10 / 184
第一部 転生編
第10話 クロネコの正体
それから、クレイは部屋に籠もり、曽祖父の残してくれた資料の研究をする日々を送る事になる。
クレイの両親も、もともと放任気味な性格ではあったのだが、クレイに家を継がせる事はまずないだろうという判断もあり、クレイが曽祖父の資料をすべて自室に運び込み籠もりきりになっていても何も言わなかった。
むしろ、将来、古代語の研究あるいは魔道具の研究者として自立できるかも知れないと考え、資料など必要なものがあれば用意してやるようにと家令に命じたのであった。
そして、何年かの時が流れた。
いくら前世の知識を思い出して大人の意識があったとしても、この世界の言語はゼロから覚えたばかりである。その状態から、いまでは誰も読めない資料も少ない古代魔法言語の解読まで行うのは困難を極めた。
とはいえ時間だけはあったので、解読は徐々に進んだ。進捗は遅遅としていたものの、それは曽祖父の研究に比べれば飛躍的な進歩と言えた。クレイには前世のプログラミングの知識があったので、それがかなり役に立ったのだ。
だが、ついに資料も尽き、そこで行き詰まってしまう。
そして、未だ、クレイは魔法を発動する事も、魔道具の魔法陣を書くこともできないでいた……。
魔法が既に世界に実装されている機能であるなら、起動コマンドを実行すれば魔法は発動するはず……なのだが、いくらクレイが呪文を唱えようとも、決して魔法が発動する事はなかった。
魔力がないせいなのかと仮説を立て、魔石を握り締めながらやってみたりもしたのだが、それでも駄目であった。
クレイには前世の記憶がある。どうしてそうなったのか分からないが、クレイの持つ環境は、この世界のシステムとは異なるものなのではなかろうか。
クレイは、この世界のアーキテクチャと、クレイの持つ異世界(地球)のアーキテクチャが異なっているためではないかと推測した。
ステータスボードがこの世界の人間と自分とではデザインが違っていた。クレイのそれはまるで地球のOS「ドアーズ」のコマンド入力画面である。
仮に、クレイの持つ魔法のシステム体系が、この世界のそれとは異なるものであった場合、この世界のプログラムを実行する事ができないのは当然であろう。
ドアーズのOS上で、ドアーズのライバルOSであった “tOS” 用のプログラムを実行しようとしてもできないのと同じである。
そもそも、地球には魔力などというものはなかった。地球のシステムが引き継がれてしまったとしたら、クレイの魔力がゼロであったのも腑に落ちる。
だが、そうなると手詰まりである。このまま成果を出せずに終わるのかと諦めかけたクレイであったが……
父が資料・情報の取り寄せに協力するよう執事に命じてくれていたお陰で、ある日、それが進展する。
どうやら、現在は絶滅してしまったが、数十年前までは、古代魔法言語を研究する学者が王宮に居たらしい事が分かったのだ。
彼らは、古代魔法言語を直接詠唱し、魔法を発動する事もできたのだそうだ。
ただし、一つの簡単な魔法を発動するのにも、呪文の詠唱に三日三晩掛かるなど、使い物にならないものであっため、王が代替わりした時に、無駄だと切り捨てられ、学者は王宮から追放され、古代魔法言語の研究は終わってしまったらしい。
そして、先日、その研究を行っていた学者の最後の一人が亡くなったらしい。何かクレイの研究に関係があるかもと、執事がそれを教えてくれたのだ。
クレイはその情報に飛びついた。そして執事に無理をしてでもその学者の遺品・資料を入手してくれるよう頼み込んだのである。
そして幸いにも、その学者は曽祖父とも知り合いであったようで、伝手が繋がり、資料を手に入れる事ができたのであった。
その資料はその学者以外には意味不明な内容で、あやうく廃棄されるところであったのを引き取る事ができたのだが
それはクレイにとっては宝の山であった。その資料をもとに、古代魔法言語の解析が飛躍的に進んだのである。
古代魔法言語を詠唱し、それで魔法を発動する。これもクレイにはピンと来るものがあった。それは、地球のプログラミング言語で言うところのインタプリタ方式であろう。
これは、プログラムをマシン語に変換してから実行するのではなく、逐次マシン語に変換しながら実行させていく方式である。その方式故、処理に時間が掛かるのが特徴である。
