地図にない島の秘密

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海の国1日目

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「くぁあ~…寝みぃ…」

目を覚ますと次の島に着いたのか周りの乗客は姿を消していた.到着してからそんなに時間は経っていない筈なのに自分以外は居ないなんて余程この国が人気なのか?別にそんな噂聞いた事無いが…
とりあえず、船から荷物を持って降りると国は特に変わった所の無い平和そうで平凡な国だった.何故乗客があんなに早く降りたのか全く分からん…

「なぁ…あれって青鬼じゃないか…?」

「…多分そうだ.近寄らない方がいいな…」

ヒソヒソと自分に好奇心や恐怖の視線を向けて離れていく.まぁ、そんなに多くはないが多少は自分を知っているようだ.
青鬼ことザロ・ハイドルフ、それが俺の名前.別に極々普通の無能力者だが賞金首になっている能力者や無能力者と真剣勝負をして勝っていたらいつの間にか自分が賞金首になっていた.別に勝っても殺しては居ない、生け捕りにして賞金を貰っているだけなのに何故こんなにも恐れられるのか…

「別にそんなに強くねぇのにな…」

最近じゃ自分を襲う様な輩もあまり居なくなってきた.自ら狩りに行くのは面倒だし更に悪い噂が立って目立つし…
てか、雲行きも怪しいしさっさと宿探さねぇと…通りは人が多いし路地裏から回るか.

「キャアッ!?やめて!離してよ!!」

路地裏に入り少し先に進むと大の大人がまだあどけない女の子の腕を掴み気味の悪い笑みを浮かべながら距離を詰めている.
おいおい…何でよりによって今出会うんだよ…今俺は急いでんだよ…

「おい、あんた.あんまり酷い事はしない方が…」

「あん?邪魔するんじゃ……おやおや、これはこれは.最近噂の青鬼じゃないか~」

…神など信じないがもし居たとしたら今すぐ斬る.いや、斬り刻む.

ハァ…と溜息を付いてどう対処しようかとふと足元を見れば地面にパタパタッとシミが2つ3つと出来た.そのまま勢いが付いてパラパラとした雨ではなくザァー…と大雨が降り出した.相手が「クソッ…雨降り出したか…」と呟いて自分から雨へ意識が逸れた時に出来た隙に一気に相手との距離を詰め鳩尾に肘鉄を入れ、グッ…と顔を顰め少しふらつく相手の足を引っ掛け倒れ込ませると丁度良い所に数人の騎士が現れ倒れ込んでいる不審者を慣れた手つきで縄で縛りあげていた.
一人だけ格式が漂う男が居てそいつは女の子にすぐに近寄っていき保護するかと思いきや

「何で逃げ出しているんですか!ハノン様!」

と大声で言ったかと思えばスラスラと滞る事無くその子へ説教が注がれる.日常茶飯事の事なのだろうかハノンと呼ばれたその子は面倒臭さそうな表情を浮かべて少し俯いている.残念だったな…と少し同情の眼差しを向ければ自分のやるべき事は終わらせた、先に失礼させて貰おうと路地裏の先に進んで行く.

「ねぇ!あの人が助けてくれたのよ!あの人にお礼をしたいわ!」

え…いや、お礼とか要らねぇ…てか、なんで騎士にそんな要望言えるんだ?保護されるだけでいいのに何で説教…逃げ出すってなんだ?今更になって疑問が湧いて悩んでいれば後ろから感じる視線が強くなり

「待ってください.申し訳ございませんが姫が王宮で助けてくれたお礼をしたいとのご要望でどうか我々と共に来てくださいませんか?」

先程ハノンに説教を注いでいたそいつは

「私はハノン様の護衛隊長兼騎士隊長を務めているレイと申します.」

雨の中とは思えないほど丁寧に自分に頭を下げた.ハノンは既に他の兵に傘をさしてもらっていた.

「そんなの要らねぇし.俺は宿を探しに」

「今からじゃもう既に宿は埋まっています.休む場所は殆ど無いかと思われます.ちなみにハノン様はこの国の王女様です.いくら他国の者であっても断る事はなさらない方が身の為かと….」

レイは先程の丁寧に優しい声音でツラツラと言ってきたがニコッと笑顔を浮かべながら半分無言の圧力を掛けてくる.拒否権は無いぞ、と視線で言ってくるあたり断っても意味が無さそうだ…
確かに泊まる場所は無いし雨もどんどん酷くなっている.これはお言葉に甘えた方が良いか…

「ちっ…分かったよ…付いていく.」

「ありがとうございます.」

そのまま騎士達に連れられて王宮に行くとまず風呂に入らせて貰いわざわざ服まで用意されて手厚くもてなされた.お風呂も何もかも高級感に溢れていて身体は休まったが精神は気が張ったままだ.物凄く場違いな気がして疲れる…賞金首が王宮で手厚くもてなされるなんて普通なら有ってはならないだろう.

