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第一部 転生編

第40話 逮捕する? 根拠は?

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ブランド 「コイツが洗いざらい吐いたぞ。お前の命令で屋敷に侵入したとな」

コルニク 「…それは異な事を。きっとその男が嘘を言ってるのでしょう、身に覚えはありませんな。」

ブランド 「嘘などつけんよ。奴隷の首輪を着けて証言させたのだからな?」

コルニク 「…?」

不思議そうな顔をするコルニク。コルニクは隷属の首輪を着けて男を送り出したが、その首輪は領主の命令をきくようにはなっていないからである。

ブランド 「もともと嵌められていた奴隷の首輪を外し、別の奴隷の首輪を着けて全て自白させた」

コルニク 「…なるほど。ですが、この街では奴隷は禁止されているのではなかったのですか? 領主自らその禁を破るとは、矛盾していますな」

ブランド 「証言のためだけだ。裁判でも隷属の首輪を使った証言は認められている事だろう?」

コルニク 「それは、裁判所が認定した特別な首輪を使用した時だけの話。勝手に隷属の首輪を使って証言させても証拠として認められないはずですが?」

ブランド 「…とりあえず事情聴取しただけだ」
 
コルニク 「隷属の首輪を嵌められた者の証言には証拠能力などありません。奴隷は命じられたらその通り言うだけですからな。『コルニクがやった』と証言しろ、と命じられれば、奴隷はそう証言するしかないのですから」

ブランド 「そんな命令はしていない」

コルニク 「だから、裁判では国が認めた管理官が使う特別な隷属の首輪しか使えない事になっているし、それも裁判の最中のみと厳しく制限されているのです」

ブランド 「それは知っているさ。とりあえずの事情聴取に使っただけだ」

コルニク 「そもそもこの街には奴隷商人は居ないはず。どうして隷属の首輪を持っていたのです?」

ブランド 「それは…」

ブランドはクレイの事を言うべきか迷い、結局沈黙したままとなってしまった。クレイの能力を簡単に公表する事がクレイのためにならないのではないかと慎重になったからだが、それ以前に、そもそも使ったのはケイトに嵌められていた首輪である。それを使った事を言えば、ケイトを匿っていたことを自白するのと同じ事になってしまう。

コルニク 「逮捕の根拠としては弱すぎですな!」

黙っているブランドを見てコルニクは調子に乗ってさらに言う。

コルニク 「その程度で逮捕などできませんぞ! だいたい、どうやって入手したのか知りませんが、隷属の首輪を手に入れて喋らせて勝ち誇っていたなど、滑稽でしかない。奴隷商が居ればそれくらいの事は教えてくれたでしょうに。どうです? これを機に奴隷商売を認められては?」

ブランド 「…さっきからよく喋る奴だな。饒舌なのは何かを隠している証拠だぞ?」

コルニク 「また曖昧な事を。それは単にあなたの感想ですよね? 何の根拠にもならない」

ブランドに同行していたアレスがたまらず口を出した。

アレス 「黙れ、屋敷が襲撃されたのは事実だ。そしてお前はその容疑者だ! 領主様の権限で逮捕して調べれば分かる事だ!」

ブランド 「そうだな…。お前はこの男に証言能力がないと言うが、そんな事は百も承知だ。だから、これから正式に裁判をする。もちろん裁判では国から認定された審問官を呼んで、専用の隷属の首輪を着けて証言させる。そうすれば、証言は証拠として採用されるだろう?」

コルニク 「なるほど。では、それが証拠として確定してから私を逮捕に来てください。それまでは、逮捕できる根拠がないでしょう? それとも、領主権限とやらで強引に私を投獄しますか?」

ブランド 「それもいいな。お前にも首輪をつけて裁判で証言させれば、全ての悪事を明るみに出す事ができるしな」

コルニク 「やれやれ。これだから田舎の領主は…。私は王都で有力な貴族たちと交流がある。そんな無法を彼らが許すと思いますか?

ブランド 「裁判で正式にお前の犯罪の証拠が出れば、上級貴族と口出しはできまい」

コルニク 「だから田舎者だと言うのだ。残念ながらそうはなりませんよ」

ブランド 「?」

コルニク 「いいでしょう、裁判結構! ただし、裁判は王都で行います。こんなアウェーの場所では正当な裁判など受けられませんからな。この請求は国の法律で決められた法律に基づく正当な手続きです。領主と言えど逆らう事はできませんぞ?」

ブランド 「無駄な抵抗をするな。どこで裁判を開こうが、隷属の首輪で証言させられれば結果は同じだろうが」

コルニク 「私は悪事など働いておりませんから。それよりも、逮捕されるのはあなたの方かも知れませんぞ?」

ブランド 「何を言っている???」

コルニク 「実は昨日、奴隷を盗まれた件で、王都の裁判所に提訴いたしました。なにせ、盗まれたのはセヴラル侯爵の奴隷ですから。侯爵の所有物を盗んだとしたら、地方領主の地位など、逮捕を回避できるほどの力はないでしょう」

ブランド 「それも証拠がない話だろう」

コルニク 「ええ。ですが、捜査は避けられませんよ? ほら、王都から捜査員が来たようだ」

宿の中に一人の騎士が入ってきた。胸には国の紋章がついている。

騎士 「ヴァレット子爵だな? 私は王宮査問官のガリアンだ。爵位は伯爵位を賜っている、と言っても法衣貴族だがな。さてヴァレット子爵、君には奴隷を盗んだ容疑が掛かっている。屋敷を捜索させてもらうぞ。これは王国の法律に則った判断だ、拒否はできない」

ブランド 「証拠もなしに強制捜査するのですか?」

ガリアン 「私が怪しいと思ったら、それだけで捜査する権限が与えられている。それが王宮査問官だ」

コルニクがにやりとほくそ笑んだ。


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