三日三晩詠唱して大した魔法が発動できなかったというが、さもあらん。ごく簡単な、一瞬発光するだけの魔法のプログラムですら万単位の行数が必要であったのだから。
それまでどうやっても魔法を発動する事ができなかったクレイも、この方式で魔法の発動に成功した。
研究者が使っていた魔法陣が刻まれた金属のプレートの前で、ごく簡単な(それでも数万行単位の)呪文を読み上げる事で、魔法を発動する事ができたのである。
やっと、ここまできた。これはクレイにとっては大きな進歩であった。
逐次変換方式で魔法を発動させるためには、魔法陣が必要であった。この魔方陣こそが、逐次変換方式という魔法を発動させるための、コンパイル済みのプログラムであったのだ。
自身が直接魔法を発動するのは無理であっても、クレイは魔道具は使うことができた。魔道具は、魔法陣が刻まれている。
つまり、クレイも魔法陣を使えば魔法が使えるということである。
そこでやっと、クレイは自身のスキルの意味を悟った。
クレイ=奏は日本での学生時代、プログラミングの解析・デバッグに、とある古いフリーのツールを使っていた。
そのツールは、デコンパイル※など、いわゆるリバースエンジニアリングを行うためのツールが含まれていた。
※プログラム言語で書かれたソースコードをマシン語に変換してコンピュータが実行できるようにする処理をコンパイルというが、コンパイル済みのアプリケーションをソースコードの形に戻す事をデコンパイルという。
それらの解析ツールの名前が通称「クロネコ」であったのだ。
クレイの両親も、もともと放任気味な性格ではあったのだが、クレイに家を継がせる事はまずないだろうという判断もあり、クレイが曽祖父の資料をすべて自室に運び込み籠もりきりになっていても何も言わなかった。
むしろ、将来、古代語の研究あるいは魔道具の研究者として自立できるかも知れないと考え、資料など必要なものがあれば用意してやるようにと家令に命じたのであった。
そして、何年かの時が流れた。
いくら前世の知識を思い出して大人の意識があったとしても、この世界の言語はゼロから覚えたばかりである。その状態から、いまでは誰も読めない資料も少ない古代魔法言語の解読まで行うのは困難を極めた。
とはいえ時間だけはあったので、解読は徐々に進んだ。進捗は遅遅としていたものの、それは曽祖父の研究に比べれば飛躍的な進歩と言えた。クレイには前世のプログラミングの知識があったので、それがかなり役に立ったのだ。
だが、ついに資料も尽き、そこで行き詰まってしまう。
そして、未だ、クレイは魔法を発動する事も、魔道具の魔法陣を書くこともできないでいた……。
魔法が既に世界に実装されている機能であるなら、起動コマンドを実行すれば魔法は発動するはず……なのだが、いくらクレイが呪文を唱えようとも、決して魔法が発動する事はなかった。
魔力がないせいなのかと仮説を立て、魔石を握り締めながらやってみたりもしたのだが、それでも駄目であった。
クレイには前世の記憶がある。どうしてそうなったのか分からないが、クレイの持つ環境は、この世界のシステムとは異なるものなのではなかろうか。
クレイは、この世界のアーキテクチャと、クレイの持つ異世界(地球)のアーキテクチャが異なっているためではないかと推測した。
ステータスボードがこの世界の人間と自分とではデザインが違っていた。クレイのそれはまるで地球のOS「ドアーズ」のコマンド入力画面である。
仮に、クレイの持つ魔法のシステム体系が、この世界のそれとは異なるものであった場合、この世界のプログラムを実行する事ができないのは当然であろう。
ドアーズのOS上で、ドアーズのライバルOSであった “tOS” 用のプログラムを実行しようとしてもできないのと同じである。
そもそも、地球には魔力などというものはなかった。地球のシステムが引き継がれてしまったとしたら、クレイの魔力がゼロであったのも腑に落ちる。
だが、そうなると手詰まりである。このまま成果を出せずに終わるのかと諦めかけたクレイであったが……
父が資料・情報の取り寄せに協力するよう執事に命じてくれていたお陰で、ある日、それが進展する。
どうやら、現在は絶滅してしまったが、数十年前までは、古代魔法言語を研究する学者が王宮に居たらしい事が分かったのだ。
