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14.甘える王子
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それからというものの、アメリアの治療には湯治の他魔法治療も組み込まれるようになった。施術は決まってアメリアとコーネリアスが二人きりで医務室にこもり、魔法による治療を試みる。表向きはそうなのだが。
「アメリア……」
医務室に鍵をかけたアメリアに、焦れったそうにコーネリアスが呼びかける。
「わかってますよ。ほら、こっちです」
アメリアはテキパキと医務室に置かれたベッドの支度をととのえると、ベッドに腰かけコーネリアスに横になるよう促す。
コーネリアスはベッドに横たわるも頭は枕に置くのではなく、アメリアの膝に乗せる。膝枕されたコーネリアスは心地よさそうに身じろぐと、アメリアを上目使いで見上げた。
「では、今日も頼む」
「はい。では、治癒魔法をかけてからにしますね」
アメリアは慣れた調子で呪文を唱えると、コーネリアスの頭を撫でながら治癒魔法をかけた。ふわりと暖かな光に包まれ、コーネリアスの傷が癒えていく。裂傷の跡がじわじわと塞がっていき、傷痕もなく皮膚が再生していく。
同時にコーネリアスを苛んでいた痛みも引き、コーネリアスの表情も穏やかなものになった。
アメリアは腕の裂傷跡を見ながらよし、と頷く。
「表面の治療は順調ですね。まだ再生したてですから激しい運動をすると塞がったところが裂けてしまいますから、自然治癒の力で完全に治るまで運動は禁止ですよ」
「そうか……傷痕などもう見えないのに、まだダメなのか」
「応急処置ではない治癒魔法は段階的に傷を癒していくものなんです。ただ傷を塞げばいいだけではなくて、傷ついた筋肉や血管の再生した後は癒着を防いだりとか、いろいろ調整しながら治さないといけないんですよ」
「魔法だからと言って何でも便利にいくわけではないのだな」
「そうです。それに患者に合わせた治療計画だってあります。コーネリアス様は特に気を抜くと張りきるんですから、意識して大人しくしないといけないですよ」
アメリアが困ったように言い聞かせれば、コーネリアスは少し背を丸めて「善処する」と呟いた。
「その、アメリア」
コーネリアスがまた控えめな眼差しでアメリアにせがむ。アメリアは眉を下げてコーネリアスの頭を優しく撫でる。魔法による治療の時は、決まってすることがあった。
「それで、今回はどんなお話を聞かせてくれるんですか?」
「まだ十ほどの頃の話だ。乗馬を学んで、一度も馬から落ちずに稽古を終えられたときの」
「それは、十歳で馬に乗りこなすなんてすごいですね。がんばったんですね」
「うむ……」
コーネリアスの思い出話を聞きながら、アメリアはコーネリアスの頭を撫でたり、髪を指で梳いたりする。さらさらの白髪はよく手入れされているおかげか指の通りが良く、絹糸に触れているかのようだ。
「今日馬を見ていたらその時のことを思い出してな。ケガが癒えたらまた鍛錬せねば」
「そうやってすぐ動こうとするんですから。私がいいと言うまでは鍛錬は禁止ですよ?」
「……わかった」
言葉遣いこそまだ堅苦しいが、コーネリアスはすっかりアメリアに心を許していた。心を許せば治癒魔法が効く、ということを知ってからはこうして二人で話をしながら魔法をかけることが常になっていた。
どちらかというと、魔法をかけてもらうついでにコーネリアスがアメリアに甘えてくるようになったといえばいいだろうか。
心を許してもらったのはいいものの、まるで弟のように懐かれてしまいアメリアも戸惑ってしまう。それに対して悪い気持ちはないのだが、その内姉上と呼ばれてしまいそうだ。
(でも、こうやって甘えられるの……いい!)
