パワハラで人間に絶望したサラリーマン人間を辞め異世界で猫の子に転生【賢者猫無双】(※タイトル変更-旧題「天邪鬼な賢者猫、異世界を掻き回す」)

田中寿郎

文字の大きさ
45 / 85
序章(プロローグ)

第45話 獣人達は領主邸に乗り込む

しおりを挟む
「あ、そうそう、領主のワッツローブ伯爵はもう死んでるにゃ。俺が殺したにゃ」

獣人達「「「「「「ええええ?!」」」」」」

オリスン「口では冷たい事を言っていたが、あなたはやっぱり獣人達を救おうと……」

「知らんにゃ…。俺を殺そうとした奴は殺す、それだけにゃ」

狼人カミタがトラオのほうに視線を向け、苦々しい顔をした。

「それに、領主が居なくなったわけじゃないにゃ。今は息子が後を継いだはずにゃ」

オリスン「そ、そうか。状況は変わっていないと言う事か」

熊人ラスク「いや、状況は良くなっているだろう」

オリスン「?」

ラスク「息子なら、父親よりは弱いだろう?」

オリスン「その可能性はあるが…分からない。父親より息子が強い場合ケースだってあるだろうしな…」

ラスク「……」

カミタ「…くそが! やってやるぜ! 領主の息子を殺して、街を取り戻すんだ!」

結局、クーデターは決行されるようだ。オリスンには再度協力を求められたがもちろん断った。オリスンも念のため訊いてみたという程度だろう、食い下がる事はなかった。

そして、オリスン達は、木の棒や鍬、折れた剣など、粗末な武器で武装し、領主邸に向かって行った。



  +  +  +  +



◆ガスト

暫定ではあるが領主を引き継いだガスト。

だが、状況が最悪な事はすぐに分かった。なにせ、領主の雇っている騎士がほとんど壊滅して居ない状態なのだ。

格上の相手に騎士団を損亡させた愚かな父親を呪う言葉が思わず出てくるが、愚痴ったところでどうしようもない。

とりあえず、領主を引き継ぐにしても、まずは体制を整えなければならない。その前に、情報収集と状況の把握だ。

ガストは残った僅かな部下と使用人を集め、現状で使える人材の確認をした。それから、その者達に街の状況についても情報を集めるよう指示を出した。

すると、獣人達がクーデターを起こすのではないかという噂が街に流れているという情報がすぐに入ってきた。

別に極秘情報を掴んだというわけではなく、ただの街の噂であったが、信憑性は高いとガストも思う。

なにせ、この国は長く獣人を虐げてきたのだ。獣人達の不満も限界に来ているのは街の人間なら誰しも知っている。チャンスがあれば爆発しかねないのは誰が見ても明らかだったのだ。

これまでは騎士団の圧倒的な力でねじ伏せてきた。だがその重しがなくなった今、それが現実になるのは時間の問題だろう。

そして、その時は思ったより早く訪れた。

領主邸に向かって武装した獣人の集団が歩いてくると報告があったのだ。



  +  +  +  +



武装した獣人の集団が街を行くのを見て、住民達は『ああついに…』と思う。

街の平民の人間達は獣人に同情的で、協力的ですらあった(中にはこっそり武器を渡してくれる住人も居た)ので、特にトラブルもなくあっさり領主邸に到達する。

だが、どうも様子がおかしい…

人の気配がない。

門は開いていたので中に踏み込んでみる。扉の鍵も開いていたので中に入ってみたが、特に罠という事もないようであった。

中には使用人の一人すらも居らず、屋敷はもぬけの殻であったのだ。

クーデターを察知したガストは残った使用人を連れ、一足速く街を脱出していたのである。

ガストも伯爵の血を受け継いでおり、かなりの魔力を持つ優秀な人材である。なんなら、魔法が使えない獣人の反乱軍など一人で撃退できるだけの力はあった。

だが、その後の事を考えれば、そう簡単な話ではない。仮に武装獣人のクーデターを退けたとしても、その後、街の獣人達を管理するのは一人では無理だ。

いっそ街の獣人をすべて皆殺しにしてしまえば憂いはなくなるが、それも一人でやるには現実的ではない。(できたとしても、街の住人の心証も最悪になるだろう。)