彼らは、古代魔法言語を直接詠唱し、魔法を発動する事もできたのだそうだ。
ただし、一つの簡単な魔法を発動するのにも、呪文の詠唱に三日三晩掛かるなど、使い物にならないものであっため、王が代替わりした時に、無駄だと切り捨てられ、学者は王宮から追放され、古代魔法言語の研究は終わってしまったらしい。
そして、先日、その研究を行っていた学者の最後の一人が亡くなったらしい。何かクレイの研究に関係があるかもと、執事がそれを教えてくれたのだ。
クレイはその情報に飛びついた。そして執事に無理をしてでもその学者の遺品・資料を入手してくれるよう頼み込んだのである。
そして幸いにも、その学者は曽祖父とも知り合いであったようで、伝手が繋がり、資料を手に入れる事ができたのであった。
その資料はその学者以外には意味不明な内容で、あやうく廃棄されるところであったのを引き取る事ができたのだが
それはクレイにとっては宝の山であった。その資料をもとに、古代魔法言語の解析が飛躍的に進んだのである。
古代魔法言語を詠唱し、それで魔法を発動する。これもクレイにはピンと来るものがあった。それは、地球のプログラミング言語で言うところのインタプリタ方式であろう。
これは、プログラムをマシン語に変換してから実行するのではなく、逐次マシン語に変換しながら実行させていく方式である。その方式故、処理に時間が掛かるのが特徴である。
三日三晩詠唱して大した魔法が発動できなかったというが、さもあらん。ごく簡単な、一瞬発光するだけの魔法のプログラムですら万単位の行数が必要であったのだから。
それまでどうやっても魔法を発動する事ができなかったクレイも、この方式で魔法の発動に成功した。
研究者が使っていた魔法陣が刻まれた金属のプレートの前で、ごく簡単な(それでも数万行単位の)呪文を読み上げる事で、魔法を発動する事ができたのである。
やっと、ここまできた。これはクレイにとっては大きな進歩であった。
逐次変換方式で魔法を発動させるためには、魔法陣が必要であった。この魔方陣こそが、逐次変換方式という魔法を発動させるための、コンパイル済みのプログラムであったのだ。
自身が直接魔法を発動するのは無理であっても、クレイは魔道具は使うことができた。魔道具は、魔法陣が刻まれている。
つまり、クレイも魔法陣を使えば魔法が使えるということである。
そこでやっと、クレイは自身のスキルの意味を悟った。
クレイ=奏は日本での学生時代、プログラミングの解析・デバッグに、とある古いフリーのツールを使っていた。
そのツールは、デコンパイル※など、いわゆるリバースエンジニアリングを行うためのツールが含まれていた。
※プログラム言語で書かれたソースコードをマシン語に変換してコンピュータが実行できるようにする処理をコンパイルというが、コンパイル済みのアプリケーションをソースコードの形に戻す事をデコンパイルという。
それらの解析ツールの名前が通称「クロネコ」であったのだ。
あなたにおすすめの小説
英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~
ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国辺境でただ静かに生き延びたいだけの少年・ヴァン。
彼に正義感はない。あるのは、母が遺したノートに記された、物理法則を応用した「高圧魔力」の理論と、徹底した費用対効果至上主義だけだ。
敵国三千の精鋭が灰燼城に迫る絶望的状況。ヴァンは剣を振るわず、心理戦と補給線攪乱だけで、たった三日で敵軍を撤退させる。
この効率的すぎる勝利は帝国の中枢に届き、彼は最高峰の帝国軍事学院への招待状を手に入れる。
「英雄になりたいわけじゃない。ただ、母の死の真相と父の秘密を知るため、生き残らなきゃならないだけだ」
無口最強の仮面メイド・シンカク、命を取引に差し出した狼耳少女・アイリ。彼は常にコスパの高い道を選び、母の遺したノートの謎、そして生まれて一度も会ったことのない父・帝国大元帥のいる帝都の闇へと踏み込んでいく。
正義も英雄も、損をするなら意味がない。合理主義が英雄譚を侵食していく、反英雄ミリタリー学園ファンタジー。
一般人に生まれ変わったはずなのに・・・!
