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26.迷いなく
「お怪我がなくてなによりです、アメリア嬢」
「す、すみません……」
駆けつけたオリバーは壁の穴にひどく驚いていたが、それよりもアメリアが無事かをまず確認した。
アメリアは咄嗟に魔法の暴発と言ったが、れっきとした攻撃魔法である。さすがに使い魔相手に本気は出さなかったものの、直撃した壁にぽっかりと穴が空いているのだからその威力は凄まじい。
「魔法の暴発とは……王立医局の筆頭ヒーラーでも、手元が狂うことがあるのですね」
「ちょっと、精神が乱れてしまったようで……治療に支障は出ないようにいたしますのでご心配なく」
空笑いで誤魔化すアメリアに、オリバーはふむと頷いて御用邸の護衛たちを下がらせた。
「少々お話をさせていただいてもよろしいでしょうか」
「構いませんが、暴発のことでしたらお構いなく……」
「いえ、最近のアメリア様は少々塞ぎ込んでおられるようで、心配なのです」
「心配……ですか」
オリバーにまで勘付かれているとなるとアメリアも対応しないわけにはいかない。渋々ながらも応接用のテーブルにオリバーを案内する。
オリバーと共に応接テーブルに着くと、アメリアは愛想笑いを浮かべた。
「お茶も出せませんが」
「いえ、お構いなく。ちょっとした世間話をしたいと思いまして」
「はあ」
オリバーは襟元を緩めるといずまいを崩す。
「悪いが、これは侍従オリバーとしてじゃなくコーネリアスの友人としてのオリバーとして話させてもらうが、いいか?」
突然話し方も態度も変わったオリバーにアメリアは驚いたが、素を出しただけだとわかるとアメリアも力を抜いてオリバーに向き直った。
「わかりました。では、私もヒーラーとしてではなくアメリアとして応対しますね」
「助かるよ。さすがは王立医局で筆頭にあげられる人だ」
オリバーは続ける。
「コーネリアスのことなんだが、あいつは昔からクソ真面目で不器用な奴でな。期待に応えようとして無理するきらいがあるんだ。だからいつも気を張ってしっかりしていようとして……そんな奴があんたの話になると途端に笑顔になる。正直、俺も見たことないくらいだ。眩しいくらいだよ」
「コーネリアス様が……」
「ああ」
アメリアの声にオリバーは頷く。
「だから、礼を言いたくてな。俺の友人を笑顔にしてくれてありがとう」
面と向かって謝意を述べられ、アメリアはいたたまれなくなる。そんなことを言われるほど立派な人間ではないし、そう思われたところで自分はそれとは全く別のことで思いあぐねているのだから。
「あんたと会ってから、あいつは変わったんだ。表情も明るくなって、思いつめた顔をしなくなって。コーネリアスはあんたに癒やされてるんだ。怪我だけじゃなく、心の方も」
オリバーの物言いは少し乱暴だが、しかし偽りを含まない正直なものだった。嘘をついていないから、余計に自分がコーネリアスにしてきたことを自覚させられて、アメリアは自分の気持ちを直視させられる。
好いた人が自分のおかげで元気になっている事実が嬉しい。役に立てていることだって。だというのに、アメリアは周りが恐ろしくて逃げ腰になっている。
そんなことを気にせずに、好きだと言えたならどれほどいいだろう。打ち据えられることをおしてでも好意を示す勇気があれば。迷っているだけでは答えは出ない。
アメリアの気持ちはもう決まっていた。そしてこの状態を一人で抱えることにも我慢できなくなっていた。
自然とアメリアはコーネリアスと話をしたくなっていた。今の気持ちなり状況なりを話して、分かち合いたくなった。
「オリバーさん。私、コーネリアス様とお話ししようと思います」
オリバーに向けるアメリアの眼差しは真っ直ぐだった。迷いのないひたむきな思いに満ちていた。
「ああ。なら、コーネリアスに約束を取り付けておくよ。いつがいい?」
「ありがとうございます。なら――」
