にするなんてなかなかやるじゃない。何があったか、今度医局に寄るときにいろいろ話してくれると嬉しいわ。
それにしたって、王子と婚約したならそのまま医局も辞めると思っていたのに、まさか王族付きの専属ヒーラーになるなんて大出世ね。国王陛下は気難しいことで有名なのに、一体どんな魔法を使ったのかしら。
それと、リムネアの報告書を同封します。急な魔物の発生はどうやら大地のマナが乱されていたところが原因らしいわ。薬草の群生地一帯がめちゃくちゃに荒らされていたから、そこからマナの流れがおかしくなったんでしょうね。
大方よその国の人間がよく知りもしないまま土地を荒らしたせいだと思うわ。他国はこの国よりマナが少ないから、多少無茶をしても魔物は出ないもの。おおよそのことは報告書に書いてあるから、暇なときに目を通してちょうだい。
それと、改めて婚約おめでとう。コーネリアス王子はしっかりものだけど、なんとなくあなたの方が尻に敷きそうな気がしてならないわ。大丈夫かしら。でも、きっとあなたならいい伴侶としてやっていけると思います。
お幸せに。
たまには医局にも顔を出してちょうだいな。おいしいお茶を淹れて待ってるから。
ナターシャ
「……あはは、さすが局長。やっぱり見抜かれてる」
「何をだ? アメリア」
王城、コーネリアスの居室。そこでアメリアはコーネリアスと一緒にナターシャの手紙を読んでいた。正確には、コーネリアスはアメリアの膝枕でくつろいでいる。
相変わらず外面はしっかりしているのだが、二人きりになるとコーネリアスはアメリアに甘えてばかりだ。たった二つ違いだというのにコーネリアスはやたらとアメリアの側では子供っぽくなる。
今アメリアの腰に抱きついて膝枕から見上げてくる男が王国の第二王子で、守護騎士団の騎士団長なのだから人のギャップとは恐ろしいものである。
「尻というか、膝の上に乗せているというか……」
「だからなんのことなのだ、アメリア」
むくれるように聞き返すコーネリアスを片手で器用に撫でながら、アメリアは手紙と共に届けられた報告書の束を手にとる。今回の魔物発生の報告書だ。
読み進めてみればナターシャの手紙通り、隣国の商人がリムネアの薬草を自国のやり方で売ろうとしていたことが原因らしい。群生地を片っ端から根こそぎ掘り出して、自家栽培なりしつつ採れた薬草を大量に街に降ろしていたようだ。
その商人はもう捕まっていて、フローリア王国での商売を禁じられて隣国に送還済みだという。さすが、気難しくても王の判断は早い。
「あのときの無茶苦茶な採り方も、商人が試し掘りしたのを見つけただけだったのかも」
リムネアでコーネリアスと高原を散策したときに見つけた無惨に掘り返された薬草の苗を思い出す。報告書と照らし合わせれば、なるほど納得もいくというものだ。
アメリアはコーネリアスの頭をぽんぽんと撫でながら、報告書を読んでいく。
そこへ慌ててルルが部屋に飛び込んできて、姿を現した。
「アメリアー! 匿って!」
「ルル?! また急に何よ」
「アレクシスが僕のことお風呂に入れようとするんだよ! せっかく毛繕いしたばっかなのに!」
毛を逆立てる勢いで嫌がるルルにアメリアはふう、とため息をつく。
「だったらここじゃゃないところでやりなさいよ。ルルはともかくアレクシス殿下にこれ見られたらコーネリアス様の沽券に関わるでしょう」
「だってぇ、アレクシスったらアメリアのポーションとかハーブで元気になった分公務の間を縫っては僕を触りにくるんだもん!」
「コーネリアス? ルルを見なかったかい?」
噂をすれば影。言った側からアレクシスがルルを探しにコーネリアスの部屋をノックした。
その音を聞くや否やコーネリアスはアメリアから離れ、襟元を正してアレクシスを出迎える。
「兄上。ルルでしたら今アメリアの元に」
「そう? じゃあ連れてきてもらえるかな。たまにお風呂に入れないとノミがついて不健康だってアメリアさんが貸してくれた本に書いてあったから」
「だそうだ。観念したらどうだ、ルル」
「や~だ~!」
アメリアの足にしがみつくルルだったが、アメリアはひょいとルルを抱えてアレクシスに渡してしまった。
「はい、アレクシス殿下。洗うときはしっかり、お願いしますね」
「ありがとう、アメリアさん。じゃあ、ルル、行こうね」
「アメリアの裏切り者~!」
腕の中でじたばた暴れるルルの悲鳴とにこにこしながら連れていくアレクシスを見送り、改めてアメリアとコーネリアスは顔を見合わせる。
「まったく……」
「賑やかですね」
顔を見合わせて笑った後、コーネリアスは、ちょっと焦ったそうにアメリアの服の裾を引いた。
「……それで、もう少し、甘えさせてほしいんだが……」
全くかわいらしい王子様である。アメリアはにこりと笑ってコーネリアスの手を握った。
「でしたら、続きは中で。本当にかわいらしいお方なんですから」
自分にだけ甘えてくる王子が、アメリアはかわいくて好きでたまらない。
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