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第一部 転生編

第5話 鑑定の結果は…

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奏あらためクレイの発する言葉が、明確になんらかの意味を表している事は、両親やメイド達にすぐに理解された。

空腹にせよオムツにせよ、泣かずに言葉で訴える赤子が不気味に思われないかとクレイも少し懸念したが、「手がかからない賢い子」と受け入れられたようで助かった。

クレイは、その後、なるべくベッドの中で体を動かし(赤ん坊なりの筋トレ)すぐに動けるようになった。赤ん坊の肉体の適応力というのは大したものである。立ち上がれるようになったので、排泄はトイレでさせてもらえるようになった。と言ってもトイレまでは母親やメイドに抱きかかえられて連れて行ってもらう必要があったのだが。

いちいちトイレに行かず、ベビーベッドの上ですれば処理してあげるというような説明を受けた気がしたが、片言の言葉と態度で断固拒否、トイレに連れて行ってもらえる事になったのであった。

食事に関しては歯が生えそろうまでは母親の乳を飲んで凌くしかなかった。三十歳の大人の意識であるクレイは、見ず知らずの若い母親の乳首に吸い付くのは抵抗があったのだが、空腹には耐えられず。

そして吸い始めてしまえば、それはただの食事でしかない。赤ん坊なのでそれで性的に反応するという事もなく、授乳行為にはすぐに抵抗はなくなった。

そんなこんなで成長を急ぎ、徐々にこの世界の言葉も覚えてきた頃には、自分を取り巻く環境についてもかなり理解ってきた。

家にはメイドもたくさんいて、かなり裕福な印象であったが、それもそのはず、どうやらクレイは貴族の家に生まれたらしい。

この世界つけられた名はクレイリー、愛称はクレイ。地方貴族のヴァレット子爵家の三男であった。二つ上にステラという姉が、さらにその二つ上にワルドマという兄がいる。

成長を急いだクレイは、地球での知識が完全に残っている事もあいまって天才児だと騒がれた。

だが一方で問題もあった。クレイは魔法を使う事ができなかったのだ。

生まれてからしばらくして、父親が鑑定ができる者を呼んできた。鑑定士によって早速【鑑定】が行われ、ステータスボードが表示されたが……

―――――――――――――――――――
職能クラス:%$#■∮n1!△
特技スキル:○&’※Ho>?
魔力:仝
―――――――――――――――――――

クラスもスキルも分からないと鑑定士は言った。ステータスボードには鑑定士が読めない文字がならんでいたからである。

仕方がないので、魔力を測定する魔道具が使われ、保有魔力の実測が行われたが、結果はなんとゼロであった。

また鑑定士は、この子のステータスボードは普通と違っているとも言って首をかしげていた。

鑑定士が表示したステータスボードは、クレイにも周囲の人間達にも見えていたが、どうやら普通の人間のそれとはデザインが違っているようなのだ。

クレイの前の空中に浮かび上がるステータスボード。そのボードはクレイには見覚えがあるものであった。それは、地球で最も普及していたOSである「ドアーズ」のコマンドターミナルにそっくりであったのである。

そして、鑑定士が読めないと言ったクラスとスキルもクレイには読めていた。それは日本語で書いてあったからである。その飾り気のない黒い画面に表示されていたテキストは、

―――――――――――――――――――
職能クラス:プログラマー
特技スキル:クロネコ
魔力:0
―――――――――――――――――――

というものであった。

クラスって前世の職業かよ? だが、スキルのクロネコってのはなんだ? 前世の奏がよく餌をやっていた隣家の黒猫のクロの事だろうか?

それに、魔力とは? ゼロ? いや、地球でのステータスが引き継がれているとしたら、魔力なんてものはなかったので当然か。

クレイにはステータスボードが読めたものの、この世界の言語をまだ話せなかったので、それを説明する事ができず、黙っているしかなかった。

ただ、どうも、周囲の大人達はなにやら深刻そうな顔で話をしている。

クレイはまだ幼いのでクラスやスキルがはっきりしていなくともそれほど問題はないが、魔力が0という事は大問題であったのだ。

この世界には魔法がある。そして、その魔法を使うためには当然魔力が必要である。まったくないと言う事になると、一切の魔法が使えないという事になるのだ。

この世界の住人は、通常、多かれ少なかれ、皆魔力を持っている。ゼロという者はほぼ居ない。極稀には存在したが、そういう者はあまり良い人生を送る事はできていなかった。

この世界では、平民達は魔力が少なく、貴族は魔力が多いという特徴がある。

それは、魔法の効果の大きさ・強さは魔力の量に比例するため、使える魔力の量の大小が、この世界での地位を決めていったからである。魔力が多いものが力を持ち強い立場を確立し、平民と貴族を隔てる階級社会ができあがったわけである。

そのため貴族達は、より魔力の多い子を誕生させるべく、貴族同士での婚姻を繰り返して来たのだ。貴族は自分の子供達の魔力量を競い合い、自慢し合うのである。

逆に、魔力の少ない者を生んでしまった貴族家は、貴族社会では評判を落とす事になるのであった。

“不良品” を生んだ血筋からは、その後も不良品が生まれる可能性が高いと疑われ、その家の子供は忌避され、結婚が難しくなるのだ。それはつまり、その家の断絶にも繋がる。

そのため、子供が生まれたらすぐに鑑定士を呼び鑑定を行い、もし魔力が少ない “不良品” が生まれた場合は速やかに処分され死産と発表されるのが普通であったのだ。

魔力が人より少ないという程度であれば、平民の家や孤児院に引き取られる事も多い。さすがに我が子を殺すのを躊躇う親も多かったからである。

だが、魔力が “まったくない” となると話は別である。魔力が少ない者が多い平民の社会であっても、魔力がゼロという者はほとんど居ないのだ。完全に魔力がないとなれば、平民の間でも最底辺の生き方しかできず、苦労する事が目に見えている。それではかわいそうになので、物心つかない赤子のうちに殺してしまう判断をする事もあるのであった。

クレイはこれに該当する事になるが……

だが、クレイの両親、ヴァレット夫妻はクレイを処分しようとはしなかった。

クレイは赤子のうちに過去世の記憶を取り戻し大人の意識に目覚めてしまっていたが、この世界についての知識は皆無だったので、自分の処遇が普通ではなかったことを知らなかったが、後にこの事を知ったクレイは両親に感謝したのであった。


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