パワハラで人間に絶望したサラリーマン人間を辞め異世界で猫の子に転生【賢者猫無双】(※タイトル変更-旧題「天邪鬼な賢者猫、異世界を掻き回す」)

田中寿郎

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序章(プロローグ)

第43話 脳筋虎男に挑まれる

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虎人「どんな強面の獣人が出てくるのかと思えば…チビ猫一匹かよっ!」

狼人「おい、本当にこんな奴が領主の騎士達を斃したってのか?」

牛人「だが、街に騎士が居なくなったのは事実だ」

熊人「騎士達が全滅したってのは、単なる噂だろ? 俺たちは、街中の騎士達が挙って街から出て行ったところまでしか確認できてねぇ」

狐人「(騎士達が)出ていっただけじゃねぇ。帰って来ていないってところまでは確認できてるぜ? 街の平民の衛兵達に聞いた」

熊人「単に遠出していてまだ戻っていないだけかもしれねぇじゃねぇか」

「……いきなり人を取り囲んでブツブツと、何にゃんだ…? 俺に何か用か?」

虎人「ごちゃごちゃ言ってても始まらねぇ! それよりも試してみりゃすぐ分かる…!」
虎人「おい小僧、俺と戦え! 騎士達を圧倒する実力がコイツにあるのかどうか…まぁそうはとても見えねぇけどな!」

牛人「おいやめろ! 彼がスラムの恩人である事には違いないだろう!」
牛人「おい、君! 君がスラムに食料とか色々支援してくれたんだよな?」

虎は興奮気味だが、牛は少し冷静なようだな。肉食獣と草食獣の違いか?

「まぁ…そうにゃ。幼い子達が餓えている様子が見ててむごかったからにゃ」

虎人(なに? そうだったのか…? だが!)
虎人「うるせぇ、そんなの関係ねぇ! これは大事な事なんだ! 小僧! いいから俺と戦え! 化けの皮を剥がしてやるぜ!」

「お断りにゃ」

虎人「なんだ怖いのか? まぁそりゃそうか。猫が虎に勝てるわけねぇからな」

「俺にお前と戦うメリットがないにゃ」

虎人「騎士達とは殺りあうメリットがあったってのか?」

「別にない。ただ、攻撃されたから反撃しただけにゃ」

虎人「なら、俺が攻撃したら反撃するわけだな?」

「攻撃してくるなら反撃するにゃよ。でもやめておけにゃ。俺は手加減はしない。死んでも知らんにゃ」

虎人「は! 吹くじゃねぇか……ところでお前、白鷲騎士団のシックスって騎士を知っているか?」

「……?」

虎人「知らねぇのかよ…」

「いちいち名前を憶えてないにゃ」

一瞬、“いちいち食べたパンの名前を憶えてない” なんてセリフが浮かんだが、別に騎士を食べた憶えはないので言わないでおいた。

虎人「シックスも死んだって噂だ。まさかお前が殺したとか言わねぇよな?」

「殺した騎士の中に居たかもしれんにゃ」

虎人「…っいい加減にしやがれ!」
虎人「俺はシックスと戦った事がある! シックスの剣は本当に速かった、虎人である俺よりもな。そんなシックスが、先祖返りの猫の子一匹に負けるわけねぇだろうが!」

「別に…? どうでもいいにゃ…」

虎人「てめぇ……舐めた態度とりやがって……ち殺してやる! シックスの仇だ!」

牛人「おい! なんでお前が騎士の仇を取るんだよ? 騎士は俺たちの敵だろうが」

虎人「う、うるせぇ、シックスは確かに憎たらしい奴だったが…俺が斃すって決めてたんだ! それを、こんなチビが殺したとか、そんなホラ吹かれて黙ってられるか!」

牛人「だが、お前は彼がシックスを殺したとは信じてないんだろう? 言ってる事が矛盾してないか?」

虎人「う、うるせぇうるせぇうるせぇ、俺は難しい事考えるのが苦手なんだよ! だいたい虎人である俺が居るのに、こんなチビの猫人の助けを借りるなんてありえねぇだろうが!」

牛人「それが本音か…相変わらずの単細胞脳筋だな。だが、伯爵は膨大な魔力を持つ高位貴族だ。魔法が使えない俺たちでは歯が立たんのが分からんのか…」

虎人「臆病者の草食獣は黙ってろ! コイツを殺して、伯爵も殺してやる! やってやるよ!」

虎人が腰を深く落とした。と思ったら次の瞬間、猛スピードの踏み込みで、爪撃が孤を描きながら襲ってきた。虎人なので、俺の爪よりはるかに大きく立派な爪である。

だが、虎の爪は俺の身体をすり抜ける。

「たいした事ないにゃ」

虎の爪が斬ったのは俺の残像であり、俺は既に虎人の背後に回っていた。

虎人「なん…だと?!」

「だが、今、お前は本気で斬ろうとしたにゃ?」

虎人「……」

「俺を殺そうとしたにゃ?」

虎人「だとしたらなんだよ!?」

「じゃぁ死ね」

俺も爪撃をお返しだ。爪を出し腕を振り、風刃ウィンドカッターをお見舞いしてやる。

だが、虎人は俺が放った風刃を爪で引っ掻き相殺した。

虎人「くぉっ! お前! 獣人のくせに魔法が使えるってのは本当だったようだな!」

「使えるとも使えないとも言った覚えはないがにゃ」

牛人(…やはり! 彼が騎士達を斃したという噂は本当なのだな!?)

俺はさらに連続して風刃を飛ばしてやる。
だが、それをことごとく爪で相殺してみせる虎男。
意外とやるじゃないか。

「ほう、なかなかやるにゃ?」

虎人「お前もな、驚いたぜ。だがまだだ、その程度では騎士に勝てるとは思えん」
虎人「魔法使いには、それを上回る速度で攻撃を仕掛ければいいんだからな!」

虎人が再び俺に向かって突っ込んできた。なるほど、先程よりさらにスピードが上がっている。

再び襲ってくる虎の爪。

だが…

「遅いにゃ」

虎人の爪は再び空を斬る。

残像を斬った虎人の背後に回った俺は、一本だけ爪を出して虎人のアキレス腱を斬ってやった。

虎人「ぐ…」

無様に地面に倒れる虎男。

狼人「トラオ!?」

「トドメにゃ」

俺はさらに風刃を放つ。四発の風刃を一つに束ねた四倍ウィンドカッターである。

牛人「待ってくれ!」
狼人「悪かった、謝る!」
熊人「許してやってくれ!」

慌てて獣人達が駆け寄ってきた。だが…

「止めるなら、その虎人が襲ってくる前に止めるべきだったにゃ」

牛人「え?」

尻もちをつきながらも虎男は風刃を爪で迎撃しようとしていたのだが、四倍風刃の威力に押し負け虎の爪は弾かれてしまったのだ。そして風刃はそのまま虎男の胸に突き刺さり、心臓を切り裂いていた。

狼人「おい! トラオ! トラオ! しっかりしろ~!!」

どうやら虎男の名前はトラオというようであった。

狼人「ポーションを! おい誰か!」

牛人「スラムにそんなものあるわけないだろ」

トラオ「カ…ミタ、後は頼ん…」

そして虎人は息絶えた。

狼人カミタ「くそ、勝負は既についていた! ここまでする事は…殺す事はなかっただろうが!」

狼人が俺を睨みながら言った。



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