服を着替えた後メイドに連れられて長いテーブルのある部屋に連れてこられた.どうやらここで食べるらしい.
席に座って気まづさを紛らわす為周りを見れば肖像画や写真が飾ってあった.王様と思わしき長身で筋肉質な男性と幼い頃のハノンが抱き合っている写真や寝ている写真があり楽しそうな家庭だな…王宮の人間のはずなのにまるで一般市民と同じような過ごし方….なんて観察していると会議が終わった王様が現れ一応挨拶を交わし早速料理に手を付ける.
王様はとても豪快で自分に気を張らなくて良いんだぞ!我が娘を助けてくれた恩人なのだから!と笑ってくれたが内心ダラダラと冷や汗をかきながら出てくる料理を待てばご馳走ばかりで普段食べている物とは大違いだった.

「美味ッ…普段食べてる物とは全然違う…」

「ほう…普段は何を食べているんだい?」

「草とか魚…動物とか…」

「わははははッ!なら、今のうちにたーんと食べるが良いぞ!」

「あ、ぁ…そうする.」

王様は豪快過ぎて少し気後れしてしまう.まぁ、嫌われずにすんで良かった.
黙々とご飯を食べ進めているとハノンが思い出したかのように突然

「ねぇ、普段は何をしているの?何故この国に?」

「普段は……旅だな.理由は特にない.」

「でも、旅をするだけで賞金首を倒すとは凄い奴だな!賞金首の中には能力者もいるんだろう?」

「あ、ぁ…でも、なんでそれを…」

「お前さんのその髪と傷じゃな.青鬼のザロ・ハイドルフだろう?」

「…あぁ、その通りだ.」

自分の髪は珍しくも何ともないが胸にある傷はあまり無いだろう.まぁ、だいたい髪色と顔で覚えられているから傷は殆ど気づかない.

「あら!賞金首さんだったの!なら、私は賞金首さんにも助けられたのね!」

「え、前も助けられたのか…?」

誰に助けられたのかと聞こうとすると部屋に響いたノック音で俺の声はかき消された.

「お食事中失礼致します.レイです.先程の件についてご報告に.」

王様が入れ、と言うとガチャリと開き先程俺を連れてきた(半強制的に)騎士隊長のレイは部屋に入るなり手に持っていた紙を王様に見せると王様は先程の満面の笑みが渋そうな顔に変わった.何かあったのか…?

「理由は分からないのだな…?」

「はい.嵐が起こった理由は不明、恐らく能力者の起こしたものかと予測.時折嵐が止み晴天に見舞われますが暫くするとまた酷くなるのを繰り返しております.収まるまでは最低5日はかかるかと…最低で5日ですので6日後に行われるフェスティバルは延期になさった方が安全だと我々は考察しております.」

「…もし5日経っても収まりそうになければ延期をしよう.大丈夫そうなら延期はしないと伝えておくれ.」

「はっ、かしこまりました.」

5日は嵐がやまねぇのか?俺明日には国を出たかったのによ…ついてねぇな、まず外にも出られねぇんじゃどこに明日は泊まれば…

「ザロ、お主は嵐が止むまではここに留まるがいい.その間はレイ、ハノンの護衛に加えザロの護衛も頼んだぞ.」

「えッ……はい、分かりました.」

おい…今一瞬とんでもなく嫌そうな顔しやがったぞ、あいつ….すぐに完璧な作り笑顔に戻ってたけどよ…素出てんじゃねぇかよ…

「俺は別に護衛がなくとも大丈夫っ…」

「お主は賞金首とはいえ我の娘の恩人.護衛を付けるのは当たり前じゃ.」

結局ほぼ強制的に俺はレイを護衛にさせられ客室まで案内された.

「ここが貴方の部屋です.何か御用があれば近くの兵士がメイドに聞いてください.」

とだけ言うとすぐにその場からは離れていった.何故そんなにあいつに嫌われているのか…

「もう今日は寝るか….」

特にすることも無いので部屋に入りその日は就寝した.
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