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第四章 マドネリ村

第76話 剣聖、バトルマニアに迷惑する4

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「もはやオマエに勝ち目はない!逃しもせんぞ!」

だが、考え事をする間も与えず、問答無用でテムジンが斬り掛かって来る。凄まじい速度の踏み込みである。慌てて飛び退いて逃げるコジロー。

だが、逃さんとばかりに、高速で次々と斬撃を繰り出してくるテムジン。かろうじて攻撃をかわし続けていたコジローであったが、ついに、逃げ切れなくなり、転移を発動して安全圏に脱出した。

「卑怯だぞ、逃げずに戦え!」

さしものテムジンも、このまま転移で逃げられたら追いきれないようだ。

そもそも「卑怯」と言われても、テムジンのほうも、なんか卑怯な戦法な気がするのだが・・・と思ったコジローであったが、人の事は言えない、自分も同じ戦法で戦った事がある。

コジローは剣を構えた。

「逃げはせん、次で勝負だ!」

斬り掛かっていくコジロー。

テムジンも迎え撃つ。

双方、防御無視の斬撃である。

交錯する剣

だが、テムジンの剣撃は、コジローの頭上に現れた小さな四角い壁=マジックシールドによって止められてしまう。

そして、コジローの次元剣は、鋼鉄化して斬れないはずのテムジンの体をあっさりと両断した。。。

「ば、かな・・・」

驚愕の言葉とともに、テムジンは倒れ、血の海が広がっていった。。。



初見でコジローの二十倍速+転移斬を受け止める実力の持ち主である。アストロンなどに頼らず、正面から剣技のみで戦っていれば、おそらくコジローは勝てなかったはずである。

だが、コジローの剣は、ゼフトがくれた「この世に斬れないものはない」次元剣である。テムジンのアストロンが掛かった体も例外ではなかった。

そもそも、コジローは、同じアストロンのスキルを持っていたギガンテスを次元剣で斬った経験があったのである。

そして「どんな攻撃も防いでしまう」ゼフト謹製マジックシールド。

マジックシールドを破壊するほどの攻撃がありえないとは言えないが・・・そこはゼフトの作った魔法である。ゼフトの古代魔法をさらに研究改良した魔法の盾を超えるほどの攻撃は、そうは存在しないのである。

テムジンの剣は、業物ではあったが、普通の剣である。マジックシールドを破れるはずもなかった・・・。



防御を捨てた捨て身の攻撃、これはやっかいである。相手の攻撃を体で受け止めて、その瞬間に相手を斬るのである。どんな人間でも、攻撃の瞬間には防御がなくなる。相打ちを狙われると避けるのは非常に難しくなるのである。

死を覚悟した捨て身か、鉄壁の防御を持つ者だけが取れる戦法。

テムジンは、アストロンを身に着け事で、そのような戦い方をするようになったのであろう。

だが、鉄壁の防御を持つ同士が戦った時、防御力と攻撃力に勝るほうが勝ち残る事になるわけである。

テムジンは、十分実力はあったのだから、木剣を使った模擬戦でも良かったのではないかと思うコジローであったが。そうであれば、おそらくコジローの腕では歯が立たなかったであろうに・・・

アストロンを過信した戦いをしてきて、判断を誤ったのだろう。

肩口から腰辺りまで、胴体をほぼ両断されている状態では、ポーション程度では助けることはできないだろう。
もしかしたらゼフトなら助ける事ができたかも知れないが・・・あれだけ死ぬ覚悟はあると言っていたのだから、師匠の手を煩わせるほどの義理もない。

コジローは、テムジンの遺体をマロに燃やしてもらい、遺品の剣を持って街へ戻ったのだった。



街の入口でテムジンの荷物持ち(ポーター)が待っていたが、コジローが一人で帰ってきた事で結果を察したようだ。

コジローはポーターにテムジンの剣を渡そうとしたが、その男はテムジンとは縁も所縁もない、ただ金で雇われただけの人間なので遺品は要らないと言い、去っていった。



戦いに勝利したものの、コジローの気分は明るくはなかった。ただただ、意味もなく戦わされて、人を一人殺させられてしまったのである。

コジローにとっては迷惑以外の何者でもなかったのだ。今後も、このような挑戦が続くのであろうか?

(そう言えば、ポーターに口止めするのを忘れてしまった。また噂が広まってしまうのであろうか?)

だが、意外にも、テムジンが殺されたという話が広まった事で、コジローへの挑戦は終息したのであった。

テムジンはかなり有名な人物だったようで、テムジンに挑戦され殺された者の遺族から賞金まで掛けられていたらしい。

何人もの強者がテムジンに破れて死んでいたのは有名な話で、そのテムジンが剣聖に倒されたという噂が追加され、剣聖に挑戦するのは無謀な事というところまで格上げされたためであった。

結局、無名の人間が突然「剣聖」などと持て囃されるようになり「出る杭は打たれる」現象で挑戦者が多かったのであった。

コジローの実力はどうやら本物であると言う事が信じられるようになり、無謀な挑戦をする者は減ったのであった。



だが、そうなると、今度は、弟子にしてくださいと言う者も現れるようになった。

弟子と言われても、剣の腕など三流もいいところのコジローに人を教える事などできるわけもない。むしろ、コジローが教えてほしいくらいである。

そういう申し出も、徹底して断るコジローであった。

「中には弟子にしてくれるまでここを動きません!」

などと言い出す者も居たのだが、それは師匠の家の前とかでやるものであって、市場の中などでやるものではない。コジローが断ってさっさと立ち去れば、邪魔なだけなので通報されて警備兵に連れられて行くのだった。

コジローは現在、アルテミルの宿は引き払い、マドリー&ネリーの家に下宿していた。そこまで突き止めて訪ねてくる者はさすがに居なかった。



突然知らない人間に声を掛けられる事も減っていたのだが、ある日、若い夫婦が声をかけてきた。

「あの、剣聖のコジロー様でいらっしゃいますよね?」

「いや?!『剣聖』ではないです!!」

またか と思ったコジローであったが・・・。


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