好きと言ってもわからない~精神年齢10歳の次期当主に求婚された件~

ことのはじめ

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第7話 次期当主、やんちゃ坊主につき

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 見送るレイノが見えなくなり、孤児院も見えなくなり、郊外にあるという屋敷にアイリたちは向かって行く。
「すごいね、こんなに立派な馬車に乗るなんて私初めてだよ」
「そうね。でも馬車自体ほとんど乗らなかったから……」
 揺れも少ない馬車の中で、黙っているアイリと反対にマリアははしゃぎっぱなしだった。
「マリア殿、淑女ならばもう少し慎みを持った方がよいかと」
「でも、すごくって! 貴族様ってやっぱり違うんだなーって!」
 窓の外をずっと楽しげに見ているマリアをアイリが窘める。
「マリア、あまりはしゃぐと迷惑にならない?」
「アイリだってもっと楽しもうよ。お屋敷に行くなんて初めてなんだから」
「そんなに楽しいものなのかしら……」
 ぽつ、と漏らしたアイリにマリアはしかたなさそうに眉を下げる。
「もう、自分のことなんだからアイリはもっと楽しく過ごしていいんだってば。なんでそんなに他人事みたいに捉えちゃうんだか」
「アイリ様、もしかして緊張なされてるのですかな?」
「いえ、そういうわけではない、です」
 ただ、とアイリは付けくわえる。
「どういうことが楽しいのか、よくわからなくて……婚約をしたことだってすごいことなのに、何の実感もなくて」
「でも、決まったらすぐお屋敷に行くって返事したじゃない」
 マリアが不思議そうに言えば、アイリは表情を曇らせる。
「それは、私が……私が初めてちゃんと決めたことだったから……でもなんだか落ち着かなくて」
「ふむ……」
 その言葉を聞いて、オルヴォは心配そうに黄色い瞳を伏せる。
「ご、ごめんなさい。アイリったら昔っからあんまり自分のこと言うのが得意じゃなくって……」
 オルヴォが気を悪くしたのかと代わりにマリアが謝るが、オルヴォの心配はどうやらそこではないようだった。
「いや、一町娘が突然貴族との婚約を宣言されたら、実感がないのも当然です。それより、ユリウス様についてこられるかどうかが心配でしてな。……いえ、口が滑りました。あまりお気になされませんよう」
 二人は首を傾げたが、それ以上オルヴォは何も言わなかった。
 ルナサングィネア家の屋敷に着き、アイリとマリアは馬車を降りる。見渡す限りの田園は全てルナサングィネアの土地だとオルヴォから聞いて二人は驚いた。だが、貴族ならばそれも当たり前なのだろう。
 その田園に囲まれるようにして建つルナサングィネアの屋敷は、孤児院や教会の敷地を合わせた上でも足りないほど広く、そして立派だった。
 玄関ホールに通されたところで、バタバタと騒々しい物音が聞こえてきた。
「お待ちくださいユリウス様! まだ執務が残っております!」
「やーだよー! サインの練習みたいな書類なんてこりごりだね!」
 ホールの二階から聞こえた声が近づく。廊下から飛び出てきた彼は中央に設えられた階段の手すりにまたがってするりと一階まで滑り降りてきた。
「はぁ……」
 オルヴォが盛大にため息をつく。手すりから軽い身のこなしで降りたユリウスはくせっ毛の長髪を揺らしてアイリたちを見やる。
「あ!」
 まるでかっこいい虫を見つけた少年のようにユリウスは嬉しそうに声を上げると、ぱたぱたとアイリの元に駆け寄ってきた。
「来てくれるの待ってたんだ! ねえ、一緒に遊ぼう!」
「ユリウス様!」
 息を切らして使用人のメイドが追いかけてくる。ユリウスはアイリの手を引くと玄関ホールとは反対方向にある廊下に駆け出した。
「ユリウス様……?!」
 突然のことに驚いたアイリが目を瞬かせるも、手を引かれるまま連れていかれてしまう。
「アイリ!」
「アイリ様! ユリウス様!」
 マリアはびっくりして眼鏡がずり落ちかけ、横にいたオルヴォは慣れた様子で二人を追って走り出した。
「え、え? ちょっと、どういうことか説明してよー!」
 息を切らしたメイドと二人残されたまま、マリアの叫びは虚しく玄関ホールに響いた。
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