パワハラで人間に絶望したサラリーマン人間を辞め異世界で猫の子に転生【賢者猫無双】(※タイトル変更-旧題「天邪鬼な賢者猫、異世界を掻き回す」)

田中寿郎

文字の大きさ
30 / 85
序章(プロローグ)

第30話 「じゃぁ、遠慮なく…」「大技も無詠唱かよ!」

しおりを挟む
猫人は続けざまに火球を放ってきた。やはり無詠唱だ。

しまった。ショックで呆けていた俺はまともに食らってしまう。

いや、発動速度が速過ぎて、おそらく呆けていなかったとしても躱せなかったか……。

火球が着弾し爆発で俺は数メートル飛ばされ地面に転がった。

切られた腕にとんでもなく激しい痛みが生じている。

見れば、切られた腕の断面が焦がされており、おかげで血は止まっている。

「ぐ…うう…これは…、止血のために傷を狙って焼いたという事か…?」

地面に切られた自分の腕が落ちているのが見える。

『団長!!』

そこに部下の騎士達が駆け寄ってくる。

部下の一人マオゲルは盾士という職能クラスを持っており、大盾を持っている。マオゲルが俺と猫人の間を遮るような位置に入り、大盾を地面に突きたて構えた。

この盾はミスリル製である。ミスリルは非常に高価な素材なので、この大きさの盾を作るとなると一体いくらかかるのか想像もつかない。

この盾は昔、ワッツローヴ伯爵家が王家から戦功の褒美として下賜された、伯爵家の家宝とも言える品らしい。だが、飾っておいても仕方がないと、それを伯爵が自身の擁する騎士団の中で盾士の職能クラスを持つ者に貸し与えたのだ。

ミスリルは鉄よりも軽く、鉄を上回る強度を持っている。そしてなにより、魔法に対する適性が高い。

防御魔法の術式を組み込んで魔導具化する事で強度と耐性がさらに増す。この盾に魔力を流せば、攻撃魔法に自信のあるモイラーが全力で魔法攻撃を掛けても防ぎ切った実績があるのだ。

マオゲルは猫人の前に立ちはだかり盾に魔力を込める。その間に別の部下が切られた俺の腕を拾い上げ持ってきてくれた。

俺は腰のマジックバックからポーションを取り出し、腕を切断面に押し付け掛ける。

痛みとともに傷口から煙が出て腕が治っていく。俺は半分ほどを腕に掛けた後、残りを一気に飲み干した。

俺は完全復活、そして部下の騎士達も戦闘用陣形を完成させている。

さすがの猫人も、ミスリルの大盾を前には手も足も出なかったか。

「まぁちょっと魔法の発動速には驚かされたが」
「今度はそうはいかんぞ? この大盾はあらゆる魔法攻撃を防ぎ切る…」

「…って人が話してるんだから少しはこっち見ろよ!」

猫人を見ると、また本を読んでいやがった……

猫人「ん? おお、復活したにゃ。お前も治癒魔法を使えるにゃ?」

「……ポーションだ」

キムリ「お前、それ、上級ポーションだろ? でなきゃ切断された腕を繋ぐことなどできない…。そんなもの持ってきていたのか」

「…ああ。実家の親が心配性でな、持っていけと押し付けられたんだよ…」

猫人「親に感謝だにゃ」

キムリ「だからお前が言うなっての!」
キムリ「シックス! 俺も手伝うぞ!」

「いらん、引っ込んでろ。足手まといだ」

キムリ「なんだと?! クソッ!」

不満そうだが俺が本気で睨んだのでキムリも素直に引き下がった。そう、大人しくしていればいい。

猫人「んで、魔法を防ぐ盾、とか言ってたか?」

「ああそうだ。なんなら試してみるがいい」

猫人「んじゃ…」

猫人が風刃を飛ばしてくるが、盾に当たっても傷もつかない。猫人はさらに火球を飛ばしてくるが、大盾は余裕で耐えてみせた。

猫人「おお、やるにゃ…」

「当然だ」

だが、口には出さなかったが、正直、魔法の連射速度には驚かされた。あれでは、いくら盾で防げるとしても、こちらから攻撃に出られん……盾の陰から出た瞬間狙い撃ちだろう。

だが向こうも盾の防御を破れない。つまり睨み合いだ。ならば……

「そんな軽い魔法攻撃ではこの盾は破れんぞ。もっと強力な魔法を撃ってみるがいい。待ってやるぞ?」

大技を出させてその隙を狙う作戦である。

猫人「そうにゃ? でも、俺が本気で攻撃したらお前達、死ぬんじゃにゃいか? 大丈夫か?」

「この盾を破れる魔法など撃てるわけがない。この盾はそこにいる賢者モイラーの全力の攻撃も防いだのだぞ?」

モイラー「そうだそうだ!」

猫人「じゃぁ、遠慮なく…」

俺は剣の柄を握り、体重を前に掛ける。さすがに大きな魔法を使う時には隙ができるはずだ。そこをもう一度、神速の薙ぎ斬りで攻める!

…つもりだったが、俺は斬れる間合いに踏み込む前に足を止める事になってしまった。

距離を詰めようと踏み出した俺の目の前に巨大な火球が浮かんでいたのだ。

「…大技も無詠唱かよ……」

見たこともない大きさだ。サイズだけではない。圧縮されているのだろう、そこに込められている魔力は見た目を遥かに上回る巨大さで、魔力の感度が魔法使いほど高くない俺でも、その圧力でビビって腰が抜けそうなほどだ。

モイラーはその魔力の大きさを感じ取って尻もちを突いて震えている。

俺の足も完全に止まってしまっていた。

猫人「…ん? 盾なしで魔法を受けてみる気にゃ?」

俺は慌てて盾の後ろに戻った。あんなのをまともに食らったら、いくら俺でも消し炭になって消えてしまいそうだ。

マオゲル「だ、団長……」

「どうした?! お前なら防げるだろう?!」

マオゲル「いや……あれは、まずいかも……?」

気を失っってしまいそうな火球の圧に、盾士マオゲルも弱気になっていた。


しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~

シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。 前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。 その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。

処理中です...