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第四章 マドネリ村

第82話 マドネリ村1

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マロも、立派な大人の狼に成長していた。成長は早く、半年もすれば体は大人のサイズになっていた。一年を過ぎれば、立派な大人のフェンリルである。

そして・・・子供ができていた。

周囲を守っていた魔狼(ディザスターウルフ)の雌が相手であった。できた子供はディザスターウルフとフェンリルのハーフということになる。

マロは純血のフェンリルである。当然両親ともフェンリルであるが、フェンリルというのはそもそも、非常に数が少ない。相手を見つけることが困難なのである。この森の周辺にはマロの兄妹達はいるが、やはり近親婚はこの世界の動物でも本能的に避けるらしい。

マロの兄弟達は、相手を見つけるために旅立っていく者も多いが、コジローと一緒にいるマロはそうもいかない。だからというわけではないだろうが、ディザスターウルフの雌と愛を育んでしまったようである。

実は、ディザスターウルフとフェンリルのハーフは、カラミティウルフという、ディザスターウルフよりもさらに上級種の魔狼となる。ディザスターウルフとカラミティウルフは外見は良く似ているので、コジローにいまひとつ、区別がつかなのであった。



ドワーフ達も増え、マロの子育ても始まると、やはり城壁があったほうがよいかな、とコジローは思い始めた。

魔狼達が守ってくれているとは言え、やはり、防壁がない場所に住んでいると人間もドワーフも少し緊張感があるのは否定できない。それに、魔狼達も安心して休める場所もあったほうがよいだろう。子育て中のマロの妻狼も、常に周囲に敵が居ないか気を張っているのは大変だろうとコジローは思ったのであった。

ゼフトに相談すると、空間操作の魔法で、コジローが自分で防壁を作れると言われた。魔法の練習のために自分でやってみよと言うので、自分で作ることになった。

亜空間操作ではなく、空間操作の魔法である。確かに、レベルアップして、いつのまにかそのような魔法が使えるようになっていた。慣れない魔法でレベルもそれほど高くはないが、地面から壁状に盛り上げたり、逆に下げて穴を作ったり程度はできそうであった。そこまで大規模な使い方ができるとは思っていなかったのだが、たしかにできそうである。

さっそく試してみる。地面を幅数メートル、高さ10メートルほどに壁状に隆起させる。空間操作は、ダンジョンの「核」がダンジョンを拡張していく地形操作と同種の魔法である。単に隆起させるだけではなく、かなり強固な岩に近いような壁にすることができた。

どうやらできそうなのことが判明したので、まずは、住民に相談して、意思確認。住民と言ってもマドリーとネリーとモニカ、ドワーフ達とコジローだけであるが。(ちなみに、一応マロと魔狼達にも聞いてみたが、村人のほうはどうでもよいとの事だった。)

全員一致で賛成だったので、作業計画に入る。

まずは、ドワーフの親方に、城門と跳ね橋を作成してもらう。何もない場所に、城門が建設と跳ね橋が建設されていくので、マドリー&ネリーの家の客は不思議に思いながら見ていたが。

次に、決めた範囲に沿って、数百メートルに渡って壁を隆起させていく。コジローは、さらにマドリー&ネリーの家やコジロー・ドワーフ達の家と畑を取り囲むように、広く四角く壁を隆起させていった。
最後は、ドワーフ達によって建てられた城門に接続するように地面を隆起させていく。

壁に使った土はその分、壁の外側から移動させているので、その分壁の前の土はえぐられ低くなってしまう。その分、外からみると非常に壁の落差が大きくなるのである。それはそのまま生かして堀とし、城門の前、堀に掛かるように橋を掛ける。橋は跳ね橋とした。実際にこの橋を上げる必要がある時がくるかどうかは分からないが、なんとなく、コジローのマニアックなこだわりであり、ドワーフの親方に話したら、面白がってノリノリで作ってくれたのである。

基本的に跳ね橋は下ろしたままである。たまに定期点検で上げ下ろしをする事にはしたが、魔狼達が周辺を常時パトロールしている以上、襲撃を受けることはほぼないので、滅多に使うことはないのであったが。

マドリー&ネリーの家の宿泊客は、昨日までなかった城壁ができているのを見て驚嘆の声をあげた。



次に、やっぱり堀には水を入れたいとコジローは思う。なくとも、城壁と堀とで落差は20メートルにもなるので防壁としては十分なのであるが、これもコジローのこだわりであった。

水は、死霊の森の奥深く、山間部から流れる川が、少し離れた場所に流れている。下流ではアルテミルとサンテミルの間を流れている川に続くのであるが、その上流から水路を掘って水を引き込んでくる計画をたてた。

コジローの地形操作の魔法で、地面に溝を作ってしまうのは簡単なのである。地面を陥没させると同時に両側を堤防として隆起させていく。水を取り入れるだけなので、それほど大きな水路は必要ない。とりあえず1mくらいの幅にしてみた。あまり大きくして、決壊して洪水などの被害が出るのも困る。小さければ処理も容易いであろうと考えたのである。

そのようにして水路を作り、堀と川の上流を繋いだが、さらに、排水のための水路も必要である。街の反対側の堀から下流の川に向けて水路を作る。

最後に、水路の取水口と排水溝を川と接続する。コジローの地形操作の魔法で作られていた壁を一気に下げる。水が堀に流れ込んできて、やがて満水になり排水路から水が流れ出て水位が安定した。

作ってみて気がついたが、この堀は排水ができない。常に水が流れ込んできて流れ出ていくので、溜まった水が腐るということはないだろうが・・・

様子を見に来たゼフトが、それは転移魔法陣を堀の底に刻めば良いと教えてくれた。なるほど、考えてみたたら、温泉や湧き水も転移魔法陣で引いているのである。推理を作らなくても、転移魔法陣を使えば良かったのでは・・・?と今更気がついたコジローであったが、せっかく作ったので、水路をそのまま使うことにした。



コジローの空間操作(地形操作)の魔法の様子を見に来ていたゼフトは、人間の老人の姿であった。実は若者の姿になることもできるのであるが、人間の前に出る時はそうしておいたほうがイメージに合うので誤解が少なく良いらしい。

そして、驚くべき事に、人間に化けたゼフトは、マドリー&ネリーの家のレストランで食事をしていた。人間の姿になれば、単に外見をごまかしただけではなく、食事の味もちゃんと分かるのだとか。

それから、コジローが考案したマドリー&ネリーの家の料理が気に入ったのか、たまに食事をしているゼフトの姿が見られるようになったのであった。。。


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