モンド
ファンタジー
第一章「学園編」が終了し第二章「成人貴族編」に突入しました。
突然の事故で命を落とした主人公。
すると異世界の神から転生のチャンスをもらえることに。
それならばとチートな能力をもらって無双・・・いやいや程々の生活がしたいので。
「チートはいりません健康な体と少しばかりの幸運を頂きたい」と、希望し転生した。
転生して成長するほどに人と何か違うことに不信を抱くが気にすることなく異世界に馴染んでいく。
しかしちょっと不便を改善、危険は排除としているうちに何故かえらいことに。
そんな平々凡々を求める男の勘違い英雄譚。
※誤字脱字に乱丁など読みづらいと思いますが、申し訳ありませんがこう言うスタイルなので。
虐げられた前王の子に転生しましたが、マイペースに規格外でいきます!
竜鳴躍
ファンタジー
気が付いたら転生していました。
でも王族なのに、離宮に閉じ込められたまま。学校も行けず、家庭教師もつけてもらえず、世話もされず。社交にも出られず。
何故なら、今の王様は急逝した先代の陛下……僕の父の弟だから。
王様夫婦には王子様がいて、その子が次期王太子として学校も行って、社交もしている。
僕は邪魔なんだよね。分かってる。
先代の王の子を大切に育てたけど、体が弱い出来損ないだからそのまま自分の子が跡を継ぎますってしたいんだよね。
そんなに頑張らなくても僕、王位なんていらないのに~。
だって、いつも誰かに見られていて、自分の好きなことできないんでしょ。
僕は僕の好きなことをやって生きていきたい。
従兄弟の王太子襲名の式典の日に、殺されちゃうことになったから、国を出ることにした僕。
だけど、みんな知らなかったんだ。
僕がいなくなったら困るってこと…。
帰ってきてくれって言われても、今更無理です。
2026.03.30 内容紹介一部修正
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
俺、何しに異世界に来たんだっけ?
右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」
主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。
気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。
「あなたに、お願いがあります。どうか…」
そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。
「やべ…失敗した。」
女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!
荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明
まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。
そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。
その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。
落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!
ユーリ
ファンタジー
気がつくと、見知らぬ部屋のベッドの上で、状況が理解できず混乱していた僕は、鏡の前に立って、あることを思い出した。
ここはリュカとして生きてきた異世界で、僕は“落ちこぼれ貴族の息子”だった。しかも最悪なことに、さっき行われた絶対失敗出来ない召喚の儀で、僕だけが失敗した。
そのせいで、貴族としての評価は確実に地に落ちる。けれど、両親は超が付くほど過保護だから、家から追い出される心配は……たぶん無い。
問題は一つ。
兄様との関係が、どうしようもなく悪い。
僕は両親に甘やかされ、勉強もサボり放題。その積み重ねのせいで、兄様との距離は遠く、話しかけるだけで気まずい空気に。
このまま兄様が家督を継いだら、屋敷から追い出されるかもしれない!
追い出されないように兄様との関係を改善し、いざ追い出されても生きていけるように勉強して強くなる!……のはずが、勉強をサボっていたせいで、一般常識すら分からないところからのスタートだった。
それでも、兄様との距離を縮めようと努力しているのに、なかなか縮まらない! むしろ避けられてる気さえする!!
それでもめげずに、今日も兄様との関係修復、頑張ります!
5/9から小説になろうでも掲載中
転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚
熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。
しかし職業は最強!?
自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!?
ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。