好きと言ってもわからない~精神年齢10歳の次期当主に求婚された件~

ことのはじめ

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第26話 痛み

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 アイリの目の前で、鉢は割れた。無惨に土をぶちまけてアイリスは花弁を汚す。
「あ……」
 ただ見ていることしかできず、アイリは焼け付くような胸の痛みに耐える。
「ふふふ、あはははは!」
 メイドは高笑いをして落ちたアイリスの花を踏みにじった。
「あんた! なんてことっ……!」
 マリアが止めに駆け出すが、メイドは素早く身を翻して逃げ出してしまう。マリアの脚力なら十分追いつけるはずだが、追いかけようとしたマリアは突然びくりと体を震わせ転んでしまった。
「うっ……!」
「あ、く……」
 二人して痛みに身をこごめる。この痛みはただの痛みではない。アイリだから、マリアだから感じる痛みだ。
「マリア? アイリ様とどこに行って……」
 勝手口から出ていった姿を見たのか、メイドの一人が二人の様子を見に来て、声を上げる。
「誰か! 誰かー!」
 メイドの甲高い叫びを遠く聞きながら、アイリは踏みにじられたアイリスに手を伸ばした。
 だが、手は届くことなくぱたりと地面に落ちる。


 アイリとマリアが倒れたと聞いて、ユリウスたちは血相を変えて二人の運ばれた部屋に飛び込んだ。
「アイリ! 大丈夫?!」
「マリア殿!」
 ユリウスがベッドに横たえられたアイリの手を握る。いつもほんの少し冷えているアイリの手は、燃えるように熱かった。
「どうしたの? 何があったの?」
「最初に見つけたのはクララ、君で間違いないか?」
「え、ええ、はい」
 二人を見つけたメイドのクララはユリウスとオルヴォに焼却炉の前で二人が倒れていたことを伝える。
「でも、さっき飛び出していった時は急いでいる以外に具合が悪い素振りなんてちっとも見えなくて、でも様子を見に行ったら二人とも倒れていて……」
 病気でもなければ怪我をした様子もない。ただただ皆で困惑する中、屋敷のかかりつけ医が急ぎ足で入ってきた。
「お待たせいたしました。すぐにお二人を診ますので、外でお待ちを」
 医師の言うとおりユリウスとオルヴォは部屋の外で待たされる。気が気でない様子で待っていれば、医師が浮かない面持ちで部屋を出てきた。
「医師殿、二人の容態は」
 オルヴォが尋ねれば、医師は表情を曇らせる。
「厄災痕の共鳴です。強い負の感情が魔素と反応して痛みを与えているのです。幸いマリアさんは程度が軽いですが、……アイリ様は反応が強いので、専門の処置をしないと」
「先生はできないの?」
「人間への魔素干渉は専門の技術が必要になるんです。私はエミネントへの処置はできますが人間の厄災痕の処置までは……」
 残念そうに言う医師にユリウスは唇を噛む。こんな時に何もできないことが歯がゆくてしかたなかった。魔素や魔力のことならエミネントだから、ずっと身近なのに。近いが故に、何の理解もなかった。
 己の無知を恨む中、クララが急ぎ足で部屋から出てきた。
「どうした?」
「マリアが目を覚ましまして……」
 皆で部屋に入ると、アイリの眠っている隣でマリアが起きだしていた。
「マリア殿、まだ横になっていた方が」
 オルヴォが気遣うが、マリアはかぶりを振ってベッドから身を起こす。
「私は平気です。それよりアイリが……アイリは後遺症がひどいから私より痛みがひどく出ちゃうから」
「アイリ、アイリ……」
 ユリウスが呼びかけるが、アイリはうなされつつも起きる気配はない。皆でアイリの心配をする中マリアが残念そうに言う。
「こういうとき、レイノ先生がいてくれたら……」
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