まずは体制を立て直す必要がある。そこで、ガストは隣町のエイケ侯爵を頼る事にした。侯爵に騎士を貸してもらい、街の維持管理を行うのだ。

元々ワッツローヴ伯爵はエイケ侯爵の派閥に属している寄子である。寄親であるエイケ侯爵はワッツローヴ伯爵家を助ける義務があるだろう。

幸い、ガストはエイケ侯爵とは知らぬ仲でもなかった。エイケ侯爵にはガストと同い年の息子がおり、伯爵に連れられてガストは幼い頃からよくエイケ侯爵家に出入りしていたのだ。

無事、エイケの街に着いたガストはまっすぐ侯爵の屋敷へと駆け込んだ。



  +  +  +  +



◆エイケ侯爵邸

エイケ侯爵「なんと、ビレリフ(ワッツローヴ伯爵)が死んだだと? それも獣人一匹に殺された…? ちょっと信じられん話だが」

ガスト「本当です、私はその場に居て一部始終を見ておりましたので…

私は王都の学校に居たので詳しい事情は分からないのですが、父はどうやらその獣人を討伐するために軍を差し向けたようです。しかし、返り討ちにあい、騎士団は壊滅。その事で獣人の恨みを買い、逆襲される事になったようです」

侯爵「…しかし、本当に? 騎士団を壊滅させ、あのビレリフを斃した? ただの一匹の獣人がか? 信じられんが……どんな奴だ?」

ガスト「はい、外見は完全に猫のようでした。二足歩行する大きな猫」

侯爵「先祖返りか。外見が動物に近い分、身体能力が普通の獣人よりさらに高くなると言うが…」

ガスト「身体能力は分かりません、剣を交えたりはしなかったので。その獣人は、非常に高い魔力を持っており、強力な魔法を使っていたのです」

侯爵「獣人が魔法だと?! …なるほど、特殊な変異体が生まれたか」

ガスト「父は、獣人ではなく妖精族だと言っておりました。部下が獣人と妖精族を見誤ったと謝罪して、なんとか許してもらおうとしたようですが」

侯爵「妖精族など、実在しないお伽噺の存在だ。おそらくビレリフは勝てないと悟った時点で言い逃れようとしたのだろう。だがつまり、ビレリフほどの力を持ってしても勝てないほど強い相手であったという事になるか…」

ガスト「はい…色々好条件を提示して獣人を懐柔しようとしたのですが、相手は応じる様子はなく。父は交渉の隙を突いて攻撃を仕掛けたのですが、なんとその獣人は父の炎の槍ファイアーランスを止めて…空中に固定して見せました」

侯爵「ちょと何を言ってるか分からんが」

ガスト「私もどうなっているのか訳が分からないのですが、とにかく力の差は歴然で…」

侯爵「それほどか……。

しかし……眼の前で父を殺されて、仇も討たず獣人を逃したのか? まぁ、未だ学生の身ではどうしようもないか……

いや…わざとか? 父親が居なくなれば自分が伯爵になれるからな?」

ガスト「そ、そのような事は……」
ガスト(ちょっと考えましたけどね…)

侯爵「まぁよい。貴族の世界、親子の間で下剋上もよくある話だ。なぁ、息子よスウィフト?」

スウィフト「いえ! 私は父上を尊敬しておりますので。いつまでも末永く父上に当主で居て頂きたいと思っております」

侯爵「……やれやれ。儂としては少しは野心も持ってほしいのだがな…」

スウィフト「私には父上のような器はありませんので」

侯爵「それはそれで困るのだが……それはともかく」
侯爵「それにしても、聞けばその獣人は交渉にも応じないタイプであったようだが? よくお前ガストは助かったな?」

ガスト「…その獣人は、敵対しないならいいと言って、見逃してくれたのです。

攻撃されたから反撃しただけ、攻撃されないなら、人間の世界の権力争い等には関わりたくないと…。

私が領主になって、元通り街を治めるとしても、『好きにすればいいにゃ』と言ってました…」


しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...