内心アメリアも乗り気なところが伺える。
コーネリアスも表向きのこともあり、部屋の外ではキリッとしているが、勘のいい使用人には少し気付かれているかもしれない。
アメリアとしては困らないのだが、一応コーネリアスの体面のために甘えてくることを大っぴらにはしていない。
「アメリア……」
コーネリアスは普段の凜々しい声とは打って変わってなよなよとした声音でアメリアを呼ぶ。
頭を撫でていた手が止まっていたことに気づき、アメリアはまたコーネリアスを撫でてやった。
「まったく、一応王子なんですからふにゃふにゃになるのは私の前だけにしてくださいよ」
「わかっている……」
その言葉だってどこか子供じみていてアメリアはぐっと心の柔い部分をくすぐられてしまう。
気をしっかりと持ってはいるものの、なんだか変なことにアメリアは目覚めてしまいそうである。
そうして猫のように甘えるコーネリアスの相手をしてやりながらアメリアは複雑な喜びを噛み締めていた。
つまるところ、コーネリアスが自分の前でだけ甘えてくるという秘密をアメリアは抱えているのだ。
「アメリア……」
医務室に鍵をかけたアメリアに、焦れったそうにコーネリアスが呼びかける。
「わかってますよ。ほら、こっちです」
アメリアはテキパキと医務室に置かれたベッドの支度をととのえると、ベッドに腰かけコーネリアスに横になるよう促す。
コーネリアスはベッドに横たわるも頭は枕に置くのではなく、アメリアの膝に乗せる。膝枕されたコーネリアスは心地よさそうに身じろぐと、アメリアを上目使いで見上げた。
「では、今日も頼む」
「はい。では、治癒魔法をかけてからにしますね」
アメリアは慣れた調子で呪文を唱えると、コーネリアスの頭を撫でながら治癒魔法をかけた。ふわりと暖かな光に包まれ、コーネリアスの傷が癒えていく。裂傷の跡がじわじわと塞がっていき、傷痕もなく皮膚が再生していく。
同時にコーネリアスを苛んでいた痛みも引き、コーネリアスの表情も穏やかなものになった。
アメリアは腕の裂傷跡を見ながらよし、と頷く。
「表面の治療は順調ですね。まだ再生したてですから激しい運動をすると塞がったところが裂けてしまいますから、自然治癒の力で完全に治るまで運動は禁止ですよ」
「そうか……傷痕などもう見えないのに、まだダメなのか」
「応急処置ではない治癒魔法は段階的に傷を癒していくものなんです。ただ傷を塞げばいいだけではなくて、傷ついた筋肉や血管の再生した後は癒着を防いだりとか、いろいろ調整しながら治さないといけないんですよ」
「魔法だからと言って何でも便利にいくわけではないのだな」
「そうです。それに患者に合わせた治療計画だってあります。コーネリアス様は特に気を抜くと張りきるんですから、意識して大人しくしないといけないですよ」
アメリアが困ったように言い聞かせれば、コーネリアスは少し背を丸めて「善処する」と呟いた。
「その、アメリア」
コーネリアスがまた控えめな眼差しでアメリアにせがむ。アメリアは眉を下げてコーネリアスの頭を優しく撫でる。魔法による治療の時は、決まってすることがあった。
「それで、今回はどんなお話を聞かせてくれるんですか?」
「まだ十ほどの頃の話だ。乗馬を学んで、一度も馬から落ちずに稽古を終えられたときの」
「それは、十歳で馬に乗りこなすなんてすごいですね。がんばったんですね」
「うむ……」
コーネリアスの思い出話を聞きながら、アメリアはコーネリアスの頭を撫でたり、髪を指で梳いたりする。さらさらの白髪はよく手入れされているおかげか指の通りが良く、絹糸に触れているかのようだ。
「今日馬を見ていたらその時のことを思い出してな。ケガが癒えたらまた鍛錬せねば」
「そうやってすぐ動こうとするんですから。私がいいと言うまでは鍛錬は禁止ですよ?」
「……わかった」
言葉遣いこそまだ堅苦しいが、コーネリアスはすっかりアメリアに心を許していた。心を許せば治癒魔法が効く、ということを知ってからはこうして二人で話をしながら魔法をかけることが常になっていた。
どちらかというと、魔法をかけてもらうついでにコーネリアスがアメリアに甘えてくるようになったといえばいいだろうか。
心を許してもらったのはいいものの、まるで弟のように懐かれてしまいアメリアも戸惑ってしまう。それに対して悪い気持ちはないのだが、その内姉上と呼ばれてしまいそうだ。
(でも、こうやって甘えられるの……いい!)
内心アメリアも乗り気なところが伺える。
コーネリアスも表向きのこともあり、部屋の外ではキリッとしているが、勘のいい使用人には少し気付かれているかもしれない。
アメリアとしては困らないのだが、一応コーネリアスの体面のために甘えてくることを大っぴらにはしていない。
「アメリア……」
コーネリアスは普段の凜々しい声とは打って変わってなよなよとした声音でアメリアを呼ぶ。
頭を撫でていた手が止まっていたことに気づき、アメリアはまたコーネリアスを撫でてやった。
「まったく、一応王子なんですからふにゃふにゃになるのは私の前だけにしてくださいよ」
「わかっている……」
その言葉だってどこか子供じみていてアメリアはぐっと心の柔い部分をくすぐられてしまう。
気をしっかりと持ってはいるものの、なんだか変なことにアメリアは目覚めてしまいそうである。
そうして猫のように甘えるコーネリアスの相手をしてやりながらアメリアは複雑な喜びを噛み締めていた。
つまるところ、コーネリアスが自分の前でだけ甘えてくるという秘密をアメリアは抱えているのだ。
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