――今夜、庭園で。
「す、すみません……」
駆けつけたオリバーは壁の穴にひどく驚いていたが、それよりもアメリアが無事かをまず確認した。
アメリアは咄嗟に魔法の暴発と言ったが、れっきとした攻撃魔法である。さすがに使い魔相手に本気は出さなかったものの、直撃した壁にぽっかりと穴が空いているのだからその威力は凄まじい。
「魔法の暴発とは……王立医局の筆頭ヒーラーでも、手元が狂うことがあるのですね」
「ちょっと、精神が乱れてしまったようで……治療に支障は出ないようにいたしますのでご心配なく」
空笑いで誤魔化すアメリアに、オリバーはふむと頷いて御用邸の護衛たちを下がらせた。
「少々お話をさせていただいてもよろしいでしょうか」
「構いませんが、暴発のことでしたらお構いなく……」
「いえ、最近のアメリア様は少々塞ぎ込んでおられるようで、心配なのです」
「心配……ですか」
オリバーにまで勘付かれているとなるとアメリアも対応しないわけにはいかない。渋々ながらも応接用のテーブルにオリバーを案内する。
オリバーと共に応接テーブルに着くと、アメリアは愛想笑いを浮かべた。
「お茶も出せませんが」
「いえ、お構いなく。ちょっとした世間話をしたいと思いまして」
「はあ」
オリバーは襟元を緩めるといずまいを崩す。
「悪いが、これは侍従オリバーとしてじゃなくコーネリアスの友人としてのオリバーとして話させてもらうが、いいか?」
突然話し方も態度も変わったオリバーにアメリアは驚いたが、素を出しただけだとわかるとアメリアも力を抜いてオリバーに向き直った。
「わかりました。では、私もヒーラーとしてではなくアメリアとして応対しますね」
「助かるよ。さすがは王立医局で筆頭にあげられる人だ」
オリバーは続ける。
「コーネリアスのことなんだが、あいつは昔からクソ真面目で不器用な奴でな。期待に応えようとして無理するきらいがあるんだ。だからいつも気を張ってしっかりしていようとして……そんな奴があんたの話になると途端に笑顔になる。正直、俺も見たことないくらいだ。眩しいくらいだよ」
「コーネリアス様が……」
「ああ」
アメリアの声にオリバーは頷く。
「だから、礼を言いたくてな。俺の友人を笑顔にしてくれてありがとう」
面と向かって謝意を述べられ、アメリアはいたたまれなくなる。そんなことを言われるほど立派な人間ではないし、そう思われたところで自分はそれとは全く別のことで思いあぐねているのだから。
「あんたと会ってから、あいつは変わったんだ。表情も明るくなって、思いつめた顔をしなくなって。コーネリアスはあんたに癒やされてるんだ。怪我だけじゃなく、心の方も」
オリバーの物言いは少し乱暴だが、しかし偽りを含まない正直なものだった。嘘をついていないから、余計に自分がコーネリアスにしてきたことを自覚させられて、アメリアは自分の気持ちを直視させられる。
好いた人が自分のおかげで元気になっている事実が嬉しい。役に立てていることだって。だというのに、アメリアは周りが恐ろしくて逃げ腰になっている。
そんなことを気にせずに、好きだと言えたならどれほどいいだろう。打ち据えられることをおしてでも好意を示す勇気があれば。迷っているだけでは答えは出ない。
アメリアの気持ちはもう決まっていた。そしてこの状態を一人で抱えることにも我慢できなくなっていた。
自然とアメリアはコーネリアスと話をしたくなっていた。今の気持ちなり状況なりを話して、分かち合いたくなった。
「オリバーさん。私、コーネリアス様とお話ししようと思います」
オリバーに向けるアメリアの眼差しは真っ直ぐだった。迷いのないひたむきな思いに満ちていた。
「ああ。なら、コーネリアスに約束を取り付けておくよ。いつがいい?」
「ありがとうございます。なら――」
――今夜、庭園で。
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